2020年8月上旬。ユウナたちは、SPに設置された一軒家で暮らしていた。ある日、家の前では互いのモンスターたちを戦わせてランク上げをしていた。ランクが高いほど、プレイヤーの能力も上がるためだ。まず、ユウナとミカが自分のモンスターを戦わせた。
ユウナが繰り出すのは、「ティラノス」という火属性のモンスターだ。そしてミカが繰り出してきたモンスターは、水属性の「プレシオス」だ。ユウナは、
「ノーマルスキル発動、マグマブレス!」
と、ティラノスに命令を送る。次にミカも、
「ノーマルスキル発動! ブリザードブレス!」
そう叫ぶと、プレシオスは口から水をボール状にして発射させる。それはティラノスのマグマブレスとぶつかり、煙が舞い上がった。それを近くで、アカリとレイカも見ていた。
結局、この勝負は属性の相性などにより、ミカが勝利した。
「今度はうちね!」
アカリはそう言って、モンスターを召喚した。アカリが呼び出したのは、「ホーリードラゴン」という光属性のモンスターだった。そして今度は、ミカとアカリが対戦することになった。レイカは、二人がモンスター同士を戦わせる様子を見ながら、
「ねぇ、いつまでこんなこと続ける気?」
と言っていると、
「ボーっとしてると危ないわよ!」
そうミカが注意を促した。その時、アカリのモンスターが敵の攻撃を躱し、勢い余って水の攻撃がレイカの方に飛んできたのだ。レイカは避ける暇もなく、びしょ濡れになってしまった。
「ほ~ら、だから言ったのに」
ミカが言うとレイカは、
「ちょっと、どこ狙ってんのよ!」
と、怒った。
「わざとじゃないわよ!」
ミカも、そう言って反発した。
今度は、ミカとレイカが対戦した。レイカが召喚した「ブラキオス」は、木属性のモンスターでミカのプレシオスとは相性がよい。しかし、先ほどとは状況が異なる。まるで、喧嘩そのものといってよい感じだ。ユウナとアカリも手がつけられず、不安そうにそれを見守っている。そこに、アカネが来て言った。
「ちょっとあんたら、いつまでやってんの。美千子さんが差し入れ持ってきてくれはったで?」
しかし、二人はアカネには気づいていないようだ。
「ちょっと、わざとじゃないって言ってるでしょ!」
「じゃあ、なんでもっと早くに言わないのよ!」
「そっちが鈍かったんでしょ!」
「はぁ!?」
それに呆れつつ、アカネは言った。
「もう、いいから早よやめーや!」
しかし、二人は無視している。それには流石のアカネも、カチンときたようだ。
「おい、あんたら……。ええ加減にせんとしばき倒すぞ!!」
その言葉に、二人はようやく気づいた。ユウナも、その様子を見てホッと胸を撫で下ろす。しかし、これは日常のごく一部に過ぎなかったのだ。この世界に来てから、まだミカとレイカが仲良くしているのを見ていない。そして間もなく、ユウナがこの世界に住み始めてから、半年が経過しようとしていたのだった。
第四十三回
京都では、夏の日差しが煌々と照りつけていた。横大路研究所で美千子は、席に着いてテレビを眺めていた。ちょうど、オリンピックの競泳の中継をしている。しばらくして戸が開き、中にファイルを手にしたヒロインが入ってきた。それを待っていたとばかりに、
「どうだった?」
と、美千子はヒロインにきいた。
「はい。皆さん、元気そうでしたよ。ダンジョンも復旧して、もう少しで全クリアできるそうです」
「よかった……」
ヒロインの話をきいて、美千子は安心したような笑みを浮かべる。しかし、ヒロインはあまり笑っていなかった。これは、美千子を安堵させるためにヒロインがついた嘘だったのだ。状況は深刻で、ダンジョンはまだ封鎖されたままだった。正彦が、どうにかエラーを解消しようとしているが、今のところ特に状況は変わらなかった。
ダンジョンに入れないため、ユウナたちはモンスター同士を戦わせることで、少しでも戦闘の時に有利に運べるように備えていた。
一方、ユウナは子育てにも専念していた。悠二郎は仕事から帰ってくると、SPに入り、大毅の世話をしていた。正彦はSPの中に、二人のためにもう一軒、家を建ててくれた。そこに住み、ユウナは家庭の仕事もしていたのだ。
大毅がすやすやと寝息を立てながら眠っている横では、ユウナは悠二郎と二人で、今後の話をしていた。
「ユウナは、このゲームをクリアしたあと、どうしたいの?」
「まだよくわからないけど、できれば次の職を見つけようと思ってる。困難だとしても、大毅のためにも、私は働きたいの」
「そっか……。じゃあ、そうしなさい」
悠二郎は、優しく言ってくれた。それをきいてユウナも嬉しくなり、
「うん」
と頷いた。すると突然、大毅が泣き始めた。悠二郎は大毅のところへ駆けよると、抱きかかえた。そして、大毅に子守唄をきかせ、寝かしつけていた。ユウナも、優しい表情でその様子を見守っていた。
その後、ユウナは皆のところに足を運んだ。ほかの皆は、少し離れた建物の中に住んでいる。そこで、ユウナはミカに言われた。
「ねぇ。称号のことだけどさ、交換しない?」
「交換?」
「アカリと相談してさ、やっぱ自分に合った属性にした方がいいのかなぁって思って」
すると、アカリもこう言うのだ。
「うちも、そう思う。自分に似合う属性の方が、力を生かせる気がするから」
アカリは、徐々に標準語をマスターしつつあった。それはさておき、ミカが続ける。
「今、ユウナが水だっけ。私、実は最近思ったんだよね。もしかしたら今のより、自分の好きな属性を極めた方が、ほら、スキルアップ? するかな~って思ってさ。だから私の光と交換してほしいの」
「でも……」
「ユウナの気持ちもわかるよ。でも、わかってるからこそ、お願いしてるんだ」
ユウナは、しばらく黙っていた。属性を交換するとはどういうことか、それは今までの努力を無駄にするということだ。ユウナはこの半年間、水属性のモンスターを多く使ってきた。そうすることで、自分自身も水を操ることができると正彦は言っていた。ユウナは、どうするべきか真剣に考えた。そうすると、アカリが次のように言った。
「ユウナちゃん。今日、ティラノス使ってたよね。それ見て、実はユウナちゃん、火属性の方が相性いいのかもって思ったの」
「えっ……」
「だから、水はミカちゃんに任せて、ユウナちゃんにはうちの火を譲る」
「アカリ……」
言われてみれば、そうかもしれないと思った。たしかに、ユウナはティラノスを戦わせている時、なぜか伸び伸びと命令できた。アカリの言う通り、水属性はミカに任せた方がよいのかもしれない。
「うん、わかった。じゃあ、アカリは光でいいの?」
「うちも、最近はそう思ってる」
アカリも、頷きながら答える。
「よし、決まりね!」
そう言うと、ミカは立ち上がった。
そして、専門とする属性の交換は終了した。ユウナが火、ミカは水、そしてアカリは光となった。しかし、これで三人はほとんど振り出しに戻ったことになる。その分、今まで以上に頑張らないといけない。
ユウナたちは、そのことを正彦に報告しに行った。部屋に設置された巨大なスクリーンで、現実世界と通信できる。正彦がその話をきくと、
「そうか。それなら、仕方ない。今まで通り、やってくれ。何かあれば、またこちらから指示を送る」
と言い、納得してくれた。
「ありがとうございます!」
ユウナも、正彦に礼を言った。もしかしたら、正彦は了承してくれないのではないかという気持ちもあったからだ。そして、正彦との通信は切れた。
「さ~て、じゃあ特訓開始しますか」
ミカは、陽気に言った。それをきき、ユウナも特訓に取りかかろうとした時。部屋に、アカネが入ってきた。
「みんな、ちょっと来て」
アカネは、ひどく慌てているようだった。何があったのだろうと思ったが、良からぬ事なのだということは、一発で理解できる。
三人は、アカネと一緒に外に出た。遠くの火山から、煙が上がっている。
「これで、三十三件目。ここ一ヶ月くらいで、倍くらいに増えてる」
「頻発してるってことですか?」
アカリがきくと、アカネは答えた。
「多分、土台となるプログラムを誰かが書き換えてるんやと思う。ダンジョンに入れへんのも、きっとそれ。放っておけば、現実世界にモンスターが逃げ出してくるかもしれへん」
その言葉で、三人はゾッとする。
「アカネさん、制御装置は?」
「今のところ、ちゃんと機能してるけど……、もう限界。これ以上何かあると、いつ壊れてもおかしくない」
「そんな……」
ユウナの鼓動は、先ほどよりも速くなっている。これは、焦っている証だろう。一刻も早く、手を打たなければならない。ユウナは空を見上げると、山の向こうから雨雲らしき雲が近づいてくる。それを見て、ますます不安になっていくのがわかった。
その頃、サタールは城に研究者たちを呼び集めていた。
「準備はできているか」
サタールは椅子に腰かけ、不気味に尋ねる。それに、コサカは答えた。
「はい。お申しつけ通り、ダンジョンの一部を改造いたしました。間もなく、それらを一斉に解放いたします」
「そうか……。しかし、奴らは来るのか」
「必ず来ます。そこに宝玉があると思わせれば、奴らは間違いなくダンジョンに足を踏み入れるでしょう」
「そうか。ならば、たっぷりと思い知らせてやるがよい」
「はい」
コサカは、サタールに頭を下げた。それを、後ろの方から金色ルリも、犯罪者のような笑みを浮かべながら見ていた。
その数時間後、また火山が噴火した。いや、今度は噴火というよりも爆発と言った方が適切だろう。それを遠くから、ユウナたちも目撃していた。噴火に怯えて、正彦によって生成されたモンスターたちが、こちら側に向かって逃げてくる。
「まずい、モンスターが混乱している」
真司も、その様子を見ながら言った。
「どうする?」
「このまま噴火活動が続けば、やがて甚大な被害をもたらすだろう。これは、噴火を食い止めるしかなさそうだ」
慎一郎がきくと、真司はそう言うのだ。
「食い止めるったって……」
「それは、俺にもわからん。本当なら、外からゲームデータの一部を消去することが一番手っ取り早い。でも、一度現実世界に戻ってる余裕はない。それなら、中から何とかするしかないだろ」
「私が行きます!」
真司の話をきいて、誰かが名乗りを上げる。見ると、そこにはユウナの姿。
「ほ、本気なのか!?」
慎一郎は、驚きの眼差しをユウナに向ける。
「私が、様子を見てきます。黙って見ているわけにも、いきませんから」
ユウナは、本気だった。モンスターたちが苦しんでいるのに、指を銜えて見ているわけにはいかない。ユウナが真剣な表情で真司に訴えるので、これ以上何を言っても無駄だと悟った真司は、了解した。
「よし、わかった。君は、水属性だったか。君も、一緒に行ってくれ」
真司は、近くにいたミカにも言った。
「わかりました」
ミカもすぐ、真司に従う返事をした。
そして二人は、正彦がダンジョン攻略用に開発した乗り物、「万能太郎くん」に乗って、噴火が起きているダンジョンへと急いだ。
序盤のキャラで、最も印象深い登場人物は?
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中谷優奈
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鶴ケ崎麗菓
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月見里美香
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夢野あかり
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池谷大輝
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相場善秀