パズル&ドラゴンズ~もうひとつの旅~   作:葉之和 駆刃

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第43話 天上の海原~オーシャン・オブ・ヘブン~(その参)

 三人がいなくなった建物では、レイカが庭に出ていた。すると、足元にはモンスターが近よってきた。それはレイカの所持モンスター、「モリりん」である。レイカはしばらく、モリりんを見つめていた。すると、後ろから声がかかる。

 

「どうしたんだ?」

 

 ふり向くと、真司が歩いてきた。真司はレイカのところまで来ると、

 

「君は、みんなと一緒に行かなかったのか?」

 

 と、尋ねた。

 

「当然。なんでこんなことしてるのかも、わからなくなりそう。何のために、あそこまで真剣になれるのか、まだよく理解できない」

「それは、認めたくないからじゃないか?」

 

 レイカは、真司の方を見た。真司もレイカを見つめながら、さらに続けた。

 

「頑張ってる彼女たちを、認めたくない。だろ?」

 

 レイカはしばらく黙ったあと、また向こうを見ながら口を開いた。

 

「えぇ、認めたくないわ」

「でもそれは、時に自分のことにも繋がる」

「どういう意味かしら」

「それは、君自身が一番よく知ってることなんじゃないか? 彼女たちを認めたくないのは、今まで逃げ続けてきた自分を認めたくないからだ。中でも、みんなの中心にいるあの子は、大学時代からすごく真面目で、他人事にも率先して関わろうとしていた。だから、何事にも背を向け続けてきた君とは対極的であり、関わらないようにして生きてきた」

 

 それをきいてレイカは、強い視線を真司の方に向ける。

 

「わかったようなこと言わないで!」

 

 それには、流石の真司も黙ってしまった。レイカ自身、それは自覚しつつあった。それでも、どうしても認めたがらない自分がいた。たしかに、ユウナは世話焼きで、他人の話にも積極的に関わろうとしていた。レイカも、それは何度も身をもって知っていた。しかし、感謝しているのだ。それを本人の前で言ったことはないが、母の智美と解かり合えたのも、言うなればユウナのおかげだった。レイカは下を向き、真司に言った。

 

「私も……、それは認めてるわ。悔しいけど。でも、それとこれとは話が別。だってこの世界がどうなろうと、関係ないじゃない。何が救いたいよ、この世界を守ってどうしようって言うの? 私は、それが理解できないの」

「最初は……、俺もそう思ってた」

 

 真司の発言に、レイカは再び真司を見上げた。真司の視線の先には、この世界で暮らす、様々なモンスターたちがいた。野原を駆け回ったり、昼寝をしたり、その暮らしぶりは様々である。それをいつの間にか、レイカも眺めていた。そして、真司は続けた。

 

「俺も最初は、君と同じ気持ちだった。父さんの研究を手伝ってくれてるけど、ちょっとお節介すぎるところがあって、正直苦手だったよ。けど、一緒に話してるうちにわかってきたんだ。人は、変われるものだって」

「変われる……?」

「あぁ、君の兄さんのようにね」

「……、何を言ってるかわからないわ」

「そのうちわかるよ。だって君の兄さん、昔はバカで、融通のきかないところもあってさ。でも今は、自分のことより誰かのことを考えてる。そしてあの子も、最初は父さんだけのために走り回ってたけど、今ではみんなのためにダンジョンを制覇していってる。そこは、評価されるべきだと思うから」

 

 レイカも、黙ってその話をきいていた。真司の言葉には、嘘らしきワードがない。それは恐らく、本心だからだろう。レイカにも、それがわかった。それは少しずつ、ユウナのことを認め始めているからかもしれない。次に、真司に対する疑問が湧いた。

 

「なんで……、そんなに私に構うの?」

 

 それをきいて真司もレイカを見ると、

 

「さぁ……、なんでだろうな」

 

 と言いながら、建物の中に戻っていった。その後、レイカはその場に残り、モンスターたちを眺めていた。レイカの足元では、ピョンピョンとモリりんが嬉しそうに飛び跳ねている。空を見上げると、白い雲が流れていく。レイカも、その世界の美しさに魅せられていたのかもしれない。

 

 一方で、深い森の中を行くふたつの陰があった。それはサタールの息子と娘、フギンとミーサである。ミーサが前を行くフギンに、こう問いかける。

 

「なぁ。ほんとに、こっちの方向で合ってんのか?」

 

 二人は、SPの中で何かを探しているようである。ミーサの問いに、フギンも答えた。

 

「あぁ。たしかに向こうの方から波長が感じられる。どうやらコサカさんの勘は間違ってはいなかったみてぇだ」

「……ほんとにあんのか? 宝玉」

「オヤジが言ってたんだ。この世界の鍵となる宝玉を、五か所に設置したってな」

 

 不意に、ミーサから溜息が漏れる。そして、だんだんと雲行きが怪しくなっていき、今にも降り出しそうな空となった。森の草木は、不穏な風に煽られている。

 

「まぁ、今回は下見だ。べつに見つけたからと言って、どうにかするって話じゃねえからな。安心しろ」

「べつにそんなこと、どうでもいいんだよ。それより、このイタチごっこいつまで続くんだ? オヤジも、勝負がつかない限り退きそうにないしな」

 

 ミーサが呟いていると、フギンは歩きながら言った。

 

「オヤジは、この世界で生涯を閉じるつもりだぜ。最初から、そのくらいの覚悟はできてるだろうよ」

 

 その話をきいて、ミーサの顔は青ざめていく。

 

「おい、それって命懸けでやるってことか? このゲーム……」

「バカバカしいものほど、バカにならないってな。あいつも、この世界に住み着き始めたころから、それは覚悟してたと思う」

「でもさ……、高々ゲームだろ? 俺も、最初は遊びかと思ってたんだよ。だって、そんなこと本気にできるわけないじゃん。兄貴も俺も、最初っからあの人の掌に乗せられてただけなんだよな、きっと」

「そうかもな。それより、お前覚えてるか? 俺らが、初めてオヤジにこの世界に連れて来られた時のこと」

 

 フギンはふり向いて、ミーサにきいた。その顔を見ると、ミーサも先ほどまでとは違う穏やかな表情になった。

 

「忘れるわけねえよ。まさか、夢で見た世界がほんとに存在してたなんて……」

 

 ミーサの話をきいたフギンは、微笑しながら尋ねた。

 

「お前、まだ夢だと思ってんのか?」

「そう言えば、兄貴も同じこと言ってたな。子どもの時に、この世界とまったく同じ世界に来たことがあるって。でも、俺は夢だと思った。もう、わからないんだよ……、何もかも……。どうやっても、科学的証明だけで片づけられないなら、夢として片付けようって、決めたから……」

 

 しばらく、二人は黙って歩き続けた。すると、

 

「お、見えてきたぞ」

 

 と、フギンは草をかき分ける。ミーサも前を向くと、視界には巨大な宝玉があったのだ。これが、サタールが設置したという宝玉だろう。その真赤な色は、神々しく、時に恐怖を誘った。二人は呆気にとられながら、それを見上げていた。するとフギンは、

 

「俺、考えたことがあるんだ」

 

 と、ミーサに告げた。

 

「何だよ」

「……。いや、やっぱりいい。さ、帰ろうぜ」

 

 フギンは笑い、引き返していく。その後ろ姿を見つめながら、フギンの言動を気にするミーサがいた。フギンは何を言いたかったのだろうと、嫌な予感を抱きつつ思っていたのだった。

 

 その一方で、ユウナ、ミカ、アカリの三人は第三十エリアにある「天上の海原」に到着していた。ダンジョンの中は無数の階段があり、まるで名前の通り天国へ続いているようだった。周りには、滝が流れている。三人は互いに顔を見合わせ、頷いた。そして、中を進んでいく。

 

 途中、何度もモンスターと遭遇しては戦わせていた。正彦の言うように、レベルの高いモンスターが多く登場し、ユウナは必死に指を動かしていた。オンラインでやっていた時とは、やはり違うと思った。相手の攻撃が自分のところに飛んでくるかもしれないという緊張感の中、三人は敵と戦っているのだ。

 

 そして、ついにボスモンスターを残すのみとなったのである。

 

「あぁ~、ついにここまで来たかぁ~」

 

 ミカは、伸びをしながら呟いた。それを見ていたアカリが、

 

「ミカちゃん、まだ終わってないよ」

 

 と、注意する。

 

「わかってますって。とっとと終わらせて帰りましょ」

 

 ミカは、余裕満々の様子だった。それでもユウナだけは、ずっと同じ緊張感を味わっていた。そして二人の方を向くと、

 

「教授も言ってた通り、最後のボスは強敵だと思う。防御が高いから、普通の攻撃は効かない。だから、三人で協力して突破するしかない。二人にも、力を貸してほしいの」

 

 と、言った。それをきいて、二人は頷く。ユウナも頷き返すと、ボスのいる部屋の扉を開けた。鈍い音とともに、ドアが完全に開かれる。まずユウナが中に入り、それに続いてミカとアカリも足を踏み入れた。すると突然、周りが光り出し、モンスターが出現した。

 「ネプチューン」という名のモンスターは、自らの手にフォークのような形をした剣を持っている。

 

「いくよ!」

 

 ユウナは声をかけると、二人も身構える。そして、それぞれのモンスターを召喚する。アカリが召喚したのは、「マシンゴーレムMk-3」という光属性のモンスターだ。アカリは、

 

「ノーマルスキル発動! アーマーブレイク!」

 

 と叫ぶと、マシンゴーレムから魔法陣のようなものが飛び出し、それによって敵のネプチューンが包まれた。

 

「これで相手の防御が下がった、あとはコンボで倒すだけ!」

「オッケー、任せといて!」

 

 ミカが得意気にドロップを動かし、味方のモンスターたちは攻撃を開始。ユウナも援軍を送り、大コンボとなった。ネプチューンはその攻撃をもろに食らい、HPのゲージがなくなっていった。そして、ユウナたちの攻撃ターンが終了すると同時に、クリアの音楽が流れる。前にいたはずのネプチューンは、いつの間にかいなくなっていた。

 勝ったのだ。そのことに気づくと、三人は歓喜の声を上げる。ユウナも嬉しさのあまり、飛び跳ねそうになるのを何とか我慢した。まだゲームは終わっていない。これは、初めの一歩に過ぎないのだ。ほんとに喜ぶのは、この世界をサタールの脅威から守ってからだと、ユウナは自分に言い聞かせていた。しかし、この一歩が大切なことに変わりはない。

 

 帰ってくると、建物の前では皆が待っていた。心配になったのか、正彦や美千子、ヒロインの姿もある。三人は手を大きく振り、三人に駆けよった。

 ユウナたちが来ると正彦は、

 

「ご苦労だった」

 

 とだけ言い、微笑していた。ユウナもそれを見て、

 

「はい」

 

 と、頷いていた。ほかの二人は、疲れきったように地べたに座りこんでいる。その様子を、皆も笑って見ていたのだった。このようなことを、あと何度すればよいのだろうか。ユウナはそんなことを考えつつ、中に入っていった。

 

 その夜。ユウナは悠二郎のところに帰り、部屋ではミカとアカリが、布団を敷いて寝ていた。ミカは布団の上に座り、手鏡を見て夜のスキンケアをしながら、

 

「思ったんだけどさ、ユウナ変わったくない?」

 

 と、アカリに言った。

 

「そう?」

「なんか高校の時までだと、他人のことばっか気にして自分のことは自分で何とかする~みたいな感じだったじゃん。でも最近は、よく人に頼るっていうかさ、そう思わない?」

 

 それには、アカリも少し考えたような顔になった。

 

「うちはあんまり思わないけど……、でも言われてみれば少し変わったような気がする」

「やっぱりね~。もしかしたら、結婚してから変わったのかも」

「ミカちゃんは、結婚とか考えてないの?」

「えっ?」

「ほら、前に言ってた人。敵でも、自分の心には嘘をつけないって」

「あー、もうその話やめて」

「え、なんで?」

 

 アカリが、不思議そうに尋ねてくる。すると、ミカは答えるのだ。

 

「もう考えないことにしたから。それにさ、やっぱりなんであんなの好きになったんだろうって思うんだよね。だからこれが終わったら、もっといい人探そうかなって思うの」

「ミカちゃんらしいね……」

 

 アカリは、半ば呆れ気味に呟く。

 

「じゃ、もう寝よっか」

 

 ミカは笑顔を見せると、部屋の電気を消した。しかし、アカリにはわかった。ミカは、まだフギンのことを忘れきれていないのだと。表情を見て人の心情を読み取れるアカリの機能は、未だに健在だったのだ。

 

 その頃、ユウナも同じように悠二郎、そして大毅とともに寝ていた。大毅は、すやすやと寝息を立てている。それを、ユウナも愛おしそうに見ていた。すると、不意に悠二郎が声をかけてきた。

 

「ユウナはさ、人を恨んだこととかないの?」

 

 急にそんなことをきかれ、ユウナは戸惑ってしまった。

 

「どうしたの? 急に」

「いや、何となく。相手はさ、先生のことを恨んでるんでしょ? だから、先生の創ったこの世界を征服しようとしている。でも、ユウナは誰かを恨んだことってないの? あ、ごめん。ちょっと気になってさ……」

「……ないよ。憎しみからは、何も生まれない。それに、恨みは人それぞれの価値観から生まれてくるものだと思うの。でも、全く同じ価値観の人なんてきっといない。だから、その違いを互いに認め合えれば、恨みはいつか消える。そう、信じてるから」

 

 ユウナは目を閉じ、そう話した。

 

「俺も、そう思うな……」

「悠ちゃんも?」

 

 そう言ってユウナは目を開けると、悠二郎は大毅と一緒に寝息を立てながら眠っている。それを、ユウナも嬉しそうに見つめていた。そして二人は、そのまま夜明けを迎えたのである。

 

 

 それからさらに月日が流れ、2021年3月。また、正彦によって皆は一室に集められた。スクリーン越しに、正彦は言った。

 

「この数ヶ月で、次々にダンジョンをクリアしていってくれてる君たちには、お礼の言葉もない。次に行ってもらいたいのは、第三十六エリア、星空の神域というところだ。このダンジョンも、なかなか厳しい戦いになりそうだ。心して、行ってくれ」

『はい』

 

 皆は、また真剣な表情で答える。この数ヶ月で、順調にいろいろなダンジョンをクリアしているのだ。今回も、正彦の期待に応えなければならない。ユウナは、さらに気合いを入れるのだった。

 

「宝玉のことも、わかり次第君たちに伝えるようにする。だから今は、目の前のことだけに集中してくれればいい。それでは、健闘を祈る」

 

 そして、また通信が切れた。

 正彦が何年も前から創り上げてきた世界、それこそがこのセインツ・パラダイスだった。それは、今や悪に脅かされている。何としてでも守りたい、その途切れることのない思いが、ユウナをさらに強くしていたのは間違いない。

 

 

第四十三回「天上の海原(オーシャン・オブ・ヘブン)」終

 

 

 

次回予告

ユウナ「私、どうしても彼女を放っておけない」

真司「君たちがダンジョン攻略に行ってる間も、この子は一人、部屋で仕事を探してたんだよ」

慎一郎「何が起こってるんだ?」

ユウナ「きっとまた、早くしないと取り返しのつかないことになる気がするんです」

ヒロイン「皆さんの持つ属性と同じ色の宝玉を見つけてほしいそうです」

ルリ「教えてあげる。あなたたちの考え方が、どれほど浅はかかってことをね!」

正彦「彼らは、時空の歪みに飲みこまれたのかもしれない」

ユウナ「教えてください。ここに来た、本当の理由を」

   「どうして、助けにきてくださったんですか?」

フギン「お前らを傷つけたくない。ただ、それだけだ」

 

 

 

次回(第四十四回)

 

星空の神域(テンプル・オブ・スターリースカイ)

序盤のキャラで、最も印象深い登場人物は?

  • 中谷優奈
  • 鶴ケ崎麗菓
  • 月見里美香
  • 夢野あかり
  • 池谷大輝
  • 相場善秀
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