パズル&ドラゴンズ~もうひとつの旅~   作:葉之和 駆刃

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第44話 星空の神域~テンプル・オブ・スターリースカイ~(その壱)

 199X年。ここは、とある山奥。そこに、一軒家が立っていた。住んでいるのは大人ではなく、子供二人だけだった。父親は行方不明で、母親は数年前に病で他界していた。そのため、兄と妹だけで生活していたのである。小学生の兄は、まだ幼い妹の世話をしていた。一見すれば、ごく普通の家庭のようにも見える。

 

 ある日、妹が外で遊んでいる時だった。森の奥から突然、虹色に光るモヤのようなものが現れた。ボール遊びをしていた妹は、気になってそこに行ってみた。その時、

 

「おい、危ないぞ!」

 

 と声がするので、ふり向くと兄が駆けてきた。二人はしばらく、そのモヤを見ていた。すると、だんだんとモヤが広がっていく。それは瞬く間に巨大化し、やがて立ち竦む二人を飲みこんでしまった。その瞬間、二人は目を瞑った。

 

 そして、恐る恐る目を開いてみると、そこはまるで異世界のような空間だった。目の前には草原や大地が広がり、鳥や蝶が舞っている。

 

「これは……」

 

 少年は呟くと、不思議そうにその景色を見ていた。今目の前に起こっていることが現実なのか、しばらく整理が追いつかなかったのだ。

 

 

 

第四十四回 星空の神域(テンプル・オブ・スターリースカイ)

 

 

 2022年3月。ユウナたちがこの世界に来てから、約二年が経過していた。この日も、あるダンジョンを攻略し、帰ってくる途中だった。

 

「今日のやつさ、かなりよくできてたくない? 構造とか」

「うん。なんか、きれいだったよね。何ていう名前だったっけ」

 

 ミカとアカリが、そんな会話をしながら歩いている。ユウナはマップを見ると、二人に教えた。

 

「星空の神域。教授が、一番苦労したところなんだって」

「そうなんだ……」

「レイカちゃんも連れてくればよかったな」

「えー、あの子そういうの興味なさそうじゃん」

「そうかな~」

 

 ミカの発言に、アカリは首を傾げる。その様子を、ユウナも笑顔で見ていた。そして、自然にその笑みが消える。ここしばらく、レイカはダンジョン攻略に全然参加してくれていないのだ。ユウナの願いは、五人揃ってダンジョンを攻略しにいくことだ。それが叶うのは、まだ先になりそうだとユウナは思った。

 

 三人は建物に戻り、ドアを開けると美千子が迎えてくれた。

 

「お帰りなさい。今、お茶入れるわね」

「美千子さん、来てたんですね」

「えぇ。たまには、こうして気を休めることも大事だと思うから。それに、私はゲームのことはあまり知らないから、このくらいしかしてあげられないと思って」

 

 美千子は、いつものように優しく微笑んだ。それを見ていると、ユウナの心も癒されるのだった。美千子は、三人に紅茶を入れるとテーブルに置いた。

 

「それで、調子はどうなの?」

 

 美千子が、座りながらユウナたちにきいた。

 

「はい。重要なところは、粗方攻略しました」

「そう……。でも、呉々も無理はしないでね。それだけが心配なのよ」

「ありがとうございます。それより、教授は?」

「今は、部屋で休んでるわ。最近は、やっと休息をとってくれることが多くなったの」

 

 美千子の報告をきき、ユウナも嬉しくなった。あれほど頑なに休むことを嫌がっていた正彦が、とうとう休む気になってくれたというのだ。本人も、真剣に自分の身体について考えるようになったのだろう。さらに、美千子は続けた。

 

「あの人が休んでる時は、アカネちゃんとヒロインちゃんが代わりばんこで研究室にいるわ。何かあったら、あの二人にきくといいんじゃないかしら」

「わかりました。いろいろ、ありがとうございます」

「いいのよ、そうだ」

 

 美千子は何か思い出したように立ち上がり、紙袋を持ってきた。その中からひとつの箱を取り出し、こう言った。

 

「これ、初さんから届いたの。よかったら、みんなで食べてくれって」

 

 美千子から、予想外にも懐かしい名前が飛び出したので、ユウナは顔を輝かせた。

 

「初さんから?」

「えぇ。今は、京都で余生を送ってるらしいわ。もう年だものって、無理はあまりしないようにしてるらしいけど」

「そうですか……」

 

 その話をきいて、ユウナも安心した。すると、それをきいていたミカが、話に割りこんできた。

 

「誰? それ」

「あ、うん。私が大学時代にお世話になってた、民宿の大家さん。私が卒業すると同時に辞めちゃったけど」

「そうだったんだ」

 

 アカリも、感心したように言う。

 

「でも、元気そうでよかったです。初さんには、たっぷりお世話になりましたから」

 

 ユウナが美千子に言うと、美千子も笑顔で答えた。

 

「私も、最近会ってないから。今度、会いに行ってみようかしら。よかったらあなたたちも一緒にどう?」

「いいんですか?」

 

 ユウナはまた、顔を輝かせる。そして、嬉しそうに二人とも顔を見合わせた。久々に、初子に会って何を話そうか、そのようなことを考えていたのである。

 

 その後、三人は正彦の研究室に信号を送った。それに出たのは、ヒロインだった。

 

「すみません。教授は今、仮眠室で休んでるんです……」

 

 ヒロインは、申し訳なさそうに言う。しかし、ユウナたちは予め美千子から話はきいている。

 

「それで、教授は何か言ってた?」

「はい。宝玉のことで、わかったことがあるそうです」

 

 その部屋には、アカネもいた。三人はアカネの方をふり向くと、アカネは頷いた。

 

「場所はまだよくわかっていませんが、宝玉には、それぞれの属性の力が宿る剣が隠されていて、それを守護神たちが守っているそうです」

 

 ヒロインは続けた。

 

「守護神?」

「はい。例えば、火の宝玉の場合、近くには火の番人がいて……。それで、これは教授の憶測なのですが、ある程度まで近づいた人に攻撃するAIが組みこまれているようなんです」

「じゃあ、簡単には近づかれへんってことやな」

 

 ヒロインの話をきき、アカネもそう呟く。ユウナも、よい方法はないかと考えてみた。ダンジョンをすべて攻略したとしても、どの道この世界はなくなってしまうのだ。しかし、宝玉をすべて見つけ、黄金の剣を手にした場合、このSPの中で支配者に成り上がることができる。兎に角、まずは宝玉を見つけなければならない。

 

「教授が言うには、皆さんの持つ属性と同じ色の宝玉を見つけてほしいそうです。五人で手分けして探せば、すぐにすべての剣が揃うだろうと」

「なるほど……。じゃあ、そうしよか。一旦、ダンジョン攻略は中止しよう」

 

 アカネが言った。

 

「待ってください」

 

 何かに気づいたユウナは、そう声を上げる。皆の視線が、ユウナに集まった。そして、ユウナは続けた。

 

「鶴ケ崎さんは、まだ協力してくれないみたいだから、全部揃うにはまだ時間がかかると思う」

 

 ユウナの言い分はご尤もだと、きいていた三人も押し黙る。すると、ミカは言った。

 

「でもさ、代わりに誰か探してあげればいいんじゃない? あの子、どう説得しても協力してくれそうにないしさ」

 

 これもまた、的を射ている。そして、また沈黙が続く。すると、ユウナは立ち上がった。

 

「私、やっぱり話してくるね」

「よしなって。また嫌味言われるよ?」

「それでも……。それでも、私、どうしても彼女を放っておけない。一緒に、この世界を守ってほしい。傲慢だって思われてもいい。でも今は、彼女の力が必要なの」

 

 ユウナは、レイカと初めてパズドラで遊んだ時のことを思い出す。ユウナたちが考えた「コンボ祭り」では、レイカは華麗な大コンボを見せてくれた。その時のことが、未だに忘れられないのだ。そして、ユウナはミカの反対を押しきり、レイカの部屋に行った。

 

 ユウナは、レイカがいる部屋の戸に手をかけた。すると、中からこんな会話がきこえてくる。

 

「ほんとにいいのか? みんな、君のことを待ってるんだぞ?」

 

 それは、真司の声だ。恐らく、真司がレイカを説得してくれているのだろうとユウナは理解した。そして、ドアを開けた。中には案の定、レイカと真司がいた。

 

「ほら、やっぱり来てくれたぞ」

「行かないって言ってるでしょ」

 

 レイカは真司の言葉に、そっぽを向いた。それは、心配する兄に反抗する妹のようにも見えた。そして、ユウナもレイカに声をかける。

 

「鶴ケ崎さん……。よかったら、私たちに協力してほしいの。一緒に、宝玉を見つけて。それさえあれば、この世界を救えるかもしれない」

「……何度も言わせないでよ。私は、こんなくだらない遊びに付き合ってる暇はないの」

 

 レイカの言葉に、真司も補足する。

 

「言ってなかったっけ。君たちがダンジョン攻略に行ってる間も、この子は一人、部屋で仕事を探してたんだよ」

「そうだったんですか……」

 

 それは、ユウナにとって初耳だった。この世界に来てから、レイカもダンジョンに赴くことはあったが、最近は部屋にこもりきりだったのだ。

 

「私、決めたの。小説家になるって」

「じゃあ、仕事って……」

 

 するとまた、真司が付け加える。

 

「あぁ。彼女、応募できるところがないか探してたんだ」

「そうだったんですか」

「だってそうでしょ。もうこの歳じゃ、どこも教師として雇ってくれないから。あなたは、心配してないの? 将来のこと」

 

 レイカが言うのをきいて、ユウナは黙ってしまった。何と答えればよいのか、すぐには出てきそうになかった。少し前までは、ユウナも就活に励んでいた。しかし、この世界に来てからは、SPをどうやって存続させるかだけを考えてきた。それは見方を変えれば、罪深きことだったのかもしれない。気がつけば、ユウナの中でふたつの思いが互いに戦いを繰り広げていた。

 

 一方、ここは深い森の中。その中を、少年が幼い少女を連れて歩いていた。

 

「お兄ちゃん、疲れたよー」

 

 後ろから、妹が兄に訴えかける。すると少年は立ち止まり、その場にしゃがんだ。

 

「よし。じゃあ、僕が負ぶってやるよ」

 

 すると、妹は兄に負ぶさった。そして兄は立ち上がり、再び歩き出した。周りからは、不気味な咆哮のような声がきこえてくる。草木が怪しく揺れ、今にも獣か何かが飛び出してきそうな雰囲気を醸し出している。

 

「お兄ちゃん、怖いよ……」

 

 また、妹が言った。しかし兄は、怯えた様子を一切見せない。

 

「大丈夫。きっと、帰れるから」

 

 これは、妹のことを思って言った言葉だろう。しかし内心は、不安一式だったのは言うまでもない。ただ、妹を安心させたかったのだ。そして、兄は妹を負ぶったまま歩き続けていた。その時、誰かの話す声がきこえてきた。

 

「ふぅ、もうこの辺りはだいぶ攻略されたようね。サタール様の思惑通り、愚かな娘たちね」

 

 気になって木の陰から覗くと、向こうに一人の女性が立って誰かと通話している。それは、サタールが雇った研究員の一人、金色ルリだった。

 

「えぇ、わかったわ。それじゃ」

 

 ルリは、そう言って電話を切る。二人は、それを怯えながら見ていた。すると兄は、妹を負ぶっていたせいか、バランスを崩して地面に落ちていた小枝を踏んでしまった。その音を、ルリがきき逃すはずはない。

 

「誰だ!」

 

 ルリは、激しい剣幕とともに音のした方を睨んだ。兄は咄嗟に、妹を負ぶったまま駆け出した。それを見つけたルリは舌打ちし、二人を追いかけた。

 兄は、必死に走り続けた。ルリは追いかける途中、モンスターを召喚した。それは火属性の「ギガンテス」というモンスターだ。ギガンテスは手に斧を持っており、周りの木を切り倒しながら進んだ。

 妹を背負った兄は、次第に速く走れなくなり、草むらに隠れた。ルリは、二人を探した。

 

「どこに隠れている!」

 

 ルリの声が、すぐ近くからきこえる。二人は呼吸も最小限に抑え、どうにか場を凌ごうと思った。しかし、ルリは目を閉じて自らの聴覚に全神経を集中させた。そして目を開けた瞬間、

 

「そこかぁ!」

 

 と言い、ギガンテスは火の玉を繰り出して飛ばした。その火の玉は、二人のいる草むらの近くの木に直撃し、爆音が響いた。

 

 爆音はその周りだけでなく、SP全体にまで響き渡った。そして勿論、その音はユウナたちもきいた。地響きが伝わってきて、ただ事ではないと思った。

 

「何だ、今の音は!」

 

 真司が言うと、ユウナは何か気づいたように、部屋を飛び出していった。それを、真司とレイカも追った。

序盤のキャラで、最も印象深い登場人物は?

  • 中谷優奈
  • 鶴ケ崎麗菓
  • 月見里美香
  • 夢野あかり
  • 池谷大輝
  • 相場善秀
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