ユウナは、一件を正彦に報告しにいった。話をきくと、正彦も首を傾げる。やはり正彦にもわからないのだろうか。そう思った時、正彦から予想外の言葉が飛び出した。
「まさかとは思うが……。彼らは、時空の歪みに飲みこまれたのかもしれない」
「どういうことですか?」
ユウナは、すぐに身を乗り出すと尋ねた。後ろにいたミカやアカリも、驚いたように顔を見合わせている。すると、正彦は続けた。
「理由はわからないが、そこは仮想世界だ。君たちは、現実世界との歪みを通ってそこに来ていることになる。一方で、学会では数年前、仮想世界が本当に存在するならば、時空の歪みが必ずどこかに現れると発表されたんだ」
「現れると、どうなるんですか?」
その話に、ミカが食いついた。その質問に対しても、正彦は自信なさげに答える。
「過去の世界から、人や物が時空の歪みを通って、この世界に吸い寄せられることがあるらしい」
「何それ、一種のタイムマシンじゃん!」
思わず、ミカは声を上げる。ユウナも、その通りだと思った。それならば、あの二人も過去から来たということだろうか。
「じゃあ、教授。あの子たちも、その時空を通ってここへきたということですか?」
ユウナがきくと、
「いや、それはわからない。もしかしたら、何かの拍子で現代にSPに続く扉が出現してしまっただけかもしれない」
と、正彦は答えるのだった。それをきいて、ユウナはますます混乱しそうになる。
「ありがとうございました。もう少し、様子を見てみます」
「あぁ、よろしく頼む。こちらも、わかり次第伝えるつもりだ」
「わかりました」
そこで、正彦との通信が切れる。そして、ユウナはもう一度二人から詳しい話をきこうと立ち上がった。
そして部屋に戻ると、真司と慎一郎が妹の相手をしている。兄は、縁側に腰かけていた。ユウナは兄の隣に行き、横に腰を下ろした。
「ねぇ。怪我、大丈夫?」
ユウナが尋ねると、
「うん」
と、兄は頷いた。それでも、少し寂しそうに見えた。
「ねぇ、帰りたい? お家に」
「うん」
「本当に、気がついたら知らないところにいたの?」
「うん」
これ以上きいても、きっと返事は同じだろう。ならば、どうするべきか。送り帰すしかない。家では、きっと両親が心配して待っているはずだ。
「じゃあ、お姉ちゃんが家まで送り帰してあげる」
「ほんとに?」
兄の表情は、一瞬にして明るくなった。それを見て、ユウナも頷く。
「約束する。だから、私に任せてくれる?」
「うん!」
兄は、今までにない笑顔で答えるのだった。
ユウナはその後、部屋に皆を集めるとそのことを伝えた。それをきいて、ミカは難しい顔をする。
「でも、どうやって見つけんの? 教授もわからないって言ってたし」
「私に、考えがあるの」
ユウナが真司に、
「あの。この前、SP内での波長を調べた時に使ったものなんですけど」
そう言うと、
「あぁ、これか」
と真司は言い、あるものを出してきた。それは以前、ユウナたちがSPにおかしな電波が出ていないか調べる際に使った、波長をキャッチできる機械だった。
「これで、波長の乱れを辿っていけば、辿り着けると思うんです」
「そうか……。やってみる価値はあるかもしれないな」
真司も、ユウナの話をきいて納得したような表情を浮かべた。
「でも、危なくないの? 今度はユウナが帰って来れなくなったり……」
ミカは、相変わらず心配のようだ。それでも、子供たちを放っておくわけにもいかない。
「大丈夫。この子たちを送り届けたら、すぐに戻ってくるから」
「あ、そうだ」
真司は、思い出したように言った。
「時空の歪みは、長い間存在できないらしい。だから、送り届けたらすぐにこっちの世界に戻ってきた方がいい」
「ありがとうございます、気をつけます」
ユウナは真司に礼を言うと、子供たちを連れて出ていった。何があっても、自分にできることを全うしなければならない。ユウナは、子供たちの手を引きながらそう考えていた。
しばらく進んだあと、機械が何か反応を示したような音を出す。驚いてユウナが機械の画面を見ると、波長の乱れが生じていた。近くに、何かあるのは明白だ。そしてもう少し歩くと、宙に小さな窪みのような穴が浮いているのが見えた。それを見て、それが時空の歪みだということを、ユウナは数秒考えぬうちに理解した。
その穴は、徐々に大きさを増していき、やがて大人が通れるくらいの大きさになった。二人も、驚きながらその様子を見ていた。ユウナは意を決し、その中に入っていった。
中に入ると、小さな一軒家が見える。それを見るなり、妹が駆け出した。兄も、それを追っていった。その様子からも、二人が元の場所に戻って来られたのだとわかる。ユウナはそれを見て二人に、
「じゃあ、私はもう行くね」
と、告げた。真司の話では、時空の歪みが存在できる時間は限られているのだという。ユウナは帰ろうとすると、
「待って!」
という声がする。それは、兄の方だった。兄はユウナのところに駆けてくると、グーを差し出してきた。ユウナが掌を見せると、そこに何かを置いた。それは、きれいな石だった。
「これは……?」
「あげる」
「ありがとう」
ユウナは、そう言うと兄の頭を撫でた。すると、今度は妹も走ってきた。
「私は、これ!」
妹は、ユウナに四つ葉のクローバーを渡した。
「……いいの?」
「うん! それにお願いするとね、ほんとに叶えてくれるんだって!」
「ありがとう」
ユウナは妹の頭も撫でると、妹は嬉しそうに顔を朱く染める。
「
兄は、妹に言った。そして二人は、家の中に入っていった。ユウナは二人を見送ると、ふと空を見上げた。そこには、満天の星空が広がっている。それは、まるでユウナのことを歓迎しているようにも見えた。ユウナは、心の中で星空に別れを言うと、また来た道を通って、SPの中に戻っていった。ユウナが入っていった瞬間、時空の歪みは小さくなり、やがて消えてしまった。
ユウナが戻るころには、SPの中も夜になっていた。皆、疲れきったように部屋の中で寛いでいる。その中には、レイカの姿もあった。それを見て、ユウナは少し嬉しくなるのだった。
「ユウナ、お帰り」
中に入ると、炬燵に足を入れていたミカが声をかけてくる。ユウナも炬燵の前に座ると、疲れたのか眠たくなってしまった。
しばらくウトウトしていると、アカリの声によって目が覚めた。
「あ! これ、あの子のじゃない?」
アカリが持っていたのは、ミニ手帳だった。
「忘れたのかな?」
ミカも、そう言いながら手帳の中身を確認する。中には、あの少年の顔写真があった。きっとポケットから落ちて、そのまま忘れてしまったのだろう。その中に書かれてあった名前を、ミカは読み上げた。
「
それをきくと、ユウナは手帳を覗きこんだ。そして、あることに気づく。
「ねぇ、これ……」
ユウナはあるところを指さすと、ミカとアカリもその項目に目を向ける。
「1988年生まれ……、ってあれ? 嘘、年上?」
やはり、あの少年少女は過去から来たのだ。そして、さらにユウナは思い出した。
『美長沙、戻るぞ』
それは、妹の名前だった。しかも、フギンと会った時、彼は手に包帯を巻いていた。今までは気にならなかったが、あの少年も同じところに傷を負った。それも、よく考えれば一生消えないような深い傷だ。ユウナは立ち上がり、部屋を飛び出した。
「ユウナ、どこ行くの?」
ミカの言葉さえも、耳に入って来ない。気になる、それだけだった。それを、レイカも見ていた。ユウナは考えた。フギンに会える方法、それは……。
ユウナは、石室の前に行った。そして息を整えると、扉を開けようとした。しかし固く閉ざされているため、なかなか開けることができない。中にある水晶を使えば、オーディンを呼び出すことができる。オーディンであれば、自分をフギンのところに連れていってくれるかもしれない、そう考えたのだ。
『こいつで、オーディンを呼ぶことができる』
『オーディンは、お前さんを選んだんだ。この世界を救える、唯一の勇者として』
あの言葉が嘘でないとするなら、それしか方法はない。ユウナは必死に、扉を開けようと力をこめた。すると、すぐ隣に新たな手が現れる。ユウナが見ると、レイカも一緒に扉を押してくれていたのだ。
「鶴ケ崎さん……?」
「言っとくけど、べつにあなたのためじゃないから。私も……、気になるから……」
「わかってる。それでも、嬉しい」
「……。無駄口を叩いてる暇があったら、もっと力出しなさいよ。私一人の力じゃ、無理だから」
「うん」
二人は一生懸命、扉を押した。すると、ようやく鈍い音とともに扉が開いた。中には、やはりあの水晶が眠っていた。ユウナはゆっくりそれに近づくと、水晶を手にした。それを外に持ち出し、そして天に掲げる。すると、周りは緑色の光に包まれる。その時、奇跡は起こった。前を見ると、あの魔術師・オーディンがユウナを見つめながら立っている。ユウナは、
「お願いがあるの。私を、あのお城に連れていって」
と、オーディンに言った。自分でも何を言っているのかわからなかったが、それでも今は望みをかけるしかない。その時、光の強さが増し、その光にユウナは吸いこまれた。
目を開けると、そこは見覚えのある場所だった。ダークネス・キャッスルだ。サタールに見つかれば、何をされるかわからない。後ろを向くと、レイカがいた。レイカもまた、あの光に吸いこまれたのだろう。戸惑っているユウナを見て、
「探しましょ」
と言い、先に歩き出した。レイカも、ユウナの目的を見抜いているのだ。ユウナは平静を取り戻し、レイカの後に続いた。しかし、この中から誰にも見つからずにフギンだけを探すのは困難を極める。そこで、あることを思いついた。ユウナはモンスター、レッドを召喚した。レッドは、いつものように嬉しそうに飛び跳ねている。
「お願い」
ユウナは、レッドに手を当てて思いを伝えた。レッドはユウナの心を読み取ると、飛び跳ねながらどこかへ行ってしまった。
「何したの?」
「ちょっと、試してみたくって」
レイカの質問に、ユウナは笑顔で答える。しばらくして、レッドが戻って来た。すると、後からフギンとミーサがついてきたのだ。
「やっぱりアンタか……」
フギンは、ユウナを見ると言った。
「あの、どうしてもききたいことがあるんです」
「どうやってここへ来たんだよ」
ミーサもまた、ユウナたちを睨んでくる。それでもユウナは、真実を知りたかったのだ。しかし尋ねる前に、フギンが言った。
「なんで来たのか知らねえけど、ここはお前らの来るところじゃない。帰れ」
そして背を向け、奥へ戻っていこうとした。その時、ユウナはフギンに声をかける。
「あの! 本名、南斗さんですよね?」
それをきき、フギンは足を止める。
「なんで……、それをアンタが知ってんだ?」
「その手の傷、あの時にできたものですよね?」
ユウナは、フギンの右手を見ながらきき返す。たしかに、フギンの右手には包帯が巻かれてある。
「教えてください。ここに来た、本当の理由を」
ユウナが言うので、フギンは溜息を吐いた。そして、話し始めた。
「行方不明のオヤジが突然帰ってきてな、復讐するのを手伝ってくれって言ってきてさ。何の説明もなく連れて来られたんだよ。懐かしい景色だった……。でもまさか、あの人がアンタだったなんてな」
「……知ってたんですか?」
「今日、マルースクレーターで会ったろ。その時に、わかったんだ。俺とミーサを助けてくれたのは、火属性の使い手だった。わかったら、もう帰ってくれないか。頼むよ、仲間のところまで送っていってやるからさ」
フギンはミーサの方を向いて、
「ミーサ。もう一人を頼む」
と言うのでミーサも、
「はいはい」
そう言いながら、レイカを案内した。ユウナはフギンの所持モンスター、プテラドスに乗せられた。そして、プテラドスは空へ飛び上がった。
その後、ユウナは前にいるフギンに不思議に思ったことを尋ねた。
「あの。勝手に入ってきたのに、何も言わないんですか?」
「何がだ?」
「いえ。無断で入ってきてしまって、悪かったなって思いまして」
「どうせ、オーディンの力を借りたんだろ?」
「え? あの、どうしてそれを……」
「自力で、あそこに辿り着くのは不可能だ。特別な力がないとな」
「特別な力……」
ユウナが呟いていると、フギンがこう言うのだ。
「俺らがお前らに手を出さない理由、わかるか?」
「え?」
「オヤジの標的は、伯父さんただ一人だ。お前らは、本来なら何の関係もない。だから、お前らを傷つけたくない。ただ、それだけだ」
それをきき、ユウナは確信した。フギンは、本当はこの世界を滅ぼしたくないのだと。本来、フギンは心優しい人物なのだと。だから、フギンとミーサはあの時、ユウナたちを見逃してくれたのかもしれない。
第四十四回「
次回予告
正彦「また、やつから挑戦状が届けられた」
ユウナ「挑戦状?」
正彦『ダンジョン・伝説龍の足跡にて、伝説龍復活の兆しあり』
コサカ「これが、我々の最終兵器ですから」
フギン「ちょっと考えたことがあってな」
ルリ「あなたとは一度、闘ってみたかったのよ」
フギン「今日から、お前らの味方になる」
サタール「この世界から、出ていくつもりはないかね?」
慎一郎「人にはそれぞれ、守りたいものがある。だからこそ、一生懸命になれるんだって」
ヒロイン「先輩たちなら、きっと何とかしてくれるはずです!」
アカネ「あとは、あの子らに任せよう」
慎一郎「俺たちも、できる限りのことをしよう」
悠二郎「あぁ」
ユウナ「私は……、戦おうと思います」
次回(第四十五回)
「
序盤のキャラで、最も印象深い登場人物は?
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中谷優奈
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鶴ケ崎麗菓
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月見里美香
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夢野あかり
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池谷大輝
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相場善秀