ここはダークネス・キャッスル。サタールは部屋に研究者たちを集め、今後の活動内容についてきいていた。コサカが前に出て、サタールに報告をした。
「サタール様、例の伝説龍を復活させる件についてなのですが……」
「それがどうしたと言うのだ」
サタールがきくと、次に金色ルリが出てきた。
「はい。長い間、地下に封印しておりました故に、復活させるとなると、我々にも危険が及ぶのではないかと思いまして」
「そうか……。たしかに、調性が必要かもしれないな」
「それについては、ほかの者が行っております。伝説龍を復活させることによって、侵略がしやすくなれば、これ以上ない安息かと存じます」
「では、それで頼む」
コサカの言葉をきき、サタールも言った。すると二人も、薄く笑っていた。研究者たちも、サタールに頭を下げながらニヤニヤしていた。それを、部屋の外からきいていた者がいる。フギンである。彼もまた、サタールの思惑について探りを入れていたのだ。
第四十五回
ユウナはバルコニーに出て、風に吹かれていた。そして、あの時のフギンの言葉をまた思い出していた。
『オヤジの標的は、伯父さんただ一人だ。お前らは、本来なら何の関係もない。だから、お前らを傷つけたくない。ただ、それだけだ』
あの言葉は、いったい何を意味していたのだろうか。考えれば考えるほど、わからなくなっていく。その時、ユウナは誰かに呼ばれた。
「ユウナ!」
見ると、悠二郎が大毅の手を引いて歩いてくる。ユウナはバルコニーの戸を開けると、悠二郎のところに行った。
「どうしたの?」
「ちょっと、気になってさ。あと、大毅が会いたがってたから」
悠二郎が言うので、ユウナは大毅の方を見ると、大毅も笑いながらユウナを見つめてくる。それを見たユウナは、申し訳ない気持ちになった。ここ数日、家にはほとんど帰っていないのだ。まだ幼い大毅の気持ちを思うと、心苦しくなる。
「ごめん……」
「なんでユウナが謝るの?」
「だって、悠ちゃんに何でも任せっきりで、私は自分のことばっかりやって。ほんとに、酷いよね、私。大毅にも、全然会ってあげられなくて……」
「何言ってるんだよ」
不意に、悠二郎がユウナの両肩を持った。
「そんなこと、百も承知じゃないか。だから、俺もこの世界に来たんだ。お前がそんなんだと、俺も大毅も戸惑ってしまう。だから、何でも遠慮せずに言ってくれよ。俺も、可能な限り応援するから」
「悠ちゃん……」
すると、建物の扉が開いてミカとアカリも出てきた。すると二人を見つけ、
「あ、来てたんだ。大毅君、久しぶり〜!」
「声がしたから。いらっしゃい!」
と、大毅に声をかけた。しかし大毅は、ユウナの後ろに隠れてしまった。
「あれ? 怖がらせちゃった? いつになったら懐いてくれるんだろうね」
ミカが言うので、ユウナは大毅に言った。
「こら、大毅。ちゃんと挨拶しなさい」
「…………」
大毅は、ますます顔を引っ込めてしまった。すると今度は、悠二郎が大毅を抱きかかえ、二人と対面させた。
「ちゃんと挨拶しないとダメじゃないか。ほら」
「怖くないよ〜」
ミカは、そう言って大毅の頭を撫でる。そうすると、大毅も顔を赤くした。それを見て、皆は笑っていた。このようなありふれた日常は、当たり前ではない。ユウナは思ったが、今だけは忘れようという気持ちになった。
大毅と四人は中に入り、大毅が疲れて眠ってしまったあと、ようやくユウナに悠二郎と二人きりで話をする機会ができた。
「それで、何か進展はあったの?」
最初に、悠二郎がユウナに尋ねた。そして、ユウナも話し始めた。
「実はこの間、不思議な出来事があって……」
ユウナは、悠二郎にフギンたちのことを話した。まだ小さかった頃の彼らに会い、少しだけ話をしたと。
「そんなことがあったんだ……」
ユウナが話し終えると、悠二郎は呟いた。さらに、
「これ、その子たちからもらったの」
と言い、小石とクローバーを出した。クローバーの方は、栞にしていた。
「それで、その人が言ってたの。お父様の敵は教授だけで、私たちは本来関係ないって。でも、私はこの世界を最後まで守り抜きたい。そうしないと、教授の期待を裏切ってしまうから。それだけは、どうしても嫌なの」
悠二郎も、その話を黙ってきいていた。そして、
「それがいい。ユウナがそうしたいなら、そうするべきだと思う」
と、言うのだ。
「え、でも……」
「こっちのことは、俺に任せてほしい。大毅も、俺がちゃんと世話するから」
「でも、悠ちゃん一人に押し付けるなんてできない。やっぱり、夜になったら毎日帰って、家のことも半分は私がやる」
「それじゃ、ユウナの身がもたないよ。大丈夫だって、俺が何とかする。なんなら、兄貴にも手伝わせるからさ」
「兄貴が何だって?」
急に声がするので、二人は驚いていると、部屋に慎一郎が入ってきた。
「あ、兄貴。いつからきいてたんだよ」
「ついさっきだよ。邪魔するのも悪いかなって思ってさ。それより黙ってきいてりゃ、何が手伝わせるだよ」
「あはは……」
「それで、何かご用だったんですか?」
ユウナが尋ねると、慎一郎は言った。
「先生が呼んでる」
「教授が?」
「あぁ。もうみんな集まってるけど、どうやらまた敵が新しいことを仕掛けてくるらしい」
「それは?」
「俺も知らない。行ってみればわかるだろ」
慎一郎の話をきいて、ユウナが悠二郎を見ると、悠二郎も頷いた。それを見て、ユウナは安心した。そして慎一郎とともに、皆が集まっている部屋へ行くことにした。
廊下を歩いていると、不意に慎一郎が話しかけてきた。
「さっきの話だけどさ……」
「さっきの、ですか?」
「あぁ。俺が家事を手伝うって話、俺はべつにいいけど」
それをきき、ユウナは少し驚きながら尋ねた。
「本当ですか?」
「嘘ついてどうするんだよ。実は俺も最初、くだらないって思ってた。俺も学生のころ、先生の授業は受けてた。面白くて、ためになる話もたくさんしてくれた。でも、命かけてまでこの世界守ろうとする気持ちが、いまいちよくわからなかったんだよ。けど、君らを見て思い知らされたよ。人にはそれぞれ、守りたいものがある。だからこそ、一生懸命になれるんだって。だから、俺でよかったら力になるよ。俺でも、それくらいのことはできると思うし。けど、この世界を救えるのは、君とあとの四人だけ。先生もそう言ってたんだから、きっとそうなんだろうな。だから、最後まであの人に尽力してあげてほしい。俺からも、お願いするよ」
慎一郎の話をきいていたユウナは、なぜか涙が出てきそうになった。
「お兄さん……」
「お……、おい、泣くなよ。あいつが見てなくてよかった〜。見られてたら、何言われるかわからんからな」
「すみません……」
ユウナにとって、慎一郎からそのようなことを言われるなど、想像もしていなかったのだ。その分、喜びが大きかったのだ。そんな会話をしている間に、部屋に着いた。部屋の扉を開けると、ミカ、アカリ、アカネ、真司といういつものメンバーに加え、その中になんとレイカもいた。ユウナはレイカを見つめるが、レイカは一向にユウナと目を合わせる気はないようだ。それでも、ようやくやる気になってくれたのだと、ユウナの中の嬉しさが倍増した。
「みんな、集まってくれたな」
テレビ画面を通して、正彦が皆に言った。正彦の後ろには、ヒロインも控えている。
「それで、何があったんです?」
アカネが、正彦にきいた。すると、正彦も即座に返答する。
「また、やつから挑戦状が届けられた」
「挑戦状?」
部屋は、またざわつき始める。
「挑戦状というか、また例によって差出人不明のメールが届けられてね」
「それって、また宝玉についてですか?」
ユウナも尋ねると、正彦は首を横に振った。
「いや、今回は違う。それでは、読み上げる」
正彦は、そのメールをプリントアウトした紙を広げた。
『2022年5月22日。ダンジョン・伝説龍の足跡にて、伝説龍復活の兆しあり。その暁には、SPにおけるすべての火山が一斉に噴火する。これを食い止めるには、伝説龍と対峙すべし』
読み終えた正彦は言った。
「これは恐らく、ヘルヘイムのことだ」
「ヘルヘイム?」
「あぁ。ダンジョン・伝説龍の足跡における、最後のボスモンスターだ」
するとミカが後ろを向いて、
「そのダンジョンってさ、最後だけまだだったよね?」
ときくと、アカリも頷いた。すると、さらに正彦は続けるのだった。
「5月22日は来週だ。時間がない、皆で対策を考えてほしい。これはただのダンジョン攻略ではない」
「どういうことですか?」
ユウナがまた尋ねると、正彦は言った。
「ほかとは、勝手が違うんだ。わかりやすく言えば、それを作ったのは私ではなく、やつだからだ」
それをきくと、また周りが騒然となる。ヘルヘイムというモンスターは、正彦ではなくサタールが生成したというのか。それが本当なら、オーディンと同じではないかとユウナは思った。
「私から言えることは、そのくらいだ……。すべての火山が一斉に噴き出せば、このSPはエラーの値を大きく超し、ダンジョン未攻略のまま、この世界を構築しているすべてのデータが消えるかもしれない」
正彦が言ったあと、アカネが報告する。
「ここ三ヶ月で、火山の噴火はSP全体で四十八件起きています。ほかにも、システムの故障など複数起きています」
「やはりか……」
この世界を、そのような形で終わらせるわけにはいかない。ユウナは、そう固く誓った。それならば、まずは何をすべきか。ヘルヘイムと戦い、倒すしかないだろう。
「私は……、戦おうと思います」
その発言に、皆の視線は一斉にユウナの方に向けられる。それでも、ユウナは己の考えを変えなかった。
「相手の人が何を考えてるのかわからないけど、何もしないよりはいいと思うから。それに、みんなで協力し合えば、どんな敵だとしても勝てると思うの」
その考えは、どうやらほかの皆も同じようだった。
「だね」
「これまで、幾度となく戦ってきたんだもんね」
ミカやアカリも、それぞれに賛成の意見を述べた。
「うちらがここにいる意味、示さなあかんしな」
アカネも笑顔で、そう言ってくれた。
「みんな……」
嬉しそうに呟くユウナ。正彦も、覚悟を決めたように告げた。
「ではその日、伝説龍の足跡へ向かってくれ。念のために、攻略組と待機組に分かれるといいだろう」
「わかりました」
ユウナが答えると、正彦も頷いた。これは、正彦にとっても難しい判断だった。しかし、攻略を遂行することに決めた。それは、彼女たちをこの上なく信頼していたからなのかもしれない。
一方、サタールはヘルヘイムが眠っている洞窟に足を運んでいた。後ろには、コサカがついて来ていた。
「奴らは、必ずここへ来るだろう。それまでに、解放できるか」
「お任せください。これが、我々の最終兵器ですから」
「最終兵器という割には、少しスペックが低いのではないのか?」
サタールが冗談気味に言うので、コサカは真面目な顔をして言うのだった。
「もしも……、この計画が失敗に終わったら、あとはサタール様だけになりますよ」
コサカが言うのをきき、サタールも返した。
「構わん。今目の前にあることに、全力を尽くすまでだ。後のことは、後で考えればいい」
「はい。我々も、全力でサポートいたします」
コサカも答えると、サタールは鎖に繋がれているヘルヘイムを見上げていたのだった。ヘルヘイムはまだ目を閉じているが、今にも目覚めそうな雰囲気を醸し出していた。
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