夜のSPは、暗黒の世界と化していた。人間の世界とは違い、街灯などの明かりが一切ないのだ。結局、待機組にはレイカ、アカリ、アカネ。攻略組には、ユウナとミカがそれぞれ配属されることになった。ユウナとミカは、「万能太郎」に乗って先にダンジョンへと向かった。出発する際、悠二郎たちが見送りに出た。
「ユウナ、ここが正念場だ。頑張れよ」
優しく声をかけてくれる悠二郎。その表情からは、真剣さが窺える。ユウナも頷いて、
「ごめんね。もしも何かあったら、大毅のこと、守ってあげてね」
と、言った。
「そんなこと言うなよ。きっと大丈夫だから、今まで通りやれ」
「わかった。じゃ、行ってくるね」
ユウナは悠二郎に言うと、ミカとともに出発していった。その様子を見ながら、悠二郎の隣にいた慎一郎が呟いた。
「ほんとに好きなんだな、この世界が」
「あぁ。ずっと、ユウナとともにあったからな」
「なくしたくないな……、ここ」
「え?」
「なんか、あいつら見てたらそう思えてきた」
すると突然、悠二郎が笑い出した。
「何だよ?」
「だって、兄貴がそんなこと言うの珍しいと思ってさ」
「そうか?」
「じゃ、俺らも祈ろっか」
「そうだな。真司、お前はどうする?」
慎一郎はふり返り、真司を見た。しかし、真司はただ夜空を眺めて何も答えなかった。
「どうした?」
するとようやく気がつき、
「あ、いや。ちょっと、考え事してた」
と答えるので、慎一郎は言った。
「またかよ。まだ気になってんのか?」
「そんなんじゃねえけど……」
「嘘つけ、お前顔に出やすいからな。これ終わったら、告ってやれよ」
慎一郎は、真司の肩に手を置いて言った。
「だから違えっつってんだろ」
「え、何の話?」
悠二郎は、二人の会話についていけないようだ。
「ガキには関係ねえ」
「え~」
そのまま、真司は建物の中に入っていってしまった。
「アイツも、いろいろあるんだよ。お前も、家庭持ってるんだからわかるだろ」
「まぁ……」
「じゃ、入ろうぜ。俺たちも、できる限りのことをしよう」
「あぁ」
二人もまた、真司に続いて中に入っていった。慎一郎の言うように、悠二郎もまた自分にできることをしようと意気ごんでいたのだった。
一方、待機組はダンジョン「伝説龍の足跡」の前にいた。三人の前に、フギンとミーサが立っていた。
「俺らは、一旦城に戻る。何かあったら、あいつらに連絡をとってくれ」
「で、私たちは何をすればいいわけ?」
レイカがきくと、
「取り敢えず、モンスターに遭遇したら片っ端から倒してくれ。オヤジはきっと、監視用のモンスターを送りこんでくる。目がカメラになってて、それによってオヤジのところに映像が送られるんだ」
と、フギンは答えた。それをきいて、アカネも納得したように言う。
「要するに、相手に状況を掴ませへんようにすると」
「まぁ、そういうこっちゃな。じゃ、俺らはもう行くぜ」
フギンはプテラドスに、ミーサはキマイラに乗って去っていく。流石に、二人が一緒にいるところが映されたら、サタールに裏切りを知られてしまう。そうならないよう、二人はひとまず城に戻ることにしたのだ。
間もなく、夜明けだ。日が徐々に昇り始めるころ、ユウナとミカはダンジョンの最上階に辿り着いていた。扉が開かれると、そこには鎖に繋がれた龍の姿がある。しかしそこには、もうひとつ影があった。背を向けて立っている人物、サタールだ。
「やぁ、やっぱり来たか」
二人の存在を察知したのか、サタールはふり返らずに言った。
「どうだね、素晴らしい出来栄えだろう。これを作るのに、かなり苦労したよ。恐らく、君たちの尊敬する教授と同じかそれ以上にね」
そして、とうとうサタールはふり返った。
「もう一度きこう。この世界から、出ていくつもりはないかね?」
悪戯にサタールがきいてくるので、ユウナはすぐさま答えた。
「ありません。そちらが出ていかないのであれば、私は出ていくつもりは毛頭ありません」
「そうかい。残念だ。君くらい優秀な人材なら、欲しがる企業も多くあるだろうに。このどうしようもない世界の中で、人生を終えることになるかもしれんのだよ。それでもいいのかい?」
すると、ユウナの隣でミカが囁く。
「ユウナ、相手にしちゃだめ」
その瞬間、強烈な衝撃波が飛んできた。それによって、ミカは後ろへ飛ばされた。
「ミカ!」
幸い、ミカは受け身をとり無傷だった。起き上がると、
「大丈夫」
と、ユウナに言った。
「私は今、彼女と話しているんだ。邪魔をしないでもらいたい。さぁて、そろそろ時間のようだ。どうするかは、君たち次第だよ」
そして、サタールはまた笑うのだった。その時、今まで眠っていたヘルヘイムが、目を開いた。そしてその目が赤く輝き出し、鎖の千切れるような音が、部屋中に轟き始めた。ユウナはそれをきいて、万能太郎のハンドルを握りしめた。ユウナは、すでに闘う覚悟を決めていた。
その数分前、外では三人が暇を持て余していた。
「モンスターなんて来ないじゃない」
「まぁまぁ、レイカちゃん。こんな時こそ、心を落ち着かせることも大切なんだよ」
「それに、相手はこちらの行動を大抵読んでる。いろんなところに目を配らなあかんな」
たしかに、周りは物静かだが、いつどこからモンスターが襲ってくるかわからないため、気を抜くに抜けない状態だ。その時、近くから奇声のような声がきこえてきた。三人は、すぐに周りを警戒し始める。次の瞬間、多数モンスターが飛び出してくる。属性は様々だ。
「何これ、予想してたよりも多い!」
アカリは、かなり焦っているようだ。
「大丈夫。一つひとつ処理していこう! 落ち着いて!」
アカネは先輩らしく、二人を先導した。レイカとアカリも、落ち着いて対処することにした。そして、それぞれに自分のモンスターを召喚する。敵の数は多いものの、レベルでいうとそれほどでもない。アカネの言った通り、落ち着いて対処すればどうにかなりそうだ。三人はモンスターに攻撃命令を送り、敵の数はどんどん減少する。そして残り少なくなった時、どこからかこんな声がきこえてくるのだった。
「あら。あなた、久しぶりね」
その声に、最も反応したのはレイカだ。レイカが上を見ると、ルリがこちらを見下ろしている。
「まさか、こんなところで会うなんてね」
「レイカちゃん、知ってるの?」
アカリは、レイカに尋ねた。さらに、ルリは続ける。
「あなたとは一度、闘ってみたかったのよ。私の美しい肌を打ったこと、忘れたとは言わせないわよ?」
それをきき、アカリとアカネは驚いたようにレイカを見つめる。しかしレイカは冷静に、
「だから、何だって言うの。あの時は、ただムカついただけよ。ムカついた相手を殴って何が悪いのかしら」
と言うので、ルリの表情が変わる。
「まぁ、小憎たらしい! やっておしまい!」
ルリが叫ぶと、あるモンスターが姿を現した。それは、「爆炎龍・グランティラノス」というモンスターだ。ユウナが所持しているティラノスの、究極進化形である。究極進化とは、進化したモンスターがさらに強化され、姿を変えることだ。技の威力も、究極進化後の方が圧倒的である。
それに危機を感じたアカネが、
「離れて!」
と、二人に指示を送る。言われた通り、二人が数メートル後ろに下がると同時に、グランティラノスは口から炎を吐き出した。その炎は、周りの草木を焼き尽くしてしまった。その威力は絶大で、巻きこまれたモンスターたちは次々に消滅していった。
「あははははっ! どうかしら、次は外さないわよ! あの日のお返し、今日はたっぷりさせてもらうわ!」
ルリは、悪魔のような笑みを浮かべながら言った。その顔は本気だと、その場にいた誰もが悟ったことだろう。どうすることもできずに、レイカたちは自分のモンスターで応戦する。しかし、相手にはとても敵わず、炎によってすべて蹴散らされてしまった。それを見て、ルリはまた高笑いをする。
その時、物凄い爆音とともにダンジョンが崩れ始めた。何事かと三人は上を見上げると、ダンジョンから黒い龍が出てくる。ヘルヘイムだ。
「ついにお出ましのようね……」
ルリは、余裕の笑みで呟いていた。しかし、ヘルヘイムがダンジョンの天井を破ったことにより、ダンジョン自体がどんどん崩れ落ちてくる。敵のモンスターたちは、次々に岩の下敷きとなっていった。
「何っ!?」
ルリも、そのことを予想していなかったのだ。グランティラノスも岩雪崩に巻きこまれ、そのまま消滅していった。一方、三人は自分のモンスターを元の場所に戻し、自分たちは近くの森に逃げこんだ。そして間一髪、岩雪崩を回避した。三人を見失ってしまったルリは、仕方なく引き返していった。
その様子を見ながら、アカリが呟いた。
「大丈夫かな……。ユウナちゃんたち」
それをきいて、アカネも上を見ながら言うのだった。
「大丈夫。あとは、あの子らに任せよう」
ユウナとミカは、万能太郎に乗ってヘルヘイムを追っていた。
「ユウナ、あれ持ってる?」
ミカが、無線でユウナに話しかける。
「あれ?」
「光属性。あいつ、闇だから光で対抗した方が早いと思う」
「わかってる。アカリから、いくつか借りてきてるから!」
「オッケー」
作戦は決まったようだ。ユウナは操縦しつつ、指を動かしてモンスターを召喚する。
その様子を、下の方から三人も見ていた。レイカは拳を握りしめ、いつしかユウナたちを応援する姿勢に入っていた。
それが通じたのか、戦闘はスムーズに進んでいた。ユウナは光属性のモンスター、「神龍」を召喚し、攻撃を命じた。神龍はスキル「ホーリーブレス」をヘルヘイムに投げつける。ヘルヘイムも空中で、反撃する。しかしユウナの操作により、神龍はすべての攻撃を躱し、ヘルヘイムとの距離を徐々に詰めていく。そして最後の攻撃を開始した。神龍の上に表示されている、ゲージの数字がどんどん増えていく。攻撃が当たると、ヘルヘイムは咆哮を上げる。大きなダメージを受けたヘルヘイムは、少しずつ地上に近づいていく。すると、下に待機していたホーリードラゴンが攻撃態勢に入る。ミカが、予め召喚しておいたのだ。
「ミカ、あとはお願い!」
「わかってますって!」
最後はミカがスマホを操作して、ホーリードラゴンに指示を送る。ホーリードラゴンは、自身のスキル「サンダーボール」を繰り出し、ヘルヘイムを攻撃した。それを受け、ヘルヘイムのHPがゼロになり、消滅していった。その欠片が、日が昇り始めているSPの森全体に降り注いでいた。それを見ても、ユウナはあまり実感が湧かなかった。するとミカが来て、
「やったぁ! やっつけたんだよ、ユウナ」
と言うので、そこで初めてやり遂げたんだという実感が湧いた。そしてユウナも、拳を握って嬉しさを噛みしめていた。
二人が降りてくるのを見て、真っ先にアカリが駆けてきた。
「ユウナちゃん、ミカちゃん!」
「ただいま」
「よかった。これで、一安心だね!」
アカリは、泣きながら喜んでいる。それを見ると、二人もほっこりしたような気持ちになった。その時、ユウナはあることに気づいた。
「鶴ケ崎さんは?」
そこには、レイカの姿はなかったのだ。それについて、アカネは答えた。
「先に帰ったで? 疲れたゆうて」
「そうですか……」
レイカは今、どのような気持ちなのだろう。ユウナは、そのことを気にしていた。そうするとミカが、
「ユウナ、どったの? 戻ろ」
と言うのでユウナも頷き、戻ることにした。そしてまた明日、ゆっくり話そうと思った。
四人が戻ってくると、悠二郎たちが優しく迎えてくれた。
「お疲れ様」
真司は、そう言って皆を激励した。悠二郎もユウナの前に来ると、
「おかえり」
と、優しく言ってくれた。ユウナも嬉しくなり、笑顔で答えた。
「ただいま」
「疲れただろ、今日はもう休めよ」
「悠ちゃんは、先に寝なかったの?」
「ユウナたちが必死に戦ってるのに、寝てなんかいられないよ。ほんとに、よくやったな」
「うん……」
ユウナは、少し恥ずかしそうに言った。それを見て悠二郎も微笑し、中に入っていくのでユウナもついていった。その時、ユウナは思った。自分たちが戦っている時、悠二郎も一緒に戦ってくれていたのだと。そう思うだけで、ユウナは嬉しくなるのだった。
その後、真司はある部屋の前を通った。扉が開け放されており、中を覗くとレイカが窓から庭を眺めている。声をかけようとも思ったが、真司は敢えて素通りすることにした。今は、誰とも口をききたがらないだろう。そう思えたからかもしれない。
一方、ユウナは部屋で悠二郎と一緒に寝ていた。真ん中には、大毅の姿もあった。大毅は、気持ちよさそうに寝息を立てて眠っている。その様子を、二人は愛おしそうに眺めていた。すると、悠二郎がユウナに手を差し出してきた。それを見てユウナは最初戸惑ったが、悠二郎の顔を見てその手を握った。それは、何かの約束をしているようでもあった。気がつけば、いつの間にか二人とも夢の中に入ってしまっていた。
第四十五回「
次回予告
ミカ「宝玉のあるところまで案内してくれるってさ!」
ユウナ「宝玉がある場所、知ってるんですか?」
フギン「黄金の剣を扱えるのは、アンタしかいない。喜多村優奈」
コサカ「我々の存在を知ってしまった以上、徹底的に叩き潰させてもらわないと」
フギン「オヤジにどう思われてもいい。俺たちは、ゲームをさっさと終わらせたいだけだ」
サタール「なるほど……」
ヒロイン「ちょっと、やめてください!」
正彦「奴らは、君たちのことを狙っている。この国を支配する、実験材料としてな」
真司「彼女たちを、ずっとこの世界に置いておくのは危険です」
悠二郎「自分が誰かを守りたいって思ってるんじゃないのか?」
ユウナ「みんな、とても大切な仲間だから。それに私も、みんなのことが大好きだから」
「ダメ!」
ミカ「ユウナ!」
アカリ「ユウナちゃん!」
次回(第四十六回)
「
序盤のキャラで、最も印象深い登場人物は?
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中谷優奈
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鶴ケ崎麗菓
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月見里美香
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夢野あかり
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池谷大輝
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相場善秀