「伝説龍の計画は失敗に終わったか……」
「はい、見事に破壊されました。申し訳ありません」
ルリは、サタールに頭を下げた。すると、サタールの隣にいたコサカが、
「何をやっとるんだね、この役立たずが!」
と、ルリを叱責する。
「本当に……、申し訳ございません!」
しかし、その中でサタールだけが余裕の笑みを浮かべていた。
「まぁいい。私の本来の目的は、あの男に制裁を加えること。私と同じ苦しみを味わわせることさえできれば、あとはどうなってもいい」
「サタール様……」
「お前たちは、今まで通り研究に励んでくれ。また何かあったら、力を貸してほしい」
『はい!』
二人は、そう返事をすると部屋を去っていった。その後、サタールはその部屋で一人、あることを呟いていた。
「何か、おかしい……」
サタールも、ヘルヘイムがあのようにあっさり倒されるなど、予想していなかったのだ。そしてサタールが、誰かが機密情報をユウナたちに漏らしたのではないかと気づいたのは、この時であった。
第四十六回
ユウナたちは、また正彦に集められていた。画面越しに、正彦が皆に告げる。
「今日から、一時休止していた宝玉探しを再び開始する」
しかし、皆は戸惑ったような表情をしている。アカネも、
「しかし教授。どこにあるんか教授にもわからんのに、うちらだけで見つけられる気がしません」
と、不安気な表情を浮かべている。その意見は、もっともだった。まだ見つけるどころか、手がかりさえも見つけられずにいるのだ。そうしているうちにも、タイムリミットがどんどん迫ってきているようで、ユウナは居たたまれなかった。正彦もそれがわかったのか、難しい表情になった。
「SPだって、広いもんね」
アカリも、思わず言葉を漏らした。何かできることはないか考えたが、何も思いつかない。宝玉は、本当にあるのだろうか。あのメールが本当なら、宝玉はきっとどこかにあるはずだ。しかし、見つけられないのであれば話にならない。最終的に、すべてのダンジョンをクリアするしかなくなるだろう。その後、皆も考えていたがこれといった意見は全く出てこなかった。
一方、フギンとミーサは森の中を彷徨っていた。
「おい、ほんとに帰らなくて大丈夫なのか? まだ、バレてないかもしれないぜ?」
ミーサが、前を歩いているフギンに話しかける。しかし、フギンは何も答えない。
「おい、兄貴!」
「裏切り者の帰る場所なんてねえよ」
不意に、フギンは答えた。この二人はサタールを裏切り、ユウナたちに手を貸したのだ。サタールに知られるのも、時間の問題だった。つまり、二人は帰る場所を失ってしまったのだ。しばらくして、ミーサが座りこんだ。
「昨日から何も食べてないのに、ずっと歩き続けて体力スカスカだってーの」
「また、負ぶってやろうか?」
フギンが、近づいてきて言った。
「なんで今更、あんたに負ぶられなきゃなんないんだよ」
それをきいて、フギンはフッと笑った。
「そう怒んなよ。ちょっと、寄りたいとこがあるんだ」
「寄りたいとこだぁ~?」
ミーサは、怪訝そうな顔をした。フギンの寄りたいところとは、いったいどこなのか。それは、少し考えればミーサにもすぐにわかった。
ユウナは部屋から、ただぼうっと空を眺めていた。今日のSPの空は、晴れ渡っている。物静かで、きこえてくるのは時計の秒針の音くらいだ。その音に紛れ、誰かの足音がきこえてくるのを感じた。何事かとユウナは耳を澄ますと、その音は次第にユウナのところに近づいてくる。次に、激しく部屋の戸が開かれる。
「ユウナ!」
駆けこんできたのは、ミカだった。
「どうしたの?」
「いいから、ちょっと来て!」
ミカは、ユウナの腕を引いた。訳もわからないまま、ユウナは部屋の外に連れ出された。
建物の外に出ると、すでに皆が集まっていた。何事かと、ユウナも皆のところに行った。その時、その中にフギンとミーサの姿が見えた。ミカが慌てていたのはこれだったのかと、ユウナはそこでようやく理解した。それにしても、なぜ二人がいるのだろうか。ユウナは、二人に近づいた。
「おぉ、ようやく話が通じる相手がお出ましかい」
「どうしたんですか?」
ユウナがフギンにきくと、横からアカネが言うのだ。
「この人、帰る当てがないから、ここに身を置きたいって言ってくるんよ。でも一応敵側やから、教授の許可なしにそんな勝手なことできひんって言ったら、そんなら教授を呼んできてくれって」
その説明をきき、ユウナは大体理解した。二人はあの件で、自分たちに味方してくれた。それをサタールに知られてしまい、帰る場所を失ってしまったのだろう。そう考えると、ユウナは二人に同情した。そして、皆の方を向いて言った。
「あの。この人たちを、受け入れてあげませんか」
「何言ってんの、あんたまで」
アカネは、呆れている様子だ。しかし、ユウナは本気だ。二人が協力してくれたのは、ほかでもない事実だったからだ。ユウナ自身、二人に感謝しているのだ。
「この人たちは、本当は悪い人じゃないと思うんです。帰るところがないなら、私は受け入れてあげたい。それに二人だったら、きっといろんなことを知っていると思うから……」
それをきいて、アカネは言った。
「でも、教授が何て言うか……」
「私が説得してみます!」
「けど……」
その時、後ろの方から声がした。
「俺は賛成だ」
「悠ちゃん……?」
ユウナがふり向いた先には、悠二郎がいた。
「ユウナが言うなら、俺はべつにいいと思うよ。きっと、教授も納得してくれるだろう」
「あぁ、そうだな」
「父さんなら、きっと大丈夫だ」
慎一郎や真司も、悠二郎の意見に賛同の声を上げる。
「皆さん……、ありがとうございます!」
ユウナが頭を下げると、
「それはこっちのセリフだ」
と言いながら、フギンは前に出た。
「これは、俺らのオヤジと伯父さん二人だけのゲームだ。関係ないアンタらを、これ以上巻きこみたくない、それだけなんだ。だから、これから俺らはアンタらに協力する。早くこのゲームを終わらせるためにも、俺はアンタらの力になりたいんだ」
それを皆はききながら、納得しているようだった。そして、フギンがまだ険しい表情をしているアカネに、
「どうだ? それでも気に食わないって言うなら、諦めるけどな」
そう言った。するとアカネは溜息を吐き、
「……わかった。好きにして」
と言うので、ユウナも笑顔を浮かべていた。これも、悠二郎のおかげだ。悠二郎がいてくれなかったら、二人は完全に居場所を失っていたかもしれないのだから。
その後、皆で食事をしながら、ユウナはフギンから宝玉の話をきくことになる。
「宝玉がある場所、知ってるんですか?」
「あぁ。時間はかかったけど、全部見つけた。お前らより先に、見つけて来いってオヤジに言われたからな」
「あの。見せてくれませんか、宝玉」
ユウナが言うので、フギンは頷いた。
「ていうか、それだとそのオジさん、自分で自分の首絞めたようなもんじゃん」
ミカは笑いながら言っている。しかし、サタールは何が目的で宝玉を生成したのだろう。ユウナは、それが知りたかった。
「知ってるかもしれないが、宝玉にはそれぞれ、その属性の力を秘めた剣が隠されている。その剣を全部集めたら、黄金の剣が生成されるって話だ」
「黄金の
「その剣を扱えるのは、一人しかいない」
「どういうことですか?」
フギンの意味深長な発言に、ユウナは戸惑ってしまった。さらに、フギンは話し続ける。
「黄金の剣は、選ばれた者にしか扱えない。あの、オーディンにな」
「オーディン……」
その時、ユウナは誰かに記憶を抉り返されたように思い出した。横断歩道でトラックに撥ねられそうになった時、自分を助けてくれたモンスター。それこそがオーディンだった。
「なぜ、オーディンに選ばれた者にしか扱えないんですか?」
「さぁな。設定してるのはオヤジだから、何を意図しているのか俺にもよくわからない」
「だったら、うちら誰も使えないんじゃない?」
ミカは、まだよくわかっていないようだ。
「あ、あのね、ミカ……」
ユウナはミカに説明しようとするが、うまく言葉が見つからない。そこへ、
「どうしたの? 何の話?」
と、アカリまで話に参加してきて、ますます話しにくい状況となった。しかし、フギンにとっては好都合だった。そして、ユウナを見つめると言った。
「黄金の剣を扱えるのは、アンタしかいない。喜多村優奈」
その場が、一瞬にして静まり返った。その話は、部屋にいた全員にきこえていたらしい。
「え、どゆこと?」
ミカとアカリは、まだわからないようだ。すると、ユウナは二人に言った。
「ごめん。私、どうしても言い出せなくて。私、オーディンに会ったことがあるの。それから、オーディンを呼び出すこともできる。この世界を救う、カギを……」
「オーディンが、カギ?」
ミカがきくと、ユウナはゆっくり頷いた。この話はユウナ以外初耳だったため、皆状況についていくのがやっとという感じだった。しかしその中で、唯一冷静な者が一人いた。レイカだ。レイカは実際、ユウナがオーディンを呼び出すのを目撃している。皆の視線を感じながら、ユウナはその場に居辛くなっていった。
「ごめん。ちょっと、風に当たってくるね」
とうとう我慢できなくなったのか、ユウナは立ち上がって部屋を出ていった。その時に、部屋に戻って来た悠二郎とすれ違った。それでもユウナは、何も言わずに庭の方へ歩いていった。悠二郎も、不思議そうにそれを見つめていた。
外に出たユウナは、しばらく一人で考え事をしていた。最初に思い出したのは、やはりあの時の光景だった。交差点で突き飛ばされた時、トラックから自分の身を守ってくれたのは、紛れもなくオーディンだったのだ。ユウナがパズドラをプレイしていた時、ゴッドフェスガチャをいくら回しても出なかった、あのオーディンが自分のことを選んでくれた。今でも、その理由がわからないのだ。
次に、初めてフギンにあった日のことを思い出していた。フギンは、ユウナを無理やり洞窟の中に連れこみ、そこできれいな水晶を見せてくれた。
『オーディンは、お前さんを選んだんだ。この世界を救える、唯一の勇者として』
フギンはそう言っていたが、自分にそのような器があるのだろうかと、ユウナは悩んでしまうのだった。その時、不意に後ろから声をかけられる。
「ユウナ、何してるの?」
ふり向くと、やはりその声の主は悠二郎だった。
「悠ちゃん……?」
「みんな、心配してるよ」
そう言いながら、悠二郎はユウナの隣に立った。
「大毅は?」
「今は、兄貴が面倒見てくれてる」
「そう……」
すると、不意に悠二郎が話した。
「話、きいたよ。まさか、お前が勇者だったなんてな」
「私に……、勇者なんて似合わないよ」
「けど、お前は今まで誰かに助けられてきたんだろ? だから今度は、自分が誰かを守りたいって思ってるんじゃないのか?」
「そうだけど……。でも勇者なんて言われると、何もできないような気がして……。それに、みんなにも迷惑ばかりかけるし、私が勇者になんてなれるわけないよ」
「そんなことない」
悠二郎は、ユウナの言葉を否定した。ユウナは悠二郎を見上げると、
「人はそれぞれ、考え方が違う。だからユウナがどう思おうが、ユウナの勝手だ。でも、これだけはわかってほしい。みんな、お前のことが大好きなんだよ。俺も大毅も、そしてお前の友達も」
と、悠二郎は言ってくれた。
「悠ちゃん……」
ユウナが呟いていると、悠二郎はさらに続ける。
「考えてみろよ。今まで、仲間たちからユウナは迷惑ばかりかけてる~なんて文句を言われたことあるか?」
悠二郎に問われ、ユウナは考えた。たしかに、悠二郎の言う通りかもしれない。ユウナは今まで、何をするにしてもマイナスの方に考える癖があった。しかし実際、そのようなことを言われたことがない。もう少し、自信を持ってみてもよいかもしれない。
「ないだろ?」
「うん。私が間違ってた。みんな、とても大切な仲間だから。それに私も、みんなのことが大好きだから」
ユウナが言うので、悠二郎も安心したようにそれを見ていた。すると、向かい風が二人を包みこむ。
「寒くなってきたな。よし、じゃあ中入ろうか」
悠二郎が、ユウナの手を握る。ユウナも嬉しくなり、握り返していた。そして、二人は中に入り、皆のところに戻ることにした。これでいい、今を大切にしようとユウナは再び決心を固めたのだった。
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