二人は戻って部屋の戸を開けると、ミカが駆けて来た。
「ユウナ、お帰り! なんかこの人が、宝玉のあるところまで案内してくれるってさ!」
ミカは、フギンを指しながら言った。
「本当?」
「だからさ、これからすぐに見にいこうってなったの。ユウナも来るでしょ?」
ミカが目を輝かせながら話すので、ユウナは躊躇わずに頷いた。この時、ユウナも同じことを思っていたのだ。SPの存続がかかっているなら、是非とも行っておきたいところだ。しかし、周りには強力なモンスターもいるだろう。ユウナは、悠二郎の方を見た。目が合うと、悠二郎も笑顔で頷く。それを見て、ユウナはまた嬉しくなるのだった。
そして、皆で行くことになった。それには五人だけではなく、真司や悠二郎も同行することになった。案内役はもちろん、フギンとミーサだ。一行は森に入り、宝玉を目指した。
「ここは、野生のモンスターが多いエリアだからな。何かあったら、それぞれで対処してくれ。それくらいのことはできるだろ」
「はい」
フギンの忠告に、ユウナは答えた。やはり、フギンはこのセインツ・パラダイスという世界について、正彦と同じくらいに熟知しているのだ。ユウナは、隣を歩いている悠二郎に尋ねた。
「お兄さんは、置いてきて大丈夫だった?」
「あぁ、兄貴は大毅の面倒見てるって。大毅も一緒に連れていくわけにはいかないから、誰かが残ってないといけないからさ」
悠二郎の話をきいて、ユウナは納得した。慎一郎も、できれば一緒に来たかっただろうと思いながら、ユウナは森の中を歩いていた。
さらに足を進めると木の茂りが深くなり、視界が暗くなってくる。本当に、このようなところに宝玉があるのだろうかと思えたが、今は二人を信じて進むしかない。近くには、火の番人が眠っている。ヒロインの話によれば、宝玉は番人が守っているらしい。ということは、近くに宝玉があるのだろう。皆は番人を起こさないように、そっと足を進めた。
それからさらに歩いたのち、先頭を歩いていたフギンは足を止めた。
「見えたぞ」
フギンが小声で言うと、ユウナは目を凝らした。たしかに、向こうには赤く光る何かが見える。もう少し近づいた時、それは完全に姿を現した。五メートル以上はありそうな、赤い宝玉が建てられていたのだ。
「あぁ、だいぶ育ったな」
フギンは、感心したように呟いている。想像よりも遥かに巨大な宝玉は、ユウナたちを魅了した。ただ大きいだけではなく、太陽の光を反射して赤い輝きを放っている。
「すごい……」
ユウナは、思わず声を漏らす。
「これが、宝玉か……」
「予想してたのより大きい!」
悠二郎やアカリも、感激したように呟いている。ユウナも、このような場所にあるとは思っていなかった。
「で、どーすんだ?」
ミーサは、フギンに尋ねる。すると、フギンは皆の方をふり向いた。そして、
「じゃ。ちょっと出てきてくれないか」
と言い、ユウナを指さした。指名されたユウナは、戸惑いつつも前に出た。
「ついて来てくれ」
さらにフギンが言うので、ユウナも何があるのだろうと不思議に感じながら、フギンについていった。二人は宝玉の前まで来ると、フギンが宝玉に手をつけ、なんと呪文を唱え始めたのだ。ユウナも驚きながら、その様子を見ていた。すると、宝玉の一部が開いた。次に、フギンはユウナに言った。
「じゃあ、ココに手を当ててくれ」
ユウナは言われた通りに、開かれた部分に手を当てる。次の瞬間、宝玉自体が赤く光り出した。その光は、森全体にまで広がった。やがて光が治まると、ユウナは目を開けた。宝玉は、茶色く錆びてしまった。しかし、その上には赤色の剣が浮かんでいたのだ。剣は、ゆっくりとユウナのところに降りてくる。ユウナは、その剣を手にした。
「これは……」
「アンタの剣だ。どう使うかは、アンタ次第ってわけだ」
「私、次第……」
ユウナは呟きながら、その剣をまじまじと眺めていた。その時、何かの気配を感じた。そしてだんだんと足音もきこえてきて、モンスターが何体も飛び出してきた。その中には、火の番人もいる。一瞬にして、ユウナたちはモンスターたちによって包囲されてしまった。逃げ場を封じられ、皆は一箇所に固まった。続いて、モンスターの後ろから数人の人間が現れた。
「おやおや、このようなところで会うとは奇遇ですね」
そのうちの一人が言った。それはサタールの手下の研究員、コサカだった。コサカは、薄気味悪く笑いながらユウナたちを見ている。その時、フギンとミーサも一緒にいることに気づいた。
「おや? これは、フギン様にミーサ様ではありませんか。サタール様が心配しておられましたよ。いったい、このようなところで何をされてるんです?」
それをきいて、ミーサはコサカから目線をそらす。それを見たコサカは、理解したような表情を浮かべた。
「まさか、実の父親であるサタール様を裏切るおつもりではないでしょうね? そのような小娘たちの味方をしても、損をするだけでございますよ?」
「アンタがどう思おうと、もう決めたんだ。こいつらは本来、この戦いには関係ない立場だ。それは、アンタも知っているはずだろ」
「えぇ、知ってますとも。ですがね、それだけでは片付けられないのですよ。我々の存在を知ってしまった以上、徹底的に叩き潰させてもらわないと」
コサカは、そう言うとまた不気味に笑うのだった。皆も危険だと察したのか、後退した。それでもコサカは、余裕の笑みを浮かべている。そして、後ろに控えている研究員らしき男たちに指示を出した。
「この者たちをすべて捕らえなさい」
「し、しかしフギン様とミーサ様は……」
「いえ、もう私たちの味方ではないので、やっつけてくれて結構です」
研究員に対し、コサカは言った。ますます、まずい状況を作り出されてしまった。周りを見渡すと、強いレアなモンスターばかりだ。いくら応戦したところで、勝てるかどうか怪しい。それでも何とかしなくてはと思い、ユウナは前に出て戦闘モードに切り替える。それを見たコサカは、感心したように言った。
「おや、戦う気ですか。まぁ、いいでしょう。私も、あなた方の強さを確かめておきたいと思ってましたからね」
コサカは、まだ余裕の様子だ。余ほど、自信があるのだろう。しかしユウナも、負ける気などない。どうにかして、ここを突破しなくてはならない。ユウナはティラノスを召喚し、それに続いてミカ、アカリ、アカネも次々と自分のモンスターたちを召喚する。
しばらく、コサカは黙って立っていた。コサカもモンスターを呼び出すのかと思ったが、そのようなことはしてこない。ユウナが不思議に思っていると、突然コサカが笑い出した。
「これは失敬。しかし、もっとすごいのを出してくると思ったのですが、どれもよく見るモンスターたちですね。本当に、このような子たちで我々に勝てると思っているのですか?」
嫌味を言われ、ミカとアカリは顔をしかめる。それを見て、さらにコサカは続けた。
「これでは、まるで戦う気が起きませんね。部下たちのモンスターだけで十分のようです。それでは皆さん、彼女たちにわからせてやりなさい。本当の、チートというものを!」
コサカが指示を送ると、敵のモンスターたちが次々に迫ってくる。ユウナたちも応戦し、スキルを発動させるが、敵には少しのダメージしか与えられない。そして次に、敵の攻撃がユウナたちのモンスターを襲い、ティラノスたちは一撃で倒されてしまった。
「おやおや、もうお終いですか。なんだか、とても呆気ないですね」
コサカはまた、そのようなことを言って煽ってくる。しかしユウナは諦めず、次のモンスターを召喚しようとスマホを握った。その時、勝手にスマホの中からレッドが飛び出してきた。レッドは小さい体を、またピョンピョンと跳ねさせている。それを、皆は驚いた様子で見ていた。コサカたちも大笑いして、
「これはこれは、随分と可愛い子が出てきましたね。それでは、やってしまいなさい」
とコサカは言い、今度はレッドに照準が定められた。そして、敵の攻撃がレッドの方に飛んできたのだ。
「ダメ!」
咄嗟に、ユウナはレッドを庇う姿勢に入った。
「ユウナ!」
「ユウナちゃん!」
ミカとアカリは、ユウナを呼んだがもう遅い。攻撃は、的確にユウナの方に飛んでくる。ユウナは、目を瞑った。レッドは、戦闘向けに作られていない。それ故、ユウナはレッドを守ろうとしたのだ。しかし、このままではユウナの背中に相手の攻撃が命中してしまう。ユウナが半ば諦めかけた時、何かがその攻撃を弾いた。ユウナは恐る恐る目を開けると、後ろをふり向いた。そこにいたのは、なんとプテラドスだった。それを見るとユウナは、何が起きたのかすぐに理解できた。フギンが、守ってくれたのだ。それはユウナだけではなく、コサカも見抜いたようだ。
「おや、結局庇うのですか。サタール様がご覧になれば、悲しまれますよ?」
コサカは、フギンの方に目を向ける。
「オヤジにどう思われてもいい。俺たちは、ゲームをさっさと終わらせたいだけだ」
「ですが、惜しいですね。サタール様を裏切ったということは、この世界の王に逆らったも同然。その罪は、重大ですよ」
「……わかってる。オヤジには、これから会いにいくつもりだ。わかってもらえるわけないけど、ちゃんと気持ちは伝える。こんなくだらないゲームのために……、復讐のために、自分の人生をかけるなんて間違ってるってな!」
ユウナはフギンの言葉をききながら、フギンが今どのような気持ちなのかを察していた。想像もできないほどのジレンマに苛まれ、かなり辛いだろう。ユウナは、今度は自分が力になりたいと思った。
「そうですか……、なら仕方ありませんね」
コサカが言うと、モンスターたちはプテラドス目がけて攻撃を開始する。プテラドスはそれらをすべて避けると、反撃した。光が森中に浸透し、モンスターたちは次々に散っていった。ミーサのモンスター、キマイラも参戦し、やがて敵のモンスターは一体もいなくなった。
「これは、想定外でしたね」
コサカは、感心しながら言った。だが、その表情にはまだ余裕が混ざっている。
「まさか、私がモンスターを召喚しなければならなくなるとは……」
コサカはついに、自分のモンスターを召喚する。
「この子は深海に住んでいて、かつ夜行性で気性が荒いので、あまり呼び出したくなかったんですけどね」
コサカの前に、水色の巨大な魔法陣が出現し、中からあるモンスターが顔を出し始める。それは、見る見るうちにその姿を現すのだった。それは、「溟界海の大悪魔・クラーケン」という名のモンスターだ。人の足がイカのようになっており、その無数の足は互いに絡み合っている。プテラドスはまた、光属性の攻撃をする。そしてキマイラも、氷の礫を繰り出して攻撃する。しかし、いずれもクラーケンの持っている槍によって払われた。それだけでは終わらず、クラーケンはその槍で二体を攻撃した。その瞬間、二体は消えてしまうのだった。
「ムニン!」
「キマイラ!」
やはり、レベルが違いすぎた。それを傍観しながら、コサカはニヤリと笑った。
「これが、我々が時間をかけてゆっくり育成したモンスターの実力ですよ。それに我々は研究者の身であるからして、この世界の常識を操作できるのです。チートと言われても、仕方ありませんね」
もはや、ユウナたちの勝ち目はない。敗北を言い渡されたも同然だ。ユウナは悔しさと、遣る瀬なさに苛まれた。拳を握りしめ、じっと耐え続けるしかなかった。
「連れていきなさい」
コサカは、部下たちに命令を下した。そうすると、部下の研究員たちはユウナたちの方に歩み寄ってくる。もう逃げられない、そう悟った時だった。
緑色の何かが、クラーケンの中心を貫いた。ユウナは一瞬、何が起きたのか理解できずにいた。次の瞬間、クラーケンは消えてしまった。
「な、なんと……」
コサカも、突然のことに驚いている。その時、ユウナはハッとした。まさかと思って、ふり返ってみるとそこには案の定、レイカとブラキオスの姿があった。
「一般のユーザーでも、チートぐらい使えるわ。そこのデータ、抜け落ちてたようね」
レイカは、余裕の表情でコサカを見ている。まさか、あの強敵を一撃で沈めたというのだろうか。皆、驚きを隠せなかった。
「まさか……、このように強いユーザーがこのSPにいたとはね……。ですが、どう足掻いてもあなた方に勝ち目はないのです。大人しく捕まった方が、苦しみや痛みを味わわずに済むと思いますが」
コサカはそう言って、またユウナたちの方に歩みよってきた。今度こそ連れて行かれると思った時、なんとユウナが手にしていた剣が突如光り始めたのだ。その直後、急に空が曇り始め、周りは嵐に見舞われた。これには、コサカたちも動揺を隠せなかった。
「こ、これは……」
「コサカ様、ここは一旦身を引いた方が安全かと……」
「仕方ない。皆、一時退却!」
コサカは部下たちに指示を送り、その場を去っていった。嵐はコサカたちだけでなく、ユウナたちも襲った。このままでは、身に危険が生じる。
「俺たちも、戻ろう」
真司が言うと、皆は走り出した。しかし、ユウナだけがその場をなかなか離れなかった。先ほどの光は、いったい何だったのだろうか。きっとこの剣が嵐を呼んだのだと、ユウナにはわかった。すると悠二郎が来て、
「ユウナ、どうしたの」
と、声をかけてくる。
「あ、何でも……」
ユウナは誤魔化し、悠二郎とともに建物目指して走った。言おうとも思ったが、信じてくれるとは限らない。しかしユウナには、どうしてもこの剣に原因があるとしか思えないのだった。
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