正彦は報告をきくと、また難しい顔をした。
「どうやら、その者たちはサタールの命令で動いているようだ」
「弟さんの?」
「奴らは、君たちのことを狙っている。この国を支配する、実験材料としてな」
正彦の言葉をきき、皆は顔を見合わせる。するとミカが、何かに気づいた様子を見せた。
「それって、もしかして黄金の剣とも何か関係があるのかな」
「そういえば、黄金の剣を手にした人はこの世界を支配できるって……」
アカリも、ミカの話をきいて思い出したようだ。正彦はさらに、
「呉々も、注意してくれ。今度は、何を仕掛けてくるかわからない」
と、言うのだ。すると、真司が発言した。
「お父さん。彼女たちを、ずっとこの世界に置いておくのは危険です。また以前のように、夜だけは外の世界で過ごした方が……」
「私も、そう思っていたところだ。しかし、あとは君たちの判断に任せようと思う」
正彦が言うので、また皆は顔を見合わせていた。
「それでは決まり次第、また連絡をくれ」
そう言って、正彦は通信を絶った。残されたユウナたちは、まだ気持ちの整理がつかずにいた。それを見ながら、真司が話し始める。
「父さんは、みんなの判断に任せると言っていた。でも俺は、一度戻った方がいいと思う。ずっとここにいては、何が起きるかわからない。最悪の場合、閉じこめられた挙句、中のデータと一緒に消去されるかもしれない」
その話をきいて、ミカやアカリはゾッとしたような表情を浮かべる。すると、慎一郎も言った。
「俺も、真司の意見に賛成だ。あんまり言いたくないが、この戦いに勝てるという保証はない。だから、前みたいに外の世界から通うことにした方がいい」
それをきいて、皆は黙って考えていた。ここで発言するのは、それなりに勇気がいる。戦いには勝ちたい。しかし、残るとなるとリスクが大きくなる。どうするのが一番よいか、わからなくなっていった。その時、ユウナが発言した。
「私は、残ろうと思います」
「ユウナ……?」
「皆さんは、どうか戻ってください。私は残ります」
真司と慎一郎は、それをきいて互いの顔を見る。そして目で合図すると、許可することにした。
「じゃあ、仕方……」
真司が言いかけると、
「待ってくれよ!」
と言いながら、悠二郎が出てきた。
「ユウナ、本気なのか? どんなに危険なことが待っているかわかんないんだぞ? これまでとは比べ物にならないくらい、強敵が出てくるかもしれないんだぞ?」
「それでも……、私はこの世界が好き。このまま、あの人たちの思うようになるのだけは、絶対に嫌なの。悠二郎さんは、大ちゃんを連れて戻って。あとは私が責任を持ちます」
「ユウナ……」
「大丈夫。必ず、帰ってくるから」
ユウナの頬を、涙が伝った。その時、悠二郎も覚悟を決めた。そして、ミカとアカリが続け様に言った。
「ユウナが残るんなら、私も残る」
「うちも。ユウナちゃんだけに、辛い思いはさせたくない!」
ユウナも、二人を見つめた。そして、アカネも言う。
「まぁ、ということは年長者として、私も残らんなあかんのやろな」
「アカネさん……」
ユウナが呟くと、その周りにミカとアカリが集まってきた。
「ユウナ、みんないるから大丈夫!」
「ユウナちゃん、頑張ろうね」
「ミカ、アカリ……」
ユウナの目からは、さらに涙があふれてくる。それを拭いながら、三人は抱き合った。その時、ふとレイカのことが頭を過ぎった。ユウナはふり返ると、レイカの姿が見える。
「鶴ケ崎さんは?」
ユウナがきくとレイカはしばらく黙ったあと、
「好きにするわよ」
そう小声で言い、部屋を出ていってしまった。これは、自分も残るということだろうとユウナには思えた。ユウナはこの日、またしてもレイカに助けられた。そして、いつか恩返しができるように、自分も強くなろうと誓いを立てるのだった。
一方、正彦は研究室でがっくりと肩を落としていた。それを、ヒロインと美千子が心配そうに見ている。
「あなた、もう休んだら?」
「教授、大丈夫ですか?」
二人は、正彦を支えながら言った。正彦も、
「あぁ、すまんね……」
と言いながら、席を立った。その時、正彦は非常に具合の悪い様子だった。美千子も、それを見逃すはずはない。ただ、心配そうに正彦の後ろ姿を見つめていたのである。
ユウナたちが部屋で話し合っているのを、画面越しに見ている者がいた。サタールは、ワインの入ったグラスを手に、それを見つめていた。映っている中に、フギンとミーサの姿もある。二人は、穏やかな様子でユウナたちのことを見守っていた。それを見ながら、サタールは呟いた。
「なるほど……」
そして、持っていたグラスを思いきり床に叩きつけた。グラスはその衝撃で粉々に砕けて割れ、サタールはその後、歯ぎしりを続けていたのだった。
見られているとはつい知らず、ユウナは同じ部屋で気持ちを新たにしていた。
「教授のこと、お願いします」
「ほんとに、いいんだな?」
「はい」
真司の問いかけにも、ユウナはすぐに答える。慎一郎は悠二郎に、
「いいよな?」
ときくと悠二郎も、
「あぁ」
そう答えていた。それをきいたユウナも、嬉しそうに悠二郎を見つめていた。なるべく悠二郎には心配をかけたくなかったが、悠二郎もわかってくれているはずだ。ユウナが、どれほど真剣なのかということを。するとミカが、
「これも全部、この人たちのおかげじゃんね」
と言い、フギンとミーサの方をふり向いた。しかし、もう二人の姿はどこにもない。
「あれ、あの人たちどこ行ったんだろ」
「さっきまでいたんだけどね」
アカリも、不思議そうに言った。ユウナも、二人がこれからどうなるのだろうと心配になった。もう、サタールには裏切りについて知られているはずだ。それなら、これからも自分たちの味方をしてくれるのだろうか。ユウナは不意に、二人と初めて会った日のことを思い出していた。
フギンとミーサは建物を出て、これからのことを模索していた。すると、フギンが城に戻ると言い出した。
「え? 戻るのか、兄貴。もう、オヤジにはバレてるんじゃないか?」
「あぁ、だから会って話してくる。オヤジも、こうなることは想定していたはずだからな」
「だからって、わざわざ……。何されるかわからねえぞ?」
「嫌なら、お前は来なくていい。俺一人で行く」
フギンは、笛を吹いてプテラドスを呼んだ。そしてそれに飛び乗ると、フギンはダークネス・キャッスルへと飛び去っていった。ミーサも仕方なく、キマイラを呼んでフギンを追っていった。
城では、サタールが窓からSPを見渡していた。すると、後ろに誰かの気配を感じる。
「やはり来たか、フギン……。いや、
ふり返ると、そこにはフギンの姿がある。ミーサは、部屋の外で待っていた。フギンがサタールに近づき、
「俺が帰ってきた理由、わかるか」
と尋ねると、サタールは答えた。
「裏切り者の身分でありながら、私の前に姿を見せたことは褒めてやろう」
そして、サタールはフギンの頭をつかんだ。
「ぐっ!」
サタールは、フギンの脳に特殊な念力を送った。そうすると、フギンの目は真赤に変色する。サタールが手を離し、
「それでは、第一の計画を話そう」
と、フギンに言うのだった。
しばらくして、部屋からフギンが出てきた。それを見たミーサが、
「遅かったな。何話してたんだよ」
ときくが、フギンは何も答えない。
「おい、何か言えよ」
ミーサが言った瞬間、フギンはミーサの右手首に鉄のようなものをはめた。
「おい、これってまさか……」
続いてフギンが壁に触れると、何かのスイッチのようなものが現れた。フギンはそれを押すとミーサの真下に穴が開き、ミーサは悲鳴を上げながら落下していった。その様子を、フギンは無表情のまま悠々と眺めているのだった。
正彦の研究室では、ヒロインが書類の整理をしていた。すると天井に穴が開き、ミーサが落ちてきた。机の上に落ちたミーサを見てヒロインが驚き、
「きゃっ、なんですか!?」
と、声を上げる。ミーサは起き上がると、周りを見回し、すぐに何かに気づいた様子を見せ、セイントドアの方に駆けていく。そしてドアを潜ろうとすると、バリアーのようなものが作動し、ミーサを跳ね返してしまった。
「なんで……、なんでだよ! 兄貴!」
ミーサがバンバンとセイントドアを叩いているのを、
「ちょっと、やめてください!」
と、ヒロインは止めていた。この時、何が起きているのか知る者は少なかった。
夜のSP。この日、慎一郎が建物の見回りをしていた。慎一郎も、ここで夜を明かすのは最後だった。廊下を歩いていると、向こうで蹲っている人影が見えた。
「どうした?」
慎一郎はすぐにそれがアカリだと気づき、声をかけた。アカリは声をきいて、顔を上げる。その顔には、涙が滲んでいた。
「ちょっと、眠れなくて……」
慎一郎はアカリの隣に腰を降ろすと、
「怖いの?」
と、尋ねた。
「はい。みんなの前ではあんなこと言ったけど、ほんとはすごく怖くて怖くて……」
アカリが泣きながら言うので、慎一郎はアカリの肩を持つと、そのまま自分の胸に抱き寄せた。アカリも慎一郎の胸に顔をくっつけ、ただ泣いていたのである。
レイカは、窓から月を見つめていた。現実世界と差異のない月は、煌々とレイカも照らし続けている。その時、後ろから誰かに声をかけられる。
「やっぱり、ここにいたのか」
レイカがふり返ると、やはり真司が立っている。
「兄さんから、連絡は届いた?」
「……えぇ、一年ぶりに来たわ。なんか、楽しくやれてるみたい」
「そっか。ならいいんだ」
「……出て行くの? この世界」
不意に、レイカが真司に尋ねた。
「あぁ、でも君は残るんだろ?」
真司がきいても、レイカは何も答えなかった。それを見て、真司も微笑んでいる。
「それより、驚いたなぁ。まさか君に、あんなことができるなんて。知らないところで、やりこんでたんだな」
「たまたま、空いた時間にやってただけよ」
「そっか……」
真司が、そう言ってレイカの前に来た。そして、なんとレイカの唇に自分の唇を重ねてきたのだ。あまりの突発的な行為に、レイカは真司を強く押した。それでも真司は笑顔で、
「おやすみ」
と言うとレイカの頭を撫で、そして部屋を出ていった。その後も、レイカは胸の動悸がなかなか治まらなかった。
サタールのところには、コサカが出向いていた。
「サタール様、申し訳ございません」
ルリに続いて、コサカもサタールの命を全うすることはできなかった。
「まぁよい。それに、新たな仲間も加わったしな」
「新たな、仲間……?」
コサカは、不思議そうにサタールを見上げる。
「あぁ、紹介しよう」
サタールが言うと、一人の青年が歩いてきた。
「ダーク・ミナトだ」
それは、サタールによって洗脳されたフギンだったのだ。
何も知らないユウナたちは翌朝、悠二郎たちを見送りに出ていた。
「じゃあ、俺たちはこれで戻るから。今度からは、外から君たちの援護をする」
真司が説明すると、
「ありがとうございます」
と、ユウナは頭を下げた。すると、大毅の手を引いた悠二郎が前に出てきた。ユウナは大毅を見ると、大毅も悲しそうにユウナを見上げてくる。ユウナは大毅の頭を撫で、
「ごめんね。お母さん、頑張るからね」
そう言った。悠二郎も、
「こいつも、寂しいんだよ。でも大好きなユウナのために、泣くのを我慢してるんだ」
と言うので、ユウナは大毅もいつの間にか成長していたのだと知らされた気がした。
「悠ちゃん。大ちゃんのこと、お願い」
「わかった」
ユウナと悠二郎は約束を交わし、そして三人は大毅とともにSPを出ていった。それを見送りながら、ユウナは最後の戦いに向け、前を見据えていたのであった。
第四十六回「
次回予告
サタール「奴らに見つかる前に、宝玉をすべて破壊するのだ!」
真司「父さん!」
美千子「あなた!」
ヒロイン「教授!」
ミーサ「オヤジはほかの宝玉を破壊しようとしている」
美千子「辛いわね……」
レイカ「私は……、戦争というものを生み出したこの世が憎い」
雅也『俺は、この道を選んで正解だったと思ってる』
ユウナ「鶴ケ崎さん……」
正彦「ありがとう」
雅也『お前には、散々苦労かけたな。血の繋がりはないけど、お前と兄妹で本当によかったよ』
ユウナ「私って、わがままなのかな……」
悠二郎「俺も、今は見守ることしかできないけど、助けが必要になったらいつでも呼んでくれ。すぐに駆けつけるからさ」
真司『落ち着いてきいてほしいんだ。君の兄さんが……』
次回(第四十七回)
「
序盤のキャラで、最も印象深い登場人物は?
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中谷優奈
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鶴ケ崎麗菓
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月見里美香
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夢野あかり
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池谷大輝
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相場善秀