パズル&ドラゴンズ~もうひとつの旅~   作:葉之和 駆刃

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第47話 突然の死~サドン・デス~(その参)

 ユウナは建物の中や外を探し回って、ようやくレイカを見つけた。レイカは庭に立っていた。ユウナはレイカに近づき、声をかけた。

 

「鶴ケ崎さん……?」

 

 しかし案の定、レイカからの返答はない。それでも構わないと思いつつ、ユウナは続けた。

 

「真司さんから、きいた。お兄さん……、雅也さんのこと」

「ほんとに、バカね」

「えっ?」

「周りの状況も考えず、銃弾に巻きこまれるなんて」

 

 レイカは、呆れた様子で話した。しかし、ユウナにはわかった。これは、レイカの本心ではない。わざと、いつも通りに振る舞おうとしているのだ。

 

「鶴ケ崎さん……、もっと……」

「私は!」

 

 レイカが突然、ユウナの言葉を遮った。ユウナも、驚きながら彼女を見つめる。

 

「私は……、戦争というものを生み出したこの世が憎い」

 

 これが、レイカの本心だろう。考える間もなく、ユウナは理解した。さらに、レイカは続ける。

 

「価値観の違いによって、なんで関係のない人間まで死ななきゃならないのよ。この汚れきった世界が、私は憎い」

 

 それをきき、ユウナはレイカに歩みよった。そして、レイカの手に自分の手を伸ばした。

 

「鶴ケ崎さん……」

 

 しかし、レイカはすぐにユウナの手を払った。

 

「もう、放っておいてくれる? 私がこの世界に対して消極的なこと、あなただって充分知ってるはずでしょ?」

「じゃあ……、どうしてここにいるの?」

 

 ユウナがきくと、レイカは黙った。

 

「もし、今言ったことが本当だとしたら、鶴ケ崎さんは今ごろこの世界にはいないと思うの。それでも、私たちに協力してくれた。違う?」

 

 レイカは何も言わない。そして、ユウナはさらに続けた。

 

「私の友達も、今戦場にいるの。自衛隊として、頑張ってる。でも私、絶対に帰ってきてくれるって信じてる。鶴ケ崎さんも、そうだったんだと思う。だって、死ぬかもしれないって思ってたなら、電話で泣きついてでも帰ってきてもらってた。私なら、そうしてる。でも、そうしなかったってことは、鶴ケ崎さんも信じてたんでしょ? 信じてたからこそ、何も口を出さずに帰りを待ってたんだよね?」

「あなたに……、私の考えはわからない」

「わかるよ。私も、大切な友達を失くして自分を見失いかけてた時、鶴ケ崎さんが助けてくれた。あの時のこと、今でも感謝してるから」

「べつに、助けてないわよ」

「鶴ケ崎さんにとってはそうかもしれないけど、私、あれで救われた。相場君に、話してくれたんだよね? それきいて、私すごく嬉しかったの」

 

 レイカは、まじまじとユウナを見つめている。その時、ユウナは思い出した。

 

「そうだ、ちょっといいかな」

 

 ユウナはレイカの手を引き、建物の中に入った。

 

 二人は、レイカの部屋に戻ってきた。

 

「座って」

 

 ユウナは、レイカを机の前に座らせた。ユウナもレイカの向かいに座り、

 

「これ、鶴ケ崎さんのだよね?」

 

 と言いながら、レイカのスマホを差し出した。

 

「これが、どうしたって言うのよ」

 

 レイカが怪訝そうに尋ねると、ユウナは言った。

 

「ちょっと、操作してもいい?」

「いいけど……?」

 

 そして、ユウナはレイカのスマホを操作し、音声を出した。それは、真司の声だった。

 

『あ、えっと……。今から流すのは、君のお兄さんが病院で手当てを受けている時、録音したものらしい。一緒に現地にいた、友人の人が送ってきてくれた』

 

 真司が言うと、雑音のようなものがきこえてきた。別の機械から、音だけを拾っているのだろう。レイカは耳を澄まし、それをきいた。ユウナも、黙ってきいていた。次に流れてきたのは、雅也の声だった。

 

『あ……、もしもこのテープが無事に日本へ届けられたなら、俺の妹、レイカにきかせてやってほしい。じゃあ、きいていると信じて話すね。俺は、今病院で治療を受けている。銃弾が当たって、怪我をしちゃった。今は部分的に麻酔がきいてるから大したことはないけど、どうなるかわからない。それで、俺にもしものことがあったら、お前は戸惑うかもしれない。ひょっとしたら、一生恨まれるかもな。けど、俺はそんなことは気にしない。俺は、この道を選んで正解だったと思ってる。お前には、散々苦労かけたな。血の繋がりはないけど、お前と兄妹で本当によかったよ。今さっき、この道を選んで正解だったなんて言っちゃったけど、やっぱり、もう少しお前の傍にいたかったな。不安な思いばかりさせて、ごめんな。ほんと、ダメな兄貴だよ。けどお前はそんな俺を、血の繋がらない俺を受け入れてくれた。父さんや母さんともうまくやれない時もあったけど、どんなことがあってもお前は下を向かなかった。俺はそう思ってる。もし、傷が大したことなくて、日本に帰って来られたら、今度こそずっとお前の傍にいてやろうと思う。だから、信じてほしい。俺は、今でもずっとお前のことを見てるから。お前も、安心して好きなことをやればいい。心配かけてごめんな。じゃあ、この辺で終わるよ。またな』

 

 その声は、雑音とともに消える。

 

『……ということらしい。あいつとは高校の時に知り合ったけど、楽しくていいやつだったよ。ほんとに、残念だ。あいつも、もっと生きたかっただろうに。それじゃ、あいつとの約束は果たしたから、これで切る。あと、何かあったら、いつでも俺を頼ってきてくれていいから。じゃあな』

 

 そして、真司からの伝言メールが終了する。レイカは、しばらく黙っていた。ユウナは、

 

「血……、繋がってなかったんだね」

 

 と、レイカを見つめながら言う。すると、レイカが小声で言った。

 

「今さら……、何を信じろって言うのよ……」

「えっ?」

「何が傍にいてやるよ! もう死んでるんじゃない!」

 

 レイカは叫ぶように言うと、涙を流した。知らせをきいてから今まで、ずっと我慢してきたのだろう。

 

「なんで……、どうしてここまでバカなのよ。ちょっとは、人のこと考えたらどうなのよ! 何が安心しろよ! こんなんじゃ、安心してこの世界を守れないじゃない!」

 

 その言葉で、ユウナは目を見開いた。やはりレイカは、SPを救おうとしてくれていたのだ。その時、ユウナは複雑な気持ちに駆られた。嬉しい気持ちと、レイカのこれからを心配する気持ちが同時に芽生えた。レイカは、スマホを握りしめながら泣き続けている。ユウナは、今自分にできることをしようと考えた。そして立ち上がり、レイカの側に座ると、手をレイカの背中に当てた。少しでも寄り添いたい。今はその役目だけを全うしよう、そう決めたのだった。

 

 

 数日後、ユウナの夫である悠二郎が、SPの中を訪れていた。部屋で座っているユウナに、悠二郎は声をかける。

 

「ユウナ」

「悠ちゃん……? どうしたの?」

 

 ユウナが尋ねると、悠二郎もユウナの隣に座った。

 

「雅也さんのこと、きいたよ。残念だったね」

「うん。でも、もっと苦しんでるのは鶴ケ崎さんだと思う。何とかして励まそうと思ったけど、ダメみたいで……」

「そっか……。今日は、ほかに大事な話があって来た」

 

 悠二郎が言うので、ユウナは悠二郎を見つめた。そして、悠二郎は話し始める。

 

「お前には、どうしても言っておかなければならないんだ。こんなことで、ユウナの心を乱したくはないんだけど、やっぱり隠し事はできないと思ってさ」

「もしかして……、教授のこと?」

 

 ユウナは、予め悠二郎が来た理由を推測していたのだ。

 

「どうして、それを……」

「なんか、そんな気がして。病気なの?」

 

 そうきかれ、悠二郎はしばらく黙った。そして、静かに頷いた。

 

「ガンなんだ、それも末期の」

「えっ……?」

「ずっと、我慢してきたみたい。でもそれは、この世界を一日でも長く存続させたいだけだったみたいで……。だから、教授のことは責めないであげてほしい」

 

 ユウナは一旦下を向くと、また顔を上げ、悠二郎を見つめながら笑顔で頷いた。

 

「うん。私、教授のために頑張る。だから、安心してほしいって伝えてくれる?」

「わかった。あの人も、喜ぶだろう」

「ねぇ、悠ちゃん……。私って、わがままなのかな……」

「どうして?」

 

 悠二郎が尋ねると、ユウナは言うのだ。

 

「ずっと考えてたの。みんなも手伝ってくれてるけど、私に合わせてくれてるのかなって思って。私だけ真剣になって、この世界を守ろうとして、先のことなんか何も考えずに、今までずっとそうしてきたから……」

 

 すると、悠二郎は上を向いて言った。

 

「そんなことないよ。みんな、ユウナをわがままだなんて思ってない。寧ろ、尊敬してるんだろ」

「尊敬……?」

「あぁ。ユウナは今までに、様々な困難を乗り越えてきた。それは、決して一人のおかげじゃない。みんながいたからこそ、どんなことにも真っ向から向かっていけたんだ。けど、それはユウナがいたからだと思う」

「私が、いたから……?」

 

 ユウナは、悠二郎の言ったことがすぐには理解できなかった。しかし少し考えると、何となくわかってきたような気がした。

 

「ありがとう。私、もう少しいろいろやってみる。たとえ思い通りにならなくても、絶対に誰かのせいにしたり、自分を責めたりしない。この世界で過ごしてきて、わかった気がするから」

「そうか……。俺も、今は見守ることしかできないけど、助けが必要になったらいつでも呼んでくれ。すぐに駆けつけるからさ」

「わかった」

 

 ユウナが答えると、悠二郎に寄り添おうと身体を傾けた。その時、悠二郎はユウナの肩を持ち、そのまま唇を近づけた。一瞬、時間が止まったような感覚になった。これがミカの言っていた、時間が長くなるということなのだろうか。悠二郎と唇を重ね合わせながら、ユウナはそのようなことを考えていた。

 

 

 一方、ダークネス・キャッスルでは、サタールが計画を進めていた。サタールが機械を弄っていると、後ろから足音がきこえる。サタールはふり向くと、そこにはフギンがいた。

 

「サタール様、次は何をすればよいのでしょう」

「うむ。お前には、ほかにやってほしいことがあるのだ」

「何なりと、仰せつけください。私は、あなた様のために忠義を尽くします」

 

 フギンが言うのをきき、サタールはニヤリと笑っていた。その直後、雷鳴が城中に響き渡った。フギンは今も、サタールに操られたままだったのである。

 

 

 その一方で、ユウナたちはいつもの部屋に集められていた。五人の前の画面に、正彦の顔が映される。正彦が、病院からタブレットを使ってSPに信号を送っているのだ。

 

「みんな、心配かけてすまんかった。私は、これから治療に専念しようと思う。これから転送するのは、宝玉のありかだ。皆、それぞれ自分の担当している属性の力を宿す宝玉のところに行き、剣を手に入れてほしい」

 

 正彦が言うと、ディスプレイの横にある機械から、印刷された紙が出てきた。ユウナはそれを手に取ると、そこにはどこにどの色の宝玉があるのか、地図と一緒に書かれていた。

 

「これも、あの子が教えてくれたんですか?」

「あぁ、そうだ」

 

 ユウナが質問すると、正彦は答えた。

 

「今日にでも、そこへ出向いてもらいたい。可能だろうか」

 

 正彦が尋ねるので皆、

 

『はい!』

 

 と、迷わずに答えた。それを見て、正彦は安心したような表情を浮かべた。その隣では、美千子や真司も微笑している。

 

 ユウナたちは早速、宝玉のところに行くことにした。ユウナはすでに剣を手にしているため、ミカに同行することになった。

 

「じゃ、みんな自分の剣を手に入れたらすぐに戻ってくること。いい?」

 

 アカネが、四人に言った。

 

「はい」

 

 そして、皆はそれぞれに出発していった。そんな中、なかなか歩き始めようとしない者が一名いた。それは、やはりレイカだった。ユウナはレイカに近づくと、

 

「鶴ケ崎さん。あの時言ったこと、嘘じゃないって信じてるから」

 

 と言い、ミカのところに走っていくのだった。ユウナたちが見えなくなると、レイカもようやく足を踏み出した。森の中に入り、宝玉を目指す。その時、深い霧に差しかかった。レイカは足を止め、目の前に地図を表示させて場所を確認しようとした。その時、誰かに突き飛ばされたような感覚に陥り、レイカはその場に倒れた。そして、だんだんと意識が遠のいていく。気を失う際にレイカの脳裏に浮かんだのは、雅也の笑顔だった。

 

 そんなことは知りもせず、ユウナはミカと一緒に、森の中を走っていた。正彦のために、自分が今まで以上に頑張らなければいけない、そう思いながら。

 

 

第四十七回「突然の死(サドン・デス)」終

 

 

 

次回予告

ユウナ「私をそこへ連れていってください!」

アカネ「教授が最初に創ったダンジョンは、神王妃の不夜城」

フギン「俺たちの仲間に加わって、ほかの四人を潰すんだ。この世界と一緒にな!」

ミカ「私だったら、たとえ洗脳されたとしても、絶対に仲間を裏切ったりしない」

慎一郎「何があっても、支え合っていくのが夫婦ってやつだろ?」

アカネ「ヘラは、誰かの強い意思によって呼び起こされるらしい」

   「何事にも左右されへん、強い意思」

サタール「やっぱり来たね」

ユウナ「私を、選んだ……?」

アカネ「この世界を救う勇者は、あんたしかおらん」

アカリ「見てあれ!」

ユウナ「ミカー!」

 

 

 

次回(第四十八回)

 

神王妃の城(クイーンズ・キャッスル)

序盤のキャラで、最も印象深い登場人物は?

  • 中谷優奈
  • 鶴ケ崎麗菓
  • 月見里美香
  • 夢野あかり
  • 池谷大輝
  • 相場善秀
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