「ヘ……、ヘビーメタルドラゴン!?」
ミカは、慄きの声を上げる。それは、「ヘビーメタルドラゴン」というモンスターだった。全長、数メーターはある大きさだ。
「あんなの、どうやって倒せばいいんだろう……」
「怯んだらあかん、手はなんぼでもあるはず!」
アカリの言葉に、アカネが皆を鼓舞する。しかし、今まで相手にしてきたモンスターとは、大きさのレベルが違う。サタールが、
「ハハハ! これが魔王の力だ、グラビティブレス!」
と叫ぶと、ヘビーメタルドラゴンは黒いボールを創り出し、それをユウナたち目がけて投げつけてきた。それを、五人はどうにか交わした。
「あんなの、まともに食らったら……」
「今までのモンスターたちと、レベルが違い過ぎるよ」
皆、だんだんと弱気になってきている。ユウナは危機感を覚え、
「でも、とりあえず攻撃してみよう!」
と、皆を激励した。するとミカやアカリも立ち上がり、
「そうだね」
「やってみよう!」
そう声を上げる。ユウナも、笑顔で頷いた。そして、それぞれ自分のモンスターを呼び出すと、攻撃を命令した。ミカは水属性、アカリは光属性の攻撃だ。そのふたつは互いに混ざり合い、やがてひとつの光線となった。その攻撃が、ヘビーメタルドラゴンの中心に命中する。しかし、あまり効いていないようだ。レイカもモンスターを繰り出し、攻撃を命令するが、相手によって撥ね返された。
「え、なんで効かないのよ!」
ミカが声を上げると、アカネは言った。
「恐らく、こっちの攻撃力より、あっちの防御力の方が遥かに上回ってるんやろ」
それをきいた皆は、もはや絶望しか感じられなかった。
「何……、それ……」
勝てる気が全くしない。ユウナも次第に悔しくなり、拳を強く握りしめる。その時、
「勝つ方法ならあるぜ」
という声がした。ユウナがもしやと思い、ふり向くとやはりフギンが歩いてくる。
「何よ、勝つ方法って」
ミカが、フギンに尋ねた。するとフギンは、
「その剣を使うんだよ」
と、皆の手にしている剣を指しながら言うのだ。
「これを使うって……、どういうことですか?」
ユウナも、フギンの言うことがよく理解できなかった。
「それで魔法陣を描け」
「魔法陣?」
「お前らが散らばって、円になるんだ。それも、オヤジのいるところが中心になるように計算してな」
皆はフギンの話をきき、顔を見合わせる。何を言っているのか、まだよくわからない。それでもユウナは、フギンを信じることにした。
「……わかりました」
「でも、それってムズくない?」
ミカは言った。その意見も尤もだ。ユウナは、どのようにすればきれいな魔法陣が描けるのか考えた。するとレイカが、
「あなた、理系でしょ? 計算くらいできないの?」
と、ユウナを見ながら言うのだ。ユウナが顔を上げると、ほかの三人の視線もユウナに集まっている。すべては自分にかかっている、そうユウナは自覚した。
「わかった。やってみる」
ユウナが言うと、皆は頷いた。うまくいくという保証はどこにもない。しかし、やってみないことには何も始まらない。そして、ユウナはその場で位置を測り始める。ユウナは、大体の感覚をつかんだ。
「よし、いけるかもしれない」
しかし、問題はまだあった。
「でも、相手に気づかれない? あっちも知ってるんでしょ?」
ミカが言うので、
「そこは、俺が相手の気を引く。その隙に、あんたらは自分の持ち場についてくれ」
と、フギンは言った。
「でも、大丈夫?」
「今は、それしかない。魔法陣は、あんたら五人にしか創れねえんだ。俺を信じてくれ」
この時、ユウナにはフギンが誰よりも頼もしい存在に思えた。皆も、その気持ちは同じだったことだろう。そして、フギンはプテラドスに乗った。
「じゃあ、俺は行くぜ。あとは、よろしく頼む」
一休みして回復したのか、プテラドスはフギンを乗せてまた飛び上がる。
フギンが向かってくるのを見たサタールが、
「ほほぅ、裏切り者が今さら何の用だ」
と言うとフギンも、
「裏切り者はな、最後まで逆らうんだよ!」
そう言い、自分の手から剣を出した。フギンは、剣をサタールに向かって振り落とすと、サタールも同じように剣を出し、その攻撃を防いだ。そして二人は、戦い始めた。その間に、ユウナたちはそれぞれの場所に向かった。ミカは、こっそりと敵の後ろに回りこむ。そして小声で、
「オッケー、着いたよ」
と、皆に無線を送る。
「わかった。じゃあ、みんなは大丈夫?」
ユウナも、ほかの三人にきいた。
「うん、うちは大丈夫」
「あたしも」
「いいわよ」
皆も、それぞれに答えを送ってくる。そして五人は、一斉に剣を敵に向ける。それを、フギンと剣で戦っていたサタールも気づいたようだ。
「そういうことか……」
サタールは、笑みを浮かべた。それを見たフギンは、
「まずい!」
と声を荒げ、サタールに攻撃しようとすると、サタールに剣を払われた。
「くっ!」
次にサタールは、手からピンク色をしたゴム状のものを創り出し、それをフギンの方に向けて飛ばした。それは、まるでチューイングガムのように粘着力が強く、フギンはプテラドスと一緒に捕らえられてしまった。木と木の間に貼り付けられ、クモの巣に捕らえられた蝶のような状態だ。それを、ユウナも見ていた。
「フギンさん!」
「早くやれ!」
フギンが叫んだ。
「そうはさせない」
サタールが言うと、ヘビーメタルドラゴンはゆっくりとユウナの方を向く。それに危機を感じたミカも、
「ユウナ!」
と、叫んだ。それでもユウナは冷静に、黄金の剣を構えた。ほかの四人も、同じように剣を構える。その瞬間、光が生じた。その光は剣と剣を結び、やがて立派な魔法陣を生成した。順番に、一人ひとりが呪文を唱える。
『ダーク・マスター、アカネ!』
『ライト・マスター、アカリ!』
『アクア・マスター、ミカ!』
『ウッド・マスター、レイカ!』
『……レッド・ブレイブ・フレイマー、ユウナ!』
すると光は、ますます強さを増していった。
その頃、ミーサは研究所でただ祈りを捧げていた。
「お願いします……。どうか、彼女たちに力を与えてください。こんな無力な人間の頼みをきいてくださるのなら、何でもお捧げいたします」
指をクロスさせながら、ミーサは必死に願っていた。戦いが早く終わるように、そして皆が無事に現実世界に帰って来られるように……。
「させるかぁー!!」
サタールは大きな手を伸ばし、ユウナのところに迫ってきた。ユウナはぐっと手に力をこめた。
「お願い……! もっと力を……!」
ユウナは、必死に願った。そうすると、また光が強くなる。そして、魔法陣は完全に光を放出する。辺りは、目を開けていられないほどの強い光に包まれた。その瞬間、火山が爆発し、地面が盛り上がった。サタールは、それによって足場をとられた。するとまた、黒い炎が噴き出す。それにより、ヘビーメタルドラゴンは飲みこまれた。
「バ……、バカな……!」
サタールがそう言っていると、盛り上がった地面が崩れ始めたのだ。そしてサタールもまた、炎の中に落ちていった。もうすぐ、この世界は終わる。まるで、それを伝えているかのような光景だった。
その様子は、信号となって研究室にも伝えられる。画面が、激しく乱れ始めた。ミーサは立ち上がり、呟いた。
「あの世界が……、もうすぐ終わる……」
ユウナたちも、早く出ないとプログラムと一緒に消去されてしまう。空を見ると、もう崩れ始めている。ユウナの周りに、四人は集まってきた。
「ねぇ、早く脱出しようよ!」
アカリは、焦ったようにユウナたちに言う。
「うん、ちょっと待って」
「ユウナ、出口わかってんの?」
「それは、アカネさんが……」
ユウナがアカネを見ると、
「うちに任せて」
と、アカネは言った。その時、ミカはふと思い出し、向こうに駆けていった。
「ミカちゃん、そっち危ないよ!」
すぐにアカリが呼びかけるが、ミカは止まらなかった。その時、ユウナはミカがどこへ向かったのかすぐにわかった。そしてユウナも、ミカを追いかけた。
「ユウナちゃん!」
ミカが目指したのは、やはりフギンのところだった。身動きのとれないフギンは、ミカを見て言った。
「何してんだ、お前。早く逃げろよ」
「ちょっと待って、今助けるから」
ミカは木によじ登り、ゴムをどうにか外そうと試みた。それを見たフギンが、
「おい、やめろ! お前らも、この世界の藻屑になるぞ!」
と言っても、ミカはきかなかった。
「それでもいい。あんたがいない世界に帰るより、百倍はマシだから!」
「バカ! 何考えてんだよ!」
「あんたがバカでしょ! 置いていくなんて、できるわけないでしょうが!」
ミカは、必死にフギンの体からゴムを外そうとしている。それを、木の下からユウナは見ていた。そこへ、三人も追いついてきた。
「いいから……、俺のことはいいから、お前らだけでも帰ってくれよ……」
フギンの目からは、涙が伝う。
「嫌よ!」
ミカは子どものように、涙と唾を飛ばしながら言うのだった。それを見て、ユウナたちからも涙があふれてくる。なぜ、神はここまで残酷なのだろうか。
「もう、いい。お前の気持ちは、嬉しいから……。お願いだ、言うことをきいてくれ……」
「ちょっと待って! あと少しだから!」
「ごめんな……」
フギンが言った瞬間、ミカの身体が宙に浮いた。ミカは驚きながら、
「ちょっ、何これ!」
と言っていると、フギンはミカに笑いかけた。
「お前は、生きろ。ありがとうな」
フギンは自らの力を使って、ミカを宙に浮かせているのだ。
「ちょっと、降ろしてよ!」
「おい、ジタバタすんな」
フギンが言うと、どこからかタイヤのない自動車のような乗り物が飛んできた。それの上部分が開き、ミカはそこへ放りこまれた。そして、フギンはユウナたちを見ると、
「そいつを、よろしく頼む! 乗ってくれ、早く!」
と言うので、ユウナたちも従うことにした。もはや、それしか選択肢はないのだ。
「……わかりました」
ユウナも、胸が痛んだ。これから、大切な仲間を一人見殺しにしようとしている自分に、憎悪が湧いた。しかしフギンを救出するのは、もう不可能としか言いようがない。全員がその乗り物に乗りこむと、入り口が閉ざされた。ミカは窓をバンバンと叩き、
「いやぁ~! 出して、出して!」
と、泣きながら暴れている。それを見ていたフギンが、
「じゃあな」
そう言った瞬間、乗り物から煙が噴き出し、物凄いスピードでユウナたちを乗せたまま飛び去った。それを見ながら、フギンは呟いていた。
「これで、あいつらの心に何か残せたかな……。なぁ?」
フギンは何気に、一緒に捕まっているプテラドスに語りかける。するとプテラドスも、
『私にきかれても知らん。いや……、すでに残せていただろう』
と言うので、フギンは崩れかけの空を見ながら、さらに呟いた。
「それだと、非常に有り難えな……」
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