ユウナは起き上がり、目をこすった。そしてわけもわからないまま、横に目をやった。ユウナは今、二人用のベッドの中にいた。すると、ユウナの横にはなんと相場が上半身裸の状態で眠っていたのだった。ユウナはそれを見ると慌てて飛び起き、急いでベッドから出た。しかしそれにより、またあることに気づく。足元に、二人の衣服が散乱していたのだ。下着一枚のユウナは、どうしていいかわからなくなった。ただ茫然と立っていると、相場も目を覚ました。ユウナは急に恥ずかしくなり、近くの椅子の陰に隠れた。
「おはよう」
すると、相場が何事もなかったかのように言った。相場は立ち上がって服を着ると、
「中谷」
と言って、ユウナのところに近づいてきた。
「どうした?」
「あの……、ごめん。私、昨日あれからどうしたのか覚えてないの。何も……、なかったんだよね?」
「あぁ。悪い、俺もあんま覚えてないんだけど」
「えっ?」
ユウナは、ますます混乱した。相場は服を着ながら、
「とりあえずお前も服着ろよ。風邪ひくぞ?」
と言うので、ユウナは落ちている衣服を急いでかき集めて脱衣所へ駆けこんだ。一体何があったのだろう。鏡を見つめながら思った。昨日はあれから、食事をしたあと、一緒に帰ったまでは覚えているが、その後がどうしても思い出せなかった。最後の記憶が、相場と二人で歩いている時だった。そして、急な眩暈とともにユウナの記憶が薄れていったのだ。
ユウナは着がえ終わると、脱衣所を出て相場に話しかけた。
「相場君。やっぱり私、昨日のこと思い出せない。教えて、何があったのか」
ユウナは、相場の目を見て話した。またしばらく沈黙が流れると、相場は口を開いた。
「ごめん、中谷。ほんの、出来心だったんだ」
「えっ……」
相場は壁に手をつくと、下を向いた。そして、ユウナは相場からすべてを話された。
大輝に横から思いっきり顔を殴られ、相場は倒れた。そして大輝は相場の襟をつかみ、強制的に立たせた。それを見ていたミカが飛び出し、
「ちょっ、何やってんの!」
と言い、アカリも駆けよってきた。大輝は二人をまったく無視し、相場を睨みつけた。
「お前、アイツのことフったよな? 二回も。なのになんだ? あいつのこと散々傷つけといて口止めしようってか? 最低だよお前ほんと!」
大輝はそう言って相場を激しく放すと、相場はまたその場に倒れこんだ。
「もういい……。お前ってそういうやつだったんだな。わかった、もう二度とユウナには近づくな。次あいつに何かしたら、俺お前のこと一生恨むわ」
大輝はそう言い放つと、帰ろうと背を向けた。その様子を、ミカとアカリも心配そうな表情で見つめている。すると、相場は血の滲んだ口を拭い、こう呟いた。
「俺だってなぁ……、いろいろあんだよ……」
「あ?」
大輝は、そう言ってふり返った。
「何にも知らねえくせに、彼氏気取りで、知ったような口きいてんじゃねぇよ」
相場が小声でそう言うと、大輝が戻ってきて再び相場の襟をつかんだ。
「んだよ……、もう一回言ってみろよ!」
それを見かねたミカが、
「ちょっと、やめなさいって!」
と言って止めに入っても、大輝はその手を放さなかった。相場も大輝を見つめ、
「俺は、あいつのこと、少ししか知らない。けどお前も、全部知ってるわけじゃないだろ?」
そう言うので大輝の怒りは頂点に達し、拳をふり上げた。しかしその時、
「待って!」
という声がきこえた。大輝はふり返ると、後ろにユウナが立っていた。
「お前、なんでここに……」
「私、やっぱり気になって、来てみたの」
大輝は、ゆっくりと相場を放した。ユウナは大輝の前に来て、
「私がいけなかったの。もっと早くに、相場君の心の傷に気づいてあげてたら、こんなことにはならなかったと思う。だから相場君は悪くない。それだけは、わかってほしいの」
と、言うのだった。
「……わかったよ」
大輝は寂しそうに答えると、背を向けて向こうへ歩いていった。
「大ちゃん!」
ユウナがそう言って追いかけようとすると、不意に誰かに肩をつかまれた。するとミカが、
「そっとしといてあげよ。ねっ」
そう言った。ユウナは、大輝を心配そうに見つめていた。その後ろ姿は、まるで魂が抜けたように頼りなくも見えた。
その後、相場は水道で顔を洗っていた。タオルで拭いたあと、ユウナは相場の唇にバンソーコを貼った。
「大丈夫?」
ユウナが尋ねると相場は、
「あぁ、平気」
と言った。その顔には、少しの微笑みがあった。
「じゃあ、私これで帰るね」
ユウナはそう言ってカバンを持つと、それを相場が呼び止めた。
「あ、中谷」
ユウナはそれをきいてふり向くと、相場がこう言った。
「ごめんな。許してくれないかもしれないけど、ほんとにごめん」
「いいんだよ」
「ただ、卒業までに、これだけは言おうと思って」
「何?」
「俺、中谷のこと、好きだ」
「えっ……」
突然のことで、ユウナは驚いてしまった。
「だから……、だからこそ、付き合うことはできない」
「どういうこと……?」
ユウナは相場の前に来て言った。
「今の俺じゃ、絶対幸せにできないんだ」
「そんなことないよ、相場君ならきっと……」
「ごめん。俺もう、お前の無理してる顔見るのが、辛くてさ。我慢して、自分の感情抑えこんで、それでも幸せっていえるのか? 俺は、違うと思うんだ。だから、お前にはずっと笑っていてほしい。お前には、ずっと笑顔でいてほしいんだ。俺も、いつか追いつくから。きっと心から笑えるようになって、お前を、元気にしたい」
「相場君……」
ユウナの目から、涙があふれた。これはただの失恋ではない、そう思えた。悲しくもあるが、どこか嬉しいような、そんな不思議な感覚だった。
そして卒業式の日、吉崎は皆にこう言った。
「え~、みんなは、これがゴールじゃないことをわかっているな。高校は、あくまで通過点にすぎない。だが、ここで学んだことは、きっと将来生きてくるだろう。これからが、君たちの実力が試される時だ。時には、投げ出したり、逃げ出したりしたい時もあるかもしれない。でも何をするにしても、この場所で身につけたことは決して無駄にはならない。それをどうか、わかってほしい。改めてみんな、卒業おめでとう」
すると、教室の中は拍手に包まれた。その中には涙を流す者、笑顔を浮かべる者、ふざけて声を上げる者、いろいろな表情があった。これは始まりであり、まだまだできることがあるのだと、ここにいる全員がそう思ったのかもしれない。
「では、これにて解散だ」
吉崎は、笑顔でそう言った。そして号令がかかり、皆は起立し、礼をした。
「ありがとうございました!!」
皆は一斉にそう言い、解散となった。その後、ユウナは教室に残り、いつものメンバーでコンボ祭りをして遊んだ。その中には、大輝と相場も混ざっていたのだった。
その後、アカリは実家に帰ることになった。
「じゃあね!」
アカリは遠くから二人に手を振り、駅の改札を通って中に消えていった。しばらくして、アカリを乗せた電車は発車した。それは時に、アカリを最初の試練へといざなっているようにも見えた。
ユウナ自身も、東京を出ていく日が近づいたころ。大輝が公園の土を掘り、出てきたのは、古いゲームカセットだった。それは、二人が小学生だったころ、友情の証として土に埋めたものだった。大輝はそれを掌に乗せると、ユウナにそれを見せた。
「俺らのタイムカプセル、無事だった」
ユウナは、ゆっくりとそれを手に取った。
『これ、十年ぐらい経ったらまた掘ろうぜ! 俺とお前の、友情の証』
あの時の大輝の笑顔が、ユウナの中で鮮明に蘇ってくる。無意識のうちに、ユウナの頬を無数の涙が伝った。
「あれから、誰にも見つけられることなく、無事だったんだね」
「お前……、覚えてるか?」
「え?」
ユウナは涙を拭い、大輝を見つめた。
「あ、いや……。だからさ、約束したじゃん。俺が、お前を守るって」
大輝が、気まずそうに言った。ユウナは答えずにいると、大輝が笑った。
「覚えてるわけないか、昔のことだもんな」
忘れるはずがない、とユウナは心の中で言った。それは、ジャングルジムの上から大輝がユウナに手をさし延べ、言った言葉だった。
『何かあったら、絶対俺に言えよ。俺が守ってやるから』
「もう帰ろうぜ」
大輝は、地面に置いてあるカバンを手に取った。ユウナはその時、
「あの、大ちゃん」
と、声をかけた。
「なんだ?」
大輝はふり向く。
「あ……、あのね、大ちゃん。私……」
その時、大輝はユウナの首に自分のマフラーを巻いた。ユウナは少し驚き、大輝を見つめた。すると、二人は目が合った。その時、二人の距離は十センチ未満だった。
「お前今日、急いで出てきたんだろ。そんな薄着だと、風邪ひくぞ」
もう夕方になり、公園には冷たい風が吹いている。ユウナは大輝のその気遣いに、緊張の糸が少し解けているのがわかった。大輝は、ユウナの髪を優しくマフラーの外に出した。そして、ユウナの口が動く。
「私……、大ちゃんのことが、好き。好きだよ」
それをきいた大輝は、動かしていた手を止めた。しばらくの間、二人に沈黙が流れ、きこえてくるのは風や、街からの音だけとなった。そして、大輝は答えた。
「いや、ごめん。俺、彼女作ったことないからさぁ、こんな時、どう返事したらいいのかわかんねえんだ。ごめんな」
「そう……、だよね。私の方こそ、ごめんね。もっと早く伝えなきゃって思ってたのに」
ユウナがそう言うと、大輝は少し離れてからこう言った。
「けど俺、今までユウナのこと、妹みたいなやつだと思ってたから、今更そんな風には見れないっつーか……、なんて言ったらいいんだろ」
大輝は口ごもった。
「なんか、ごめん」
大輝は、また謝った。それでも、ユウナはいたって笑顔だった。
その後、ユウナは歩道を歩いていると、すぐ横に車が停車した。そして運転席の窓が開き、一人の男が顔を出した。それはレイカの兄、
「あ、ユウナちゃん。これから帰るの?」
と、ユウナにきいてくる。ユウナは、
「あ、はい」
と答えると、雅也は言った。
「送ってあげようか?」
「ありがとうございます。でも、ここからすぐそこなので」
「そう、じゃあ何かあったらまた言ってね。おっと、そうだった」
雅也がそう言うと、ユウナに名刺を渡した。
「何か困ったことがあったら、ここに電話してくれればいいから」
「あ、ありがとうございます」
ユウナは、そう言って名刺を受け取った。このように優しくしてくれる人が大勢いるということも、もとを手繰れば大輝のおかげかもしれない。そして、雅也が乗った車はそこから走り去っていった。
次の日、朝七時半ごろ、ユウナはカバンを引いて家の外に出た。家族三人も、見送りに出てきた。
「ほんとに、見送りに行かなくて大丈夫?」
母の百合子は、まだ心配そうだ。
「いいよ、そっちだって忙しいんでしょ」
「そう?」
「寂しくなるな……」
父の惟英も、そう言った。するとユウナは、
「でも、夏休みとかには帰ってこれると思う」
と言い、安心させた。義輝も、
「姉ちゃん、頑張れよ」
そう言うので、ユウナは頷いた。そして、ユウナは言った。
「それじゃあ、行ってきます」
ユウナの目は、覚悟を決めたように凛々しかった。三人は声を揃えて、
「行ってらっしゃい」
と言って、ユウナを見送った。そしてユウナは不安と期待を胸に、十八年間世話になった家に背を向け、一人で歩き始めた。まだ風は冷たかった。
総集編第一回「友情編」終
序盤のキャラで、最も印象深い登場人物は?
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中谷優奈
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鶴ケ崎麗菓
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月見里美香
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夢野あかり
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池谷大輝
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相場善秀