「なんで……、なんでいんのよ」
「やっぱりリンか。どうしたんだ、忘れたのか」
男性がリンに話しかけると、リンは背を向けて逃げるように走り去った。
「リン!」
男性がそう呼び止めても、リンはふり向くことなくいってしまった。
「私は、リンの父親だ」
男性は
その後、ユウナは下宿で二人を対面させた。
「私、ここに来て思ったんだ。今まで、お父さんよりバカな人はいないと思ってたけど、もっとバカなやつがいた。ていうか、バカばっかりいるの」
「おい、あまりバカバカ言うな」
「だからそれを思うと、お父さんのことなんか全然気にならなくなって。少し考えすぎだったみたい。だから、私も少し元気になれた。いつか話そうと思ったけど、何て言われるかだけ気がかりで、連絡できなかっただけ」
すると、隆吉はリンにきいた。
「お前は、これからどうしたいんだ」
「せっかく理転までしてきたから、卒業はしようと思う。帰って来いって言うなら帰るけど、でもそれはちょいもったいない気がするから。とりま大学はこのままでいこうと思う」
リンが言うので、隆吉もこう返した。
「そうか。じゃあ好きなようにやれ」
「ほんとにいいの?」
「お前がそうしたいって言うなら、俺はもう何も言わない。せっかく、ここまで来たんだからな。母さんにも、そう伝えておく」
「ありがとう」
リンは、隆吉を見て笑った。それはどこか、無邪気な子供のようだった。
ユウナは外からそれをきき、ただ安心していた。もしもリンの思いが隆吉に伝わらなかったらと心配もしていたが、そのようなことは一切無用だったのだ。
実家に帰ったユウナは、母の百合子からある話をきかされた。
「最近、義輝ちょっと様子がおかしいの」
「えっ?」
百合子は続けて、
「あんなに頑張ってきた部活も辞めちゃうし、何かあったんじゃないかって心配してるのよね。」
そう言うのだった。
弟の
「義輝、どこ行ってたの!」
ユウナが言うと義輝も、
「だから何でもねえって! 気にすんなっつったろ!」
と言い、家に上がってユウナを通りすぎようとした。すると、ユウナは咄嗟に義輝の腕をつかんでこう言った。
「あんたのために言ってるのよ!」
すると、義輝はその手を振り解いた。そしてユウナを見ると、
「疲れてんだよ。もう、ほっといてくれよ」
と言うので、ユウナは手を離した。そして義輝は、また二階に上がっていった。ユウナは、何も返す言葉が見つけられなかった。あのような義輝を見るのは初めてだった。まるで魂が抜けたような、そんな表情をしていた。それは時に、何かを抱えこんで言うことを我慢している、辛そうな顔にも見えた。
「あの、義輝……、弟に、もう関わらないでいただきたいんです」
ユウナが言うと男は笑い、
「そうか。あいつの姉貴かよ。自分が今何言ったかちゃんと理解してんだろうな?」
と言うと、ユウナに近づこうとした。その腕を平岡美希がつかみ、
「待ってよ、お姉さんは関係ないでしょ!」
そう言った。すると男は、
「うっせぇ、お前は黙って見とけ!」
と言い、美希の手を振り解くとその反動で美希は地面に倒れこんだ。男はユウナの前まで来ると、こう言うのだった。
「じゃあ、こうしようぜ。今度はあんたが俺らのところに来る。俺らはもう、あんたの弟には手を出さねえ」
ユウナは恐怖で、後ろに下がることもできなかった。足が一歩も動かなかったのだ。そして、男が急にユウナの手をつかんだ。
「よし、じゃあ来い」
そして、男はユウナの腕をつかむと車に連れこもうとした。そうすると、
「待てよ」
という声がきこえた。ユウナはふと、声がした方を見ると自転車を持った義輝が立っている。それを見た男は義輝に、
「おう、遅かったじゃねえか。ちゃんと持ってきたか?」
ときくと義輝は、こう答えた。
「あぁ、持ってきた」
「じゃあ、どこにあるんだよ」
「ここにはない。あとでちゃんと渡すから。その前にそいつを離してくれよ」
「あぁ? お前マジで状況わかってんのか? そんなこと言える余裕なんてねえだろ」
見ると、周りに数人の男たちが集まってきた。そして、男たちは義輝を殴ったり、蹴ったりし始めたのだ。ユウナはそれを見て、警察に連絡しようとしたが、急いで出てきたのでスマホを持ち合わせていなかった。そうしているうちに、義輝の顔や身体は傷ついていく。どうすることもできないのかと、ユウナは拳を握りしめた。すると、パトカーの音がきこえてくる。音は次第に大きくなり、男たちも気づき始めたころにはすでに遅かった。何台もの車が、ヘッドライトで公園周辺を照らした。
やがて男たちは警官によって取り押さえられ、連行されていった。
そして新学期になり、ユウナは再び下宿に帰った。大学のアニ研の部室では、新入部員の紹介があった。
「
「私は、
新入部員の女子は、そう言って自己紹介した。
さらに研究室でも、正彦が新しい助手を紹介していた。
「紹介しよう。新しい助手、一回生の梁谷ヒロイン君だ」
「初めまして、至らない箇所も多いと思いますが、どうかよろしくお願いします。因みに、主役って書いてヒロインです!」
ゴールデンウィーク初日。ユウナは、アニ研のメンバーと遊園地に行った。夕方になり、遊園地にも飽きてきたころ、三宮がネットカフェに行こうと言いだした。仕方なく、皆はついていくことにした。途中、三宮がおし美にきいた。
「なぁなぁ、タヌキちゃんはネットカフェとか初めて?」
「はい、きいたことはあるんですけど。あ、あと先輩、タヌキはやめてください」
「え~、かわええやん、タヌキちゃん」
夏姫も、嬉しそうに言った。その様子を、後ろからユウナと真宏も見ていた。ふと真宏の方を見ると、目が合い、二人は微笑し合った。その様子を、さらに恵も見ていた。恵は一人だった。信号待ちの際、星見がユウナに言った。
「そういえば、ヒロインちゃんも連れてきたらよかったなぁ」
「はい、でも彼女は演劇部で忙しそうだったので」
「大変なんやろなぁ~」
三宮もわざとらしく言うと、皆は笑っていた。その時、事件は起きた。ユウナが、誰かにつき飛ばされ、横断歩道に倒れこんだ。ユウナが後ろをふり向くと、それは恵だった。その瞬間、クラクションが鳴り響き、トラックが真っ直ぐ突き進んでくる。避けようにも、もう遅かった。ユウナは目を瞑った。その瞬間、緑色の光がユウナを包みこみ、目を開けると、誰かが自分を守ってくれているように錯覚した。そんなはずがないと、ユウナが完全に目を開けた時、トラックを押さえている人物がはっきりと見えた。それはパズドラに登場するモンスター、オーディンだったのだ。
ユウナは、正彦の研究室に保護された。正彦の妻、
「落ち着くまで、ここにいていいからね」
ユウナは何も言わず、ゆっくりと頷いた。
「では、君が見たものは何だったんだい?」
正彦がユウナに質問すると美千子が、
「あなた、まだそんなこと……」
と遮ろうとすると、ユウナは言った。
「いえ、もう大丈夫です。私が見たものは、オーディンでした」
「オーディン……?」
正彦は、それをきいて固まった。
「どうしたんですか?」
ユウナがきき返すと、正彦は背を向けてこう言うのだ。
「あ、いや……。それは、君の見間違いではないのかい?」
「そんな……、たしかに見たんです」
ユウナは反射的に立ち上がり、反論した。たしかに目の前に現れたのは、魔術師・オーディンだったのだ。ユウナの言葉をきいて、正彦からこんな返答が返ってきた。
「私は……、オーディンなど作っていない」
「えっ……」
それをきいて、ユウナは言葉を失った。ならば、あの時見たものは何だったというのだろうか。
「でも、たしかにあの時……」
正彦がふり返りながらまた、
「君が見たのは、本当にオーディンだったのか?」
と、きいてくる。しかしユウナは、退く気になれなかった。
「はい、間違いありません。この目で見ましたから」
ユウナの言葉をきいて、正彦は椅子に座った。
「そうなれば、考えられることはひとつしかない」
正彦の予感したもの。「セインツ・パラダイス」の未知の領域に聳え立つダークネス・キャッスルでは、誰かがコンピュータを操作している。それはそこの王、サタールだ。その様子を後ろの方から、息子のフギンも見ていた。
「まさか、オーディンが人間の前に姿を現すとは……」
サタールは呟いた。
「そういうAIだったんじゃねぇ~の?」
フギンが言うと、
「そんなはずはない。奴には、人間の心から人間に対する憎悪を集積し、それをプログラム化させて体内に組みこんだ。いわば、憎しみの塊だ」
と、サタールは言った。
「アンタの作戦も、当てになんね~な。ネット上に散らばる悪口、雑言、そんな書き込みから憎しみの特性だけを持つもんだけ取り出す、いいアイディアだと思ったんだけどな。所詮、人間なんてコロコロと感情が変わる生き物だし、そもそも良心がない人間なんてただの廃人だろ。復讐も一からやり直しだな」
「……黙れ。しかし、今我々の存在を知られるのはまずいな。ここはひとまず、外の世界に出てから考えるか……」
「その心配はいらね~ぜ」
「なんだと?」
フギンの言葉をきいて、サタールはふり返った。
「ここはアンタが創った世界。向こうからしてみたら、まだ見ぬ未知の領域だ。この世界とあっちの世界、一旦切り離してしまえば、向こうからこっちに来ることはできない。そうだろ?」
フギンが言うので、サタールは不気味に笑った。
「たしかに。これでまた、ゆっくりと考えられる」
そう言いながら、サタールは手を動かした。すると突然、城が揺れ始めた。それとほぼ同時に、雷が落ち、突風が吹き荒れた。そして地面が割れ、城のあるエリアとセインツ・パラダイスへと続くエリアが、ふたつに切り離されてしまった。サタールは、その後も城からその様子を眺め、また笑っていたのだった。
民宿に帰ったユウナは、部屋の中に入ると驚いた。そこにはなんと、恵がいたのだ。
「お前と二人きりで、話がしたいってさ」
真宏はそう言うと、その部屋を出ていった。その後、ユウナは恵と話をした。
「私……、部長のことが好きなの」
「えっ……?」
恵の思わぬ言動に、ユウナは言葉を詰まらせた。
「私、自分の気持ちにずっと前から気づいてたの。でも、なかなか言いだせなくて……。そんな時、中谷さんが部長と仲良くしてるのを見て、羨ましいなって、嫉妬してたの」
「そう、なんだ……」
すると恵はまた、ユウナの方を向くとこう言った。
「ねぇ、中谷さんってほんとは部長のこと好きなんでしょ?」
「えっ?」
「ほんとは、ずっと好きだったんでしょ? わかるよ」
「ちょっと待って。急にそんなこと言われても……。先輩は、そんなんじゃなくて、近くに暮らしてるから、仲がいいっていうか……」
やはり自分は、真宏のことが好きなのか。考えていると、自然に胸がドキドキしてくるのだった。すると、恵がこう話し始めた。
「私、部長のこと諦めようと思うの」
「どうして?」
ユウナがきくと恵は、
「二人を見ていて、思ったの。私なんかじゃ、勝てそうにないって。だからその代わり、あなたに夢を叶えてほしい」
そう答え、ユウナの手を握った。
「先輩に、思いを伝えて。じゃないと、きっと後悔する」
「私は、べつに後悔なんてないよ」
「あなたがしなくても、私がする!」
その言葉をきいて、ユウナは恵の気持ちを素直に受け止めることにした。恵は自分の分までユウナに幸せになってほしい、そう思っているのだ。ユウナは恵の手を離すと、立ち上がった。
「私……、先輩に会ってくる」
「うん」
ユウナが言うと、恵も笑顔で答えた。そしてユウナは襖を開け、真宏を探しにいった。
序盤のキャラで、最も印象深い登場人物は?
-
中谷優奈
-
鶴ケ崎麗菓
-
月見里美香
-
夢野あかり
-
池谷大輝
-
相場善秀