ユウナは真宏を探したが、一向に見つからなかった。大学から帰る途中、雨が降ってきた。ユウナは傘を持っておらず、近くのバス停で雨宿りしようとも考えたが、当分止みそうになかった。それに、あと五分もすれば下宿に着ける。ユウナが再び歩き始めた直後、自分をある影が覆った。ふり返ってみると、後ろに真宏がユウナに傘を差し出している。前にも、同じようなことがあった。
「何してんだよ」
「先輩……」
「風邪ひくぞ」
真宏は、優しく言った。ユウナは赤くなった。真宏も、ユウナの様子を見つめている。
「先輩に……、話があって……」
「何だよ」
しかし、思うように言葉が出てこない。言わなければならないという気持ちと、本当にこれでよいのかという気持ちが綺麗に分かれていた。
「私……、先輩と話していると、なぜか元気になれるんです。この気持ちが何なのかが、自分でもよくわかりません。わからないけど、これだけはどうしても伝えたくて」
「俺は好きだぞ、お前のこと」
「はい……、えっ?」
ユウナは思わず顔を上げる。真宏は表情を変えず、ユウナを真っ直ぐな視線で見つめている。
「あの……」
ユウナが戸惑っていると、傘が地面に落ちた。すると真宏が、ユウナを抱きしめる。
「俺と、ずっと一緒にいろ」
その言葉のあと、また二人の間に沈黙が流れる。そして、雨が降っている音だけがきこえる。ユウナも、そっと真宏の後ろに手を回した。
「はい……」
こうして、二人は付き合うことになった。
ユウナはその後、正彦からの依頼でセインツ・パラダイスのダンジョンに入った。その中で、ユウナは誰かにぶつかり、倒れこんだ。ユウナは目を開けると、前の方からきき覚えのある声がした。
「ユウナ……?」
ユウナはそっと顔を上げた。そこに立っていたのはなんと、ユウナの高校時代の同級生・ミカで、「アワりん」を抱きかかえている。ユウナは驚きを隠せず、
「ミカ?」
と、声をあげた。
ダンジョンの外に出ると、ミカは背伸びをしながらこう言った。
「やっぱり、外の方が断然気持ちいいよね! ここがゲームの中だなんて、言われなかったら誰も思わないもんね~」
「そうだね……」
ユウナも、ミカの隣に来て言った。ミカはその場に座りこみ、横になった。真上には、現実世界と何の差異もない青空が広がっている。
「ここの空も、すごい綺麗だよね。なんであんな澄んだ色してんだろ……」
ミカがそう呟くと、ユウナも空を見上げる。ミカの言う通り、知らなければ現実の空と見紛うばかりの色をしていた。
まるで月日が風のように過ぎ、2015年2月28日。レイカは飛行場の階段を駆け上がり、周りをキョロキョロと見渡した。すると向こうに、キャリーバッグを片手に
「母さん!」
そう声をかけた。そして、智美はふり向いた。智美は目を細めて、
「来てくれたの……」
と、嬉しそうに言った。
「当然でしょ。これで、もうしばらく会えないんだから」
「ありがとう、嬉しいわ」
するとそこに、雅也と父の
「だから言ったろ。レイカは必ず来るから、心配いらないって」
と言うと圭介も、
「レイカも、もう大人だ。心配せずに、行ってきなさい」
そう、優しく言った。
「ありがとう。じゃあ、行ってくるわね」
智美は言うと、カバンを引いて歩いていこうとした。すると、
「母さん!」
と、不意にレイカが呼び止めた。それをきいた智美が、ふり向いた。
「……いってらっしゃい」
そう言ったレイカは、表情豊かであった。高校までとはまったく違う、穏やかな顔をしている。智美はそれを見て安心し、笑顔を見せた。もしかすると、これでもう何年も会えなくなるかもしれない。そしてレイカ自身も、予感していた。これが本当の別れなのだと、そして新しい人生の始まりなのだということも。
東京に帰ると、ユウナは高校の時の仲間たちとともに喫茶店に集まった。
「あ~、一年早かったなー」
ミカが言うと大輝も、
「もう大人だもんな」
と言った。するとミカが、
「どうしたの? 久しぶりにユウナに会えたんだから、もうちょっと喜びなよ~」
そう囃すので、大輝は赤くなった。
「は? なんでだよ」
「本当は嬉しいんでしょ。成人式の時も振り袖姿のユウナ見て、赤くなってたくせに~」
「おい、言うなよ」
すると大輝が、
「ユウナは、何かやりたいことあんのか」
と、きいてきた。
「私は、まだ決められてなくて。でも、心配いらないから。自分のことは自分で決める。大人になってまで、みんなに迷惑かけられないよ」
ユウナがそう答えるのを、皆も見ていた。これから少しずつ考えていけばいい、まだあと二年もあるのだから、そうユウナは思うことにした。そして、喫茶店の窓から真赤に染まる夕陽を眺めていた。
それから一年以上が経ち、2016年3月。民宿には、リンとリカが遊びに来ていた。リカはノートを広げながら、
「もうすぐ面接だけど、正直自信ないんだよね」
と言った。
「そうだ、ユウナはどう?」
リンもユウナにきくと、
「私も、まだ迷ってる。どこの業界に行けばいいかも、悩んでて……」
と、ユウナは答えた。
「それヤバいって。早く決めちゃわないと。もう募集始まってるよ? でも、焦って適当に決めたらダメだけどね」
リカがそう言うので、ユウナは頷いた。あと一年後には、果たして自分の進むべき道が定まっているのだろうか。焦りや不安の中、ユウナはこれからのことを考えていた。
そんなある日、ユウナは授業を受けていると、バンッと音がし、教室内の電気が一斉に消えた。
その後、ユウナはリンと一緒に正彦の新しい研究所へ行った。
「今、停電してる範囲内の電線に異常はなかった。でも、どう考えても電気はストップしてるねんやんか。恐らくやけど、誰かが故意的にそうしたんやと思う」
アカネが言うとヒロインも、
「さっき見たら、ネットも使えないようになっていましたし……」
と、付け加えた。
テレビのニュースでは、停電している時間とほぼ同じ時刻に、ある企業の機密情報が盗まれたのだという。
「いったい、何があったんだ……」
正彦の息子、
「恐らく、奴らの仕業だろう」
「でも、何のためにですか?」
正彦が言うと、ヒロインがきいた。
「恐らく、楽しんでやっているだけだろう。だから、これから何が起きるのか私にも想像もつかん」
「愉快犯、ってやつか……」
「何それ、迷惑にも程があるよ!」
真宏とリンも、そう言っている。ユウナは正彦に、
「私、やっぱり見てきます。あの世界で何が起こっているのか、気になりますから」
と言うので、正彦は心配そうな顔をした。
「君一人で大丈夫か?」
「はい」
ユウナは、そう答えた。
ユウナがミカと一緒にセインツ・パラダイスを探索していると、あるモンスターが二人を襲撃してきた。それは、「ティラノス」という火属性のモンスターだった。
「でかっ」
ミカが思わず、そう声を発した。すると、ティラノスは再び二人に向かって炎を吐いた。二人は逃げ、
「なんで!? プレイヤーには攻撃しないはずなのに!」
と、ミカが走りながら言っていると、ユウナは予想した。
「きっと、プレイヤーがどこかにいるんだと思う」
「えっ?」
「モンスターがプレイヤーに攻撃してこないのは、ダンジョンだけ。だから、多分誰かが操ってるんだと思う」
そうしていると、またティラノスが二人に炎を吐いてくる。二人は、近くの森に逃げこんだ。ティラノスは、二人を探している。それを、二人は木の陰から見ていた。
「どうしよう……」
「ちょっと待って、調べる」
ミカはそう言って、パソコンを取り出した。そして、セインツ・パラダイスのマップを表示させ、様々な角度から映し出した。するとある画面に、人影のようなものが映った。
「いたよ! 多分こいつじゃない?」
ミカは、その人影を指差した。それは、向かい側の森にいた。ユウナが前を向き、目を凝らして確かめると、やはり人の姿が見える。
「どうする? 戦う?」
「それしかないと思う」
ユウナは言うと、前に出て戦闘モードに切り替えた。そして、自分のモンスター、「プレシィール」を召喚し、手元のパズルを消すと、水属性の攻撃が見事ティラノスに命中した。ティラノスはそのまま倒れこみ、消えてしまった。
「やった!」
ミカも喜びの声を上げながら、森から出た。すると、ずっとその様子を見ていた先程の人影が、森の奥へと逃げ出したのだ。ユウナとミカはそれを見て、追うことにした。森に入り、視界が段々と暗くなってくる。森を抜け、広場に出た。前には、ユウナよりも少し小柄な女が走っている。
「待って!」
ユウナが声をかけるとその女は、
「ついて来んで!」
と、言い放った。ユウナは、その声に反応した。どこかできいたことがある声だったのだ。そしてやがて、ユウナはその女に追いつき、腕をつかんだ。その衝撃で女は倒れこみ、尻餅をつくと、女は二人の方を向いた。目にはアイマスクのような眼鏡をかけ、顔はよくわからない。ユウナはその女を見つめながら、
「アカリ……?」
と、尋ねた。そして、その女は眼鏡を外し、顔を見せた。それは紛れもなく、高校時代をともに過ごした、アカリだったのだ。
「えっ、アカリ!?」
ミカも、そう言って驚いている。するとアカリは、
「ごめんね、よく見えんかったから……」
そう、しょんぼりしながら言うのだった。
「うち、誰かおったら攻撃するよう言われとったんよ」
「誰に?」
「たしか……、フギンって人。その人、この世界がある研究者に狙われてるから、創った人の命令で守っとるらしいんよ」
「それ……、多分騙されてるんだと思う。この世界を創ったのは、龍山大学の横大路先生だよ」
「そうなん?」
アカリは、きょとんとしながらユウナを見上げている。
「ごめんね。うち、何も知らんかったから……。父ちゃんが亡くなって、大学辞めたんよ。うちが代わりに働かなあかん思って」
「そうなんだ……」
ミカが呟くと、アカリは頷いた。
「だからうちも、もう少し強うならなあかん思ったんよ。みんな頑張っとるけん、うちも頑張らなあかん! そう思ってたら、妙なとこに迷いこんだみたいで……」
事情をきいて、ユウナはアカリにこう言った。
「大丈夫。これから、まだまだ時間はあるよ。みんなで、ちょっとずつ頑張っていこう」
ユウナが手を差し延べると、アカリはその手を握った。そして立ち上がり、
「ありがとう!」
と、笑顔になった。ユウナも、それを見て笑い返した。そうするとミカが来て、
「アカリ、久しぶり~!」
と言い、喜んだ。その瞬間、三人はあのころへタイムスリップしたように、互いを見て笑い合った。あの愛おしかった時間が、再び訪れるかのような、そんな瞬間であった。
総集編第二回「仲間編」終
序盤のキャラで、最も印象深い登場人物は?
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中谷優奈
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鶴ケ崎麗菓
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月見里美香
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夢野あかり
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池谷大輝
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相場善秀