総集編第三回「愛情編」
2016年4月29日。ユウナはアカネたちとともに、正彦の研究所に召集された。
「これより先、どんなに危険なことがあろうとも、皆で協力し合って、ゲームをクリアしていってくれ」
正彦がそう言うのをきき、ミカは小声で呟いた。
「危険って自分で言ってるし……」
「そうじゃね。ゲームっていっても、面白くないとつまらんけんね」
アカリも不安気に言った。するとアカネ(
「ですが、ちゃんとうちらに指示は出してくれるんですよね?」
と、正彦にきいた。
「あぁ、勿論だ。この世界を守るにはそれしかない。君たち五人の力が、どうしても必要なんだよ」
その言葉をきいたミカは、
「五人って、私ら四人だけなんですけど?」
と尋ねると、正彦はこう言うのだった。
「あぁ。実はもう一人いるんだ。神に選ばれし者が」
「選ばれし、者?」
「あぁ、そうだ。君たちは、神に選ばれたんだ。そして彼女も、そのうちの一人だ」
正彦はそう言いながら、四人にペーパーを見せた。ユウナ、ミカ、アカリの三人はそれを覗きこみ、凝視した。そして三人は、驚きの声を上げる。
「つ……、鶴ケ崎さん!?」
そこにはレイカの顔写真、そして経歴のようなものが書かれていた。
その後、三人はレイカの通う大学に足を運んだ。そこでレイカを見つけ、近くの喫茶店に誘った。そして、例のことを話した。
「あなたたち、それ本気にしてるの?」
「本気も何も、ほんとにあるんだから! モンスターたちの楽園が!」
「すごいんよ、全部プログラムでできとって、空を飛んだりしよるんよ」
「……ダメ、かな?」
アカリとユウナも、そう言ってレイカを見つめる。すると、レイカは立ち上がった。
「くだらない。そんなもの、誰も本気にするわけないでしょ。こんなことに時間を割くくらいなら、どこかの企業でも受けてきたら?」
レイカが店を出ていこうとした時、ユウナはこう呼び止めた。
「でも、鶴ケ崎さんのスマホにも、教授の作ったモンスター、入ってるんだよね?」
「えっ、どういうこと?」
ミカは、ユウナに尋ねた。
『それって、モリりんだよね? どうして……』
『私も最初は信じられなかったわ。でもあんな世界見せられたんじゃ……』
しかしレイカはふり向かず、
「何言ってるのかわからない。私、今卒論のことで頭がいっぱいだから。もう、関わってこないでね」
と言い、出ていってしまった。仕方なく、三人は研究所に戻ることにした。
その後、セインツ・パラダイスでユウナは「デビルドラゴン」というモンスターに遭遇した。ユウナは、足が竦んで動けなかった。相手は、敵意丸出しでユウナを睨んでくる。ユウナは、逃げ場を失ってしまった。そして、とうとうデビルドラゴンは、ユウナに襲いかかってきたのだ。その瞬間、ユウナは目を瞑った。その時、光属性の攻撃がデビルドラゴンに命中した。その衝撃で、デビルドラゴンは倒れた。
ユウナがふり返ると、後ろにミカとアカリがいた。二人の出したモンスターが、助けてくれたのだ。二人はユウナのもとに駆けより、ミカが言った。
「大丈夫だった?」
「うん……」
ユウナは、間一髪のところで救われたのだ。すると、デビルドラゴンが起き上がった。それを見て、また三人は走って逃げた。それでも、デビルドラゴンは追いかけてくる。
「何でこっち来んのよ!」
「なんか、狙われとるみたいやね」
二人がそんなことを言いながら前の方を走っていると、ユウナは躓いてこけてしまった。見上げると、すぐそこにデビルドラゴンがいた。
「ユウナ、危ない!」
ミカがそう言って、ユウナの前に立った。
「ミカ?」
ミカはポケットの中に手を入れ、スマホを操作して戦闘モードに切り替えた。すると、目の前に「ホーリードラゴン」が現れた。
「どうするの?」
「こうなったら、戦うしかないでしょ!」
ミカは、ホーリードラゴンに命令を送った。
「ノーマルスキル発動! サンダーボール!」
そうすると、ホーリードラゴンは口から電気の球を放出し、デビルドラゴンに攻撃した。
「ノーマルスキル発動、マグマブレス!」
アカリも「ティラノス」というモンスターを召喚し、攻撃をした。しかし、その攻撃はデビルドラゴンによって撥ね返されてしまった。すると、撥ね返された炎が飛び散って、森が燃え始めたのだ。本来ならば、ユウナの持っている水属性のモンスターで火を消さなければならないが、今はそれどころではない。再び、デビルドラゴンが攻撃を仕掛けてくる。
「きゃっ!」
三人は声を上げながら、どうにか攻撃を避けた。
「ここにいるモンスターって、プレイヤーには攻撃しないんじゃ……」
「きっと、誰かがデータを書き換えてんのよ!」
ユウナが言うと、ミカも言った。このモンスターは、なぜ自分たちに攻撃をしてくるのだろうかと、ユウナは疑問を抱いた。そうしている間にも、状況は悪くなるばかりだった。絶体絶命とは、まさにこのようなことを言うのだろう。
そこに、救いの手が舞い降りた。遠くから、何かがデビルドラゴンに攻撃した。三人がその方向を向くと、「ブラキオス」がいた。ブラキオスは木属性のモンスターだ。ノーマルスキル・ガイアブレスで、再びデビルドラゴンを攻撃すると、それが効いたのか、デビルドラゴンは逃げ去っていった。
ユウナは、安心してしゃがみこんだ。すると、アカリがこう呟くのだ。
「鶴ケ崎さん……」
それをきいてユウナも我に返り、ふり向くとブラキオスの隣にはレイカが立っている。ユウナが立ち上がると、
「来てくれたんだ……」
と言い、レイカの前に駆けよった。
「勘違いしないで。警告サインが出てたから、一応来てみただけ」
どうやら、このセインツ・パラダイスにおいて何か問題が発生したり、仲間がピンチになったりするとスマホの画面に警告サインが出るらしい。
「でも、鶴ケ崎さんが来てくれなかったら、きっと大変なことになってたと思う。だから、これだけは言わせて。ありがとう」
ユウナがそう言っても、レイカはそっぽを向いた。その時、再び奇声がきこえた。あのモンスターがまた戻ってきたのかと、ユウナたちは周りを警戒した。すると上空から、何かが降りてきた。プテラドスである。
「あーあ、こんなにしちゃって」
それに乗っていた男は地面に降り立つと、燃えている森を見て言った。その男の名は、フギンという。
「アンタ、ちょっとついて来てくれるかい?」
フギンは、ユウナを見て言った。
「え、あの……」
突然のことで、ユウナは戸惑ってしまった。
わけもわからぬままユウナはプテラドスに乗せられ、ある場所へ連れて来られた。地上に降りると、長く地面から離れていたせいか、足が震えてしまっている。フギンは構わず、
「こっちだ」
と言い、ユウナを案内した。そこには、石でできた扉があった。フギンが扉横のパネルに手を当てると、ゴゴゴゴと扉がゆっくり開いた。ユウナは呆気にとられながら、それを見ていた。いったい、中には何があるのか。フギンが、
「ついて来い」
と言うので、ユウナは言われるがまま、フギンに続いてその中に入った。中は薄暗く、まるで洞窟を改造して部屋にしたような作りになっている。しかし中には、それ以上に目に留まるものがあった。部屋の真ん中に、水晶のようなものが置かれていた。フギンが、それを手に取るとユウナの方を向き、こう言うのだ。
「こいつで、オーディンを呼ぶことができる」
「オーディンを?」
「あぁ。もしかしたら、オーディンがこの世界を守るカギになるかもしれねえ」
「オーディンが、カギに? どういうことですか?」
ユウナは、フギンが何を言っているのか理解不能だった。しかしフギンは、
「それは、おいらにもよくわからない」
と言い、水晶をユウナの目の前に持ってくると、こう続けるのだった。
「こいつは、オーディンの心自身。こいつをどうコントロールできるかが、この世界の命運を揺るがす。これは忠告だ。おいらたちの目的は、この世界を滅ぼすこと。本気で守りてえって思ってんなら、命がけで来いよ」
ユウナは、何も言わずに水晶だけを見つめていた。今にも光を放ちそうで、時にそれが恐ろしくもあった。フギンはそれをもとの場所に戻すと、
「よし、それじゃ帰るか。そろそろ森の火も消えてるころだろ」
と言って、その部屋を出ていこうとした。
「あの、待ってください。すみません、まだよく理解できていなくて……。なぜ、私にだけそのことを言うんですか?」
ユウナが呼び止め、質問すると、少し間をおいてフギンは言った。
「もう気づいてんだろ」
「えっ……?」
「あいつは、人間が嫌いなんだ。それでも、お前さんの前に姿を現した」
それをきくと、ユウナはあの時の光景を思い出した。トラックに撥ねられそうになった時、オーディンが現れてユウナを守ってくれた。
「オーディンは、お前さんを選んだんだ。この世界を救える、唯一の勇者として」
「勇者……?」
「あと、これも一緒に伝えておく。各属性を司る五人の勇者、その一人にオーディンを扱える人間がいる。闇の魔王、サタールの言葉だ」
「闇の、魔王……?」
ユウナはそれをきいて、なぜ自分なのかという気持ちよりも、この世界を何としてでも守りたいという気持ちの方が強くなった。各属性を司る五人の勇者、これはきっと自分のほかにレイカ、ミカ、アカリ、アカネのことだろう。フギンは敵であり、そしてサタールという人物が後ろで様々な糸を引いている。ユウナはそう理解した。どのような目的で、セインツ・パラダイスを滅ぼそうとしているのか、その時はまだわからなかった。
数日後、ユウナと
「なぁ、お前はどう思ってんだ。俺のこと」
真宏の不意をつくような質問に、ユウナは戸惑った。
「俺は初め、お前の気持ち、よくわからなかったんだ。ただのお節介っ子だと思ってた。だけど、ある日突然気づいたんだ。こんな俺でも、味方してくれるやつがいるんだって。お前がいたから、俺は自分の殻を破ることができたんだと思う。だから、俺、お前にはすげー感謝してるよ……」
前を向いたまま話す真宏の頬を、一筋の涙が伝った。ユウナは、それを見て動揺した。自分も何か言わなければならない。
「私にとっての先輩は、とても優しくて、すごく素敵だと思います。だから、その……、殻を破ったのは先輩自身なので、私には感謝される謂れなんて……」
「本当はお前、あのゲームのことで俺に迷惑かけられないって思ったんだろ?」
「はい……」
「たしかに、俺は反対だ。でも、お前の好きにやればいいと思う。俺、何もできなくてさ。俺が守ってやるなんて偉そうなこと言いたいけど、そんな器じゃねえんだよなぁ……」
「先輩……」
「お前を幸せにできるのは、俺じゃない気がする。だからお前も、ほかに守ってくれそうなやつ見つけろよ」
真宏は、ユウナの肩に手を乗せた。真宏の顔は笑っている。でもなぜか、少しだけ切ないようにも見えたのだった。
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