2016年6月19日、ユウナは企業の面接を受けにいった。アニメ関連の会社だ。アニ研としての経験を活かし、面接に臨んだ。
「では、あなたはどうして弊社を志望したんですか?」
「私は、一回生のころからアニメ研究会というところに所属しています。今は部長として、後輩たちを指導しています。ですがその当時はまだサークル扱いで、結果を残しても部活にはなれない状況でした」
「それで、どうしたんです?」
「はい。一回生の夏が終わったころ、有名なコンテストがあったんです。それに、龍山大アニメーション研究会として作品を出品しました」
「あぁ、それ、弊社が主催しているやつよ」
「え、そうなんですか?」
横峯が言うのをきいてユウナは思わず、きき返してしまった。
「あ……。そ、それで、様々な人と協力し合って、銀賞をとることができました」
ユウナは、何とか言い終え、無事にその面接は終了した。終わった直後、これで本当にいけるのか不安に思ったが、それでもやりきったという実感がわいた。民宿に帰り、結果が届く日を待った。
そして結果発表当日、ユウナは急いでアニ研の部室まで走った。そして扉を開けると、中では部員たちが忙しなく働いている。そこには星見や夏姫といった、かつてのアニ研部員たちも、勢揃いしていた。
「あ、久しぶり。何かあったん?」
「内定、頂きました!」
それをきくや否や、皆が駆けよって来た。
「おぉ、やったやん!」
「おめでとう!」
三宮雄太や佐藤侑李も、ユウナを祝福した。
「おめでとうございます!」
などと、口々に言った。そして、ユウナは
「おめでとう」
と言うのでユウナも、
「ありがとう」
そう、笑顔で答えた。これまで頑張ってきたことは、決して無駄にはならないのだと、その時に改めて実感させられたような気がした。これは、アニ研で培った経験が、未来に生きた瞬間でもあった。
2017年3月下旬。龍山大学では、卒業証書授与式が執り行われた。ユウナの所属している「パラダイス開発研究科」、通称「パラ研」の学生たちは式の後、学内にある研究室に集められた。教壇には正彦が立ち、学生たちを見渡した。女子は皆、晴れ着を着ている。男子も、卒業証書を手に正彦を見つめている。それらを見ながら、正彦が言った。
「これから、どんなに辛く、悲しい出来事があったとしても、この日のことを忘れないでいてほしい。私は、君たちが未来で輝ける日が来るのを願っている」
そうすると、学生たちは一斉に正彦に言った。
「今まで、ありがとうございましたー!!」
正彦もそれをきき、笑顔で頷いた。ユウナもまた、正彦に一番感謝すべき相手だったのかもしれない。
翌日、ユウナは港へ向かった。リンがこれから、イタリア留学に行くのだ。港に着くと、ユウナはリンを探した。そして、ようやくそれらしき後姿を発見した。ピンクの上着を着、デニムのズボンを履き、キャリーバッグを握っている。
「リン!」
ユウナが呼ぶと、リンはふり返った。そしてユウナを確認すると、一目散に駆けよってきた。
「来てくれたんだ」
と言うので、ユウナも笑顔で答えた。
「当たり前だよ」
その笑顔はリンにも届いたのか、さっきとは違う、穏やかな雰囲気になっていた。そうしていると、汽笛がきこえた。
「じゃあ、私もう行くから!」
リンは言い、船の方に向かった。やがて、その船は出港していった。リンは船から身を乗り出さんばかりに、大きく手を振った。
「ユウナ、また会おうね!」
それに応えるべく、ユウナも全力で両手を振った。
「うん、また!」
そして、船は水平線へと小さくなっていく。その時、ユウナの頬を涙が伝った。リンと過ごしたこの四年間は、何年経とうと変わらない。ユウナはそう思いながら、船を見送っていたのであった。
本当に時が経つのは早いもので、ついにユウナも初子の民宿を出ていく日が来た。ユウナは、初子に最後の挨拶をしに行った。
「初さん。本当にこれまで、お世話になりました」
ユウナはそう言い、頭を下げた。
「初さん、今年いっぱいで宿を閉めるんですって」
美千子が言うと初子も、こう話した。
「歳が歳だからね。これからは年金暮らしになるよ。まあ、余生くらいは誰にも邪魔されずに楽しみたいじゃないか」
いかにも、初子らしい理由だった。続いて、美千子も言った。
「しばらくは、私が様子を見に来るわ。うちの人じゃ、話し相手にならないから」
ユウナはそれをきいて、少し安心した。また病気で倒れても、来てくれる人がいる。初子も、それを自覚していたのだろう。
ユウナはカバンを引いて、民宿を後にした。駅に着くと、そこでリカが待っていた。
「ユウナちゃん!」
「リカ?」
リカは、ユウナを見つけると駆けよってきた。
「よかった、間に合った!」
「……どうしたの?」
「これ、よかったら中で食べて。京都で買ったんだ」
リカに、土産袋を渡された。
「ありがとう」
「私も、もう少ししたら帰るから。また……、会えるといいね」
「……うん」
リカに言われ、ユウナも頷いた。リカと別れ、ユウナは改札を通った。そして、電車が来ると乗車した。外を見ると、自分が通っていたキャンパスが見える。ユウナは心の中でそれに別れを告げ、東京を目指した。
2017年4月初旬、ユウナは入社式に出席した。入社式が終わり、ユウナは自分の働く職場へ案内された。そこで、一人ひとり自己紹介していった。
「中谷優奈です。大学では、部活でアニメを作っていました。よろしくお願いします」
昼休み、ユウナは食堂でメニューを注文すると、空いている席を探した。しかし、空席が見当たらなかった。すると、
「あ、よかったらこっち座る?」
そう声をかけられたので、その方を向くと男性が手を振っている。ユウナはそれに近づいて、
「いいんですか?」
ときくと、男性は言った。
「あ、いいよ」
「じゃあ、失礼します」
ユウナはそう礼を言うと、男性の前に座った。
「新入りの人?」
「えっ?」
食べ始めようとした時、不意に質問を投げかけられた。
「あ、はい。中谷です。今日から、よろしくお願いします」
「僕は
悠二郎は、笑顔でそう話した。それを見て、ユウナは微笑み返そうとしたが、結果的に苦笑いになってしまった。
数日後、ユウナは悠二郎にある場所に連れて来られた。
「着いたよ」
「えっ?」
ユウナは、咄嗟に顔を上げた。
「綺麗だろ?」
そこには、夜景が広がっていた。正面には、ライトアップされた通天閣が見える。それを見てユウナは、
「綺麗ですね……」
と呟き、見とれていた。日が暮れないと、この景色は見られない。東京とは少し違う、大阪の夜景だった。ユウナが手摺りに手をかけ、それを眺めていると、隣に悠二郎が来た。
「気に入ってもらえた?」
「はい。すごく、綺麗です」
「よかった……。実は、もうひとつ伝えたいことがあるんだ」
「え、何ですか?」
ユウナは、気になったような目で悠二郎を見つめた。悠二郎は、ユウナの方に自分の身体を向けた。それを見て、ユウナも同じように悠二郎に正面を向ける。
「昨日から、ずっと迷ってたんだ。でも、今決めた。言わなきゃいけないって……」
「先輩……?」
「これで、君を困らせてしまうのはわかってる。でも、どうしても伝えたいんだ」
「あの、何をですか?」
「好きだ、俺と……。いや、僕と……、け、結婚してください!」
その瞬間、ユウナから「感覚」というものが消え、まるで無重力の世界に来たように、身体が軽くなった気がした。そして、直立している悠二郎をただただ驚きの目で見ていたのであった。
しかし悠二郎は、研修で大阪に来ていた大輝からこのように言われた。
「今のあんたは、他人から見ても中途半端に、厄介事から逃げ出そうとしているようにしか思えねえよ。そんな今のあんたに……、ユウナを守る資格はねえ!」
それをきき、悠二郎は考えを改めた。
「やっぱり、彼の言う通りだ。今の俺には、君を幸せにできない。だから、約束しよう」
「約束……、ですか?」
ユウナがきくと、悠二郎は続ける。
「あぁ。半年後、またあの場所で会おう。それまでは、お互い自分のことだけに集中して、落ち着いたら、返事をきかせてほしいんだ」
「先輩は、これからどうするんですか?」
「新しい仕事を見つける。もっと給料の高いところに行って、そこで成果を出す。君を、絶対に後悔させたくないんだ」
それから半年後、二人は会った。
「俺と……、俺と結婚してください」
「……はい」
数週間後、結納が行われ、その一月後には結婚式が執り行われた。教会でユウナは、悠二郎とともに絨毯の上を歩いた。花道を行く時、高校や大学時代の仲間たちが祝福の言葉を送った。それをききながら、ユウナは悠二郎を見ると目が合った。そして式の最後は、互いにキスを交わした。そこでさらに、会場から二人に祝福の拍手が沸き起こる。また秋風が吹き、冬の訪れを伝えてくる。しかし、それはどこか温かく、花々が風に揺れているのが伝わってくるようだった。
部屋に帰ると、ユウナは電話をかけた。
「もしもし、先輩?」
「あぁ、何だ?」
電話に出たのは、真宏だった。
「先輩、ごめんなさい。私、これでほんとによかったかわからなくなって……」
「バカ、お前がそんなんでどうするんだよ!」
真宏は、思いのほか元気だった。そして、こう続ける。
「おめでとうな、ユウナ。幸せになれよ」
「ありがとうございます。先輩も、お仕事頑張ってくださいね」
「おうよ」
真宏はそう答えると、電話を切った。そして、家の窓を開けて縁側に腰かける。すると、次第に涙があふれ出てくる。それは悔しさと、ユウナの幸せを願う気持ちが入り混じったような、不思議な感覚だった。真宏はしばらくの間、夜空を見上げながら、そのまま啜り泣いていたのだった。
序盤のキャラで、最も印象深い登場人物は?
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中谷優奈
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鶴ケ崎麗菓
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月見里美香
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夢野あかり
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池谷大輝
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相場善秀