2017年12月。悠二郎と祝言を挙げたユウナは、横大路研究所で次の仕事を探していた。
「ねぇ、なんで急に戻ってくる気になったの?」
ミカがきくと、ユウナは言った。
「悠二郎さんの仕事が落ち着くまで、ここにいようと思って。二人は?」
前に座っていたミカとアカリに尋ねると、ミカがこう言うのだった。
「あたしも、就職したとこ三ヶ月で辞めちゃってさぁ。なんか自分と合わなくて。最近は、バイトで手一杯かな」
「うちも。最近は景気悪いけん、なかなか採ってくれんのよ。それにうち、国公立やけど中退しとるじゃろ?」
アカリも、不安気に言う。
「じゃあ二人も、仕事が決まるまでここにいるの?」
「どうなんじゃろね。うちはどの道、家族のことも考えて働かなあかんし」
話をきいて、ユウナは現実を甘く見すぎていた自分を恥ずかしく思った。やはり、この世にあるほとんどのことは、思い通りには動かないということなのだろう。
その後、ユウナが連れてこられたのは
「オヤジ、連れてきましたぜ」
「ご苦労だった」
サタールがそう言うと、ふり返るのだった。その顔は、どこか正彦に似ているとユウナは思った。そしてサタールは、ゆっくりとユウナのところに歩み寄ってきた。
「君が、ユウナ君か」
「はい」
ユウナは、怯えながらも答えた。何が目的で、自分をこのようなところに連れてきたのか、ユウナにとっては皆無だった。それでも、サタールは悠々とユウナを見つめている。
サタールはまた、ユウナに背を向けると話を続けた。
「私は、この未知の領域を作った男だ。そして、セインツ・パラダイスに、攻撃ソフトを送りこんだのもこの私だ」
「それは、何のためにですか?」
「君が尊敬する人物、横大路正彦のことが気に食わないからさ」
「……どういう意味ですか?」
ユウナが強く質問すると、サタールはふり向いた。
「自己紹介がまだだったね。私の名は、サタール。そして本当の名は、横大路隆文さ」
「横大路……」
ユウナはその瞬間、信じたくはなかったが、多分そうなのだろうと凡その見当がついた。さらに、サタールは続ける。
「私は、横大路正彦の弟だ。昔、やつは私を殺そうとした」
それをきいたユウナは、声が出なかった。ずっと尊敬してきた正彦だからこそ、信じたくはなかったのだ。
「そんな……、教授が……」
「やつは、私を妬んでいた」
「妬んで?」
「そうだ。やつは、兄だからという理由で、両親からあまり構ってもらっていなかった。私の方は、いつも隣には両親がいて、とても幸せだった」
「だから、教授はそんなことを……」
話をきかされ、ユウナはさらに戸惑った。今の話は、すべて嘘だと思いたかった。
戻ったユウナは、正彦のところに行って伝えた。
「お願いします。罪を、償ってください」
「本当に、すまない!」
ユウナと一緒にサタールに会いに行った正彦は、床に額がつくまでに頭を下げた。それを見ていたユウナも、正彦の心中を察した。正彦が顔を上げると、
「お前の望みは、何でもきく。その代わり、もう私の世界に手を加えるのはやめてくれ。この世界は、私が初めて作った財産なんだ。二次元のゲームを三次元化した、画期的な研究なんだ。だから、どうかこの世界を潰さないでくれ! この通りだ!」
と言い、再び頭を下げる。しかし、サタールから出た言葉ですべてが払われた。
「断る」
正彦が顔を上げると、サタールは正彦を見下ろしながら言った。
「お前のしたことは、悪魔よりも醜い。それだけは、忘れるな。私は、この世界を完全に潰し、そしてお前の人生を終わらせる。覚悟しておくんだな」
サタールはそう言うと、背を向けて奥へ去っていこうとした。
「待ってくれ!」
正彦が呼び止めるが、サタールはふり向かなかった。それを見て、正彦は泣き崩れた。
「中谷ユウナ、俺と勝負しろ!」
クローノス大密林というダンジョンで、ミーサがユウナを指さし、そう言い放った。
「勝負……?」
「いつか、戦ってみたいと思ってたんだ。嫌だって言うなら、アンタはここにいる資格はねえ。さっさと出ていくんだな、目障りだ」
ユウナが戸惑っていると、その言葉にカチンときたのか、アカリが進み出てきた。
「さっきからきいてたら……」
「アカリ?」
「ユウナちゃんを馬鹿にするんは、うちが許さんけん! 第一、ここは元々教授の創った世界なんよ!? それを自分のもんみたいに言うて、何が出ていけよ! 出ていかなあかんのんは、そっちじゃろうが!!」
すると、遠くで違うモンスターの鳴き声がきこえた。それをきいたミーサは「チッ」と舌を鳴らし、キマイラに飛び乗った。
「勝負はお預けだ。いつか、必ず潰してやるから覚悟しておくんだな!」
そう言うと、そのまま森の奥へ走り去っていってしまった。ミーサは結局、四人に対して悪い印象しか残さなかった。
正彦は皆を集めると、全員の顔を見渡しながら話し始める。
「皆、よくきいてほしい。私は、ワクチン用のソフトを作ろうと思う」
その言葉に、室内がざわめく。
「敵のウイルスを採取し、それに対抗できるソフトをSPの中に注入しようと考えている。そうすることで、敵がウイルスを二度と送れないようにする。もう、君たちに負担をかけたくない。前にも言った通り、私は君たちの身の安全を保証できない。だから、あの世界を守るために私なりに考えた結果だ。これで、本当に救えるかどうかわからんが、やれるだけやってみようと思う」
ユウナもその話をきいて、正彦はあれから必死に考えたのだと、一発で理解した。そうすると、前にいた
「あの。差し出がましいですが、もしもそれが旧型にしか対応できなくて、もし、新型が襲ってきたら、それこそイタチごっこじゃないですか?」
「無論、それも考えている」
正彦は、ヒロインの質問に即座に答えた。その通りだ。いくらウイルスの侵入を抑制するソフトを作ったとしても、またすぐに新しいウイルスを送ってくる可能性は十分にあり得る。サタールは、決してそのようなことでは諦めないだろう。そのことは、ユウナにもわかった。
「だから、私のことは構わず、君たちは君たちで普通の日常に戻ってもらいたい。必ず、私があの世界を救ってみせよう」
正彦は、強気の目で言った。ユウナは正彦の身体のことが心配だったが、止めてはいけないのだという気がした。
一方、レイカは
「ふぅ。もう、これ以上運ぶものはないかな」
真司が、部屋を見渡しながら言った。室内に夕日が差しこみ、中には段ボールがいくつか積まれてある。外からは、電車の音が漏れてくる。すると、真司は言った。
「じゃあ、俺はもう帰るよ」
「ありがとう」
レイカも礼を言うと、真司は帰る支度を始めた。その時、レイカにこんな話をした。
「君の兄さんは、昔っから生真面目だったよ。いろんな人に気配りができて、俺も頭では勝ってても、内面的にはいつも負けてた。行事とかでも、気が回らない俺をいつもカバーしてくれてさ。あいつ、自分が損してもいい、周りの奴らが幸せだったらそれでいいって、卒業の時に話してたよ。馬鹿だよな、いつも一人だけ貧乏くじで、誰にも何も言わずただ自分だけで解決しようとして……。だから、君はそうならないでほしい。他人の俺が言えることじゃないけど、君はあいつみたいになっちゃいけないんだ。なんか、そんな気がしてさ」
「今日はそれを言うためにわざわざ?」
「まさか。妹の引越しを手伝ってやってくれって、そう頼まれただけさ」
真司はそう言うと、部屋を出ていった。そして、マンションの前に駐めていたトラックに乗ると帰っていった。レイカは、それを窓から見下ろしていた。
ユウナたちは、正彦の研究室にいた。
「前にも話した通り、ウイルス除去のソフトが完成してね。光線によって、ウイルス自体を萎縮させるというものだ。それで話というのは、君たちはもう、ここには来なくていい。いや、正確に言おう。来てほしくないんだ」
「来てほしくないって……、どういうことですか?」
ユウナが正彦に尋ねると、正彦はこう言うのだ。
「君たちは、よくやってくれた。これ以上、君たちの人生の邪魔はしたくないんだ」
「邪魔なんて、そんな……」
「いや、いいんだ。今まで何の役にも立たない、私の研究を手伝ってくれて、ありがとう。後は、私たちに任せてほしい」
正彦の顔は、真剣だった。ここで反論しても、どうしようもないということはユウナにもわかった。それでも、正彦から出た言葉が信じられなかったのだ。
レイカの部屋のインターホンが鳴った。レイカが戸を開けると、そこにはレイカの兄、
「やぁ、遅くなってごめん。仕事が長引いちゃってさ」
「結局来たのね」
「そりゃあ来るだろ、約束したんだから」
雅也は、顔をしかめながら言った。そして、中に入った。
「引越し、手伝ってあげられなくてごめんな。でも真司のやつ、来てくれてよかっただろ」
「一人でやっても、変わらなかったけど」
「あいつもそう言ってたよ」
雅也は笑いながら、部屋に入る。
「そう言えば、母さんから何か連絡あったか? あれからもう、三年になるわけだし」
「特に何も来てないわよ。向こうでも、忙しいんじゃない?」
「そっか……。それなら、まだ当分帰って来れそうにないかな……」
すると、また二人は黙りこむ。それに見兼ねたのか、今度はレイカから先に口を切った。
「で、今日は何しに来たのよ? 話、あるんじゃないの?」
レイカは最初から、雅也が大事な話をするため、ここを訪れたのだということを見抜いていた。それでも、雅也から進んで話そうとしなかったのだ。
「真司から頼まれてさ。お前も、一度研究所に来てほしいそうだ。気が進まないのはわかってる。でも、あの素晴らしい世界がなくなるのは、やっぱり惜しいと思わないか? 俺は、そう思う。現実世界と何の変わりもない、雲や木や草があって、本当に素晴らしい世界だと思うよ。俺も、できることなら毎日だって行きたいくらいだ」
雅也が言うので、レイカは返した。
「私は、そんなことに時間を割く気なんてない。なくしたくないなら、あの子たちでどうにかすればいい話でしょ? 私には、関係ない」
そして、レイカはその部屋を出ていった。やはり駄目だったかと、雅也は溜息を漏らす。こうなることはわかっていた。それ故に、話したくなかったのだ。しかしレイカも、あの世界の魅力に取り憑かれていることには違いない。雅也は、そう思うのだった。
一方、ユウナは悠二郎のところに帰っていた。そこで、正彦からきいたことを悠二郎に伝えた。
「そっか……。でも、その後どうするんだろう。その教授は、そのセインツ……って世界を守りたがってるんだよね?」
悠二郎は、確かめるように尋ねた。
「はい。でも、これ以上は私たちの邪魔はしたくないって」
「そういや兄貴も、教授は自分より人の立場を尊重するタイプだって話してたな」
悠二郎の言葉をきいて、ユウナはふと疑問に思った。そして、悠二郎に尋ねてみた。
「あの。悠二郎さんのお兄さんって、どんな方なんですか?」
「どんなって言われても……。あっ、じゃあこうしよう。今度、俺の実家に行こう。俺も、家族に紹介したかったし。ユウナも、まだ会ってなかっただろ?」
「はい……。結婚式にもいらっしゃらなかったので、私も会ってみたかったんです」
「うちの親、二人とも西洋かぶれならぬ和風かぶれだからね」
こうして、ユウナは悠二郎と一緒に悠二郎の実家に行くことにしたのだった。
序盤のキャラで、最も印象深い登場人物は?
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中谷優奈
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鶴ケ崎麗菓
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月見里美香
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夢野あかり
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池谷大輝
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相場善秀