パズル&ドラゴンズ~もうひとつの旅~   作:葉之和 駆刃

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Digest Onlinegame No.3 ~愛情編~(その肆)

 実家に着き、父親の代わりに悠二郎が、ユウナに家族を紹介した。

 

「じゃあ、ユウナ。紹介するよ。こちらが、俺の母さん」

「雅美です」

 

 喜多村(きたむら)雅美(まさみ)は、そう言って軽くお辞儀をした。

 

「そして、こちらが俺の姉、千年」

 

 それをきいて、千年も軽く頭を下げる。続いて、悠二郎は近くにいた二人の子を連れた女性を指し、

 

「で、こちらが俺の兄の奥さんの、絵美里(えみり)さん。で、その子供の由希(ゆき)ちゃんと大雅(たいが)君」

 

 と言うと、絵美里と子供二人も、頭を下げる。

 

「因みに、由希ちゃんは今年で七歳、大雅君は五歳になる」

 

 そして、全員の紹介が終わると、ユウナは雅美の方を向いた。

 

「お義母さん、どうぞよろしくお願いします」

 

 ユウナも、雅美に頭を下げた。雅美はそれを見ると、

 

「こちらこそ」

 

 と言い、ニッコリと笑う。ユウナは、それを見て安心するのだった。

 

 

 しかし……。

 

「あんた、お花活けたことある?」

「いえ、ありません……」

「じゃあ、ちょっと見本見せたるわ」

 

 

 ユウナは活け花を教えこまれ、花会という会に出席させられた。しかし、それを悠二郎に見つかってしまった。雅美の部屋で、悠二郎は雅美の向かいに座り、こう言った。

 

「母さん、僕はがっかりだよ。あんなに言っていたのに、なんで言うことを守ってくれなかったの? 家元は姉貴が継ぐから、心配ないって!」

「せやけどな、あの子が継がへんって言い張ってる以上、この子しかおらへんのよ」

「それが目的で……、結婚を許したの?」

「えぇ、せや。それ以外に理由がありますかいな。どこの子かもわからせえへんのに」

「兎も角、もう二度とユウナに、僕の妻に、手を出さないでください!」

 

 悠二郎がそう言い放つと、またユウナの手を引き、部屋を後にした。

 

 

 翌朝、ユウナは悠二郎の姉、千年が一人の男と会っているのを目撃した。その後、本人に話をきくと、千年はこう言うのだ。

 

「お父様の会社にお勤めしてる方なんやけど、お父様の紹介で、交際することになったんよ。それで意気投合して、結婚しようって話まで出てん。でも、私が嫁ぐってきいた瞬間、家元を継ぐ思てたお母様が、猛烈に反対して……。昔から、お父様よりお母様の方が気ぃ強いから、お父様は何も言ってくれへんで……。それで、結果的に別れることになって。それでも最近、また向こうから会いに来てくれるようになったんよ。でも、それをお母様は知らはらへん。もしも知られたらって思うと、すごい怖いんよ……」

「そうだったんですか……」

 

 ユウナが言うと、千年がまた、ユウナの方を向いて言った。

 

「だから、あんたも絶対に言うたらあかんで。もしもそのこと、お母様に教えたりなんかしたら、許さへんから!」

 

 千年は強気にそう言うと、向こうに歩いていってしまった。ユウナはそれを見て、千年が不憫に思えて仕方がなかった。しかし、ここは千年の言うことに従わざるを得なかった。

 

 

 ユウナは考え、千年を花会に参加させることにした。雅美の師匠、磯ケ谷(いそがや)士郎(しろう)は千年が活けた花を見てコメントした。

 

「幸せそうな色の花ばかりやけど、なぜかその中に寂しさもある。見てる人を切なくするような、恋の気持ちがそのまま伝わってくる。ほんま、よう考えはったと思うわ。今までに、いろんな人の作品を見てきたけど、こんなんは初めてや。これからも、その気持ちを忘れんといてほしい」

 

 それをきき、千年は嬉しくなった。ユウナも、すぐにでも拍手を送りたくなるような、そんな心持ちだった。しかし、それには雅美の了解を得なければならない。士郎は雅美の方を向き直り、こう言った。

 

「どうです? 娘さんの花、私は好きです。あんたさんも、そうと違いますか?」

 

 しかし、雅美は言うのだった。

 

「私は……、認めません」

「なんでですか!」

 

 思わず、千年が身を乗り出した。

 

「約束、したやないですか! お師匠さんに認められたら、結婚は許すって!」

「それは、嫁が勝手に言い出したこと。私は、そんなん一言も言ってません」

 

 雅美が頑なに言うので、ユウナは千年を見た。千年の目には、涙が潤んでいる。ユウナは、それを見て責任を感じた。自分があのような話をしなければ、千年はこのような思いをしなくて済んだのだ。ユウナが、何とかしようと思った時、扉が開く音がした。そして、なんと悠二郎が入ってきたのだ。

 

「母さん、いい加減にしてよ!」

「悠二郎さん……?」

 

 ユウナは思わず、声に出してしまった。悠二郎は、雅美の前に座ると言った。

 

「母さんの、姉貴に家元を継いでほしいっていう気持ちはわかるよ。けど、いつまでもこの家に縛りつけておいて、ほんとにそれでいいの? 娘の自由を奪って、ほんとにそれでいいと思ってるの?」

「あんたには、関係ないやないの。千年がおらんようになったら、誰が継ぐって言うのよ」

「……わかった。じゃあ、彼にも話してもらうよ」

「彼?」

 

 雅美は、不思議そうに悠二郎を見つめている。悠二郎はふり返り、

 

「入ってきていいよ」

 

 と、誰かを部屋に呼んだ。すると、その部屋に入ってきた男がいた。見たところ、三十代前半くらいだろう。ユウナは、それを見てハッとした。それは、庭で千年と会っていたあの男だったのだ。千年も、

 

「勝さん……」

 

 と、その男の名を呼んだ。勝という男は、悠二郎の隣に座った。そして、雅美に言った。

 

「お母さん、お久しぶりです。勝手なことをして、本当に申し訳ありません。でも、千年さんを思う気持ちは、本物なんです。必ず幸せにします。だから、どうか、どうか結婚をお許しください! お願いします!」

 

 すると、ようやく雅美は答えた。

 

「勝さん。娘を、頼みます」

「あ……、ありがとうございます!」

 

 そして勝は、また頭を深々と下げる。それを見ていた一同は、拍手を送った。勝は顔を上げると、千年を見た。千年も、笑顔で見つめ返してくる。それを見て、勝も嬉しそうに笑い返していた。ユウナと悠二郎も、顔を見合わせて微笑み合った。これほどまで、幸せそうな恋人をかつて見たことがあっただろうか。ユウナはそう思いながら、拍手を二人に対して送り続けていた。

 

 

 ある夜。ユウナは部屋の縁側に腰掛け、星々を眺めていた。都会とは違って、明るくきれいな星空だった。そういえば、悠二郎はどこへ行ったのだろうか。夕飯の席にも、姿を見せなかった。そのようなことを考えながら、ユウナは夜空を見ていた。

 しばらく回想に耽っていると、どこからか声がきこえた。それはまるで、ユウナのことを呼んでいるようだった。ユウナも耳を澄まし、何とかその声を拾おうとした。

 

「ユウナ……、中谷ユウナ!」

 

 それは女性のような声で、次第に大きくなっていた。なぜ自分の旧姓を知っているのだろうかと、少し不気味に思いながら靴を履き、声がする方に行ってみた。その声は、庭の茂みからきこえてくる。その時、茂みから何かが飛び出した。ユウナは驚き、前を向いたまま数歩戻った。そして、よくよく前を見てみると、そこにはミーサがいたのだ。声の主は、なんとミーサだったのだ。ユウナは、驚きを隠せなかった。

 

「あの、なんでこんなところに……」

「しっ! 理由はあとで説明する。それより、ちょっと来い」

「あの、どこへ……」

 

 ユウナが言いかけると、ミーサはユウナの腕をつかんで、強引に連れていこうとした。ユウナは戸惑いつつも、ミーサのあとに続く。SPで何かがあったのだろうか。その時、そんなことが頭の中を過ぎった。

 

 しかし庭を抜けた時、それを偶然雅美に目撃されてしまった。

 

「ちょっと! あんたらそこで何してんの!」

「やべ!」

 

 ミーサが声を上げる。それを見た雅美は、

 

「誰やのあんた、誰か、誰か来てー!」

 

 と言いながら、家の中の人間を呼んだ。ミーサは急いで、ユウナの手を引いた。ユウナは何が何だかわからなかったが、流されるままに身を委ねた。すると家の中から悠二郎の父・孝太郎が出てきて、ミーサを発見すると声を上げる。

 

「誰や! うちの嫁に何すんのや!」

 

 そして、物凄い剣幕で走ってくる。二人は、急いで逃げた。やがて追いつかれそうになると、近くからガンガンという、ドラム缶を叩くような音がきこえた。その瞬間、孝太郎は速度を落とした。それとほぼ同時に、遠くで花火が上がった。雅美も足を止め、それを呆気にとられながら見ている。どういうことなのか、その時のユウナには皆目見当がつかなかった。なぜここにミーサがいるのか、そして、あの音と花火は何だったのか、次々と疑問が湧いてくる。

 

 無事に二人から逃げきれたユウナは、ミーサに尋ねた。

 

「あの、何かあったの? あの世界で……」

「おい、あれに乗れ」

 

 ユウナの質問を無視し、ミーサが言った。前を向くと、向こうの道路に一台の車が待機している。その側で、誰かが手を振っているのが見えた。

 

「こっちこっち! 早く乗って!」

 

 それは、見たことのない男だった。ユウナは戸惑いながらも、ミーサがいるのならばと信じて車に乗りこんだ。ミーサも隣に座り、男は車のエンジンをかける。そしてその車は、ゆっくりと発車した。

 

 国道沿いを走りながら、ユウナは運転している男に尋ねた。

 

「あの、どこに行くんですか?」

「あぁ、まだ説明してなかったな。横大路先生が、君を呼んでいる」

「教授が?」

「詳しい話は、研究所に着いたら話すから」

 

 その男の話をきいて、ユウナは自分の予感は当たっていたのだと納得した。

 

 研究所に行き、正彦が部屋にいる皆を見渡しながら言った。

 

「諸君、急に召集をかけてすまない。なぜ呼び出されたか、薄々気づいているだろう。私も、これで終わりにするつもりだ。君たちの自由を奪った償いは、必ずする。だから今は、話をきいてほしい」

 

 その場にいる全員は、何も言わずにただ黙ってそれをきいている。その中に、悠二郎の兄・喜多村(きたむら)慎一郎(しんいちろう)もいた。そして、正彦も話の続きを始める。

 

「実はこの間、このようなメールが届けられてね。宛先が書かれていないんだ」

 

 正彦はそう言うと、白衣のポケットから一枚の紙を取り出す。紙を広げると、書かれている内容を読み上げ始めた。

 

「『神に選ばれし勇者たちよ。今こそ、己の勇気と誇りを信じ、セインツ・パラダイスの中の悪を滅ぼすのだ。火を操る者、木を愛する者、水の心を持つ者、光を解き放つ者、そして闇に生きる者。皆で協力し合い、この危機を乗り越えていってほしい。君たちになら、できると信じている』」

 

 正彦は、紙を再び折り畳んだ。

 

「ここに書かれていることは、恐らく君たちのことだろう。もう一度、ダンジョン攻略に力を貸してほしい。この通りだ!」

 

 正彦はそう言い、頭を下げた。ユウナはそれをきいて、すべてを理解した。正彦は今度こそ、あの世界を終わらせるつもりなのだということを。ダンジョンをすべてクリアしてしまえば、あの世界は自動的になくなってしまう。それでも、誰かに悪用されるのであれば、その方がよいだろう。ユウナは立ち上がり、

 

「教授。私は、最後の最後まで教授についていきたいです。だから、もう一度決心させてください。私は、あの世界でもう一度戦います」

 

 と言うと、正彦は顔を上げた。

 

「本当に、いいのか? 拒否権はあるんだぞ」

「……いえ、私もあの世界が大好きだから。これ以上、荒らされるのを黙って見ているなんてできません」

 

 すると、ミカとアカリも立ち上がった。

 

「ユウナがそこまで言うなら、あたしも戦う。どの道、あの世界がなくなっちゃうのは嫌だけど、悪用されるよりマシだから」

「うちも、そう思う。みんないるけん、大丈夫やと思う」

「ミカ……、アカリ……」

 

 ユウナが二人の方をふり向くと、二人もユウナを見て頷いた。

 

 

 翌日、研究所の外に出ると、ユウナは電話に出た。

 

「もしもし、相場君?」

『あ、中谷。よかった、繋がった。久しぶりだな』

「あ、うん。久しぶり……、どうしたの?」

 

 数秒後、ユウナの耳に予期せぬ言葉が飛びこんできた。

 

「大輝が……」

「大ちゃんが、何?」

「……、死んだ」

 

 その瞬間、ユウナの頭の中が真っ白になった。

 

 

 母の用意してくれた服を着てユウナは葬式に臨んだ。会場は静まり返り、これが現実だと、受け入れなければならない。そう、ユウナは自分に言い聞かせていた。

 

 葬式の後、ユウナは母の百合子から話をきいた。

 

「向こうのお母さんからきいた話なんだけど、大輝君、ずっとユウナのこと心配してたんですって」

「心配してた……?」

「何でも一人で背負い過ぎていないかとか、それを誰にも言えずにいるんじゃないかとか、すっごく気にしていたらしいの。家にいる時も、そればっかり言ってたって、さっき話してたわ。それをきいて私、嬉しくなっちゃった。昔から、何も変わってないなって。私と話す時は、ユウナならどうにかなってるって言ってたけど、お家では真逆だったみたいね」

「そう、なんだ……」

「だから、あなたに知ってほしかった。遠くにいても、ちゃんと見てくれてる人がいたんだってことを」

「うん……。ありがとう、教えてくれて。それに、なんだか大ちゃんらしいな……」

 

 ユウナが呟くのを、百合子も微笑みながら見ていた。それが、大輝の「気遣い」というものだったのかもしれない。大輝自身、どこまでユウナのことを気にしてくれていたか、それは誰にも計り知れないものだったのだ。

 

 その夜、定食屋の前でユウナは相場と話した。

 

「俺、今度海外に行くことになってさ」

「それって……、留学ってこと?」

 

 ユウナがきくと、相場は答えた。

 

「いや、違う。今、内戦やってるとこあるよな? そこに、軍隊として派遣されることになったんだ」

 

 それをきいた瞬間、ユウナに嫌な予感が走る。

 

「相場君……。もしかして、相場君が異動になったところって……」

「自衛隊だよ」

 

 相場は、視線を逸らしながら答える。

 

「仕方ないんだ。上からの命令には逆らえない。だから、俺は行く」

 

 ユウナは、何も言えなかった。次に、これ以上大切な人を失いたくない、その思いだけが脳裏を支配していく。相場が、

 

「じゃあな」

 

 と言い、中に入ろうとした瞬間、ユウナは相場の腕をつかんだ。

 

「行かないで!」

 

 その声は、相場の耳にはっきりと入った。

 

「相場君までいなくなったら、私どうすればいいの……? あれだけ平和を願って、人を助けたいって思ってた相場君の心は、どこに行ったの?」

 

 ユウナの声は、次第に震えていく。相場は下を向き、何も答えなかった。しばらく沈黙が続いた。そして、相場はユウナの方を向くと、こう言った。

 

「大丈夫。俺は死なない」

「えっ……?」

「たしかに、向こうは危険だ。でも、俺は必ず生きてみせる。俺の帰りを、待ってくれているやつがいる。そう思えるだけで、頑張れる気がするんだ。だから、俺を信じてほしい。初めて、自信を持って言える。必ず、またここに戻ってくるから」

 

 それをきいて、ユウナはとうとう堪えきれずに涙を零した。嬉しさと不安が入り混じり、何とも言えない気持ちだった。それを察したのか、なんと相場がユウナを抱きしめたのだ。

 

 その後、ユウナは一人で駅に向かった。最終電車の時刻となり、駅の中はしんと静まり返っている。ユウナは、そこで電車が来るのを待った。その時、あの時の相場の顔が頭に浮かんだ。泣いているが、笑顔だった。そしてまた、大輝との思い出が頭の中で繰り返し再生される。

 

『何かあったら、絶対俺に言えよ。俺が守ってやるから』

『じゃあ、戻ろうぜ』

 

 大輝は、もうどこにもいない。それは、ちゃんと受け入れなければならない。しかし、それを心のどこかで、拒絶している自分がいた。会えない、会いたい……。そのふたつの事象が、交互にユウナの心に現れては消えていく。

 ユウナは膝を落とし、声を上げて泣いた。誰かにきかれていたとしても、もはやどうでもよい、そんな気さえした。その上では、流れ星が一筋の線を作っていた。それは時に、涙のようでもあった。

 

 

総集編第三回「愛情編」終

序盤のキャラで、最も印象深い登場人物は?

  • 中谷優奈
  • 鶴ケ崎麗菓
  • 月見里美香
  • 夢野あかり
  • 池谷大輝
  • 相場善秀
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