ユウナは部屋で一人、机に座って大輝のことを思い出していた。年寄りを火災から救うために、大輝は自ら火の中に飛びこみ、そして命を落とした。それは、正義感のある大輝だったからこそ、できたことかもしれない。それならば、褒めてあげるべきではないかと思ったが、ユウナは大輝の訃報をきいて以来、誰とも話そうとしない。
『実は来月から数ヶ月、また実習があんだよ。今回は、前と違って本格的なことを訓練させてもらえるらしい』
『じゃあな、頑張れよ』
ユウナは大輝の言った言葉を思い出しながら、魂が抜けたような顔で、ただぼうっと椅子に腰かけていた。
総集編第四回「絆編」
ユウナが部屋にいると、ドアが開いて悠二郎が入ってきた。
「ユウナ、お客さんが来てる」
「お客さん……?」
「あぁ、どうしても君に会いたいんだって」
悠二郎の話をきいて、ユウナはその客人のいる部屋に行った。戸を開けると、ユウナを見た女性は立ち上がった。
「あなたが……」
「あの、どちら様ですか?」
ユウナが不審がっていると、その女性は笑顔で答えた。
「私、あなたのお友達に命を助けられたんです」
それをきいたユウナは、すぐにわかった。あの時、大輝が救った人だと。美千子はテーブルに茶を置きながら、
「わざわざ、調べて来てくださったんですって」
と、言うのだ。ユウナは、その女性の前の席に座った。その女性はユウナの顔を見つめながら、こう話し始めるのだった。
「その人のお葬式の時、話すべきでしたけど、見つけられなくて……。大輝君……、っていったかしら。私、訓練生に食事を提供する係でしたの。でも厨房が火事になって、逃げ遅れた私を、彼が助けてくれたんです。それで、全身に火傷を負った彼の入院している病院にお見舞いに行きました。その時には意識もあって、少しお話しできました。その時、あなたの連絡先を渡されて……。俺に何かあったら、会って、伝えてくれって頼まれたんです」
その話は本当の話なのだと、女性の表情からも読み取れた。ユウナは、黙ってその話をきいていた。
「今になって、申し訳ありません。ですが、これだけは伝えたいと思って……。彼、私にこう言ったんです。あなたに、己の生き方を貫いてくれと伝えてくれって」
「己の、生き方……」
ユウナは無表情のまま呟くと、自然にまた涙が流れてきた。そして、ユウナは手で自分の口を押さえた。大輝は、最後まで自分のことを心配してくれていたのだ。それを思うと、少し嬉しかった。いつまでも悲しむなという、大輝からのメッセージだったのだろうか。
そして、ユウナは決心した。いつまでも、悲しんでなどいられない。今は、目の前のことに取り組まねばいけない。
その後、ユウナはダンジョン攻略に努めた。「リヴァイアサン」という名のモンスターに苦戦しつつも、ユウナはコンボを上手く使って倒した。
ユウナが帰宅する途中、スマホが鳴った。きっと悠二郎からだと思い、ユウナはカバンからそれを取り出した。しかし、ロック中の画面に表示されていたのは、悠二郎の名前ではなかった。そこには、「相場善秀」とあったのだ。
「相場君……?」
ユウナは不思議に思い、その電話に出た。
「もしもし?」
「あ、もしもし。喜多村か?」
「相場君、どうしたの?」
ユウナが尋ねると、相場は答えた。
「俺、今空港にいるんだけど……」
それをきいた瞬間、ユウナはハッと思い出す。
『今、内戦やってるとこあるよな? そこに、軍隊として派遣されることになったんだ』
大輝の葬式の際、相場から思わぬ言葉が出たのだ。自衛隊に所属し、内戦が起きている国に行くことになったのだと。ユウナは止めようとしたが、上からの命令には逆らえないとのことだった。
「今日だったんだ……。もう、行っちゃうんだね……」
「あぁ。でも、心配しないでほしい。俺は、絶対帰ってくるから。大輝とは違う。お前を、絶対に悲しませたりはしない。約束する」
その話をきき、ユウナから涙がこぼれ落ちる。
電話が切れると、相場はカバンを手にして歩き始めた。その表情は、これから戦場に行くとは思えぬほど、穏やかだった。
数日後、ユウナたちは正彦の研究室に呼び集められた。
「皆のおかげで、セインツ・パラダイスにおける半分以上のダンジョンが、無事にクリアされた」
正彦の報告をきき、ミカやアカリは笑みを浮かべている。
「それで、君たちに相談なんだが……」
その言葉をきいて、皆は再び正彦に注目する。正彦も、少しだけ言い難そうだ。それを見て、ユウナは不審に思った。何を、そんなに躊躇う必要があるのだろうか。正彦は後ろにいた真司に促され、やっと口を開いた。
「これは、あくまで私の意見だ。だから、参考程度にきいてくれると有り難い。今日ではダンジョンが、あと全体の約半分ほど残っている。それを、これからも君たちで手分けして攻略していってほしい。私も、できる範囲で助力する。しかし、あの世界と現実世界を行ったり来たりするのは、少し不便だと思ってな。どうだ、あの世界に住んでみないか」
それをきいて、ユウナは驚きを隠せなかった。正彦の口から、そのような言葉が飛び出そうとは思ってもいなかった。たしかに、あの世界には建物がいくつか建てられてある。しかし、そこで寝起きしたいとは思ったことはない。それでも、その話をきくとユウナは、それも楽しそうだと思うのだった。
「皆、それについてはどう思うか」
「あ、私は……」
ユウナが言いかけると、アカリがそれよりも少し早く声を発した。
「でも、すべてのダンジョンをクリアすれば、自動的にあの世界はなくなるんですよね?」
「あぁ、そうだ」
正彦が答えると、ミカも言った。
「でも……。それなら、逆に危ないんじゃない? 最後をクリアしちゃったら、私たちもそこからすぐに逃げなきゃいけなくなるじゃん。しばらく住み着いてたら、どこが出口か迷っちゃわない?」
ミカのその推理は、当たっていたようだ。その言葉をきき、正彦はやはりかという溜息を漏らす。ユウナも、そこまで頭が回らなかった。
「答えは、すぐに出さなくていい。しかし、少し考えてみてくれないか」
正彦が言うので、皆はまた互いに顔を見合わせる。やはり、不安は隠せないのだろう。
「考えるって言ってもさ……、ここで拒んじゃってもいいわけでしょ?」
ミカの言葉に、正彦も返した。
「あぁ、もちろんだ」
ユウナは、自分だけでもあの世界に入り、夜もモンスターたちの世話をしたいと伝えたかったが、その勇気が出てこない。数分が過ぎ、ミカやアカリは部屋を出ていこうとしていた。ユウナも仕方なく、それに続こうとすると、
「待って!」
と、誰かから声をかけられた。ふり向くと、それは真司だった。
「父さんから、実はもうひとつ用件があるんだ」
「えっ……?」
真司は、また正彦を促す。すると、正彦はユウナたちを見つめ、話し始めるのだった。
「君たちが来る前に届けられたメールの中に、五人の勇者という記述があった。それぞれの属性を司る勇士たち、それらをフィフス・フォリアと呼ぶことにした」
『フィフス・フォリア……?』
ユウナ、ミカ、アカリの三人は繰り返した。初めてきくその言葉は、とても新鮮に思えた。そして、アカネが三人に歩みよってくると、こう付け加える。
「それぞれに、称号が与えられるらしいねんて」
「称号……?」
ユウナが尋ねると、アカネは頷き、そして答えた。
「例えば、木属性やったら、ウッド・マスター。水属性なら、アクア・マスターといった称号が付与されんねん」
「でも、誰が何属性とか、どうやったらわかんのよ」
ミカが言うと正彦は、
「それは、君たちで話し合って決めてほしい」
と、言うのだった。正彦も、そこまでは決めていないらしい。向いている属性を決め、それをとことん極めてくれということだろうか。しかし、それだけ言われてもユウナたちには難しいものがあった。
一方でレイカと雅也は、建物を出て近くの公園まで出向いた。そこには、丸太でできたテーブルがある。二人は、その周りの椅子に腰かけた。
「ここで紅茶を楽しむのも、なかなか楽しそうだね」
「で、話って何よ。大事なことなんでしょ?」
レイカが雅也にきくと、
「急かすなよ……」
と、雅也も呆れた表情で返す。そして真顔になり、話し始めた。
「実は……、俺、また外国に取材頼まれてさ。今回は、いつ帰れるかわからないんだよな」
レイカは、黙って雅也を見ている。
「それって……、また内戦やってるとこ?」
「あぁ。今回は、なかなか危険な国らしいんだよね。でも、行くのは俺しかないってそう思ってさ。そしたら、アイツのこと思い出したよ。神崎、俺のせいで死んじゃったからな。罪滅ぼしのためにも、行くことにした。これは俺の意志だ。誰かに言われたわけじゃない。それを、お前にもわかってほしかったんだ。実の妹として」
「何言ってるのよ。それ、ただの遺言じゃない!」
「そうだよな、ごめん。俺、絶対帰ってくるから。いつになるかわからないけど、絶対に、お前を一人にしない。約束するから」
雅也は手を伸ばし、レイカの頭を撫でた。レイカも抵抗することなく、それをきいていた。
「じゃあ、そういうわけで。出発する日が決まったら、また言いに来るから」
雅也は手を振り、一人で戻っていった。レイカはしばらくの間、そこから離れなかった。
二週間が過ぎた、初夏。空港には雅也のほかに、真司と慎一郎が来ていた。雅也は空港の窓から、滑走路を見ていた。国際線が四方八方に翼を広げている。
「いよいよだな……」
そう呟いた瞬間、ある声がきこえた。
「ちょっと、離してよ!」
その声に雅也は反応し、ふり向いた。すると、ユウナがレイカの手を引いて、こちらに向かってくる。二人が雅也の前に来ると、ユウナが言った。
「よかった……、間に合った……」
「ど、どうして君が……」
雅也は、躊躇いながら言った。すると、ユウナは息を整えながら答える。
「どうしても……、最後に、妹さんの話をきいてほしかったんです」
そして、雅也はレイカを見た。レイカも、雅也に近づくと口を開く。
「私が、兄さんとの本当の関係を知ったのは、小四の時。最初は、何が何だかわからなくて、反抗したりもした。けど、兄さんは以前のように私に接してきてくれた。ずっと逃げ続けてきた私に、希望を与えてくれた。ずっと、どんな時も、私の味方でいてくれた。何をするにしても、鬱陶しいくらいに私に構ってきてくれた。だから、裏切らないで」
「裏切る……?」
「帰ってくるって言ったからには、絶対に帰ってきなさい。土産はいらない。私にとっての土産は、兄さんの元気な姿なんだから」
そう言ったレイカの顔には、若干の笑みがあった。それを見た雅也も嬉しそうに、
「あぁ、約束する!」
と、答えていた。それはレイカが自力で導き出した、雅也を送り出す言葉だったのかもしれない。ユウナも、やっと笑顔に戻ったレイカを微笑ましく思った。
一方、ダークネス・キャッスルではサタールがフギンとミーサを呼んでいた。
「奴らが未攻略のダンジョンをいくつか封鎖した。これにより、我らの計画が本格始動される時が来たのだ。今、研究者たちが宝玉のありかを探っているところだ」
「宝玉?」
フギンが尋ねると、サタールは答えた。
「このSPのどこかに、五つの巨大な宝玉がある。それぞれの属性を持ち、そこには剣が封印してある。それをすべて回収するのだ」
「その剣とやらを回収して、いったいどうするんだ?」
今度は、ミーサが尋ねた。それについても、サタールは答えた。
「それぞれの剣が五つ集まれば、黄金の剣が生成されるという。それを手にした者が、この世界の支配者となれるのだ」
フギンもミーサも、呆れている。しかし、サタールはこう言うのだ。
「これは、私から奴らへの最後の挑戦状だ。そのゲームに勝ったものが、このSPを支配できる。奴らのところには、すでにメールを送っている。これからが、本番だ」
サタールがニヤリと笑うのを見て、二人は顔を見合わせていた。サタールからのメールは、正彦のところに届けられていた。
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夢野あかり
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池谷大輝
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相場善秀