パズル&ドラゴンズ~もうひとつの旅~   作:葉之和 駆刃

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第4話 尊き憧れ~プレシャス・ヤーニング~(その参)

 ユウナは一呼吸おいて、正彦に近づいた。

 

「あの、すみません」

 

 声をかけられ、正彦はゆっくりふり返った。

 

「龍山大学の、横大路先生ですよね?」

「ああ、そうだが」

「まだ、この高校にご用があったんですか」

「あ、いや。そういうわけではないが、なんだかこの校舎が妙に気に入ってな」

 

 正彦はそう言うと、また木を見あげた。するとユウナは、正彦にこうきいた。

 

「あの、私のこと、覚えていますか?」

 

 正彦は、ふり向くと怪訝そうにユウナを見た。ユウナは、真剣な目をして続けた。

 

「あの時、頂いた十枚の福引券。あれで、一等を当てることができました」

 

 それをきいた正彦は笑いながら、こう言った。

 

「あっ、君があの時の。それはよかった」

「私、ずっとききたかったんです。何故、私にくれたんですか?」

 

 ユウナは、この十年間の疑問を、正彦にぶつけた。しかし正彦は、

 

「君は……、自然は好きか?」

 

 とユウナにきいた。正彦は、また木を見つめた。すると正彦は、こう話し始めた。

 

「私は、好きだ。この木は、この学校が建てられる前から生えてあったときいた。植物というのは、たとえ攻撃されても、自分の力では何もできない。それでも、ずっしりと構えている。倒れることなく、いつも君たちを見守ってくれている。そんなこの木を見ていると、私はこいつを守りたくなるんだ。君もそう思わないか?」

 

 正彦はふり返った。ユウナは、何も答えることができなかった。そしてミカとアカリが、ようやく追いついてきた。そして数メートル離れたところから、二人を見ていた。

 正彦はユウナを見つめたまま、

 

「私は、自然を守り、そして人のために何かをする、そんな人材が好きだ。君はあの日、そんな目をしていた」

 

 と、言った。正彦は更に、

 

「私は、争いがなく、人や自然が仲良く暮らしていける、そんな世界を作りたい。笑顔が絶えることない、そんな世界を作りたい。そのために、大切なものは何だと思う」

 

 と言い、ユウナに質問した。ユウナは黙っていると、正彦はこう言った。

 

「思いやる心だ」

「思いやる、心……?」

「それは、人も自然も同じだ。自然を愛する者は、人も愛する。その心なくして、平和な国は築けない。思いやりがあれば、争いは生まれない。私は、そう信じている」

「はい」

 

 ユウナは何故か、感動を覚えた。ありきたりな言葉だが、正彦の目は確かだった。心から、それを願っている。ユウナには、それがわかった。

 

「私も……、そう思います。そうなってほしいと思います」

 

 正彦も笑い、

 

「君がこの高校の生徒でよかった。自分の夢を見つけ、それに向かってまっすぐ進みなさい。後ろをふり返らず、ただ前に進むんだ。たとえそれが間違いだったとしても、歩くことを止めてはならない。それだけは、心に留めておいてもらいたい」

 

 そう言った。それをきいたユウナは笑顔で、

 

「はい」

 

 と答えた。正彦も笑顔を見せ、校舎の中に入っていった。すると、後ろでその会話をきいていた二人が、走ってきた。

 

「ねぇ、何の話? あの日って何のこと?」

 

 ミカがきくと、ユウナは正彦が歩いていった方を見つめながら、こう言った。

 

「私、進路決めた」

「ユウナ?」

「私、龍山大学に行きたい。あの人のところで、勉強したいの」

 

 それをきいて、ミカとアカリは顔を見合わせた。そして、ユウナは続けた。

 

「私、人の役に立ちたい。そして、人の笑顔が見たい」

「ちょっと、大丈夫?」

 

 ミカは、不安そうに言った。しかし、ユウナはただ一直線に、前だけを見つめていた。これは、ユウナなりの決意であった。ずっと優柔不断だった自分を変えようと、努力してきた結果がこれまでだった。でも途中で挫折し、周りの意見に流されてばかりの日々を送ってきた。この出来事は、ユウナの人生を大きく変え、そして狂わせていく。それは、この時は誰も知りようがなかったのだ。

 

 その夜、ユウナは父と母に相談した。

 

「私、やっぱり決めた。龍山に行きたいの」

 

 それをきいて、両親は顔を見合わせた。その反応は、ユウナは予想済みだった。そして、しばらく沈黙が流れたあと、惟英はこう言った。

 

「自分で決めたのなら、俺たちは反対しない」

 

 すると百合子も、

 

「その代わり、目指すと決めたら、最後までしっかりやりなさい。それでだめだったとしても、また来年があるじゃない。諦めずやれば、きっと夢は叶うはずよ」

 

 と言ってくれた。その言葉だけで、ユウナは嬉しかった。

 

「私……、頑張る。そして、絶対に合格してみせる」

 

 ユウナがそう言うと、惟英は言った。

 

「ああ、頑張りなさい。俺らは、ずっとユウナの味方だ。応援してる」

 

 ユウナは、嬉しそうに頷いた。その眼には、かすかながらも涙が浮かんでいた。

 

「ほんと、安心したわ。やっと、決意してくれたのね」

 

 百合子は、一気に肩の重荷が下りたように笑顔を見せた。

 

「ほんとだな。このままだと、浪人になるんじゃないかと思ってたよ」

「あら、受からないと大学には行けないわよ」

 

 両親がそう言っていると、ユウナは言った。

 

「これから気を引きしめて、頑張るから」

 

 すると百合子は笑顔で、

 

「そうしなさい」

 

 そう言うと、惟英もこう言った。

 

「まずは、受ける学科の入試日時や科目も調べなくちゃな。まあ、今日はもう遅いから、早く寝なさい」

 

 ユウナも、

 

「はい」

 

 と言い、二階に上がっていった。

 

 ユウナは着替え、布団に入り、正彦の言葉を何度も思い出した。ユウナはその時、正彦のところで学びたいと強く思った。

 

『私は、争いがなく、人や自然が仲良く暮らしていける、そんな世界を作りたい。笑顔が絶えることない、そんな世界を作りたい。そのために、大切なものは何だと思う』

『思いやる心だ』

「思いやる心……」

 

 布団の中で、ユウナはまたそう呟いた。

 正彦が言った、「争いのない世界」とは何だったのだろうか。国を作るのは、あくまで政府の役割である。正彦の言った「世界」は、また別のものなのだろうか。そんなことを考えながら、ユウナは目を閉じた。

 

 翌日、ユウナは朝のホームルーム後、担任の吉崎に進路のことを言いにいった。

 

「龍山か……」

 

 吉崎は、そう呟いた。

 

「はい。私、決めたんです」

 

 ユウナも、真剣な顔でそう答えた。そして吉崎はユウナを見つめ、口を開いた。

 

「そうか、ようやく決まったか。俺も正直言って、心配してたんだ。推薦もAOも受けず、どうするのだろって。でも、とにかくよかった。二者面談の時に、これからのことを考えよう。それまでに、できるだけのことはやれるな」

 

 それをきいたユウナは、

 

「はい」

 

 と、嬉しそうに答えた。吉崎も、笑顔で教室を出ていった。

 一般入試まであと三ヶ月。それに間に合うかなどは、ユウナは考えなかった。よって、目の前にあることだけに集中しようと思った。

 

 そして場所は変わり、ある実験室では……。

 一人の女性が部屋の前に来て、ノックをした。

 

「あなた、入るわよ」

 

 そして、ガチャリとドアを開けた。中は、多くの機械が部屋の面積の七割以上を占めている。そこは、正彦の研究室だった。正彦はデスクに向かい、なにやら分解した機械をドライバーで修理している。それを後ろから見ていたのは、妻の美千子(みちこ)だった。

 

「まだやってるの?」

 

 美千子は呆れながら言うと、正彦からは返事がなく、機械をいじる音だけが部屋の中に響いていた。美千子は、

 

「仕方ないわね」

 

 と言い、机にコーヒーを置くと、部屋を出ていった。しばらくして正彦は、

 

「できたぞ!」

 

 そう声をあげた。そしてコーヒーを一口飲んで立ちあがった瞬間、一枚の紙がデスクから舞い降りた。

 

「あぁ、いかんいかん」

 

 正彦が、その紙を拾いあげた。そこに書かれていたのはなんと、ユウナの顔写真と学歴だった。それが何を意味しているのか、その時は正彦以外、誰一人として知らなかった。

 

 一方、ユウナはミカと二人で下校していた。すると、ミカはこう呟いた。

 

「あー。進路決まってないの、クラスであたしだけかぁ」

「ミカも、専門学校受けるんじゃないの?」

「そうしたいんだけどさ、親は店継ぐものだと思ってるみたいだし。相談しにくいなぁ」

 

 ミカはそう言って、背伸びをした。

 

「これじゃ、恋もできないし。そうだ、ユウナは好きな人とかいる?」

 

 ミカが突然尋ねてきたので、

 

「何の話?」

 

 と、ユウナは笑いながらきいた。ミカは、ユウナが好きなのは大輝だと思っているらしい。しかし、ユウナの頭に浮かんだのは……。

 

「……いないよ」

「ふーん」

 

 そしてようやく、校門を出た。

 

「じゃあね!」

 

 ミカはそう言うと、駅に向かってスキップしながら走っていった。いつも通りの光景である。ユウナも背を向け、足早にバス停まで歩いていった。すると、

 

「中谷!」

 

 という声がするので、ユウナはまさかと思ってふり返った。それは、部活動中に校外をランニングしていた、相場だった。

 

「相場君……」

 

 相場はユウナの前まで走ってくると、

 

「進路、決まったんだって?」

 

 と、きいてきた。吉崎かミカが誰かに話したらしく、それは相場にまで伝わっていた。

 

「うん。龍山大にしようと思って」

「龍山って、あの変な先生がいるところだろ?」

「あ、うん。でも私、決めたんだ。一般入試まであと三ヶ月しかないけど、できるかぎりのことはするって」

 

 それをきいて、相場は笑顔になった。

 

「……そっか。じゃ、頑張れよ」

 

 相場はユウナの肩を軽くたたくと、公園の方に走っていった。そして、ユウナの鼓動はまた高鳴りだした。あれは気のせいだと決めていたが、この瞬間にもうそれはきかないと悟った。自分の体は、自分の心よりも正直だった。

 その言葉をきき、あの時以上に心臓が激しく動いていた。ユウナの脳裏には、またしてもリカの言葉が過ぎった。

 

『相場君のことが、好き……』

 

 ユウナは、相場が走っていった方を見つめた。そして、これはリカへの裏切りにならないだろうかと戸惑いつつ、心の中でこう呟いた。

 

(私も、相場君が……、好き……)

 

 

第四回「尊き憧れ(プレシャス・ヤーニング)」終

 

 

 

次回予告

アカリ「ユウナちゃん、相場君のことが好きなん?」

ミカ「え? そうなの?」

ユウナ「話があるの」

大輝「お前最近、ユウナと何か話した?」

ミカ「ねぇ、ユウナは誰が好きなの?」

ユウナ「どうやって打ちあけたらいいか、自分でもわからなくて」

大輝「お前、あいつのこと気になってるんだろ?」

智美「自分で選んだ道だから、仕方ないと言えば仕方ないわね」

ユウナ「私、相場君のことが好きなの」

百合子「ユウナには、自分で決めた道を進んでほしいの」

   「実は私、今転職を考えているの」

ユウナ・義輝「転職!?」

ユウナ「私も、未来に悔いは残したくない」

 

 

 

次回(第五回)

 

初めての告白(ファースト・コンフェッション)

序盤のキャラで、最も印象深い登場人物は?

  • 中谷優奈
  • 鶴ケ崎麗菓
  • 月見里美香
  • 夢野あかり
  • 池谷大輝
  • 相場善秀
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