サタールが外に出ていた。燃え盛る炎を眺めながら、こう叫んでいた。
「さぁ、もっと燃えよ! この世界ごと、焼き尽くすのだ!」
そして、また高笑いをしていた。この世界を本気で滅ぼそうとしない限り、このようなことはしないだろう。ユウナたちの命も、ますます危険に晒されていく。しかし、ユウナのもとへ、救世主が降り立ったのだ。
ユウナの目の前に、黄金色をした剣が降りてきたのだ。ユウナは、それを握ると皆の方を向き、そしてこう言った。
「行こう」
それをきいた四人は同時に頷き、そして走り出した。
現実世界では、慎一郎が悠二郎の部屋を訪れていた。ドアを開けると、そこには浮かない顔をした悠二郎の姿があった。テーブルに両肘をつき、下を向いている。慎一郎が来たことにも、気づいていないようだ。慎一郎が、
「おい!」
と声をかけると、ようやく悠二郎は気がついた。
「あ、ごめん。兄貴、そっちはどうだった?」
「あぁ、今はみんなが交代で傍についてる」
「そっか……」
悠二郎が呟くと、慎一郎は向かいの席に座った。
「今頃、必死に戦ってくれてるよ。だから、もう少し待とう。辛いのは、お前だけじゃないからさ」
「そうだな……」
「大丈夫、心配すんな! きっと、すぐに終わるさ」
落ちこむ悠二郎を、慎一郎は全力で励ます。それをきき、悠二郎も顔を上げた。すると、慎一郎が笑いかけてくる。それを見て、なぜだか少し安心できた。ユウナはきっとやってくれる、そう思えたからだろう。
病院では、正彦がベッドに横になっていた。以前と比べて、かなり弱ってきている。ここ数日、美千子は四六時中正彦につきっきりだ。それ以外の者は慎一郎の言った通り、交替で正彦の病室を訪れていた。
戸が開き、ヒロインが入ってきた。
「教授、調子はどうですか?」
「あぁ……、大丈夫だ……」
力ない声で、正彦は答える。ヒロインは、持ってきた花束を美千子に渡した。美千子はそれを受け取ると、花瓶に入れ替える。すると、正彦は天井を見つめながら呟いた。
「悔しいなぁ……。私はまだまだ生きなければならないのに……、これは罰が当たったのかもしれないな……」
それをきいた美千子は戻ってきて、
「何言ってるの。治るわよ、絶対。だから、諦めちゃダメ」
と、正彦に言った。
一方、SPではフギンが五人を助けに来ていた。
「それで魔法陣を描け」
「魔法陣?」
「お前らが散らばって、円になるんだ。それも、オヤジのいるところが中心になるように計算してな」
皆はフギンの話をきき、顔を見合わせる。何を言っているのか、まだよくわからない。それでもユウナは、フギンを信じることにした。
「……わかりました」
太陽龍・プテラドスに乗ってフギンが向かってくるのを見たサタールが、
「ほほぅ、裏切り者が今さら何の用だ」
と言うとフギンも、
「裏切り者はな、最後まで逆らうんだよ!」
そう言い、自分の手から剣を出した。フギンは、剣をサタールに向かって振り落とすと、サタールも同じように剣を出し、その攻撃を防いだ。そして二人は、戦い始めた。その間に、ユウナたちはそれぞれの場所に向かった。ミカは、こっそりと敵の後ろに回りこむ。そして小声で、
「オッケー、着いたよ」
と、皆に無線を送る。
「わかった。じゃあ、みんなは大丈夫?」
ユウナも、ほかの三人にきいた。
「うん、うちは大丈夫」
「あたしも」
「いいわよ」
皆も、それぞれに答えを送ってくる。そして五人は、一斉に剣を敵に向ける。それを、フギンと剣で戦っていたサタールも気づいたようだ。
「そういうことか……」
サタールは、笑みを浮かべた。それを見たフギンは、
「まずい!」
と声を荒げ、サタールに攻撃しようとすると、サタールに剣を払われた。
「くっ!」
次にサタールは、手からピンク色をしたゴム状のものを創り出し、それをフギンの方に向けて飛ばした。それは、まるでチューイングガムのように粘着力が強く、フギンはプテラドスと一緒に捕らえられてしまった。木と木の間に貼り付けられ、クモの巣に捕らえられた蝶のような状態だ。それを、ユウナも見ていた。
「フギンさん!」
「早くやれ!」
フギンが叫んだ。
「そうはさせない」
サタールが言うと、ヘビーメタルドラゴンはゆっくりとユウナの方を向く。それに危機を感じたミカも、
「ユウナ!」
と、叫んだ。それでもユウナは冷静に、黄金の剣を構えた。ほかの四人も、同じように剣を構える。その瞬間、光が生じた。その光は剣と剣を結び、やがて立派な魔法陣を生成した。順番に、一人ひとりが呪文を唱える。
『ダーク・マスター、アカネ!』
『ライト・マスター、アカリ!』
『アクア・マスター、ミカ!』
『ウッド・マスター、レイカ!』
『……レッド・ブレイブ・フレイマー、ユウナ!』
すると光は、ますます強さを増していった。
『この世界の運命は……、お前にかかっている。黄金の剣を手にし、奴らと闘うのだ』
これは、オーディンの言葉だ。
「させるかぁー!!」
サタールは大きな手を伸ばし、ユウナのところに迫ってきた。ユウナはぐっと手に力をこめた。
「お願い……! もっと力を……!」
ユウナは、必死に願った。そうすると、また光が強くなる。そして、魔法陣は完全に光を放出する。辺りは、目を開けていられないほどの強い光に包まれた。その瞬間、火山が爆発し、地面が盛り上がった。サタールは、それによって足場をとられた。するとまた、黒い炎が噴き出す。それにより、ヘビーメタルドラゴンは飲みこまれた。
「バ……、バカな……!」
サタールがそう言っていると、盛り上がった地面が崩れ始めたのだ。そしてサタールもまた、炎の中に落ちていった。もうすぐ、この世界は終わる。まるで、それを伝えているかのような光景だった。
ユウナたちも、早く出ないとプログラムと一緒に消去されてしまう。空を見ると、もう崩れ始めている。ユウナの周りに、四人は集まってきた。
「ねぇ、早く脱出しようよ!」
アカリは、焦ったようにユウナたちに言う。
「うん、ちょっと待って」
「ユウナ、出口わかってんの?」
「それは、アカネさんが……」
ユウナがアカネを見ると、
「うちに任せて」
と、アカネは言った。その時、ミカはふと思い出し、向こうに駆けていった。
「ミカちゃん、そっち危ないよ!」
すぐにアカリが呼びかけるが、ミカは止まらなかった。
ミカが目指したのは、やはりフギンのところだった。身動きのとれないフギンは、ミカを見て言った。
「バカ! 何考えてんだよ!」
「あんたがバカでしょ! 置いていくなんて、できるわけないでしょうが!」
ミカは、必死にフギンの体からゴムを外そうとしている。それを、木の下からユウナは見ていた。そこへ、三人も追いついてきた。
『この戦いが終わったら……、俺と、結婚してほしい』
ミカは、フギンとそう約束していたのだ。
「ごめんな……」
フギンが言った瞬間、ミカの身体が宙に浮いた。ミカは驚きながら、
「ちょっ、何これ!」
と言っていると、フギンはミカに笑いかけた。
「お前は、生きろ。ありがとうな」
フギンは自らの力を使って、ミカを宙に浮かせているのだ。
「ちょっと、降ろしてよ!」
「おい、ジタバタすんな」
フギンが言うと、どこからかタイヤのない自動車のような乗り物が飛んできた。それの上部分が開き、ミカはそこへ放りこまれた。そして、フギンはユウナたちを見ると、
「そいつを、よろしく頼む! 乗ってくれ、早く!」
と言うので、ユウナたちも従うことにした。もはや、それしか選択肢はないのだ。
「……わかりました」
ユウナも、胸が痛んだ。これから、大切な仲間を一人見殺しにしようとしている自分に、憎悪が湧いた。しかしフギンを救出するのは、もう不可能としか言いようがない。全員がその乗り物に乗りこむと、入り口が閉ざされた。ミカは窓をバンバンと叩き、
「いやぁ~! 出して、出して!」
と、泣きながら暴れている。それを見ていたフギンが、
「じゃあな」
そう言った瞬間、乗り物から煙が噴き出し、物凄いスピードでユウナたちを乗せたまま飛び去った。
乗り物から降りた五人は、走って出口に向かった。そして、研究室に続くセイントドアを潜った。異空間を走り抜けると、研究室に出た。部屋には、ミーサだけがいた。アカネは五人全員が研究室に入るのを見計らい、機械を操作してセイントドアにシールドを張る。モンスターが、外の世界に飛び出してこないようにするためだ。
ミーサは、フギンやサタールがいないことに気づいた。
「おい、兄貴とオヤジは!?」
それをきいて、ユウナは首を振った。それを見るとミーサは、セイントドアに突っこんでいこうとした。それを、アカネが止めに入る。
「離せよ!」
「待って、もうあかんって! あんたも、消されてしまうねんで!? 第一あんた、もうこの中入れへんやん」
「いやぁ~! オヤジ、兄貴~!!」
ミーサは、暴れながら泣き叫ぶ。
「離せ、離せよ~! 兄貴が死ぬんなら、私も死んでやる!」
その時、誰かがミーサを突き飛ばした。ミーサは倒れこみ、顔を上げるとそこにミカが立っている。
「あんたの気持ちは……、わかるよ。でも……、もう無理なの。それだけは、わかって。私だって……、私だって辛いのよ!!」
ミカが怒鳴ると、ミーサはすべてを察したように泣き始める。その直後、シールド越しに沢山のモンスターたちが集まってきた。その中にはユウナが所持していた、レッドの姿もある。ユウナは、セイントドアに近づいた。
「レッド……、ごめんね……」
「ユウナ……、離れて」
アカネは、レバーを握っている。それを引くと、完全にSPは消去されてしまうのだ。
「待ってください、もう少しだけ……」
ユウナがレッドを見つめると、レッドもユウナを見つめながら、涙を流しているように見えた。レッドもきっと、寂しいのだろう。SPが消えてしまうと、勿論レッドやほかのモンスターも皆、消去される。
「ごめんね……。君は、現実の世界では生きていけない。でも、このままにしておくと、大変なことが起こるの。だから、許して」
ユウナの目から、また涙があふれ落ちる。ミカやアカリは勿論、アカネも泣いている。これまで無表情を貫いていたレイカでさえも、目を兎のように赤く染めている。
「……いくで?」
アカネが言うと、ユウナは立ち上がってドアから離れる。アカネは、思いきりレバーを手前に引いた。その瞬間、ドアが爆発し、その爆音が研究室だけでなく、建物全体にまで及んだ。部屋中に煙が立ちこめ、それが治まると壊れた機械が顔を出す。ユウナはそれを見て、また涙を流した。
「レッド……、ごめんね……」
ユウナは、初めてレッドと会った時のことを思い出していた。
ユウナは、顔を上げた。その顔は、もう泣いてはいない。いつまでも悲しんでいたら、レッドたちに申し訳ない、そう思ったのだ。ユウナは笑顔で皆を見渡すと、
「教授に、報告しにいこう。全部、終わったって。あの世界は汚されることなく、終わりを迎えたんだって、教授に言いにいこう」
と、言った。それをきいたミカも、
「よし、じゃあそうしようか」
そう言って笑った。その反応は、ユウナにとって予想外だった。それ故に、嬉しかったのだ。アカリやアカネも、笑顔で頷いていた。
2031年3月31日。ユウナは電車に乗りながら、流れゆく景色を見つめていた。
ユウナは目的地に着き、電車を降りた。降りるとすぐ、ホームに立っている女性の姿が目に入る。ピンク色のつばの広い帽子を被り、スカートが風に揺れているのが艶めかしい。すると、強風が吹いてその帽子が舞い上がり、飛ばされてユウナの足元に落ちた。ユウナは、それを拾い上げると女性を見た。長い髪が風に靡き、そして目が合う。その女性は、レイカだった。ユウナは笑顔のまま、レイカに近づいていった。その上空には、雲ひとつない春の青空が広がっていたのだった。
完
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