ユウナは、夜中にふと目を覚ました。十一月も二週目となり、急に冷え込んできたのだ。布団から出ると、部屋の中とはいえ肌寒く感じるほどだった。ユウナはその後、なかなか寝つけずに起き上がった。机の灯りをつけ、椅子に座り、過去問を開こうと手を伸ばした時、あるものに目がいった。それは壁に貼ってある、十年前の夏、謎の男にもらった一枚の福引券だった。その男は十年後にまた再びユウナの前に姿を見せた。
『君たちは……、フンだ』
という言葉を残し、全校生徒に衝撃を与えた。しかしその出来事のおかげで、ユウナは自分のやりたいことを見つけることができた。そしてユウナは、灯りを消して再び布団に戻るのだった。
一方、とある研究室では誰かがパソコンのキーボードをたたいていた。画面いっぱいには、複雑なプログラムが表示されている。部屋には機械音だけが響き、まるで異世界のような空間を作り出しているようだ。
「いつまでやってるの?」
不意に、後ろから女性が声をかけた。その男は手を止めると、ふり返った。
「あぁ。もうすぐ終わる」
それは龍山大学の教授、
「やりたいことをするのもいいけど、程々にしてくださいね」
と言い、部屋を出ていった。正彦は再び画面の方を向くと、また手を動かし始めた。その部屋は、一瞬だけ現実の世界へと戻り、そしてまた異なる次元へと化した。
戻って、ユウナはその日も同じ時間に登校した。
「ユウナ、おっはよ〜」
ユウナが廊下を歩いていると、そう言いながらミカが走ってきた。
「ねぇ、昨日どうだった?」
「え? 何の話?」
「相場君のことに決まってんじゃん。で、返事は?」
「あぁ、うん。ダメだった」
「そっかぁ」
「でも私、すっきりした。これでようやく、勉強にも集中できそうだから」
ユウナから、笑顔がもれた。するとミカが突然、
「あ、相場君おはよー!」
と言い、前を歩いていた相場のところに駆けよった。相場がふり返ると、ユウナは恥ずかしそうに少し下を向いた。しかし以前のような緊張はなかった。そして顔を上げると笑顔で、
「おはよう」
と言った。相場もそれを見て、
「おはよう」
と、返した。相場が去ると、ミカはユウナのところに戻ってきて言った。
「なんか、変わったよね。相場君」
「え、何が?」
「雰囲気とか。ユウナ鈍感だからわかんないかもだけど」
ミカに言われて、ユウナはそうかもしれないと感じた。ユウナは、しばらく相場の後ろ姿を見つめていた。すると、突然ミカが話を変えた。
「そうだ。ちょっといい?」
ミカに促され、二人は廊下の端の方へとつめよった。
「珍しい宝石が手に入ったの」
ミカは小声でそう言った。ミカの家は、宝石代理店で高価な珍しい宝石も扱っている。
「それって、高いやつ?」
ユウナはきいた。
「うん。きいた感じ、五百万くらいかなぁ」
「五百ま……!」
ユウナは言いかけ、はっとして両手で口を押えた。周りには、あまりきこえていないようだった。ミカは続けて、
「そうだ、今日学校終わったらうち見に来ない?」
と言ってきた。
「え? いいの?」
「うん」
ユウナは嬉しそうに顔を輝かせた。考えてみれば、ミカとは二年から同じクラスだが、家に行くのは初めてだった。それだけに、ユウナは楽しみだった。
第六回
昼休み。体育帰りに、ユウナはアカリと教室前の廊下を歩いていた。
「ミカちゃん、どこ行ったんじゃろね」
ミカは教室に戻らずに、そのまま委員会の仕事に行っていた。すると向こうの掲示板に、生徒たちが大勢集まっていた。二人は見に行くと、中間テストのランキングが公開されていた。上禅では、定期考査ごとに上位二十名が発表される。ユウナとアカリも、教室に戻る前にその表を見た。
三年二学期中間テスト成績上位者
順位 名前 クラス
一位 鶴ケ崎麗菓 三組
二位 春日かおり 二組
三位 西城 佑希 三組
四位 石田 茉奈 一組
五位 相場 善秀 六組
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八位 池谷 大輝 六組
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十七位 月見里美香 六組
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二十位 橋本洋太郎 二組
「うわぁ、鶴ケ崎さんまた一位じゃね」
アカリが思わず口に出した。
「あたし、また勝てなかったんだけど」
そう言ったのは、二位の
「鶴ケ崎さんって、吹部の鶴ケ崎先生の娘さんでしょ? いいなぁ、勉強できる人って」
「どうせ、東大とか受けるんだろうなぁ」
「でも将来期待されすぎてて、逆に負担大きいんじゃない?」
「あ、それ言えてる!」
「じゃあかえって可愛そうな人なんだね」
前からは、そんな会話がきこえてくる。でもユウナは、わかりきっていたレイカの一位とは別に、ある名前をずっと見つめていた。
「ユウナちゃん、どしたん?」
アカリがきくとユウナは、
「この高校ってさ、一学年何人だっけ」
ときき返した。するとアカリが、
「あぁ、うん。え〜と七クラスやけん……、二百七十人くらいやと思うよ」
そう答えた。するとユウナは、こう言うのだった。
「それで十七位も……、すごいよね」
「あ、ミカちゃん? ほんとじゃ、相当すごいよ!」
アカリも、ミカの十七位という成績に驚いていた。ユウナは、前から少しばかりミカのことが気にかかっていたのだ。一体、どこを受験するのだろうか。
その後、三人は中庭の隅で話をした。
「え? 嘘。あたし入ってた?」
「うん、十七位」
「すごいね〜。ミカちゃんって、何気に賢いんよね」
「ミカはどこ受験するの?」
ユウナがきくと、ミカは若干の笑顔でこう言った。
「どこでもいいや。就職さえできればさ」
ミカは立ち上がった。ユウナは、ミカの背中に声をかけた。
「本当はやりたいことないの?」
それをきき、ミカはふり向いた。ユウナは多少戸惑いながらも、
「やっぱり、友達だからきいておきたいなと思って。本当は、どう思ってるのか」
そう言うと、ミカは笑って答えた。
「本当だよ。あたし、べつに進路とかどうでもいいし。適当な大学行って、適当に就職したいだけだし。全然心配ないよ。それなりの学力もあるしさ。ユウナは、龍大受けるんでしょ? アカリは音大だっけ。あたしも自分の学力にあった大学行くから」
ミカは笑いながらそう言うと、一人校舎の中に入っていった。しかしユウナには、無理に笑っているように見えた。そして、あれはミカの本当の気持ちではないとも思えた。きっと、本音を隠して一人悩んでいるのだ。
「ミカちゃん、強がっとるだけみたいやね」
「えっ?」
「笑顔作って、友達に心配かけられんみたいに思っとるんやと思う」
「アカリにも、わかるんだ」
「表情見ればわかるけんね」
ユウナはしばらく、校舎の方を見ていた。ふと、ミカの周りだけ時間を止めてあげてほしいと思った。もう少し時間があれば、きっと答えを見つけ出せたのかもしれない。ユウナは、そこに若干の悔しさを覚えた。高校の半分以上もの間、いつも側にいたのに、そのことにもっと早く気づけなかったものだろうか。特に喧嘩もなく、ずっと一緒にいたのに、何もできない自分が情けなかった。ミカの笑顔は、少し切なそうにも見えた。無理に笑い、ユウナたちに心配をかけないようにしているミカが一番辛いのかもしれない。ユウナはそのことに対し、一人で葛藤を抱いていた。
教室に戻ると、クラスは上位ランキングの話で盛り上がっていた。六組ではミカのほかに、相場が五位、大輝が八位だった。
「相場君、なんでそんなにできるの?」
「賢くてスポーツもできる人、憧れちゃうな」
佳帆をはじめ、クラスの女子が相場の席を囲っていた。ユウナも、自分の席に座った。隣から、こんな会話がきこえてくる。
「やっぱクラスだけじゃなくて、学年でもトップに入れるってすごいよね」
「べつにそんなすごくねぇよ」
「うわ〜、謙遜しちゃって!」
ユウナは、横でそんな話をききながら、相場が言ったことを思い出した。
『もう少し待ってほしい。お互いに落ち着いたら、また話そう』
すると、相場とユウナの席の間を大輝が通りかかった。
「大ちゃん、負けてたね」
ユウナが小声で話しかけると、
「うるせぇよ」
大輝はそう言い、相場の方を見てこう言った。
「期末は負けねぇからな」
相場もそれをきいて、
「おう」
と、答えていた。ユウナもそれをきいて笑っていると、隣にいた女子がこう言った。
「そういえば、中谷さんも結構賢いよね」
「え?」
「そうそう、このクラスだけだと結構上位にいるくない?」
意表をつかれ、ユウナは少々戸惑った。すると相場が、
「次は、入れるといいな」
と言ってくれたので、ユウナは頷いた。そして、前を向いてミカのことを気にした。ミカは何もきこえていないように、席についてスマホでパズドラをしていた。
序盤のキャラで、最も印象深い登場人物は?
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中谷優奈
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鶴ケ崎麗菓
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月見里美香
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夢野あかり
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池谷大輝
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相場善秀