パズル&ドラゴンズ~もうひとつの旅~   作:葉之和 駆刃

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第7話 夢への変心~チェンジ・オブ・ドリーム~(その壱)

 朝、ユウナは目を覚ました。カーテンの隙間から、日の光が差しこんでくる。ここのところ、朝の気温が一気に下がり、布団から出たくないという気持ちが衝動的に大きくなっていた。ユウナは思いきって体を起こすと、充電器につながれている自分のスマホを見つめ、夜中の出来事を思い出した。

 正体不明の生物が突然スマホから飛びだし、勝手に部屋の戸を開けて一階に下りていったのだ。ユウナは急いで追いかけたが、正体はつかめなかった。あれは一体、何だったのだろうか。もしかすると、ずっと夢を見ていたのかもしれない。ユウナはそう考えながら、歯を磨いた。リビングでは、いつものように母の百合子が朝食の用意をしている。その横で、弟の義輝はカバンにユニフォームや着替えを詰めこんでいる。ユウナも制服に着替えると、席に着いた。百合子が目玉焼きを置きながら、

 

「勉強してる? でも、あんまり睡眠は削っちゃだめよ。試験の日、頭が回らないと意味ないんだから」

 

 と言った。

 

「わかってるよ」

 

 ユウナはそう言って、食べ始めた。

 

「行ってきます!」

 

 義輝は元気よくそう言うと、家を出ていった。

 

「行ってらっしゃい!」

 

 百合子もそう言いながら、玄関に見送りにいった。そうしていると、ユウナの頭の中をふとあの日のことが過ぎった。

 

『夢を見つけ、その夢に向かって今できることをやる。それこそが、未来に求められる最良の道だと、私は思う』

 

 十年ほど前、ユウナに福引券を譲ってくれたあの男、有名大学の教授である横大路正彦。正彦の言葉のおかげで、ユウナは夢を見つけられたのだ。それを思うと、なんとか現役で受かってみせたい。でも、現実はそう甘くはないだろう。勉強は続けているが、まるで受かる気がしない。吉崎はまだ三ヶ月あると言っていたが、ユウナの不安は日を重ねるごとに増していく。過去問をやっていても、なかなか合格ラインまで点数が伸びない。このままでは、現役合格は不可能に等しいだろう。でも、後悔しないためにもできるだけのことはやりたい。そう思いながらユウナは、朝食をとった。

 

 そして学校に着くと……。

 

「え? あたしも見たよ」

 

 ミカがそう言うので、ユウナは目を丸くした。

 

「え? どういうこと?」

「なんかさ、急にケータイから丸っこい変なのが飛びだしてきて」

 

 ユウナは信じてもらえるはずないと思い、話すことをためらったが、昨夜の不思議な体験をミカとアカリに話した。すると、ミカにも同じようなことが起こったのだという。

 

「それ、何色だった?」

 

 ユウナがきくと、ミカが答えた。

 

「う~ん。暗くてよくわかんなかったけど、たぶん水色」

 

 ユウナは、昨夜のことを思い出した。ユウナも暗くてよく見えなかったが、たしか赤色のような気がした。するとアカリが、こう言いだした。

 

「そういえばうちも同じようなん見たよ」

「え?」

「なんかね、夢かな~って思っとったんやけど、二人が見たっていうけん、驚いとったんよ」

「それ、何色?」

「え~と、パズドラに出てくるモンスターにちょっと似とった」

 

 それをきいて、ユウナは思い出した。暗くて気づかなかったが、よく見ればパズドラに登場する、あるモンスターそっくりだったのだ。これはどういうことか、その時のユウナには理解できなかった。

 

「そういえばさ、前もそんなことあったくない?」

 

 ミカが突然言い出した。

 

『何がじゃないわよ、あんなことって普通あり得る!?』

『じゃあやっぱり、二人も見たんだ』

『ユウナちゃんも?』

 

 以前、ユウナの目の前に突然、巨人のようなモンスターが現れ、しかもそれを他の二人も見ていたという奇妙な出来事があった。そして、今回の一件。アカリとミカは、気持ち悪がっている様子だった。ユウナはふと窓を見ると、窓の外は強い風が吹いているのか、木がなびき、葉が次々に散ってゆく。冬が近い、そのことを自然は教えてくれているようだった。そして、高校最後の冬が始まろうとしていたのだ。

 

 

 

第七回 夢への変心(チェンジ・オブ・ドリーム)

 

 

 ユウナは電車の中で、溜息をついた。

 

「なんだお前、元気ないじゃん」

 

 そう話しかけてくるのは、大輝だった。今日は部活がオフで、久々にユウナは大輝と一緒に電車で帰っていた。

 

「大ちゃんは、入試、終わったんでしょ?」

「まぁ、明日発表だからまだなんとも言えねぇけど」

「受かるといいね」

「あぁ」

 

 大輝は恥ずかしそうに、指で目の下あたりをかいた。

 

「思えば、私がこうして学校行けてるのって、大ちゃんのおかげだよね」

「なんだよ、急に」

 

 ユウナの言葉に、大輝はまた更に赤くなった。

 

「でもまぁ、お前昔は全然心開いてくれなかったもんな」

「そんなことないよ」

「いや、でも引きこもってた時さ、何度声かけても全然返事してくれなかったじゃん」

「あの時は、ほんとに、誰とも話したくなくて。学校にいけないくらいだったからたぶん、相当病んでたんだと思う。でもあの時、大ちゃんはそれにもかかわらず、毎日家に来てくれた。そのおかげで、学校に行けるようになった。今でもずっと、感謝してるから」

 

 ユウナがそう言うと、大輝を見上げた。大輝は焦って、目線をそらした。

 

「大ちゃんなら、きっと受かるよ。人を助けたいって思えるなんて、すごいことだと思う。だから……」

「相場も同じとこ受けたんだ」

「えっ……」

 

 大輝は顔を上げると、こう言うのだった。

 

「あいつも、将来救命士になりたいって。俺と同じ学科(とこ)受けたんだ。まぁ、アイツもいろいろあるらしいけど。母親が数年前に火事で死んだらしい。それで、アイツ人の命を救える仕事がしたいって思うようになったらしいんだ。詳しい話は知らねぇけど」

 

 ユウナはそれをきいて、思い出したことがあった。

 

『うち親が厳しくてさ。親父なんか最初の年は、ろくに口きいてもくれなかったんだ』

 

 相場が話していたのは、父親の話で、母親のことは出てこなかった。

 

「それで……、あの時……」

「どうした?」

「え、べつに。でも、相場君何も言ってくれなかったから、知らなくて……」

「そっか。それよりさぁ、告ったんだろ? 相場に」

 

 ユウナは大輝に不意をつかれ、赤くなった。

 

「え? あ、うん。ダメだったけど」

 

 すると大輝が、

 

「でもまぁ、よかったんじゃね?」

 

 そう言うのでユウナは、

 

「どういうこと?」

 

 ときくと、大輝が言った。

 

「あいつ、女子に人気あるだろ? だから付きあってることが周りに知れたら、たぶん相当妬まれるぜ。一年の頃、あいつ彼女いたらしいけど、その子も周りから結構陰口とか散々言われてたみたいでさ。それに耐えきれなくって結局別れたんだってさ」

「そうだったんだ……」

 

 ユウナは、大輝は自分の知らないことまでよく知っているのだと感心した。

 改札を出て、ユウナは大輝の隣を歩いた。

 

「今日はありがと」

「あ?」

「私、相場君のことなんにもわかってなかった。それなのに告白して、バカみたいよね。自分で自分の首絞めてたみたい。ありがとう、気づかせてくれて」

「いや。大げさだな、お前」

 

 大輝がそう言うと、少し照れたように笑った。それでもユウナは、笑顔で大輝を見つめた。大輝もそれを見て、また少し赤くなった。それに気がつき、大輝はまた顔をそらした。

 

 大輝と別れ、ユウナは自分の家に帰っていった。それを見送りながら、大輝の心は少しずつユウナのところに揺れ始めていた。

 ユウナは家に帰ると、玄関を開け、いつも通り自分の部屋へ上がった。ドアを開けた時、ユウナはいつもとは違う、異様な光景を見た。部屋が荒らされ、本棚からは本が数冊床に落ちている。ベッドも何かが飛び跳ねたような痕跡があり、ちゃんと閉めていたはずのクローゼットも開いていて中のポスターが見える。ユウナは几帳面で、ちょっとしたズレも見落とさなかった。だから毎朝、部屋を出る時には丹念にチェックを入れているのだ。そのため、それを見たユウナは言葉を失った。一体誰がこんなことをしたのか。義輝は、ユウナが家を出る前にすでに家を出ていた。かといって、百合子がそのようなことをするはずもない。もしかして、空き巣でも入ったのかと思い、窓の鍵を確かめるが、しっかりとかかっており、何も盗られた形跡はなかった。

 

 ユウナは怖くなり、一階に降りてリビングに行くとそこは何もなかった。特に荒らされた跡はなく、ユウナは少し安堵した。少し落ち着いたユウナは、何か飲もうと冷蔵庫のドアを開けた。すると、ユウナは固まった。冷蔵庫の中身がすべてなくなっている。それだけでなく、赤色の生物が一番下の段で背を向け、動いている。ユウナは何も考えることができずに、それだけを見ていた。間違いなく、昨日見たものとまったく同じ生物だとわかった。しかもそれはアカリの言う通り、パズドラに登場するモンスターだった。赤くて丸い、体長四十センチほどのモンスターだった。するとそのモンスターは気がつき、冷蔵庫の中から飛びだしてきた。ユウナも驚き、飛びあがって退いた。そのモンスターは手足がないため、ピョンピョンと跳ねながら部屋を出ていった。

 

 ユウナはそれを追いかけ、部屋を出たが見失ってしまった。しかしユウナは、一体どこへ行ったのかよりも、なぜ現実の世界にゲームのモンスターが存在しているのかが謎だった。以前見た、巨人のようなモンスターのことも気になっていた。

 ちょうどその時、義輝が帰宅した。義輝は空の冷蔵庫を見て、こう言った。

 

「あ、俺のプリンがねぇ! 姉ちゃん、食っただろ」

 

 疑いをかけられたユウナは、

 

「違うって! それより、また見たの。昨日の変な生物」

 

 と言った。

 

「は? 夢じゃなかったの? どんなやつだよ?」

「それがね、パズドラに出てくる、赤いキャラクターに似てたの」

 

 それをきいて、義輝は大笑いした。

 

「ゲームのしすぎで幻見んのかよ! そりゃあ、知らなかったわ! てか、もっとマトモな言い訳考えろよ。ウケるわー」

「だから違うってば! 冷蔵庫の中、空っぽになってるでしょ?」

 

 義輝は、改めて冷蔵庫の中をのぞいた。

 

「あっ! ほんとだ!」

 

 プリンのことで頭がいっぱいで、よく見えていなかったらしい。

 

「ったく、誰だよこんなことしたの」

「やっぱりモンスターが……」

「いや見間違いだろ? ゲームの中のやつが、本当にいるわけないじゃん」

 

 義輝は、微塵も信じようとしなかった。当たり前だろう。目撃したはずのユウナでさえ、目の前で起こったことがいまだに信じられなかったのだ。

 

 ユウナは部屋を片付け、忘れようと思った。今は考えるのをやめ、勉強にとりかかった。そして区切りがつき、一息入れる時にアカリに電話をかけた。そろそろ寮に帰っているころだと思ったからだ。

 

『あ、ユウナちゃん?』

 

 アカリは、いつもと同じような感じで電話に出た。

 

「あ、アカリ? ごめん、急に電話して」

『かまんよ。で、何があったん?』

「アカリ、言ってたよね、パズドラに出てくるモンスターに似てる何かを見たって」

『うん』

「私、今日また見たの。やっぱり、おかしいよね。そんなこと、あるはずないもんね。きっと疲れて、おかしくなってるだけだよね」

 

 ユウナは、アカリがイエスと言ってくれることを大いに望んだ。そうなれば、特に気にしなくていいと思った。だが、アカリの口から出た言葉は完全にユウナの予想を上回った。

 

『それが……、あたしも見たんよ、今日学校で』

 

 ユウナは、何も声にできなかった。

 

『楽器運んでたらね、向こうの廊下を何かが通ったのが見えて……。その時、間違いない、昨日見たあれやって思ったんよ』

「それって、赤いやつ?」

『ううん、黄色いの』

 

 アカリは答えた。どうやらミカとアカリが見たものは、それぞれ少し違っているらしい。でも、パズドラのダンジョンに出てくるモンスターであることに違いはないだろう。ユウナは幼いころから様々なゲームをしてきたので、幻覚が見えるのかと思ったが、アカリはこのパズドラが初めてプレイするゲームであり、小さいころは主に外で遊んでいたと言っていた。ならばなぜ見えるのか。あれは、本当に実体があるものなのだろうか。もしそうならば、なぜユウナのスマホから飛びでてきたのだろう。ユウナには、いくつもの疑問が生まれた。

 ユウナは、勉強している間はそのことをできるだけ忘れようとしたが、食事中や入浴中はずっとそのことが頭から離れなかった。

序盤のキャラで、最も印象深い登場人物は?

  • 中谷優奈
  • 鶴ケ崎麗菓
  • 月見里美香
  • 夢野あかり
  • 池谷大輝
  • 相場善秀
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