翌日も、ユウナはあまり授業に集中できなかった。やはり、あのモンスターの正体が気にかかっていた。昼休み、いつもなら三人で机を並べて昼食をとるのだが、アカリは昼練でミカは委員会に行っていたためユウナは一人だった。
仕方なく、一人屋上に足を運んだ。そこで、ゆっくり昨日のことを整理しようと思った。ユウナは手すりに手をかけ、屋上から見える景色を見つめた。向こうに山々が見え、その下には住宅地が並んである。山にはまだ紅葉が残り、冷たい秋風がユウナの頬をかすめる。ユウナはそこで、昨日のことを考えていた。あの正体は、もしかすると人間が作りだしたものなのかもしれない。そうだと仮定すると、どうやって、そして何のために作り上げたのだろうか。そのようなことを考えていると、後ろで女子の声がした。
「ユウナ?」
風に混じったその声を、ユウナはきき逃さなかった。ユウナはふり返ると、
「やっぱりユウナだ! チョー久しぶり〜」
と言って、かけよってくる女子がいた。この前の中間テストで学年を通して二位の
「元気してる?」
かおりは、ユウナの隣の手すりにもたれかかった。しばらくするとかおりは、身体を起こしてこう言った。
「そうだ、最近池谷君とはどうなったの?」
「え?」
ユウナは思わずきき返すと、かおりは不思議そうに言った。
「えっ、何にもないの? ほんとに?」
「え、だって大ちゃんとは友達だし……。それ以外に、何もないよ」
するとかおりは、手すりに手をついて、向こうを見つめながら言った。
「そっかぁ。そうだよね。でもぉ、池谷君、ずっと見てたよ。ユウナのこと」
「大ちゃんが?」
「三年間同じクラスだから、てっきりうまくいってるのかと思ってた」
「ねぇ、何の話?」
「根性ないなぁ、運動部なのにね」
かおりはそう言い、背を向けて校舎の方に歩いていった。ユウナは、
「待って!」
と呼び止めると、かおりはふり向いてこう言った。
「ユウナも頑張りなよ」
そして、かおりは完全に中に入っていった。ユウナには、かおりの言ったことが何を指しているのかよく理解できた。しかし、大輝のことは小学校からずっと友達だと思い続けてきたので、今更そのようには思えなかった。そうしているうち、五限目の予鈴が鳴った。ユウナはベンチにあった自分の弁当を持ち、急いで教室に戻っていった。
そして一日が過ぎ、ミカと一緒に校門を出た。すると、
「ユウナちゃ〜ん、ミカちゃ〜ん!」
と言う声がするので二人はふり向くと、アカリが楽器の入ったケースを抱えて走ってきた。
「アカリ、どうしたの?」
ミカが不思議そうにきいた。
「へへ、早退してきたんよ」
「え? どうして?」
今度は、ユウナが尋ねた。するとアカリは、
「荷造りあるけん」
と、答えるのだった。
「どっか行くの?」
ミカがきくと、アカリはこう言った。
「うち、明日から実家帰ることにしたんよ」
「えっ?」
突然のことに、二人は戸惑った。
「な……、なんで?」
「昨日、お母さんから連絡があったんよ。ちょっと、いろいろあったみたいで」
「そう、なんだ……」
アカリは愛媛県から、クラリネット奏者を目指し、中学卒業後に一人で上京してきた。今は音大を目指し、余程のことがない限り部活には毎日出席していた。そのアカリが、今日は荷造りをするために早退してきたのだという。何があったのか気になったが、ユウナはあえてきかなかった。
その後、アカリは寮に帰っていき、ミカとも別れてユウナはいつものようにバス停で、バスを待った。やがてバスが来て乗車すると、窓の向こうにアカリの寮があった。ユウナはそれを見つめながら、しばらく考えていた。直感だが、何かよくないことがある予感がした。
一方、京都の私立大学、龍山大学のキャンパスから少し離れた場所に、小さい研究施設がまるで隔離されたように孤独に立っていた。その中で、
「あなた、お客様よ」
それは正彦の妻であり、秘書の横大路
「あなた!」
と、強く呼んだ。それに正彦はようやく気がつき、手を止めてふり返った。
「おぉ、なんだ」
正彦がそうきくと、また美千子は呆れ返った。
「お客様が」
「あぁ、すまんすまん。いやぁ、何かに集中するとつい夢中になってしまってな」
「何の研究か知りませんけど、世の中の役に立つ研究をしてくださいな」
「いや、でもこれは素晴らしい研究だぞ!うまくいけば、世の中に革命が起こる」
正彦は、自信たっぷりに言った。美千子は、何も言う気になれなかった。正彦は、また画面を見つめた。今、正彦がしようとしていることが近い将来、ユウナたちをも巻きこんでしまうことになるのだが、まだそれは誰も知らなかった。
次の日の朝、アカリは東京を出、新幹線で岡山まで行き、そこから各停に乗りかえて四国へ入り、愛媛の今治に向かった。キャリーバッグを片手に、アカリは実家の戸を開けた。
「ただいまぁ!」
アカリが中に向かって元気よく言うと、
「お帰り!」
と言う声が返ってきた。母の夢野
「疲れたじゃろ? ご飯用意してあるんよ」
「え? 何?」
アカリは朝から、ろくに食べていなかった。テーブルの上には、オムライスがラップしておいてある。
「アカリの好きなオムライス、今あっためるけんね」
アカリは久しぶりの我が家に、新鮮さを覚えた。明るさ、匂い、全てが懐かしく思え、アカリを優しく迎えてくれているようだった。
手を洗い、アカリは席に着いた。そしてアカリは、この日のために母が作ってくれたオムライスを食べた。
「う~ん、寮の食事もよかったけど、やっぱりお母さんのオムライスが世界一やね!」
アカリが嬉しそうにそう言うと、嘉代子も嬉しくなった。するとアカリは、
「でも、急になんで?何かあったん?」
と言い、嘉代子に帰ってくるように言った理由をきいた。それをきいて、嘉代子が笑うのをやめた。するとすぐにまた、笑顔でこう言うのだった。
「アカリの顔を見てみとうなったんよ。どう?最近」
アカリはそれを見て不思議に思ったが、その場では納得した。
「うまくやっとるよ。それより、お父さんはおる?」
アカリがきくと、嘉代子が答えた。
「あぁ、帰って来とるよ。今、和室やと思う」
アカリはそれを食べ終えると、和室へと向かった。和室の戸を開けると、父が胡坐をかいて座っていた。父の夢野
「おぉ、アカリか。よう帰ってきたなぁ」
と、笑顔で言った。アカリが前に座ると、政介は言った。
「出願は済ませたか?」
「ううん、まだ。年明けでも十分間に合うけん、今度総体なんよ。で、その次は吹部の都大会。それが終わったら、少し落ち着くけん、受験しようと思う。音大行って、絶対にプロになっていっぱい稼ぐけん!応援しとってね」
「おう、期待しとるぞ!」
政介はそう言って、笑ってくれた。アカリにとって、それが今まで何度支えになったことかしれない。政介は立ち上がり、部屋を出ていった。政介の様子も特に変わったところがなく、安心してアカリは自分の部屋に行った。
その夜、アカリは家の外でユウナに電話をした。これから冬に入ろうとするのに、東京ほど寒くはなく、夜空には月が静かに輝いていた。
「ユウナちゃん……?ごめんね、勉強中やのに」
『べつにいいよ。それより、どうしたの?』
「あ、うん。久しぶりに実家帰って、安心した。両親も相変わらず優しく接してくれとるし。なんか……、恵まれとるなぁって感じがした」
『そっか。よかったね』
「うん。あ、特に用事があったわけじゃないんよ。ちょっと、なんとなくかけてみただけ。じゃあね」
『うん、また』
アカリは、通話をオフにした。アカリは、ユウナの声をきいただけで励まされたような気がした。しばらくその余韻に浸っていると、後ろで声がした。
「アカリ、まだ起きとったんか」
後ろをふり向くと、政介が立っていた。
「お父さん……」
政介はアカリの隣に来ると、月を見上げた。そして、こう言った。
「東京でも、月は出とるんやろ?」
「うん。でも、こことは少し違う。都会に出るまで、ここから見える月しか見たことなかったけん。向こうでも綺麗に見えるけど、やっぱりうち、こっちの月の方が好き。もし、アーティストになる夢が叶わんかった時は、ここ、戻ってきていい?」
アカリはそう言って、政介を見つめた。政介は、
「好きにしい」
と言って、また空を眺めていた。
「なぁ、アカリ。なんでお前のことを『あかり』って名付けたか知っとるか?」
政介が、急にきいてきた。
「え……、なんで?」
「月はどこにおっても美しく見えるやろ? だからお前も、どこにおっても頑張れるように、どこにおってもあの月みたいに輝けるように、その名前に決めたんや」
「そう、やったんやね……」
初めて自分の名前の由来を知り、アカリは涙をこぼしそうになった。でもぐっと堪え、政介の方を見て言った。
「うち、頑張るけん! 絶対に、有名なアーティストになる!」
政介はそれをきいて、頷いた。そして、
「風邪ひくけん、もう入り」
と、アカリの肩をたたいた。アカリも促されるようにして、中に入っていった。世の中では、これをフラグという。翌日、その家族を悪夢が襲った。
序盤のキャラで、最も印象深い登場人物は?
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中谷優奈
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鶴ケ崎麗菓
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月見里美香
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夢野あかり
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池谷大輝
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相場善秀