ユウナは学校から帰り、また大学入試の過去問を開いた。受験をするにあたり、同じ問題を何度も繰り返しやることで、いくつかの出題パターンを一つひとつ覚えなければならない。土台となる要素を押さえることによって、合否がかかわってくる。少しのミスも許されないからこそ、繰り返しやることが肝心となってくるのである。進路が定まってから一ヶ月が過ぎ、この間の模試では判定Dだったものの、ユウナの実力はかなりついてきている。あとは、応用問題をどう対処するかが重要であった。
しかし、ユウナにはもう一つ問題があった。期末テストだ。受験にあまり関係のない範囲が多いが、それなりの点数を取らないと後々厄介なことになる。それは、一つでも赤点があった場合、補習になるのだ。その分、受験勉強に費やす時間が削られる。しかし、学校にそのように言ってもきいてくれない。二つの勉強を両立させるのは難しいが、それをやらないことには合格という目標はだいぶ遠ざかってしまう。この一週間、受験に向けての勉強もやりつつ、学校の勉強と両立させねばならない。そして、とうとう期末テスト前日を迎えたのであった。
第八回
2012年12月3日。明日から期末テストということもあり、昼休みは教室に生徒がほとんど残らなかった。皆、図書館で勉強したり、食堂に行ったりしていた。ユウナ、ミカ、アカリの三人はいつものように、教室で机と椅子を並べ、昼食をとっていた。
「あ〜、明日から期末かぁ」
ミカが、溜息をもらす。
「受験関係ないのに、なんでやらなきゃいけないんだろね」
「仕方ないよ、そういうもんなんやけん」
ユウナはふと教室を見渡すと、残っている生徒は皆、食べながら勉強しているか、友達同士で教えあったりしている。見ている限り、何もしていないのはこの三人だけのようだった。
「やっぱり、誰かに勉強みてもらおうかな」
ユウナは、そう言った。
「あたしも。てゆうか、一人でやってても何やっていいかわからない時あるよね」
ミカも、そう言った。すると教室に、担任の吉崎が入ってきた。
「なんだ、お前らは勉強しなくていいのか?」
吉崎が、三人にそう言った。するとミカが、
「でもなんで受験関係ない範囲やらせるの?」
と、吉崎に不満をぶつけた。それをきいて吉崎は、
「まぁ、そういうものだからな。仕方ないと思って頑張るしかないさ」
そう言うのだった。ミカは、
「え〜。てか先生、結婚しないの?」
と、何気に話をそらした。
「そんなこと言うくらいなら、この時間を有意義に使ったらどうだ」
吉崎は、そう言って正論を述べた。すると、
「おっと、忘れるところだった。夢野、持ってきてやったぞ」
と言い、吉崎はアカリにある書類を渡した。
「何それ?」
ミカが尋ねると、アカリが言った。
「地元の国公立受けよう思うんやけど、よう知らんけん。先生に持ってきてもろたんよ」
そしてアカリは、書類をめくった。
「じゃあしっかりやれよ」
そう言い残し、吉崎は出ていった。それを見ていたユウナは、
「アカリ……、国公立受けるんだ」
と言うと、アカリは頷くと言った。
「うちそんな賢くないけん、偏差値三十くらい上げんといかんのよね〜。今年はもう無理やと思うけど」
それをきいて、ユウナは驚いた。一、二ヶ月で、果たしてそんなに上がるのだろうか。でも友達として、できるだけ応援してあげようと思った。するとミカが、
「ねぇ、さっきの話だけど、誰に教えてもらう?」
ときいてきたので、ユウナは不意に廊下を見た。すると、自分たちの教室の前を通る一人の女子生徒が目に入った。身長一六八センチの、女子バレー部キャプテン。そう、レイカだった。ユウナは立ち上がり、教室を出てレイカに声をかけた。
「鶴ケ崎さん!」
レイカはふり返った。
「今日、放課後、時間空いてるかな。よかったら、明日のテスト勉強、手伝ってほしいなって思って」
するとレイカは、こう答えた。
「悪いけど、もうすぐ試合なの。終わるのだって七時過ぎだし、身体はクタクタ、それに早く帰らないと親が心配するから。それから、前にも言ったわよね? もう私に構わないでって。人に教えるのとか好きじゃないし、一発で理解してくれないと疲れるから。すべてが自分の思い通りになると思わないことね」
レイカはそう言い残すと、向こうへ歩いていった。ユウナは仕方なく部屋に戻ると、中ではミカがイライラしていた。
「だからあんなヤツほっとけばいいって! なんなの、あの上から目線。マジ腹立つわぁ」
ユウナは再び席に着くと、
「やっぱり、まだ先生との間に何かあるみたい」
そう話した。
「先生って、鶴ケ崎先生?」
アカリがそうきくとユウナは頷き、こう言った。
「私、できればあの二人に仲直りしてほしいの。あんな言い方するのも、きっとそれが原因だと思うから。人を信じられないのって、ほんとはとても辛いはずなのに、それすらも言えないって、やっぱり可哀想な気がする」
「そっかなぁ」
ミカは言う。するとアカリも、
「でも、話きいてたら思ったんやけど、たぶんツンデレなだけやと思うよ。親子の仲も関係しよるかもしれんけど、きっと素直になれんだけなんやって思う」
と言うので、ユウナは考えた。
『私はあの人が許せないだけ。今更仲良くなんてなれない』
あの時のレイカの顔を思い出すと、寂しさを抱え、そしてそれを我慢しているような、そんな表情だった。どうか、二人の仲を取り戻す方法はないものか、考えてもいい案は出てこなかった。よって、ユウナはしばらく二人の様子を見守ろうと思った。
そしてその日の放課後。
「喧嘩?」
ユウナは、そのことを帰り道に大輝に話した。
「鶴ケ崎さんが小さい時に、先生は仕事を優先させて家を出て、それでも落ち着いたら戻るつもりだったらしいの。でも鶴ケ崎さんはそれすら受け入れず、今も許せないまま。先生も反省して、何度も家に行ってるらしいけど、会ってもらえないんだって。親子の関係って、やっぱり複雑なんだね。ねぇ、大ちゃんはどう思う?」
大輝はそれをきいて、
「べつに何とも思わねぇよ。お前って昔っからそういうお節介なところあるよな」
という気のない返事をした。そして、
「それより、明日から試験だろ? お前大丈夫か?」
と話を変え、ユウナにきいた。すると、ユウナは少し焦った表情をした。それを見て悟ったように大輝は、
「お前、あんまりやってないだろ」
そう言ってきた。図星だと思ったユウナは、正直にこう言った。
「なんか、受験と両立させようとするとやっぱり大変で……。そっちの方は、どう手をつけていいかわからなくて」
それをきき、大輝はこう言った。
「しょうがねえなぁ。手伝ってやるから」
「えっ、ほんと?」
「あぁ、今からお前ん家寄ってもいいか?」
以前にも、同じようなことが何度かあった。大輝が家に来て、ユウナに勉強を教えてくれる。大輝の成績はいつも、学年でもかなり上位だった。それもあり、教えるのがうまく、ユウナは何度も助けられた。苦手科目があるわけでもなく、すべての教科をみてくれる時もあった。今回も、ユウナのピンチを救ってくれようとしている。
「そういえば大ちゃん、合格したんだね」
「あ、あぁ」
「改めて、おめでとう!」
ユウナからそう言われ、大輝は少し赤くなった。
「お前も、頑張れよ。わからないとこあったら、俺が教えてやるから」
大輝はそう言うと、下を向いた。それを見ながら、ユウナは笑顔で頷いた。
そして、ユウナは大輝を連れて帰宅した。早速、部屋で明日の試験の勉強をみてもらうことにした。因みに補修があるのは、英語、国語、数学の三教科のみである。明日は英語。ユウナの苦手とする教科だった。
「いいか? 英語は基本暗記だからな。文法をよく覚えるんだぞ」
大輝のアドバイス通り、ユウナはノートにある文法を書き写し、覚えることにした。その様子を、部屋の外で百合子が覗いていた。二人はそれに気づくはずもなく、ユウナは黙々と机に向かっていた。
翌日、テストが終わった。ユウナは一夜漬けで文法や単語を覚え、ようやく点数は稼げたという実感がわいた。しかし、解放感に浸るのはまだ早かった。明日もテストがある。明日は、理系科目がメインになるため、早く帰ってすぐにでも勉強しなければならなかった。
帰る途中、いつもの三人は学校横の公園の椅子に腰かけていた。
「明日もテストか〜」
ミカが、怠そうに呟いた。
「受験勉強もしないかんのにね」
アカリは部活を辞め、地元の国立大を目指している。それなのに定期試験に邪魔され、思うように勉強が進んでいないのではないかと、ユウナは心配した。でもそれは、自分も同じだった。前よりも成績が上がってきているとはいえ、まだ受かる確率は低かった。ユウナは気が気ではないために、
「もう……、帰ろう」
と言い、立ち上がった。すると二人も、
「そうしよっか」
「そうじゃね」
そう言うと、立ち上がって三人は公園を出て、それぞれの帰路についた。
ユウナがバス停のベンチに座り、バスを待っていると、声をかけられた。
「中谷さん?」
ユウナは前を見上げた。それはレイカの母、智美だった。
「あ、鶴ケ崎先生、こんにちは」
ユウナも答えた。智美は、ユウナの隣に座った。
「大変ね。三年生だから、いろいろあるんでしょ?」
智美がきくと、ユウナは言った。
「はい。でも、それが今自分に与えられている使命だと思えば、どんなことであっても、頑張れそうな気がするんです。辛くても、自分で選んだ道なので、たとえ後悔したとしても、仕方ないって思えるんです。ずっと、そうやって生きていこうと決めましたから」
「そう……。とっても、素敵なことだと思うわ。そうすることで、責任感が生まれる。人に頼ることがあっても、自分を信じられるのは、もっと素敵。あなたも、自分を信じているからこそ人にも優しくできるのね」
そう言われ、ユウナは智美を見つめた。智美もユウナを優しく見つめ返し、
「大丈夫。あなたなら、きっとできるわ。そう信じてる」
と言うのでユウナも嬉しくなり、
「はい」
と、答えた。すると智美は、こう言った。
「そうだ。二十一日に、うちの吹奏楽部のコンクールがあるの。ホームルームでチラシは配られたと思うけど」
「はい」
「よかったら是非あなたにも来てほしい。冬休み、忙しいと思うけど、友達を誘って見に来てくれたら、嬉しいなって……。無理かしら」
「そんなことはありません。行きたいです、すごく」
ユウナが言うので智美も嬉しそうに微笑み、
「よかった……。あなたみたいな生徒がいてくれて、ほんとによかった」
そう言うのだった。そして、バスが来た。ユウナは立ち上がろうとした時、定期がないことに気がついた。何気にカバンから出し、置き忘れてしまったようだ。きっとあの公園だ、そう思ったユウナは智美に言った。
「すみません、先生。忘れ物してしまったみたいで……、失礼します!」
そう言って公園の方に向かおうとすると智美が、
「でももうバス来てるわよ!」
と言うので、ユウナはふり返ってこう言った。
「次のに乗ります!」
そしてユウナは、走って公園に行った。案の定、先程まで座っていた木の椅子の上に置いてあった。ユウナはそれをカバンにいれ、もうバスは行ってしまっただろうと思いつつ、戻ろうとした。すると、あるものが目に入った。向こうに大木があり、その前に一人の女子高生がいた。ユウナと同じ制服だ。ユウナはそれに近づいていくと、数メートル手前まで来て気がついた。女子としては背が高く、赤茶色の長い髪が風になびいていた。
序盤のキャラで、最も印象深い登場人物は?
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中谷優奈
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鶴ケ崎麗菓
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月見里美香
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夢野あかり
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池谷大輝
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相場善秀