パズル&ドラゴンズ~もうひとつの旅~   作:葉之和 駆刃

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第8話 罪なき和睦~イノセント・リコンシリエーション~(その参)

 午後、ユウナは会場に向かった。ミカとアカリは、先に座席に着いてユウナが来るのを待っていた。

 

「ユウナ遅いなぁ」

 

 ミカは、時計を気にしていた。間もなく、開演の時刻だ。

 

 一方、バレーの決勝は両者一歩も譲らず、フルセットまで持ちこまれた。しかし、逆転されて徐々に相手のペースになってしまい、上禅高校は惜しくも敗れた。レイカはしばらく呆然とコートに立ちすくむと、がっくりと膝を落とした。レイカの高校での部活動は、これで終わりを告げた。しかし今回は仲間が駆けよってきて、レイカを立たせてくれた。コートを出ると、レイカは顧問である田中の前に行った。

 

「あの……」

 

 すると田中は、レイカを優しい表情で迎えてくれた。

 

「大丈夫。負けはしたけど、いい試合だったわ」

 

 俯いていたレイカは、顔を上げてその顔を見た。

 

「あなたは、今まで自分一人でやっていたこともあった。でも今日は、仲間をよく見て、ちゃんと気を配って動いてくれていた。何があっても、一人でするんじゃない。仲間を信じて、そして栄光をつかむの。キャプテンとして、あなたはよくやったと思うわ。ありがとう、そして、お疲れ様」

 

 すると、レイカの周りで拍手が起こった。ふり向くと、部活の同級生や後輩がレイカに拍手を送っていた。レイカはまた田中の方を見ると、田中も笑顔で手をたたいた。レイカは、やっと自由になれた気がした。信じることの大切さ、それが少しわかったような気がした。後輩たちからの労わりの言葉、そして感謝の言葉、すべてがレイカを受け入れ、優しく包みこんでくれるような、そんな感覚がした。レイカは涙を堪え、田中に一礼すると仲間たちとともに戻っていった。

 

 その後、レイカは体育館を後にした。前には、部活の同期が数人歩いている。彼女たちもまた、高校生活における最後の大会を終えた。

 

「打ち上げどこにするー?」

 

 そんな他愛もない会話、時間が何よりも愛おしく感じた。孤独だと思っていたのは自分だけで、気がつけばそこに多くの仲間がいて、そして一人じゃないと言ってくれる。そうしてくれたのは、レイカに生きる時間を与えてくれた父と母なのかもしれない。母の代わりに、男手ひとつで育ててくれた父、そして生んでくれた母。その二人に感謝しなければならない、レイカは初めてそう思えた。すると、不意にある思考が浮かんできた。智美は今どうしているのだろう。今日はたしか、コンクールの日だった。会わなければならない。

 前を歩いていた一人が、レイカに問いかける。

 

「ねえ、レイカどこがいい?」

 

 レイカは足を止め、こう言った。

 

「ごめんなさい。私、今日行かなきゃならないところがあるの」

 

 そう言うと、レイカは方向を変えて走り出した。

 

 新宿のとある会場では、吹奏楽のコンクールがすでに始まっていた。ユウナはようやく到着し、二人を見つけて隣に座った。

 

「どこ行ってたの?」

 

 ミカがきくとユウナは、

 

「ちょっとね……」

 

 と言い、笑って誤魔化した。

 しばらく他校の演奏が続き、そしてユウナたちの高校の出番が回ってきた。

 

「続きましては、上禅高校吹奏楽部です」

 

 というアナウンスが鳴り、楽器を抱えた上禅の生徒が出てきた。それぞれの位置に着くと、最後に顧問である智美が指揮者として登場した。檀上に上がる前に、智美は客席に向かって礼をした。そして顔を上げると、あるものを目にした。客席の一番上に、荷物を抱えた女子生徒が立っていた。智美は、それがレイカであると一目でわかった。そして智美は壇上に上がり、手を上げると曲が静かに始まった。曲が始まると同時に、客席は異世界へワープした。どこか遠くに、一輪の花が孤独に咲いている、そんな切ないような曲にも聴こえた。孤独と闘いながら、立ち止まってくれる人を探している。そのような花の健気さは、まるで智美とレイカのようだと、ユウナは心の中でふと思った。

 

 曲が終盤に差しかかった時、智美の前で演奏している生徒が、智美の表情に異変があることに気づいた。曲が終わり、智美は檀上から降り、客席に向かって頭を下げた。そして会場は、拍手に包まれた。その時、智美の頬を無数の水滴が流れていた。それに気づいていた部員は智美が舞台から姿を消した後、

 

「先生、泣いてなかった?」

 

 と、囁きあっていた。ユウナも、それを見逃さなかった。ユウナは後ろをふり返ると、レイカが静かにステージを見つめている。それをユウナは、笑顔で見つめていた。するとレイカはそれに気がついたのか、会場から出ていってしまった。

 

「入賞おめでとう!」

 

 コンクールが終わると、アカリは部活の同期にそう言った。

 

「アカリ、なんで辞めちゃったの?」

「もったいなかったなぁ」

 

 同期たちは、残念そうに言った。

 

「ちょっといろいろあったんよ」

 

 アカリがそう言うと、そのうちの一人がこう言った。

 

「てか、鶴ケ崎先生泣いてたよね?」

「それ、うちも見たわ」

「え? 全然気づかんかったけど……」

「アカリは目悪いもん」

 

 アカリは、きょとんとしていた。

 

「感動したのかな?」

「いや、あれは異常だったし、そんなことくらいであそこまで泣かないと思う」

 

 生徒たちは、そのような話をくり返していた。

 

 一方、レイカは廊下の椅子に座っていた。一人、スマホを触っていると、声がかかった。

 

「隣、いいかしら?」

 

 レイカは見ると、前には智美が立っていた。レイカは頷くと、智美はレイカの隣に座ってこう言った。

 

「あなたの方から連絡くれるなんて、初めてじゃないかしら」

「べつに」

「今日、来てくれてありがとう」

「ただの気まぐれよ」

 

 智美はレイカを見つめているが、レイカは目を合わせようとはしない。それでも智美は構わず、

 

「どう思ってるの? これからのこと」

 

 ときくと、レイカは何も答えなかった。

 

「私ね、ずっとあなたに謝りたかったの。許してもらえるとは思ってないけど、それでもずっと謝りたかった。寂しい思いばかりさせてしまって、ごめんなさい。あなたの名前つけたの私なのに、一緒にいてあげられなくて」

「え?」

 

 レイカは、智美を見た。レイカは父親から、智美は自分が生まれてすぐに家を出たときいていたため、自分の名づけ親はてっきり父の方だと思っていたからだ。

 

「でも私、やっぱりこの仕事が好きなの。だからついつい仕事を優先させてしまって、お化粧もほとんどしてなくて。でもあなたには、綺麗になってほしいから、その名前にしたの。今思えば、あなたには少し可愛すぎたかしらね。あなたが嫌いになるのもわかるわ」

 

 智美が笑いながらそう言っていると、レイカは口を開いた。

 

「私は、一度も嫌いになったことないけど」

 

 それをきき、智美はレイカを見つめた。レイカは続けて、

 

「私も、いつの間にか何も信じなくなってたみたい。集団から逃げて、一人になって、しかもそれを人のせいにして、言い訳ばっかりだった。そして少しでも自分を楽にしようとして、私バカだった。ちゃんと話せば、解かりあえるってわかってたのに。意地張ってて、それでも時々、これ以上距離が開いたらどうしようって、ずっと思ってた」

 

 と言うのをきき、

 

「レイカ……」

 

 と、智美は呟いた。レイカはさらに続け、

 

「私の方こそ、ちょっと避けすぎてたみたい。素直になれなくて、ごめんなさい」

 

 そう言った。初めてレイカに謝られ、智美は無意識に涙をこぼした。

 

「ごめん。私、この年になると、涙もろくなって……」

 

 それを見て、レイカは少し笑った。ぼやける視界の中、レイカの笑顔だけがくっきりと見えた。智美はハンカチで涙を拭うと、こう言った。

 

「まだすぐにはできないと思うけど、あなたのお父さんとも話したいの。これからのこと」

 

 それをきいたレイカは、

 

「ええ。父さんは初めからわかってる。昔みたいに暮らしたいって」

 

 と言った。智美は、

 

「あなたと話せてよかった。これで、お互い、また明日から頑張れる」

 

 そう言うと、立ち上がった。

 

「受験、頑張ってね。応援してるわ」

 

 智美はそう言うと、帰っていった。それを見つめて、レイカも悔いのない表情をしていた。それを遠くで、ユウナも見ていたのだった。

 

 夕方、ユウナは外でレイカに声をかけた。

 

「鶴ケ崎さん!」

 

 レイカはふり向くと、ユウナはこう言った。

 

「今日は、ありがとう。先生も、喜んでたと思う」

 

 すると、レイカが言った。

 

「べつに、あなたのために行ったわけじゃないわ」

「わかってるよ。でも、鶴ケ崎さんや、先生の悲しい顔見てたら、こっちまで悲しくなってきちゃって、二人に仲直りしてほしいってずっと思ってたの。それに、鶴ケ崎さんが期末で順位落としたの、私のせいかもしれない。私が動揺させてしまったから、だから……」

「もういいわよ」

 

 レイカは、ユウナの言葉を遮った。

 

「あれは、私がただ勉強不足だっただけ。自分が悪いみたいな言い方されると、まるで私が貶めたみたいで気分悪いのよ。疲れるのよねぇ、最近。周りから天才だとか完璧だとか散々言われて、しかも内輪の話に勝手に入ってきてつきまとってくるやついるし。言っとくけど、あれは私の意志だから。これで気がすんだでしょ? もう私に関わらないでいい、あなたも自分の好きなことをやれるんだから。それに私、あなたとは一生解かりあえる気がしない。だってあなたウザいんだもの。それじゃ、私は行くから」

 

 そしてレイカが向こうへ歩いていくと、足を止めた。

 

「それから……、言い忘れてたけど、一つだけ言っておくわ。あの時、あなたがあそこまでしつこく言ってこなかったら、私今日はここに来なかったかもしれない。それについては、ほんの少しだけ感謝してるから。この借りはいつか返すわ。言っとくけど、こんなことで他人から恩着せられたくないだけだから、誤解しないでね」

 

 レイカがそう言うのでユウナも笑顔で、

 

「わかってる」

 

 と言うと、レイカはそのまま歩いていった。ユウナは、遠くからそれを見つめていた。この二人が数年後、ある世界で仲間としてともに戦うことになるなど、この時は誰が想像しただろうか。

 

 日が沈み、ユウナは家の近くまで帰ってきていた。クリスマスのイルミネーションが街の商店街を彩り、まるでユウナの一日を祝福しているようだった。空には無数の星が散らばり、冷たい風がユウナの頬をかすめてゆく。そしてユウナは、マフラーに顔をうずめながら家へと歩いていくのだった。

 

 

第八回「罪なき和睦(イノセント・リコンシリエーション)」終

 

 

 

次回予告

ユウナ「合格、したの」

ミカ「合格しましたー!」

ユウナ「私、人の役に立つ仕事がしたいんです」

田中善喜「俺と、付き合ってほしいんだ」

ユウナ「すごく気になってて」

ミカ「もう忘れるしかないって!」

レイカ「絶対に許さない!」

西城「全部、俺の責任だ」

大輝「ユウナが元気でいてくれるなら、俺はそれでいい」

  「てめぇ!!」

田中善喜「やっぱり、無理してたんだな」

レイカ「やめときなさい」

ユウナ「どうしても、諦めきれない人がいるんです」

相場「俺と……、デートしてほしいんだ」

 

 

 

次回(第九回)

 

それぞれの戦地(イーチ・オブ・ザ・フロンツ)

序盤のキャラで、最も印象深い登場人物は?

  • 中谷優奈
  • 鶴ケ崎麗菓
  • 月見里美香
  • 夢野あかり
  • 池谷大輝
  • 相場善秀
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