パズル&ドラゴンズ~もうひとつの旅~   作:葉之和 駆刃

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第9話 それぞれの戦地〜イーチ・オブ・ザ・フロンツ〜(その参)

 そして試験当日。ユウナは朝早く、試験会場に向かった。試験が行われる部屋で、ユウナはただ時間がすぎるのを待った。今までやってきたことを出しきればいい、そう自分に言い聞かせ、精神を落ち着かせた。そして紙が配られると、試験が開始された。八十分という短い時間だったが、ユウナにとってはとても長く感じられた。そして三教科が終わり、その日の試験は終了した。

 

 会場を出ると、解放感からか、受験生たちの多くは仲良く雑談しながら帰っていく。ユウナはその少し前に、田中がいるのを発見した。

 

『もし二人とも合格できたら、俺と、つ、付き合ってほしいんだ』

 

 まだあの言葉が頭から離れなかった。声をかけようかと迷っているうちに、見失ってしまった。それからユウナは何も考えないようにして、家に帰った。

 今日の試験が終わったからと言って、受験が終わったとは限らない。合格発表は十日後だが、それを待っている暇などない。受かっていたら幸いだが、そうでないかもしれない。次の試験に向けて、再び勉強を再開しなければならなかった。

 

 

 そして合格発表の日。無理だとはわかっていたが、ユウナは一応見にいってみることにした。ユウナは試験を受けた大学に行くと、「理工学部パラダイス開発研究学科」を探した。そして雑踏をくぐり抜けて、前に出るとスマホに表示される番号と同じ番号を探した。上から順番に見ていき、自分のスマホと見比べる。そして、ユウナは驚いた。その番号が、ちゃんと掲示板の紙に表示されていたのだ。まさか前期日程で合格するとは思っていなかった。ユウナは、すぐにでも叫びたいという気持ちになった。ラインで両親に報告し、帰路につくとまたあのことを思い出した。

 

『もし二人とも合格できたら、付き合ってほしいんだ』

 

 しかし駅に着くまで、田中の姿を見ることはなかった。探そうと思っても、人が多すぎて不可能だった。もう忘れるしかない、そう自分に言い聞かせてユウナは駅に向かった。改札を通り、階段を上がった。すると、向こうのベンチに田中が腰かけているのが見えた。ユウナは、ゆっくりと近づいた。ある程度近くまで行くと、向こうも気がついたらしい。

 

「あぁ、来てたんだね。どうだった?」

 

 相手がきいてきた。

 

「合格でした。でも……」

 

 ユウナが言いかけるとそれを待たずに、

 

「俺、落ちた」

 

 と、田中は言った。

 

「えっ?」

「やっぱり、無理してたんだな。理由もなく、ただなんとなく大学行こうとして、それで受かるわけないよな……」

 

 すると田中はユウナを見て、

 

「前に、言ったこと覚えてる?うまくいったら、付き合いたいって」

 

 ときくと、ユウナは頷いた。

 

「勘違いしてるかもしれないけど、あれは、本当にそう思ったんだ。なぜなら、君は俺と少し似てると思ったから……」

「似てる……?」

「あぁ。人を喜ばせたいって、君言ってたよね? 俺それきいて、すごいなって思ったんだよ。俺の周りには、そんなやつは一人もいないのに、そう思えるってやっぱすごいと思う。君なら、絶対合格するって思ってたよ」

 

 ユウナは、何も言わずに田中を見つめていた。

 

「君の、気持ちをきかせてほしいんだ」

 

 田中は、真剣な顔でそう言った。それをきいてユウナが「考えさせてほしい」と答えようとした時、不意に相場のことが頭を過ぎった。そして、こう言った。

 

「ごめんなさい。私、好きな人がいて……」

 

 初めて告白した時のことが、まだ頭の中に残っていた。

 

『私、相場君のことが好きなの。ずっと伝えたくて、でも、リカのこと考えると、言えなくて……。でも、後悔はしたくなかったの』

『もう少し待ってほしい。お互いに落ち着いたら、また話そう』

 

 何度も忘れようと試みたが、忘れられない理由があった。

 

「どうしても、諦めきれない人がいるんです。だから私、あなたとは……」

 

 ユウナが言うと田中は、

 

「わかってる。そう言われると思った」

 

 と言い、立ち上がった。

 

「これ、俺の奢りな。いろいろ悩ませてしまったお詫び」

 

 田中はそう言うと、ユウナに缶コーヒーをくれた。

 

「最後にさ、やっぱり連絡先はきいといてもいいかな。もし仮に大学で一緒になったら、友達でいてほしいし」

「わかりました」

 

 ユウナは、田中とラインのアカウントを登録した。

 

「後期試験も、頑張ってみる。まぁ、無理だと思うけど」

 

 田中がそう言うので、ユウナはこう言った。

 

「大丈夫ですよ。自分を信じてれば、きっと受かります。なぜだかわからないけど、そんな気がするんです」

 

 田中はそれをきき、微笑んだ。どこか寂しいような、それでいて安心したような、そんな複雑な表情だった。その直後、電車が通過した。電車の音に、すべての音がかき消され、そして田中の口が微かに動いた。ユウナがそれをきき取れずにいると、田中はすぐ横を通り過ぎていった。

 

 帰りの電車に乗っていると、ユウナのスマホが鳴った。開いて見てみると、通知のところに「ガンバレ!」とだけ表示されていた。それは、田中からラインで送られてきたメッセージだった。ユウナはすべてを理解し、そしてそれを受け止めた。そして、まっすぐ帰らずに学校の近くの駅で降りた。

 降りるとすぐに、ミカに電話した。

 

「え? 相場君? まだいるよ」

「ありがとう」

 

 ユウナはそう言って、電話を切った。そしてユウナは、学校まで走っていった。

 

 学校に着くと、ミカが外で待っていた。ユウナは足を止め、荒い息を吐いた。白い息が、空中に浮かんでは消えていく。

 

「ユウナ。今日、発表だったんでしょ? どうだった?」

「それが、受かったの」

 

 ミカの質問に、ユウナは嬉しそうに答えた。

 

「マジで? おめでとー!」

 

 ミカは、自分のことのように跳ね上がって喜んだ。

 

「でね……」

 

 そうするとユウナは、ミカにあることを話した。それをきいたミカは、

 

「そっか。わかった。じゃあ、ここで待っててあげる。今も、教室に残ってるはずだから」

 

 と言うのでユウナは、

 

「ありがとう、ミカ」

 

 そう言うと、ミカは首を横に振った。

 ユウナは急いで上履きに履き替え、階段を駆け上がっていく。その時に偶然、レイカとすれ違った。しかし、ユウナは気に留めることなく教室へと向かった。レイカは、不思議そうにそれを見ていた。

 

 教室の前まで行き、ドアを開けようとした時だった。中から、話し声が聞こえた。

 

「たしか、今日発表だよな?」

 

 そう言ったのは、大輝だ。すると西城が、

 

「お前、きかなくていいの?」

 

 と言うと大輝は答えた。

 

「ま、受かったら電話くらいするだろ。それより、お前はどうなんだよ」

 

 大輝が、隣にいた相場にきいた。

 

「お前、そういや前フッてたよな。今はどう思ってんだよ」

「いや、べつに何とも思ってねぇよ」

 

 ユウナはそれをきき、ドアにかかっていた手を少し引っこめた。

 

「じゃあなんであんなこと言ったんだよ」

「あれは、ただ安心させたかったからだよ。あいつって、いつもバカみたいに真面目で、お節介なところもあるけど、誰よりも努力してる。だから少しでも安心させて、教えてやりたかったんだ。自分を信じていれば、ダメだった時もすぐに立ち直れるってさ。たぶんあいつ、落ちたら人一倍落ちこむだろ?」

「は? おい、それってどういう……」

 

 すると、ドアが開いた。そこには、ユウナが立っていた。

 

「ユウナ……」

 

 大輝が呟いた。ユウナが入ってくると、大輝は言った。

 

「今日、発表だったんだってな。どうだった?」

「……合格、したの」

「すげえじゃん。おめでとう」

「私、もう帰るね」

 

 ユウナはそう言うと、背を向けた。

 

「中谷!」

 

 すると、後ろから相場が呼んだ。

 

「ごめん、俺……」

「私も、相場君の言う通り、自分を信じきれてなかったみたい。今日合格したのも、きっとまぐれだと思うから。じゃあ、またね」

 

 ユウナはそう言い残すと、走って出ていった。その時、偶然レイカが教室の前を通りかかった。そして大輝が相場の襟をつかみ、

 

「てめぇ!! ユウナのこと、落ちると思ってたのかよ!」

 

 と、言い放った。西城が、それを止めに入った。

 

「お前、あいつのこと傷つけたんだぞ? それわかってんのかよ!!」

 

 大輝はそう言うと、相場をつき放した。しかし相場は、黙っていた。

 

「……なんか言えよ」

 

 大輝がそう言っても、相場は何も言わなかった。

 

「お前、あいつのことなんもわかってねえな」

 

 大輝はそう言い、ユウナを追いかけようと教室を出ると後ろから声がかかった。

 

「やめときなさい」

 

 ふり返ると、そこにレイカがいた。

 

「なんだよお前……」

「傷ついてる人間に対しては何もしない方がいい。今行っても、ただ傷口を広げるだけよ」

「誰が何言おうと、俺は俺の意志で行動する!」

 

 大輝はそう言い、走っていった。

 

 ユウナは、中庭にうずくまっていた。大輝はそれを見つけ、隣に座った。

 

「大ちゃん……?」

 

 ユウナが顔を上げると、大輝が言った。

 

「あいつも、悪気があってあぁ言ったわけじゃないと思う。けど俺は、最初からお前のこと信じてたぜ。いつでも努力家だったからな、お前。言っただろ? 俺がお前を守るって。何かあったら、必ず助けてやる」

 

 すると、ユウナから涙があふれてきた。そして、大輝がユウナに肩を貸すと、ユウナはその方に顔をうずめた。大輝はその後、ユウナの背中を優しくたたいていた。その様子を、ユウナの帰りが遅いことを心配して探しに来たミカが、校舎から見守っていた。

 

 大輝は、ユウナを家まで送った。

 

「大丈夫か?」

「うん、もう平気」

「そっか。じゃあ改めて、おめでとう、ユウナ」

「……ありがとう」

 

 そしてユウナは、中へと入っていった。それを見届けてから、大輝は帰った。

 

 その夜、鶴ケ崎家では圭介がレイカに声をかけた。

 

「あぁ、レイカ。もしよかったら今度、母さんも誘って食事に行かないか?」

「私はいいけど」

「じゃあ、母さんにも連絡入れとくな」

「えぇ」

 

 レイカはそう言って、二階へ上がっていった。圭介はそれを見て、嬉しそうに微笑んだ。

 

 一方、ユウナはベッドに転がって、久しぶりにパズドラをしていた。いくつかのダンジョンをクリアし、アプリを落とした。そして疲れて目を閉じた瞬間、電話がかかった。ユウナは目を開けて画面を確認すると、それは相場からだった。そして、慌てて電話に出た。

 

「もしもし?」

「あぁ、起きてた?」

「うん。今から寝ようと思ってたとこ」

「あ、今日はほんとごめん。合格、おめでとう」

「ありがとう」

 

 ユウナは内心、ものすごく嬉しかった。もしかすると、相場から電話が来るのを無意識に待っていたのかもしれないと自分でも思った。

 

「それで……、話があるんだ」

「何?」

 

 ユウナは若干、淡い期待を覚えた。まさか、いや、そんなことあるはずがない、そう心の中でくり返した。しかし耳に入った言葉は、その期待をはるかに超越してユウナを混乱に陥れた。

 

「今度、俺と……、デートしてほしいんだ」

「えっ?」

 

 ユウナはわけもわからず、スマホを耳に当て続けた。

 

 

第九回「それぞれの戦地(イーチ・オブ・ザ・フロンツ)」終

 

 

 

次回予告

ユウナ「カップルみたいだね」

ミカ「付き合ってんの?」

相場「もっと中谷のこと知りたいって、そう思えたんだ」

ミカ「やっぱ諦めきれないみたいでさぁ」

相場「自分でも、よくわからなかったんだ」

ユウナ「相場君のことは責めないであげてほしいの」

大輝「もう二度とユウナには近づくな」

相場「俺、中谷のこと、好きだ」

ユウナ「えっ……」

相場「お前にはずっと笑っていてほしい。お前には、ずっと笑顔でいてほしいんだ」

大輝「お前、変わったよな」

ユウナ「私、頑張るから。大学でいろんなこと勉強して、いろんな知識身につけて、そして人の役に立つことを考えられるようになるから」

   「大ちゃん……?」

 

 

 

次回(第十回)

 

由々しき恋(シリアス・ラブ)

序盤のキャラで、最も印象深い登場人物は?

  • 中谷優奈
  • 鶴ケ崎麗菓
  • 月見里美香
  • 夢野あかり
  • 池谷大輝
  • 相場善秀
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