卒業生入場の後、校長からの話があった。卒業式では、卒業生も在校生も、クラスでの出席番号順に並んでいる。
「卒業生の皆さん、ご卒業、心からおめでとう。明日からは、それぞれの夢に向かって歩んでいくことでしょう。このご時世、いろんな困難が待っています。それに対し、危惧の念や不安を抱く人も多いことでしょう。ですがこれは、君たちにとって大いなるチャンスとなり得るのです。この学園で培ったこと、それを存分に生かしきり、未来へつなげていってください。入学した時、卒業までの道のりに絶望した人もいるかもしれません。例えるとするなら、遠くにそびえ立つ塔ですね。見ただけだと、その塔のてっぺんに上るなど、容易に考えられることではない。ですが毎日少しずつそれを目指して歩き、やがては塔にたどり着き、そしていつしか頂上にいる。それさえわかっていれば、きっと未来は明るいはずです。どうか自分を信じて、そのことを胸に留めて明日からも頑張ってください」
ユウナは、近くで寝ている生徒が何人かいる中で、その話を真剣にきいていた。ここにいる全員がすべて、同じゴールを目指しているわけではない。しかし、それぞれがある目標に向かい、歩き始めようとしているのはたしかだった。塔の一番上を目指し、たどり着くまでにはきっといくつもの試練が待っているのだろう。それをすべて突破した者だけが、頂に上がれるのだ。
それからの式は順序よく進み、卒業証書授与では、卒業生代表としてレイカがステージに上がった。全員分の卒業証書を受け取り、礼をしてそこを降りた。
そしていよいよ、卒業生退場のアナウンスが流れた。一組から順番に、担任の教師に連れられ、会場をあとにした。ユウナのクラスの番になり、吉崎が合図を送ると、皆は一斉に立ち上がった。そしてそのまま、出口へと向かう。ユウナは周りを見渡すと、三年間お世話になった教師たちが通路の両側に立ち、手を振ったり、祝いの言葉をかけたりしている。その中に、智美の姿もあった。ユウナが前を通ると智美が微笑みながら、
「おめでとう」
と言うので、ユウナも嬉しそうに頭を下げた。
外の廊下では、生徒たちが互いに祝福の言葉をかけあっている。
その後、教室に戻り、吉崎から一人一人に証書が手渡された。ユウナの名前が呼ばれると、ユウナは前に出ていった。そして吉崎は証書を渡しながら、こう言った。
「よく頑張ったな」
それをきいてユウナは、
「はい」
と、嬉しそうに答えた。全員の証書が手渡されると、吉崎はこう話した。
「え~、みんなは、これがゴールじゃないことをわかっているな。高校は、あくまで通過点にすぎない。だが、ここで学んだことは、きっと将来生きてくるだろう。これからが、君たちの実力が試される時だ。時には、投げ出したり、逃げ出したりしたい時もあるかもしれない。でも何をするにしても、この場所で身につけたことは決して無駄にはならない。それをどうか、わかってほしい。改めてみんな、卒業おめでとう」
すると、教室の中は拍手に包まれた。その中には涙を流す者、笑顔を浮かべる者、ふざけて声を上げる者、いろいろな表情があった。これは始まりであり、まだまだできることがあるのだと、ここにいる全員がそう思ったのかもしれない。
「では、これにて解散だ」
吉崎は、笑顔でそう言った。そして号令がかかり、皆は起立し、礼をした。
「ありがとうございました!!」
皆は一斉にそう言い、解散となった。ユウナのところにミカとアカリが来て、こう言った。
「ねぇ、またみんなで写真撮らない?」
「いいね! 今度はユウナちゃんとうちね!」
「え? でもアカリ、もうすぐ試験なんじゃ……」
ユウナは少し戸惑ったように言うと、アカリは言った。
「もう、気分壊さんとってよ。今日くらいは忘れたいんじゃけん。明日からは、また朝から晩まで勉強するけどね」
するとミカも、
「まぁね……。そうだ、だったらあの二人も誘おうよ」
と、提案した。それをきいてユウナが、
「でも、私もうすぐ親と待ち合わせあるから」
そう言った。
「そっか……」
と、ミカは少し残念そうな顔をした。それを見たユウナは、
「そうだ、ちょっと待ってて」
と言うと、ユウナは教室を出ていった。廊下で大輝とすれ違ったが、ユウナは気づかずに走り去ってしまった。大輝はふり向き、それを見つめていた。
ユウナは屋上へ行くと、百合子にメールを送った。
『ごめんなさい。今日は友達と帰るので、お父さんと先に帰っててください。』
そしてしばらくベンチに腰かけ、向こうの山々を見ていた。そこへ、足音が近づいてきた。ユウナは、それをきいてふり向いた。するとそこには、大輝が立っていたのだ。
「よう、何してんだ?」
「あ、ごめん。みんなのところに行ってるのかと思ってた」
ユウナがそう言っていると、大輝はユウナの隣に座った。
「久しぶりだったな」
「えっ?」
「お前とのツーショット。もう十年以上前じゃね?」
「そう、だね……」
「お前、覚えてるか? あの公園に埋めたゲームカセット、十年経ったら掘りだそうって」
「うん。でも二学期に、受験が終わるまで待ってほしいって言ったきりだよね」
「そういや、そうだったな。受験も終わったし、今日にでも行ってみるか?」
「えっ?」
「あ、でも俺これから三送会だったわ。今日は無理か」
大輝はそう言って、溜息をついた。
「私は、いつでもいいよ。お互いに時間が合ったら、行こう」
「そうだな」
大輝はそう言って笑い、遠くの山を見つめていた。ユウナも同じようにそうしていると、急に大輝は立ち上がり、
「じゃあ、戻ろうぜ」
と言い、ユウナに手を差しのべた。ユウナは少し戸惑ったが、大輝の手を握り、そして立ち上がった。前にも、どこかで同じようなことがあった。ユウナの記憶は、その時、鮮明に呼び起こされた。あの日と全く同じ、大輝の手の温もりを感じた。それはまるで、春の日差しのような、優しい手だった。ユウナはそれを思い出すと、涙が出そうになるのをぐっと我慢した。気持ちを悟られぬよう、大輝の手を離すとそのまま通りすぎて、
「早く行こう」
と言った。大輝は幸い、気づいていないようだった。
「あぁ」
そう返事をして、ユウナの後を追っていった。
教室に戻ると、だいぶ人数が減っていた。教室の隅では、ミカ、アカリ、相場が話をしていた。ミカが帰ってきた二人を見て、
「あ、お帰り。今さ、久しぶりにみんなでアレやろうって話してたんだけど」
と言い、ユウナにスマホを見せた。そこに表示されていたのは、パズドラだった。
「コンボ祭り?」
ユウナがきくと、ミカが頷いた。
「相場君もね、面白そうだって」
ミカはそう言うと、後ろの相場を指さした。「コンボ祭り」は、ユウナたちの考えた遊びである。一ターンごとに複数のドロップを消す方法をコンボといい、いかに多く消したかを競うのだ。しかし大輝は、
「なんだよ、それ」
と言い、わからない顔をした。するとユウナは大輝の方を向いて、
「私が教えるよ」
そう言った。大輝がポケットからスマホを取り出し、パズドラを開いた。大輝もやっていたのだ。大輝はユウナを見ると、
「じゃあ、やろうぜ」
と言うので、ユウナも嬉しそうに頷いた。
その後、五人はそのゲームをやって楽しんだ。いつの間にか、教室には五人以外誰一人として残っていなかった。もしかすると、このメンバーでこうして遊ぶのは、これで最後になるかもしれない。ユウナはそう思うと、時間が過ぎるのが悲しかった。ゲームに飽きると、五人はいろいろな話をした。修学旅行の思い出、文化祭や体育祭での出来事、様々な話題が飛び交った。そうしているうちに、気がつけば時計の針は夕方四時過ぎを示していた。しばらくして大輝が、
「あぁ、これから三送出なきゃなんねぇのか~」
と、呟いた。ユウナが、
「いつから?」
そうきくと大輝は、
「六時からだけど、もうそろそろ行かなきゃヤバくねぇか?」
と言いながら、相場を見た。するとミカが立ち上がり、
「じゃあ、そろそろ帰りますか~」
そう言った。そして、ユウナたちも帰ることになった。楽しい時間は楽しいほど、早く感じるものだ。それを、まさにこの時思い知った。
校舎を出ると、女子と男子で別れた。
「じゃあまたな」
大輝はそう言って、手を振った。
「頑張ってね!」
ミカがそう答えるのを、ユウナも見ていた。大輝が相場の肩をつかみ、
「ほら、行くぞ」
と、促した。相場はふり返るようにして、
「じゃあな」
そう三人に言った。それから三人は、二人に手を振り続けた。二人が駅の方に見えなくなると、ユウナたちも背を向けて歩き出した。
「寂しくなるなぁ」
ユウナは、独り言のように呟いた。ミカもそれに答えるように、
「そうだね。でも三年間、長いようであっという間だったのかもね」
と言った。するとアカリが、二人にこう言うのだった。
「でも、また戻って来ればええだけの話じゃろ。これでもう会えんようになるわけじゃないんやし」
それをきいてミカは笑い、
「当ったり前でしょ。また休みの日とか会おうよ」
と言うので、ユウナとアカリも笑いながら頷くのだった。
「てかさ、これからどうする? ここで別れちゃうのもなんだし、どっか食べに行こっか」
ミカはそう提案した。それをきいて、二人はもちろん賛成した。
「どこ行く? 久しぶりに渋谷とか」
「え、今から?」
「お金ある?」
「一応」
「うちもそのくらいは持っとる」
三人は引き返し、電車の駅に向かった。しばらくして、向こうの交差点に誰か立っているのがわかった。ユウナたちと同じ制服姿、上禅高校の生徒だった。
序盤のキャラで、最も印象深い登場人物は?
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中谷優奈
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鶴ケ崎麗菓
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月見里美香
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夢野あかり
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池谷大輝
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相場善秀