パズル&ドラゴンズ~もうひとつの旅~   作:葉之和 駆刃

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第12話 最初の試練〜ファースト・トライアル〜(その参)

 ユウナは急いで家に帰ると、見送りに行く支度をした。そして、高校の卒業アルバムを開く。それをしばらく眺め、閉じると今度はそれを持って家を飛び出した。

 

 時間が経過し、ユウナが戻ってくると、すぐまた二階へ上がった。その様子を、百合子も何事かと思って見ていた。

 

 夜になっても、ユウナは自分の部屋である作業をしていた。一階では、父の惟英が流し台で洗い物をしている百合子に尋ねた。

 

「ユウナ、いったい何をしてるんだ?」

「明日、高校の友達が実家に帰っちゃうんだって」

「あぁ、それで……」

 

 惟英は、その一言で大体のことを予想した。

 

「伝わるといいな……」

 

 惟英は呟くと、窓から外を見上げ、そしてカーテンを閉めた。そうしている間にも、ユウナは電灯の傍で作業を続けていた。

 

 そのうち、いつの間にか夜中になっていた。ユウナはカバンを持って下に降りると、疲れたのかソファーに座りこんだ。そこに足音がきこえ、惟英が部屋に入ってきた。

 

「お父さん?」

「ユウナ、ちょっといいか?」

 

 惟英は、そう言うとユウナの隣に座った。

 

「どうしたの?」

 

 ユウナがきくと、惟英は言った。

 

「友達のために真剣になるのもいいが、自分のこともちゃんと考えたほうがいいぞ」

「ごめん。でも、もう当分会えない気がして」

「あぁ、わかってるさ。お前は昔から、友達のこと大切にしてきたからな。彼のこと、今でも尊敬してるんだろ?」

「うん……」

 

 ユウナは、照れたように頷いた。

 

「ユウナはこれから、広い世界を見ようとしているんだ」

「広い世界?」

「あぁ。もしかすると、これがその第一歩なのかもしれないな。ユウナにとっての、最初の試練だ」

「最初の試練……」

 

 惟英は、真剣にユウナの将来のことを考えてくれている。それは、その言葉をきいてもすぐに理解できた。そして、やはり自分は恵まれているのだと、そう改めて思えた瞬間でもあった。

 

「ありがとう。私、頑張るから」

「あぁ。いつでも、二人で応援してるからな。でも、あまり無理はするなよ」

「わかってる。こうして背中を押してくれるだけでも、頑張れる気がする」

 

 ユウナは笑ってそう言った。惟英は、

 

「じゃあ、もう寝るか。ユウナも、あまり夜更かしはするんじゃないぞ」

 

 と言い、立ち上がった。

 

「わかってる。おやすみなさい」

 

 ユウナがそう答えると、安心した惟英は部屋を出ていった。その後、ユウナは勉強机と同じくらいの面積の紙を広げ、しばらく見つめていた。そしてそれを小さく折りたたむと、カバンの中に入れた。そしてユウナもまた、部屋を後にした。

 

 

 次の日、ユウナはアカリを見送りに行った。アカリはミカとユウナを見つめ、

 

「忙しいのに、来てくれてありがとう」

 

 と、礼を言った。ミカも、

 

「何言ってんの。アカリにとっての、旅立ちの日なんだよ」

 

 そう言うのでアカリは俯き、寂しそうにこう言った。

 

「そうじゃね……」

 

 それを見たユウナは、

 

「大丈夫。何かあったら、いつでも連絡してきていいから。いつでも、待ってる」

 

 と言って励ますとミカも、

 

「そうそう」

 

 と、続けた。

 

「ありがとう……」

 

 アカリの目には、無数の涙が浮かんでいる。それを見てユウナも、寂しさをこらえた。

 

「そうだ!」

 

 ユウナはそう言い、カバンから昨日、折りたたんで入れた紙を取り出した。そして、それをアカリに手渡した。

 

「これは?」

 

 アカリが尋ねると、ユウナが話した。

 

「昨日、帰って作ったんだ。広げてみて」

 

 それをきき、アカリはその紙をゆっくりと広げた。それを見たアカリは、目を見開いて驚いていた。ポスターほどの大きさの紙に、卒業前、三人で撮った写真が何枚も貼られ、横には手書きのメッセージが添えられている。

 

「これ……、どうしたん?」

 

 アカリがきくと、ユウナは説明した。

 

「卒業アルバムにあった写真をコンビニでスキャンして、それをプリントして貼ったの。ほんとはほかにもっといろいろなことやりたかったんだけど、時間がなくてこんなものしか作れなかったよ」

 

 ユウナの言葉をきいてアカリは首を大きく横に振り、

 

「そんなことない。めっちゃ嬉しいけん! ユウナちゃんの気持ちが、ほんまによう伝わってきよる。ありがとう」

 

 と言うので、ユウナはホッとした。それをミカも横で、

 

「ユウナすごいじゃん!」

 

 そう言いながら見ていた。アカリの目からは、もうすでに涙があふれ出している。

 

「うち……、幸せ者じゃ。こんなに優しい友達がいてくれるなんて、滅多にあることじゃない思うんよ。ありがとう、ユウナちゃん。ミカちゃんも、見送りに来てくれて、ほんまありがとう!」

 

 アカリはミカにも言うと、ミカも頷いた。そして、アカリは二人を見て続けた。

 

「うち、これからも頑張る。どんなに辛いことがあっても、前を向いて、そして少しでも、誰かの役に立てるように、努力するけん。こんなに素晴らしい友達に出会えたんじゃけん、うちはもっと、いろんな人に頼られる、そんな素晴らしい人間になってみせるけんね。二人も、応援しとってね」

 

 ミカはそれをきいて、

 

「もちろん!」

 

 と言い、ユウナもまた頷いた。

 

「私も、それに負けないくらい努力する」

 

 するとアカリは、ユウナに抱きついた。紙は二人の間でクシャクシャになっていたが、ユウナにはそんなことはもうどうでもよかった。ミカも、二人に覆いかぶさるようにして寄り添っていた。しばらくの間、また三人で集まることは難しくなるだろう。それゆえに、三人はなかなか離れられずにいた。最後の抱擁をし、三人は離れると、アカリは一片の曇りもない表情で告げた。

 

「じゃあ、うちもう行くけん」

「行ってらっしゃい」

「またね」

 

 ユウナとミカも、そう言って別れの言葉を告げた。

 

「じゃあね!」

 

 アカリは遠くから二人に手を振り、駅の改札を通って中に消えていった。しばらくして、アカリを乗せた電車は発車した。それは時に、アカリを最初の試練へといざなっているようにも見えた。ユウナは、それを追いかけるように前に出た。

 

「……行っちゃったね」

 

 ミカも、残念そうに言った。すると、ユウナが言った。

 

「私も……、頑張らなくちゃ」

「えっ?」

「今日、改めて思えたの。みんな将来に向けて、頑張ってる。だから私も、前に進まないといけない。それを、アカリが思い出させてくれたの」

 

 ユウナは、電車が去っていった方角をずっと見つめている。ミカもまた、そんなユウナを穏やかな表情で見つめた。ユウナは向こうに目を据え、そして希望に満ちた眼差しで、未来へと夢を誓ったのだった。

 

 

 一方、レイカと雅也はファミレスに入った。中には、父の圭介と、母の智美がいた。二人は立ち上がって、二人の子を迎えていた。かつてレイカと智美との間にできていた深海のように深い溝は、今はほとんど平らになるまでに埋まっていた。二人は、今までの時間をすべて埋めるように、家族と過ごす時間を増やしていた。

 

 

 ユウナは、家に帰った。

 

「ただいま」

 

 ユウナは奥にいる母に向けて声をかけ、中に入った。すると、娘が帰ってくるのを待っていたかのように、百合子がリビングから飛び出してきた。

 

「あぁ、ユウナ。おかえり」

 

 百合子が慌てた様子でそう言うので、ユウナは不思議に思った。

 

「どうしたの?」

 

 ユウナがそう尋ねると、百合子は言った。

 

「あなたに、お客様がいらしてたの」

「え?」

 

 百合子は、リビングにユウナを連れて入った。ユウナは接客用のソファーに座っている人物の顔を見ると、驚いたようにこう呟いた。

 

「先生……」

 

 そこに座っていたのは、なんと龍山大学教授、横大路正彦だったのだ。

 

「急にすまない。近くに来たものだからな」

「どうしたんですか?」

 

 ユウナは正彦にききながら、向かいに座った。

 

「あぁ。君について、お母さんから少しいろいろきかせてもらってたんだよ」

「はぁ……」

「君は……、小学校のころ、引きこもりだったんだねぇ」

 

 ユウナはそれをきいて、顔を赤くした。

 

「それにしても……、君は恵まれている。辛い時やしんどい時、常にいろんな人が側にいてくれる。そうは思わんかね?」

 

 正彦が言うと、ユウナはこう答えた。

 

「はい。自分で言うのも変ですけど、そう思います」

 

 それを、百合子も隣できいている。百合子は立ち上がって、お茶を入れに台所へ入った。ユウナは続け、

 

「やっぱり、今の私があるのは、父や母、大切な人が側にいてくれたからだと思います。そうでなかったら、私は今、ここにいないかもしれませんから」

 

 と言うので、正彦は頷いた。

 

「それと、今日来たのは、もう一つ理由があるんだ」

「えっ?」

 

 ユウナは不思議そうに正彦を見つめると、

 

「君の部屋に、案内してくれるかな?」

 

 と、正彦が言うのだ。

 

「は、はい」

 

 ユウナは戸惑いつつも、正彦を自分の部屋へと案内した。

 

 ドアを開けると、中は薄暗く、光はカーテンから漏れる夕日の光と廊下の電灯の灯りだけだ。ユウナは、

 

「どうぞ」

 

 と、正彦を中に入れた。中に入ると正彦は、ユウナの部屋をまじまじと見渡している。

 

「あの〜……」

 

 ユウナは少し恥ずかしくなり、正彦にそう声をかけた。すると正彦はふり返ってユウナを見つめると、真剣な表情でこう言った。

 

「今日は、君にあるお願いをしに来た」

「お願い……?」

 

 正彦は白衣のポケットから、スマホを出し、床に置いた。何をするつもりなのかと、ユウナはそのスマホをじっと見つめた。正彦は、何かのアプリを起動していた。ユウナは気になり、近づいて見てみると、画面には「パズドラ」のスタート画面が表示されている。正彦は、その中のあるボタンをタッチした。すると、急に画面が光りだした。ユウナは、何が起きているのか理解についていけなかった。そうしていると、なんとキャラクターが画面から飛び出してきた。それは以前、ユウナのスマホからも飛び出してきた赤いモンスターだった。「ホノりん」という名のモンスターは、ユウナの周りを飛び跳ねている。それを、ユウナは唖然としながら見ていた。すると、正彦はそれを抱きかかえ、ユウナの方を向いてこう言うのだった。

 

「こいつを……、君の携帯で育ててほしいんだ」

 

 ユウナは呆気にとられ、しばらくその場を動けずにいたのだった。

 

 

第十二回「最初の試練(ファースト・トライアル)」終

 

 

 

次回予告

ユウナ「私、人の役に立つことがしたいんです」

   「横大路先生が?」

   「先生はなぜ教授になろうと思ったんですか?」

正彦「君は、戦争をどう思うかね?」

ユウナ「戦争……」

正彦「人を憎み、恨み、そしてその憎しみがまた新たな憎しみを生む。こうして繰り返し、それに巻きこまれた人々は、終焉のない世界をさまようことになる」

大輝「俺らのタイムカプセル」

ユウナ「好きだよ」

百合子「あなたにもそんな考えがあったなんて」

大輝「ごめんな……」

ユウナ「私もいつか、先生のようになりたいです!」

正彦「私を超える人間になってくれ」

ユウナ「今度は私が、二人の力になりたい」

大輝「約束だぜ」

ユウナ「大ちゃんがいてくれなかったら、私ここまで変われなかった」

 

 

 

次回(第十三回)

 

試練の始まり(ビギニング・オブ・テスト)

序盤のキャラで、最も印象深い登場人物は?

  • 中谷優奈
  • 鶴ケ崎麗菓
  • 月見里美香
  • 夢野あかり
  • 池谷大輝
  • 相場善秀
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