ユウナは急いで家に帰ると、見送りに行く支度をした。そして、高校の卒業アルバムを開く。それをしばらく眺め、閉じると今度はそれを持って家を飛び出した。
時間が経過し、ユウナが戻ってくると、すぐまた二階へ上がった。その様子を、百合子も何事かと思って見ていた。
夜になっても、ユウナは自分の部屋である作業をしていた。一階では、父の惟英が流し台で洗い物をしている百合子に尋ねた。
「ユウナ、いったい何をしてるんだ?」
「明日、高校の友達が実家に帰っちゃうんだって」
「あぁ、それで……」
惟英は、その一言で大体のことを予想した。
「伝わるといいな……」
惟英は呟くと、窓から外を見上げ、そしてカーテンを閉めた。そうしている間にも、ユウナは電灯の傍で作業を続けていた。
そのうち、いつの間にか夜中になっていた。ユウナはカバンを持って下に降りると、疲れたのかソファーに座りこんだ。そこに足音がきこえ、惟英が部屋に入ってきた。
「お父さん?」
「ユウナ、ちょっといいか?」
惟英は、そう言うとユウナの隣に座った。
「どうしたの?」
ユウナがきくと、惟英は言った。
「友達のために真剣になるのもいいが、自分のこともちゃんと考えたほうがいいぞ」
「ごめん。でも、もう当分会えない気がして」
「あぁ、わかってるさ。お前は昔から、友達のこと大切にしてきたからな。彼のこと、今でも尊敬してるんだろ?」
「うん……」
ユウナは、照れたように頷いた。
「ユウナはこれから、広い世界を見ようとしているんだ」
「広い世界?」
「あぁ。もしかすると、これがその第一歩なのかもしれないな。ユウナにとっての、最初の試練だ」
「最初の試練……」
惟英は、真剣にユウナの将来のことを考えてくれている。それは、その言葉をきいてもすぐに理解できた。そして、やはり自分は恵まれているのだと、そう改めて思えた瞬間でもあった。
「ありがとう。私、頑張るから」
「あぁ。いつでも、二人で応援してるからな。でも、あまり無理はするなよ」
「わかってる。こうして背中を押してくれるだけでも、頑張れる気がする」
ユウナは笑ってそう言った。惟英は、
「じゃあ、もう寝るか。ユウナも、あまり夜更かしはするんじゃないぞ」
と言い、立ち上がった。
「わかってる。おやすみなさい」
ユウナがそう答えると、安心した惟英は部屋を出ていった。その後、ユウナは勉強机と同じくらいの面積の紙を広げ、しばらく見つめていた。そしてそれを小さく折りたたむと、カバンの中に入れた。そしてユウナもまた、部屋を後にした。
次の日、ユウナはアカリを見送りに行った。アカリはミカとユウナを見つめ、
「忙しいのに、来てくれてありがとう」
と、礼を言った。ミカも、
「何言ってんの。アカリにとっての、旅立ちの日なんだよ」
そう言うのでアカリは俯き、寂しそうにこう言った。
「そうじゃね……」
それを見たユウナは、
「大丈夫。何かあったら、いつでも連絡してきていいから。いつでも、待ってる」
と言って励ますとミカも、
「そうそう」
と、続けた。
「ありがとう……」
アカリの目には、無数の涙が浮かんでいる。それを見てユウナも、寂しさをこらえた。
「そうだ!」
ユウナはそう言い、カバンから昨日、折りたたんで入れた紙を取り出した。そして、それをアカリに手渡した。
「これは?」
アカリが尋ねると、ユウナが話した。
「昨日、帰って作ったんだ。広げてみて」
それをきき、アカリはその紙をゆっくりと広げた。それを見たアカリは、目を見開いて驚いていた。ポスターほどの大きさの紙に、卒業前、三人で撮った写真が何枚も貼られ、横には手書きのメッセージが添えられている。
「これ……、どうしたん?」
アカリがきくと、ユウナは説明した。
「卒業アルバムにあった写真をコンビニでスキャンして、それをプリントして貼ったの。ほんとはほかにもっといろいろなことやりたかったんだけど、時間がなくてこんなものしか作れなかったよ」
ユウナの言葉をきいてアカリは首を大きく横に振り、
「そんなことない。めっちゃ嬉しいけん! ユウナちゃんの気持ちが、ほんまによう伝わってきよる。ありがとう」
と言うので、ユウナはホッとした。それをミカも横で、
「ユウナすごいじゃん!」
そう言いながら見ていた。アカリの目からは、もうすでに涙があふれ出している。
「うち……、幸せ者じゃ。こんなに優しい友達がいてくれるなんて、滅多にあることじゃない思うんよ。ありがとう、ユウナちゃん。ミカちゃんも、見送りに来てくれて、ほんまありがとう!」
アカリはミカにも言うと、ミカも頷いた。そして、アカリは二人を見て続けた。
「うち、これからも頑張る。どんなに辛いことがあっても、前を向いて、そして少しでも、誰かの役に立てるように、努力するけん。こんなに素晴らしい友達に出会えたんじゃけん、うちはもっと、いろんな人に頼られる、そんな素晴らしい人間になってみせるけんね。二人も、応援しとってね」
ミカはそれをきいて、
「もちろん!」
と言い、ユウナもまた頷いた。
「私も、それに負けないくらい努力する」
するとアカリは、ユウナに抱きついた。紙は二人の間でクシャクシャになっていたが、ユウナにはそんなことはもうどうでもよかった。ミカも、二人に覆いかぶさるようにして寄り添っていた。しばらくの間、また三人で集まることは難しくなるだろう。それゆえに、三人はなかなか離れられずにいた。最後の抱擁をし、三人は離れると、アカリは一片の曇りもない表情で告げた。
「じゃあ、うちもう行くけん」
「行ってらっしゃい」
「またね」
ユウナとミカも、そう言って別れの言葉を告げた。
「じゃあね!」
アカリは遠くから二人に手を振り、駅の改札を通って中に消えていった。しばらくして、アカリを乗せた電車は発車した。それは時に、アカリを最初の試練へといざなっているようにも見えた。ユウナは、それを追いかけるように前に出た。
「……行っちゃったね」
ミカも、残念そうに言った。すると、ユウナが言った。
「私も……、頑張らなくちゃ」
「えっ?」
「今日、改めて思えたの。みんな将来に向けて、頑張ってる。だから私も、前に進まないといけない。それを、アカリが思い出させてくれたの」
ユウナは、電車が去っていった方角をずっと見つめている。ミカもまた、そんなユウナを穏やかな表情で見つめた。ユウナは向こうに目を据え、そして希望に満ちた眼差しで、未来へと夢を誓ったのだった。
一方、レイカと雅也はファミレスに入った。中には、父の圭介と、母の智美がいた。二人は立ち上がって、二人の子を迎えていた。かつてレイカと智美との間にできていた深海のように深い溝は、今はほとんど平らになるまでに埋まっていた。二人は、今までの時間をすべて埋めるように、家族と過ごす時間を増やしていた。
ユウナは、家に帰った。
「ただいま」
ユウナは奥にいる母に向けて声をかけ、中に入った。すると、娘が帰ってくるのを待っていたかのように、百合子がリビングから飛び出してきた。
「あぁ、ユウナ。おかえり」
百合子が慌てた様子でそう言うので、ユウナは不思議に思った。
「どうしたの?」
ユウナがそう尋ねると、百合子は言った。
「あなたに、お客様がいらしてたの」
「え?」
百合子は、リビングにユウナを連れて入った。ユウナは接客用のソファーに座っている人物の顔を見ると、驚いたようにこう呟いた。
「先生……」
そこに座っていたのは、なんと龍山大学教授、横大路正彦だったのだ。
「急にすまない。近くに来たものだからな」
「どうしたんですか?」
ユウナは正彦にききながら、向かいに座った。
「あぁ。君について、お母さんから少しいろいろきかせてもらってたんだよ」
「はぁ……」
「君は……、小学校のころ、引きこもりだったんだねぇ」
ユウナはそれをきいて、顔を赤くした。
「それにしても……、君は恵まれている。辛い時やしんどい時、常にいろんな人が側にいてくれる。そうは思わんかね?」
正彦が言うと、ユウナはこう答えた。
「はい。自分で言うのも変ですけど、そう思います」
それを、百合子も隣できいている。百合子は立ち上がって、お茶を入れに台所へ入った。ユウナは続け、
「やっぱり、今の私があるのは、父や母、大切な人が側にいてくれたからだと思います。そうでなかったら、私は今、ここにいないかもしれませんから」
と言うので、正彦は頷いた。
「それと、今日来たのは、もう一つ理由があるんだ」
「えっ?」
ユウナは不思議そうに正彦を見つめると、
「君の部屋に、案内してくれるかな?」
と、正彦が言うのだ。
「は、はい」
ユウナは戸惑いつつも、正彦を自分の部屋へと案内した。
ドアを開けると、中は薄暗く、光はカーテンから漏れる夕日の光と廊下の電灯の灯りだけだ。ユウナは、
「どうぞ」
と、正彦を中に入れた。中に入ると正彦は、ユウナの部屋をまじまじと見渡している。
「あの〜……」
ユウナは少し恥ずかしくなり、正彦にそう声をかけた。すると正彦はふり返ってユウナを見つめると、真剣な表情でこう言った。
「今日は、君にあるお願いをしに来た」
「お願い……?」
正彦は白衣のポケットから、スマホを出し、床に置いた。何をするつもりなのかと、ユウナはそのスマホをじっと見つめた。正彦は、何かのアプリを起動していた。ユウナは気になり、近づいて見てみると、画面には「パズドラ」のスタート画面が表示されている。正彦は、その中のあるボタンをタッチした。すると、急に画面が光りだした。ユウナは、何が起きているのか理解についていけなかった。そうしていると、なんとキャラクターが画面から飛び出してきた。それは以前、ユウナのスマホからも飛び出してきた赤いモンスターだった。「ホノりん」という名のモンスターは、ユウナの周りを飛び跳ねている。それを、ユウナは唖然としながら見ていた。すると、正彦はそれを抱きかかえ、ユウナの方を向いてこう言うのだった。
「こいつを……、君の携帯で育ててほしいんだ」
ユウナは呆気にとられ、しばらくその場を動けずにいたのだった。
第十二回「
次回予告
ユウナ「私、人の役に立つことがしたいんです」
「横大路先生が?」
「先生はなぜ教授になろうと思ったんですか?」
正彦「君は、戦争をどう思うかね?」
ユウナ「戦争……」
正彦「人を憎み、恨み、そしてその憎しみがまた新たな憎しみを生む。こうして繰り返し、それに巻きこまれた人々は、終焉のない世界をさまようことになる」
大輝「俺らのタイムカプセル」
ユウナ「好きだよ」
百合子「あなたにもそんな考えがあったなんて」
大輝「ごめんな……」
ユウナ「私もいつか、先生のようになりたいです!」
正彦「私を超える人間になってくれ」
ユウナ「今度は私が、二人の力になりたい」
大輝「約束だぜ」
ユウナ「大ちゃんがいてくれなかったら、私ここまで変われなかった」
次回(第十三回)
「
序盤のキャラで、最も印象深い登場人物は?
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中谷優奈
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鶴ケ崎麗菓
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月見里美香
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夢野あかり
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池谷大輝
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相場善秀