パズル&ドラゴンズ~もうひとつの旅~   作:葉之和 駆刃

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第13話 試練の始まり〜ビギニング・オブ・テスト〜(その参)

 そしてユウナは、自宅に戻った。中に入ると、百合子が食卓に座っていた。

 

「ただいま」

「あ、おかえりなさい」

 

 百合子が、ユウナの呼びかけに気がつき、答えた。

 

「ミカは?」

「あなたの帰りが遅いから、さっき帰ったわ」

「そう……」

 

 ユウナは、ミカにはすごく申し訳ないことをしたと思った。

 

「何かあったの?」

 

 百合子が心配そうに尋ねた。ユウナはそれをきいて、

 

「ううん、何でもないよ」

 

 と答え、自分の部屋に上がった。部屋に入ると、ポケットからあの時のゲームカセットを出した。土がこびりつき、当時の面影はほとんど感じられなかった。

 

『持ってるだけでいいから。それが、これからのお前を見守ってくれるような、そんな気がするんだ』

 

 大輝の言葉が、今も耳に残っていた。大輝は、ユウナにこれを自分の身代わりだと思ってほしかったのかもしれない。そう思うと、ユウナの目からはまた涙が零れた。大輝と過ごした日々が、また無意識のうちに脳裏に浮かんだ。小学校、中学、高校、その一つ一つが、忘れることのできない、大切な思い出だった。ユウナはその後、黙って荷造りを進めた。

 

 夜になり、父親が帰宅した。ユウナがこの家でとる、最後の夕飯だった。明日からは、今までとはまったく別の生活が始まる。その分、百合子は腕によりをかけた。食卓に並んだユウナの好物たちは、ユウナの門出を祝福するかのように華やかに彩られた。家族全員が食卓に着くと、父の惟英が言った。

 

「では、ユウナの門出を祝って、乾杯!」

 

 それをきいて、ユウナは嬉しく、そして恥ずかしくもあった。四人で乾杯をした後、百合子がユウナにきいた。

 

「荷造りはもう済んだの?」

「あとちょっと」

「今晩中にはしておきなさいね」

「わかってるよ」

 

 ユウナがそう言い、料理を見つめた。百合子がこの日のために、ユウナの好きなものばかりを揃えてくれたのだ。そのような気遣いも、今も昔も変わっていない。ユウナは、今までずっと心にあった気持ちを、忘れないうちに伝えようと思った。

 

「どうしたの?」

 

 不意に、百合子が気になった表情でユウナを見た。するとユウナは顔を上げ、こう言った。

 

「きいてほしいことがあるの」

 

 それをきいて、惟英と義輝も食べるのを一旦中断し、ユウナの方を見た。

 

「私、小さい頃は自分が嫌いだった。弱い自分が、すごく嫌だったの」

「ユウナ……?」

「でも、私がここまで元気になれたのは、やっぱり、お父さん、お母さんがいてくれたからだと思う。辛い時、慰めてくれたり、間違ったことすると、叱ってくれたり……。私に、生き方を教えてくれた。進路を決める時にも、反対もせず黙って応援してくれた。時間はかかったけど、私、ここまで素直になることができた。それは、何と言っても二人のおかげだから。今度は私が、二人の力になりたい。そのために、大学で学んだことを、未来に生かしたいの。だから、これからも、見守っていてください」

 

 ユウナは目に涙をためながら、そう言いきった。すると惟英が、

 

「うん。立派な考えだな。しっかりやれよ」

 

 と言い、百合子もそれに続いた。

 

「あなたにもそんな考えがあったなんて。もちろん、そうさせてもらうわね」

 

 ユウナは二人の言葉をきき、笑うと自然に涙が頬を伝った。そして今度は義輝の方を向き、

 

「義輝、今日はごめんね。野球、頑張ってね。応援してるから」

 

 と、言った。それをきいて義輝も嬉しそうに、

 

「あ、あぁ」

 

 そう答えていた。そして、この日の夕食は終わった。楽しい時間ほど、早く終わるものだとユウナは改めて実感したのだった。

 

 その日の夜は、なかなか寝つけなかった。リカとの再会に対する喜びや、新しい場所での生活に対する不安、その両方がユウナを眠れなくさせていた。ユウナは、ふとカーテンが開いている窓の方に目をやった。夜空には、満月がくっきりと浮かんでいる。その光は、ユウナの部屋の中までも、目映く照らしていた。それをしばらく眺めていると、気がつけば朝になっていた。

 

 朝七時半ごろ、ユウナはカバンを引いて家の外に出た。家族三人も、見送りに出てきた。

 

「ほんとに、見送りに行かなくて大丈夫?」

 

 百合子は、まだ心配そうだ。

 

「いいよ、そっちだって忙しいんでしょ」

「そう?」

「寂しくなるな……」

 

 惟英も、そう言った。するとユウナは、

 

「でも、夏休みとかには帰ってこれると思う」

 

 と言い、安心させた。義輝も、

 

「姉ちゃん、頑張れよ」

 

 そう言うので、ユウナは頷いた。そして覚悟を決めたように、ユウナは言った。

 

「それじゃあ、行ってきます」

 

 ユウナの目は、覚悟を決めたように凛々しかった。三人は声を揃えて、

 

「行ってらっしゃい」

 

 と言って、ユウナを見送った。そしてユウナは不安と期待を胸に、十八年間世話になった家に背を向け、一人で歩き始めた。まだ風は冷たかった。

 

 

 そして駅に着くと待っていたのは、高校生活をともに過ごした仲間たちだった。

 

「ユウナ!」

 

 そう声を上げ、一番に駆けよってきたのはやはりミカだった。

 

「こんなとこまで?」

 

 ユウナは意外そうにきくと、ミカが言った。

 

「あったりまえじゃん! 友達なんだからさぁ」

 

 ユウナもそれをきき、嬉しく思った。

 

「昨日はごめん」

 

 ユウナが謝ると、

 

「いいのいいの!」

 

 と、ミカはきき流した。そして、

 

「昨日、渡しそびれたから」

 

 と言い、ユウナに御守りを渡した。

 

「うちの親から。何気に、ユウナには世話になったなぁって話してたから」

 

 ミカが進路を決める際、反対するミカの父親にユウナは頭を下げて願った。

 

『ミカに、好きなことをさせてあげてください!』

 

 それにより、ミカは今の進路を選ぶことができたのだ。それを思い出し、ユウナはきいた。

 

「あれから、お父さんたち、応援してくれてる?」

「まあね。大手入らなかったら、縁切るとまで言いだしてんだよ。まあ、それはないからあんまり心配はしてないけど」

「そうなんだ」

 

 そこへ、女子二人が嫌がる大輝を無理やり連れてきた。

 

「じゃ、あたしこれで失礼するね!」

 

 ミカはそう言うと、女子たちとともに後ろへ下がっていった。ユウナの前に、大輝が立っている。するとユウナは思い出し、肩に下げているカバンから、昨日のマフラーを取り出し、大輝に渡した。

 

「あ、これ。ありがとう」

「あ、あぁ……」

 

 受け取ると、大輝はこう話した。

 

「それより、相場のやつ、今日は用事があるから来れないってさ」

「知ってる。相場君によろしく伝えておいて」

「あぁ」

 

 そして二人は、しばし見つめ合った。そしてユウナは、

 

「ちゃんと大切にするから」

 

 と小さく言うと、大輝も答えた。

 

「約束だぜ」

 

 そこへ、

 

「お前ら何の話ししてんだ?」

 

 と言いながら、大輝の後ろから西城が顔を出した。それが、女子たちの手によって押さえつけられた。

 

「ちょっと、空気読みなさいよ!」

 

 ミカたちがそう言って騒いでいるのを見て、ユウナは思わず吹き出した。まるで、高校に逆戻りしたような光景だった。その時に、また大輝と目が合った。二人は目で言葉を交わし、そして笑い合った。

 

 その後、ユウナは改札を通り、ホームに出て電車が来るのを待った。駅の外では、電車が発車するのを皆で待っていた。ミカは隣にいる大輝に、

 

「で、結局どうなったの?」

 

 ときくので大輝が、

 

「何がだよ」

 

 そうきき返すとミカが、

 

「またまたぁ〜。告ったんでしょ?」

 

 ときくと、大輝はこう答えた。

 

「あいつに、告られたんだよ」

「え? で、なんて答えたの?」

「今更、そういう風には見れないって」

「なんでそんな嘘つくのよ」

 

 ミカが呆れ返ったように言うと、大輝はこう言った。

 

「だってあいつは、俺がいなくったって、もうなんでもできる。そう思えたから。できるだけ、あいつの邪魔はしたくないんだ」

「へぇ〜。てか、その言い方もすでにお兄ちゃんっぽいけどね」

 

 ミカがそう言うので、

 

「べ、べつにいいじゃんか!」

 

 と、大輝は恥ずかしそうに言った。すると大輝は思い出したように、

 

「そういえば、鶴ケ崎も今日来てたな。どこ行ったんだ?」

 

 そう言うので、ミカは言った。

 

「え? うっそ。あの人来てたの?」

「さっきその辺で見かけたんだけど」

「気のせいっしょ。あの子が来るわけないもん」

「そっかな〜」

「絶対ないない。てか、有り得ない」

 

 しかし、駅のホームの裏側にレイカは立っていた。ホームに背を向け、腕を組んで風に吹かれていた。レイカもまた、これから自らの門出を迎えようとしていたのだった。

 そして電車が来ると、ユウナはそれに乗った。発車音がきこえると、ミカは大輝を急かすように背中を押した。大輝は前に出ると、ホームを見上げた。昼前の心地よい日差しが射した。そして、ユウナを乗せた電車はゆっくりと発車していった。これが、ユウナにとって過酷な試練の始まりだったのかもしれない。

 

 

 その頃、研究室に帰ってきていた正彦はまた研究に打ちこんでいた。複雑なプログラムを何行も書き、部屋には機械の音だけが鳴っていた。その隣の机に、五枚ほどの書類が置いてあった。その一枚には、ユウナの顔写真が貼ってある。しかし、それだけではなかったのだ。その隣にはレイカ、ミカ、アカリ、そしてもう一人の顔写真が貼ってある書類が置かれていた。

 

 

 そしてちょうどその頃、ユウナは新幹線に乗り換え、流れゆく景色を見つめていた。それは、まだ何も知らない少女がただ一人、まだ見ぬ世界にいざなわれているようだった。

 

 

第十三回「試練の始まり(ビギニング・オブ・テスト)」終

 

 

 

次回予告

ユウナ「今日から、どうぞよろしくお願いします」

リカ「ユウナちゃん!」

ユウナ「ここには私以外に誰か住んでるんですか?」

リカ「ここって、なんか落ち着くの」

雅也「あいつは今、幸せなんだと思う」

ユウナ「それって、引きこもりだと思うんです」

初子「あまり気にしない方がいいと思うがね」

ユウナ「ごめんね……」

   「すみませ〜ん!」

   「私に、世話をさせてくれませんか?」

美千子「きっと、自分を見つめ直しているのね」

ユウナ「あ、あの! 私、中谷優奈と言います。わからないことばかりだけど、初さんにいろいろ教わりながらなんとか暮らしています」

 

 

 

次回(第十四回)

 

立ち塞がる壁(ブロッキング・ウォール)




第一部、完結です。

序盤のキャラで、最も印象深い登場人物は?

  • 中谷優奈
  • 鶴ケ崎麗菓
  • 月見里美香
  • 夢野あかり
  • 池谷大輝
  • 相場善秀
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