パズル&ドラゴンズ~もうひとつの旅~   作:葉之和 駆刃

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第15話 閉ざされた心~クローズド・ハート~(その弐)

 数日後、ガイダンスも無事に終わり、本格的に大学の授業が開始された。授業の日程は、インターネットでも確認できる。しかし、ユウナの手元の日程表には、登録したはずの科目が反映されていなかった。何らかの手違いがあったのかと思っていると、リンが横から話しかけた。

 

「どうしたの?」

「それが、履修登録したのに出てなくって」

「貸して。あ、ホントだ」

「どういうことなんだろ……」

「あの人にきいてみりゃいいじゃん」

「あの人?」

 

 ユウナは、不思議そうにリンを見ていた。

 

 キャンパスのはずれには、昔は授業を行っていたが、今は使われなくなった建物や倉庫が並んでいた。そこを通るには木が生い茂っているところを通らなければならず、行くには不便だった。しかしそれらには特に使用制限がなく、大学の許可が下りれば誰でも自由に使うことができた。正彦もまた、研究所をそこに置いている。小さなサークルが時々出入りしているが、その他の時間は誰もそこを通らなかった。ユウナは、正彦の研究所を目指した。深い森のようなところを通り、ろくに整備もされていない寂れた道を歩いていった。するとやがて、建物が並んでいるのが見えた。ユウナは、それらを見ながら正彦のいる研究所を探した。リンの言うように、正彦なら何かわかると思ったのだ。

 

 しばらく歩いた時だった。横の茂みから急に何かが飛び出し、ユウナの少し前を横切った。ユウナは咄嗟に前に出て、それが飛びこんだ草むらをかき分け、周りを見渡した。すると、足元の草がわずかに揺れた。この時、風は吹いていなかった。何かが隠れているのは間違いない。ユウナは、そっとそこへ近づいた。そして、一気に草を両手でかき分けた。そこにいたのは、紺色の丸い生物だった。小さい牙と羽が生えており、草花を食べている。ユウナは思わず、きゃっ! と声に出し、両手で口を塞いだ。するとその生物に気づかれ、謎の生物は飛び跳ねて向こうへ逃げていった。ユウナはまた咄嗟に、それを追いかけた。しばらく追いかけると、その生命体は身体の向きを変えずに左へ曲がり、茂みに隠れた。ユウナも立ち止まり、左の茂みの中を調べようと動いた時、女の声がした。

 

「もう、あかんやん。勝手に外でたら。誰かに見つかったらどうすんの?」

 

 ユウナは気になり、近づいてみると茂みの向こうに学生らしき女がその生物を抱きかかえ、話しかけているのが見える。ユウナは、それをこっそりと見ていた。

 

「横大路先生の研究がばれたら、あんたも消えてまうねんで? まったく、誰にも見られてへんやんな?」

 

 そう言ってその学生が顔を上げた時、ユウナと目が合ってしまった。するとユウナが、

 

「あ、こんにちは」

 

 と、気まずそうに挨拶した。するとその学生は驚き、

 

「えぇ! あんたずっとそこおったん!?」

 

 そう言いながら、ユウナを指差した。ユウナは、

 

「はい、その子を追いかけてきたら……」

 

 と、正直に言った。すると学生が、まずそうに言った。

 

「嘘ぉ……、ここにおったら絶対見つからんって思とったのに、こんなあっさり見つかるなんて……」

 

 それをきいたユウナは、罪悪感を味わった。

 

「あの……、何かあったんですか?」

「あんた、何しに来たん? 学科は?」

「あ、はい。理工学部の、パラダイス開発研究という学科です。横大路先生にお話があって、先生の研究棟がどこにあるか知りませんか?」

 

 ユウナが学生にそう尋ねると、学生は言った。

 

「へぇ、そういうこと。ちょっと来て」

 

 ユウナは言われるがまま、その学生についていくことにした。

 

 連れてこられたのは、このエリアだけで見ても一番古そうな二階建ての建物であった。学生がドアを開け、ふり向くとユウナにこう言った。

 

「ついて来て」

 

 ユウナはそれをきき、中に入った。入ると中は外見によらずきれいで、新しいコンピュータばかりが並んでいた。ユウナはそれを見て感動していると、

 

「ここが教授の部屋」

 

 と、前を歩いていた学生が言った。学生が部屋をノックし、

 

「どうぞ」

 

 という声が、中からきこえてきた。

 

「失礼します」

 

 学生が戸を開けた。中は薄暗く、怪しげな機械音だけがきこえてくる。ユウナは、学生と一緒に中に入った。正面には、正彦が背を向けて椅子に座り、何か機械をいじっていたのか、バラバラの部品が机の上に散乱していた。正彦は椅子ごとふり返ると、眼鏡をとってこう言った。

 

「何か用かな?」

 

 すると学生が、

 

「はい。この子が、教授に話があるそうです」

 

 と言い、ユウナを見た。すると正彦が、

 

「おぉ、君か」

 

 そう言って、嬉しそうにユウナを見た。

 

「では、うちはこれで」

 

 学生はそう言うと、部屋を出ていった。

 

「それで、何の話かな?」

 

 正彦は、ユウナに尋ねた。すると、ユウナはこう言った。

 

「あの……、私のアカウントだけ、授業の日程が更新されてないみたいなんです」

 

 ユウナが正彦に自分のスマホを見せると、正彦は言った。

 

「うむ……、きっと何かの手違いだろう。登録した授業は、開始前に手元で見れるはずだ。こちらで直しておくよ」

「お願いします」

 

 正彦が言うと、ユウナもそう言って頭を下げた。するとユウナは、顔を上げてこう言った。

 

「あの。もうひとつ、きいてもいいですか?」

「何だい?」

「先生は、なぜここで研究を?」

「なぜ……、とは?」

「もっと授業棟に近いところで研究したら、その、いいんじゃないかって思いまして。それとも、何か秘密にしたいことがあるんですか?」

 

 それをきき、正彦はしばらく黙った。そして、話し始めた。

 

「人には、それぞれ合った環境というものがあるんだ。私は静かな場所が好きだから、好んでここを選んだんだ。それ以外に理由はないよ」

「そうだったんですね……。それから、あの人が抱いていた紺色の子も、先生が作ったんですか?」

「あぁ、そうだが」

「じゃあ、本当にゲームの中に入れるんですか?」

「まだ開発途中だから、今は何とも言えないが……。そうだ、ちと押しつけがましいかもしれないが、今日見たことは誰にも話さないでいてほしいんだ。今は、君以外にはあまり知られたくないんだ」

「私……、以外……」

「あぁ、そうだ」

 

 ユウナはなぜ自分以外なのか気になったが、

 

「はい、お約束します」

 

 そう言うと正彦も嬉しそうに、

 

「ありがとう」

 

 と言い、ユウナの手を握った。ユウナも、少し嬉しくなった。

 

 ユウナは帰る途中、何度も正彦の研究室のある方をふり向いた。正彦は以前、自然を守りたいとユウナに話した。でもそれだけで、あれだけの大がかりな開発をするとは思えない。何かほかに、目的があるのかもしれない。ユウナはそう考えながら、足を進めた。

 

 下宿に戻ると、ユウナの帰りを待っていたペロが駆けよってきた。

 

「ただいま」

 

 ユウナはそう言ってしゃがむと、ペロの頭を撫でた。すると後ろから、

 

「とってもお利口な犬ね」

 

 という声がするので、ユウナは座ったまま後ろをふり向いた。目線の先に立っていた人物を見るとユウナは、

 

「美千子さん……!」

 

 と呟いた。そこにいたのは、正彦の妻、美千子だった。

 

「お久しぶり、元気だった?」

 

 ユウナも立ち上がると、

 

「はい」

 

 と答えた。すると、美千子はお土産袋を渡した。

 

「はい、入学祝い」

「え、いいんですか?」

「いいのよ、気にしないで。それより、初さんいる?」

「はい、たぶん中に」

 

 ユウナはそう言うと、美千子を中に案内した。中に入ると、初子が茶を差し出した。

 

「どう? 大学にはもう慣れたかしら」

「えぇ、なんとか……」

「あの人の授業、雑談ばっかりでちっともわからないでしょう?」

「あ、はぁ……」

「でも、あの人なりにちゃんと考えてるのよ。学生には優しく、自分には厳しくしてるの。私も、ずっと近くにいて最近ようやくわかったの。誰かのためなら、自分はどうなってもいいんだって」

 

 ユウナ自身、正彦の授業はすごく楽しみにしていた。

 

「それで、ほんとに悩みとかないの? あるんだったら、いつでも相談に乗るけど」

 

 美千子が言うので、ユウナは少し言うのをためらった。

 

「あの、大学とは関係ないんですけど……」

「いいわよ」

「同じ下宿に住んでる人で、引きこもりの方がいて。私、ここのところ毎日部屋の外から声をかけてるんですが、まったく返事がなくて」

 

 すると、今まで笑っていた美千子から、突然笑みが消えた。それを見て、

 

「どうしたんですか?」

 

 と、ユウナは尋ねると美千子が、

 

「ううん、何でもないの。そうね。でもそういう人って、毎日同じように接してあげてるだけで、自然に外へ顔を出せるものよ」

 

 そう言うのだった。ユウナも実際、小さいころ引きこもっていたが、大輝がそうしてくれたおかげで部屋の外に出ることができたのだ。

 

「そうですよね、やってみます」

 

 ユウナも、笑顔で答えた。すると美千子は初子に、

 

「では初さん、ユウナちゃんをよろしくお願いしますね」

 

 と言うと初子は、

 

「仕方ないねぇ」

 

 そう、いつものように言った。そして、美千子は初子にもお土産を渡すと帰っていった。

 

 

 そして次の週末、ユウナはリカの家に遊びに行った。リンも来て、三人は部屋の中で話をした。その時に、ユウナは引きこもりのことを二人に打ち明けた。

 

「へぇ、その人の飼い犬なの?」

「うん。でも、やっぱり少し寂しそうで」

 

 するとリンが言った。

 

「ペロって、ドラえもんに出てきた犬でしょ?」

「よくある名前だから関係ないと思うけど」

 

 リカがそう言うので、リンは顔をしかめた。

 

「それより、その犬がユウナちゃんに懐いてるんだったら、寂しくならないんじゃないの?」

「でもやっぱり、前の飼い主さんに会いたいんだと思う」

 

 ユウナも、何かいい方法はないかと模索した。するとリカは、

 

「やっぱり、その人をどうするかは、ユウナちゃん次第だと思う」

 

 と言った。

 

「私、次第?」

「うん、高校の時言ってたじゃない。私が相場君のこと好きだって言った時、ちょっとずつ話しかけていけばいいんだって」

「そう、だよね。ありがとう、やってみる」

 

 ユウナはそれをきいて、リカに感謝した。前に自分が言った言葉で、今度は自分自身が応援されるとは誰も思わないだろう。リカの言葉は、ユウナに勇気を与えた。

 

 その後、三人の会話はほかの話題へと移っていた。

 

「ねぇねぇ、今度さぁ、京都案内してよ」

 

 リンがリカに言った。

 

「うん、いいよ。といっても、私も半年しか住んでないけど」

 

 リカもそう言うので、三人は笑っていた。

序盤のキャラで、最も印象深い登場人物は?

  • 中谷優奈
  • 鶴ケ崎麗菓
  • 月見里美香
  • 夢野あかり
  • 池谷大輝
  • 相場善秀
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