「パズドラ」を基にした小説です。
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第1話 本当の友達~リアル・フレンド~(その壱)
「引きこもり」。それは、日本を代表する社会問題の一つである。その原因はいじめや家庭環境、様々なものがある。しかし、その中にごく稀に存在するケースがある。それは、「ゲームの流通」であろう。人は、あることに熱中すると無意識的に自分の世界に入ろうとする。その結果、学校に行きたくない、夢から覚めたくないと思うのである。そしてそれが、不登校や引きこもりへとつながるのだ。この物語の主人公は、それとは少し違う。学校には行っているが、毎日が楽しくない。家に帰ると、部屋に閉じこもり、ゲームで遊んでいる。学校以外には、一歩も外へ出ないのだ。
「ゲームだけが友達」、「ゲームの中だけが自分の世界」、「現実の世界に友達はいらない」
……………………………………………………………。
少女はそう自分に言い聞かせ、今日もゲーム機を手に取る。
現実から逃げ、自分の世界に閉じこもることが、彼女の生きがいなのである。しかし、人に助けられ、勇気を出して外へ飛び出してみることもまた、大人への第一歩ではないのだろうか。この少女もまた、固く閉ざされた牢獄の扉がこじ開けられるのを、待っていたのかもしれない。自分を助け出し、外に連れ出してくれる人を待っていた。自分の殻をたたき割ってくれる、誰かを待った。それだけを、願い続けていたのである。
そして、だんだんと足音が近づいてくるような気がした。もっと勇気が欲しい、その誰かの手を握れる、勇気が欲しい……。そして、確かにきこえてきた。心の扉が、ノックされる音を彼女はきいた。少女はふと目を開け、耳を澄ました。いつしか隣でよくきいた、懐かしい声だった。
2002年夏。ちょうど、蝉が鳴き始めた頃だった。公園では子どもたちが、鬼ごっこやかくれんぼをしている。そこの横の歩道を、下を見つめて駆け抜けるように歩く一人の少女がいた。
男子たちはジャングルジムによじ登り、愉快に話をしている。ユウナはそれを横目に、通り過ぎようとした時だった。
「おーい、もう帰るのか?」
ユウナは、ふり返った。遠くのジャングルジムから、一人の男子が言葉を投げかけた。すると次々に、男子たちはユウナに話しかける。
「お前、ゲームいくつ持ってんだ?」
「そんなに部屋に閉じこもりきりだと、もやしみたいに臭くなんぞ!」
「今度俺らにも何か貸してくれよ、なぁ、もやし!」
男子たちはユウナをからかうようにそう言うと、笑った。ユウナはそれらを完全に無視し、歩き出した。そうすると後ろから、男子たちの悪口が聞こえてきそうで、ユウナは足早に公園から離れた。ユウナは、誰に何を言われようと、相手にしなかった。友達はいらない、そう考えながら日々を過ごした。
ユウナは、家に帰った。家には母の百合子がいた。
「おかえり」
百合子はユウナが返ってくると、いつも優しく声をかけてくれる。ユウナはそれを耳にするたび、両親以外に自分に優しくしてくれる人はいない、そうとさえ思えた。
部屋にカバンを置くと、テレビにゲームキューブをつないだ。スイッチを入れ、プレーし始めた。よくある、冒険物だ。モンスターが主人公、アイテムを食べると、巨大化したりする。百合子も、隣でそれを見ていた。まず、家に帰ったら宿題をやれとは言わない。言ってしまえば、ユウナの精神状態はますます悪くなるだろう。でも百合子にとって、ユウナの将来がとても心配だった。ユウナはまだ小二だったが、このままでいいのだろうか、と百合子の不安は日に日に積もっていった。
晩ご飯を食べた後も、ユウナは一人部屋に向かった。そして、そこでようやく宿題を済ませ、またゲームを再開する。今度は、ゲームボーイアドバンス。携帯用のゲーム機だ。ユウナには、それらが帰宅後の日課となっていた。引きこもりのようで引きこもりでない、そう言えようか。
学校でのユウナは、休み時間は机に座って窓の外を眺めていることが多い。教室の隅っこに女子たちは集まり、楽しく会話している。ユウナはそれにも溶け込めずに、教室の中でただ孤立していた。そんなユウナを、唯一気にしている男子生徒がいた。その男子の名前は、
ユウナと幼稚園が一緒で、家も近くだった。大輝は昔からユウナのことを気にしており、何かあるたびにユウナに世話をやいた。ユウナが一年の時、学校に行かずに本当の引きこもりをしていた頃、大輝は毎日のようにユウナの家に行った。そしてユウナが部屋から出てくるまで、部屋の前に座って待っていたこともあった。でもその日、ユウナが部屋から出てくることはなかった。
しかしそれを続けていくうちに、結果的にユウナは学校に来られるまでに精神が安定した。まだ完全とまではいかないが、学校にはほぼ毎日出席している。大輝の存在が、ユウナにとってどれほど心の支えになっただろう。家族のほかに、自分を大事にしてくれる人がいる。そう思うだけで、ユウナの心は晴れた。
ユウナはそんな日々を思い出していると、昨日の男子たちがユウナの周りに集まってきた。
「よう、そろそろ持ってるゲーム、俺らにも貸してくれよ」
「なぁ、いいだろ?」
ユウナにはわかった。貸してほしいと思っているはずがない、きっとまた嫌味を言いにきただけだと。すると三人のうちの一人が、
「なんか、ここ、臭くね?」
と言うとほかの二人も、
「ほんとだ」
「くせー」
そう言った。するとまた一人がユウナを指差し、こう言うのだった。
「あー、お前の服からじゃん!」
「絶対そうだ、お前服洗濯してないんじゃね?」
男子たちはそう言って笑うと、また一人がこう言った。
「だってお前、もやしだもんな!」
そして、
「もーやーし、もーやーし」
と三人は手を叩き、教室中に「もやし」コールが響いた。さっきまで友達同士で話していた女子たちの視線も、知らぬ間にユウナの方に向けられている。ユウナは、その状況をひたすら耐えた。反論したところで、無駄だとわかっていたからだ。耐えるしかないと、心の中で目を瞑った。
すると、主犯格の男子の顔面に何かが当たった。
「いてっ」
それは、ユウナの足元に落ちた。消しゴムだった。
「いてーな、誰だよ!」
当てられた男子は叫ぶと、三人に向かってきたのは大輝だった。
「やめろよ、もういいだろ」
「へんっ、いいじゃんか、別に」
ユウナは、大輝の方を見た。大輝は、三人に向かって言った。
「こいつが何したって言うんだよ、人傷つけて、そんなに楽しいかよ」
「ふん、また彼氏気取りですかぁー?」
「お熱いねー、ひゅーひゅー」
「行こうぜ!」
一人がそう言うと、三人はどこかへ行ってしまった。ユウナは、また助けられたと思った。ユウナが大輝に助けられたことは、一回や二回ではなかった。
ユウナは、その日は久しぶりに大輝と一緒に帰った。一緒に歩いていると向こうの歩道から、
「よー、ラブラブ〜!」
「バーカ」
と、あの三人組である。大輝はユウナの手を引き、公園に入った。
「ここに何か埋めようぜ!」
公園に入ると突然、大輝がそう言い出した。ユウナは少し戸惑ったが、頷いた。
「なに……、埋めるって……」
ユウナがきくと大輝が、
「二人の大切なもの。俺が考えたんだ。それぞれが一番大切にしてるものを埋めるんだ。何か持ってるか?」
と、言った。ユウナは、ポケットに手を入れた。すると、何かがユウナの指に触れた。
「あちゃー、俺今日ろくなもん持ってねーわ」
大輝はランドセルの中を覗きながらそう言い、頭の後ろをかいた。
「ユウナは?」
大輝が尋ねた。ユウナは、ポケットに入れた手をそっと出した。その手には、何かが握られている。ユウナが、ゆっくりと手を緩めた。それは、カセット型のゲームソフト「マジックファンタジー」だった。それを見て大輝は、
「うわー、それ最近出たやつじゃん!」
そう驚いたように言った。ユウナは学校にゲームソフトを持ってくることはあまりなかったが、その日はたまたまポケットに入ったままだったのだ。ユウナは、それを大輝に手渡した。大輝はそれを見て、
「ほんとに……、いいのか?」
ときくと、ユウナは黙ったまま頷いた。大輝がそれを受け取り、手で穴を掘り始めた。ユウナも、そんな大輝の後ろ姿をしっかり見つめていた。人のために、こんなに優しくできる人が自分の近くにいたのだと、ユウナは少しの感動を覚えた。穴を掘り終えると、大輝はゲームカセットを中に埋めた。大輝はパンパンと両手を叩くと、立ち上がった。そして、ふり向いてユウナにこう言った。
「これ、十年ぐらい経ったらまた掘ろうぜ! 俺とお前の、友情の証」
ユウナは、嬉しそうに頷いた。大輝はジャングルジムの棒を片手でつかむと、猿みたいにぶら下がり、ユウナにもう片方の手をさし延べた。
「何かあったら、絶対俺に言えよ。俺が守ってやるから」
そしてユウナはまた、頷いた。
「約束な!」
大輝はそう言い、ジャングルジムから降りた。ユウナにとって、かけがえのない人だとも思えた。まだ幼いが、この関係は何年たっても消えることはないだろう。誰が見ても、そう思えるであろう。
「あとさ、さっき埋めたこと、誰にも言うなよ」
「うん」
「じゃあ、それも約束な」
「うん」
「それ以外にもなんか言えよー」
二人はそんな会話をしながら、帰っていった。
家に帰ると、百合子がいた。
「おかえり、ユウナ」
ユウナは笑顔で、
「ただいま」
と答えるのを見て、百合子は嬉しそうに言った。
「何かいいことでもあったの?」
ユウナは何も答えなかった。でも、百合子にはわかった。ユウナが笑顔で帰ってくることなど、過去にあまり例がなかったからだ。百合子はユウナを見て、少し安心した。すると百合子は思い出したように、ユウナを呼び止めた。
「ユウナ、福引券もらったんだけど行ってきてくれる?」
ユウナは、もちろん行くと言った。ユウナは母から一枚の券をもらい、カバンを肩にかけ、出かけていった。この日、ユウナは初めて学校から帰ったあとに家を出た。まるで体重が減ったように、足が軽かった。ユウナはスキップしたくなるほど、すがすがしい気分だった。そして、そのまま商店街の福引きコーナーへと足を運んだ。
着くと、何かもめているようだった。ユウナは気になって、目を凝らしてよく見てみた。そこには、中年ぐらいの男が福引券を大量に持ち、その分だけ抽選器を回していて、後が詰まっていた。
「おい、いつまでやってんだよ、おっさん!」
「さっさと代われ、ジジィ」
後ろから、ヤンキー風の若い男性が二人、罵声で煽っていた。それも無視して、その男は回し続けていた。
しばらくすると男は諦めたように、
「あー、もうダメだ」
と呟き、やっと引き返すそぶりを見せた。ユウナもそれを見ていると、男がユウナの方に歩いてくる。そして男は福引券の束をユウナに渡し、
「はい、十枚。これで、何か当ててくれ」
そう言うと、ユウナの頭を数回撫でた。大柄な男だった。サングラスをかけ、半袖のポロシャツを着、下はスーツらしかった。そして男は、去っていった。ユウナはしばらく、それを見つめていた。
そしてユウナは最後列に並び、順番を待った。そして、ユウナの番になり、ユウナは商品一覧を目にした。
「こんにちは」
カウンターにいる女性は、笑顔でそう言った。一等は、ハワイ旅行でもなく、車でもなく、最新のゲーム機という、どこにでもありそうな小さな福引きだった。なのに、なぜあの人はあんなに回そうと、必死だったのだろう。ユウナは、不思議に思った。
そして、手に持っている十一枚の券を見つめた。ユウナは少し考えた。そして手元に一枚残すと、十枚を女性に渡してこう言った。
「十回、やらせてください」
女性はその十枚の券を受け取ると、
「どうぞ」
と言った。ユウナは言われた通り、十回分回した。九回目までは、何もない白だった。そして十回目の時だった。黄色が出たのだ。すると、それを見た女性が鐘を鳴らし、
「おめでとうございます! 一等賞です!」
と言った。それをきいて周りから、拍手がわいた。ユウナは、単純に嬉しかった。でも、あの人に対しての感謝の方がやや強かった。
ユウナは家に帰ると、そのことを母の百合子に報告した。ユウナの手元にある、一枚の福引券。それが、これからの自分を変えてくれる、ユウナはそんな気がしていた。でも、あの人は一体誰だったのだろう。ユウナは、頭が疑問でいっぱいだった。なんであんなに券をたくさん持っていたのか、一体何を狙っていたのか、何をしている人なのか、その夜、ユウナの疑問が尽きることはなかった。
ユウナは自分の布団で横になりながら、考えた。ほとんどの疑問に対しては、なんとか予想することができた。でも、一つだけどうしてもわからないことがあった。どうして、自分に券をくれたのか。もったいなかったから、人に譲っただけなのだろうか、でもなぜ自分を選んだのか、ユウナは少しばかり混乱を施した。考えれば考えるほど、頭が冴えて眠れなくなっていった。ユウナは、もう何も考えずに寝るしかなかった。もう会うこともないだろう、忘れようと自分に言い聞かせた。
これが、ユウナにとって大切な出会いになることは、この時はまだ誰も、本人ももちろん知らなかった。その日からユウナは少しずつ変わり始め、友達も増え、いつしか一人ではなくなっていた。そう、人を信じることができたのだ。人を信じれば、自分も信頼される。そう思うようになり、ユウナは成長していった。
そして、あっという間に時は流れて2012年8月31日。朝の目覚ましが鳴る。
「ユウナー、起きてんのー?」
百合子の声が一階から響く。ユウナは、目覚ましを止めた。そして階段を下り、顔を洗い、歯を磨いた。普通の家庭に生まれ、よくある日常の中でユウナは生きている。そして制服に着替え、カバンを持った。
「行ってきます!」
「ごはんは?」
「今日はいい!」
ユウナはそう言うと扉を開け、外へ出た。夏の太陽が家の中に差し込んだ。そして、ユウナは走っていった。この日は、高校三年の二学期最初の日であり、ユウナが十八歳になる日でもあった。
第一回
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