パズル&ドラゴンズ~もうひとつの旅~   作:葉之和 駆刃

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第16話 虚像の楽園~バーチャル・パラダイス~(その壱)

 ユウナが大学に入ってから二週間余りが過ぎ、四月も半ばとなった。新入生は新しい生活にも馴れ始め、毎日が楽しくなってくる頃だ。ユウナもそれは同じであったが、彼女には少し変わった使命があった。

 

 毎朝、決まった時間に大学に来て、そしてキャンパス郊外にある、主に研究用の寂れた施設へと向かう。正彦の研究室も、そこにあるのだ。一限目が始まる一時間前くらいに、いつもそこに行って正彦の研究を手伝うのだ。

 ユウナは扉を開け、

 

「おはようございます」

 

 と言うと、

 

「あ、来た来た」

 

 そう言って出迎えたのは、アカネ(別役(わかえ)茜音(あかね))だ。アカネはユウナの一学年上で、パラダイス開発研究学科(通称、PKK学科)二期生。そして、正彦の助手をしている。アカネは、

 

「じゃあ、まずはこっち来てもらおか」

 

 と言い、巨大な機械のスイッチを入れる。すると、その機械の扉が開き、中から光を放出した。ユウナは眩しさのあまり、目を細めた。そして光が治まると、異次元の世界が目の前に現れた。これは、正彦がプログラムで創り上げた仮想世界、いわばゲーム世界だった。

 

「ついて来て」

 

 アカネが、ユウナを中に案内した。中に入ると、そこにはもうすでに正彦がいた。正彦はユウナを見て、

 

「おぉ、来てくれたのか」

 

 と言うのだった。

 

「あの……、何をすればいいんでしょうか」

 

 ユウナが不安気にそうきくと、正彦は笑顔で答えた。

 

「それを今から説明しようと思ってな。その前に、一つききたいことがあるんだが」

「何ですか?」

「君は、本当にこれでいいと思ってるのか? もしかすると、君を危険な研究の巻き添えにするかもしれない。無責任な話とは承知だが、私は君の安全のすべてを保証できないんだ。それでも君は、この研究を手伝ってくれるかい?」

 

 正彦は真剣な顔でそう言った。しかし、ユウナの心は揺るがなかった。ユウナ自身も危険性は十分あると理解していたが、すでに決心していたからだ。

 

「はい。構いません。私は、先生のお役に立ちたいんです。至らない箇所は山ほどあると思いますが、それでも私は、先生の研究のお手伝いがしたいんです。それに、私自身の身の安全は、自分で守りますから」

 

 ユウナは、はっきりとそう言った。

 

「ありがとう。では、さっそく始めるとしよう」

「はい」

 

 正彦が言うとユウナもそう返事をし、ほかの誰も知る由もない極秘のプロジェクトが今、開始されようとしていた。

 

 

 

第十六回 虚像の楽園(バーチャル・パラダイス)

 

 

「まずは、ここにいるモンスターたちのメンテナンスだ」

 

 そう言って正彦は、笛を吹いた。すると、たくさんのモンスターたちが正彦の周りに集まってきた。ユウナは、それを見て驚いた。本当にプログラムだけで動いているのが、不思議でならなかった。正彦はモンスター一体一体に特殊な機械を当て、何かを検査しているようだ。そして、すべてのモンスターを検査し終えると、正彦は立ち上がった。

 

「よし、異常はなかったな」

 

 ユウナはその様子をずっと見つめていたが、正彦が何をしているのか全然わからなかった。

 

「あの……」

 

 ユウナが戸惑ったように声をかけると、正彦はそれに気がついたのか、こう言った。

 

「いやぁ、すまない。これは、プログラムに異常が起きていないかを調べるための機械。その名も、『ビルズ・パリティ』だ」

「ビルズ・パリティ……?」

 

 すると、アカネが捕捉した。

 

「ビルズは体、パリティはエラー検出。その機械も、横大路教授が発明した装置で、プログラムにおけるいろいろなエラー検出や、その修正ができんねん」

 

 それをきいたユウナは、今までで一番の感動を覚えた。

 

「すごい……。すごいですよ、先生!」

 

 すると正彦が、

 

「すまんが、先生、と呼ぶのはやめてくれないか」

 

 そう言うのをきいてユウナは困ったように、

 

「どうしてですか?」

 

 と尋ねると、正彦はこう答えるのだった。

 

「どうもその呼び方をされるのは苦手でな、これからは、教授と呼んでくれ」

「教授……」

「そうだ。ゼミのみんなにもそう言ってるんだが、あんまり伝わらなくてなぁ」

「そうですか……。わかりました、教授」

 

 ユウナはそう言って笑顔を見せると、正彦も嬉しそうに笑った。

 

「本当にすごいですね、横大路教授って。そんなにすごいものが作れるのに、どうしてそれを世の中に広めようとなさらないんですか?」

 

 ユウナは、何気に質問してみた。それをきいて、正彦は少し具合の悪そうな顔になった。それを見て、何か悪いことをきいてしまったのかと、ユウナも正彦の顔色を窺った。すると、正彦はこのように言うのだった。

 

「私の発明は、今のところ何の役にも立たんからなぁ。きっと発表したところで、誰からも賞賛されんだろう」

「そんなことないと思います。だってほら、こんなに緑豊かだし、子供たちならきっと、喜ぶと思いますよ。それに、自然と人が触れあえる世界を創りたいっていう教授の考えは、素晴らしいことだとも思いますし」

 

 ユウナがそう言って、なんとかフォローしようとするが、正彦はとうとう、向こうを向いてしまった。

 

「これは自然ではないよ」

「えっ?」

「これは、人工的に創り上げた世界にすぎない。何もかもが他人(ひと)の手によって創られ、それに永遠には存在し得ない。やがては、この世界も消滅する」

「そんな……」

 

 正彦は再びユウナの方を向くと、

 

「仕方ないことだ。同じ知能はそう長くは続かない。例えば、凄まじく高速のコンピュータが出てきて、一時は世界を独占したとしても、すぐにまた別のコンピュータが開発され、前のものは廃れていくばかりだ。私の創った世界も、きっと同じような道を辿るだろう」

 

 そう言った。そして正彦は歩き始め、話を続けた。

 

「実のところ、私はそのコンピュータの技術を生かして、現実の自然界を守ることはできないかと考えている」

「現実の自然界を、守る……?」

「あぁ。それが今の、私の夢だ」

 

 正彦は足を止めると、空を見上げた。仮想世界の空が、現実世界の空と同じように見えた。ユウナはその時、正彦が尊く、そして輝いても見えた。多くの人々から変人だと扱われ、避けられてきた正彦は今、真剣に現実世界の未来について考えている。この世界も、何かすれば現実の世界で生きている人々の役に立つはずだという正彦の考えを、ユウナは初めて理解できたような気がした。だからこそ、この世界を守りたい。その思いは、ユウナの心を激しく揺り動かしていた。

 

 

 ユウナはその日の授業を終え、帰路についた。すると後ろから、

 

「ユウナちゃん!」

 

 と言いながら、リカがリン(吉浪(よしなみ)(りん))と一緒に走ってきた。

 

「どうしたの?」

 

 ユウナが尋ねると、リカは言った。

 

「なんかね、リンちゃんが京都の観光地巡りしたいって。今度の日曜日、暇? ユウナちゃんもどうかなって」

「うん、いいよ」

 

 リカが誘ってくるので、ユウナもそう答えた。するとリンが、

 

「でも、あたしらだけで大丈夫かな」

 

 と言うのでリカも、

 

「私も、そんなに詳しくないから……」

 

 そう言うのだ。それをきいて、ユウナはしばらく考えた。誰か、案内してくれそうな人はいないものか。すると、ふと思いついた人物があった。そしてユウナは二人に、

 

「あの、私に任せてくれるかな」

 

 と言うと、二人は不思議そうにユウナを見ていた。

 

 その夜、ユウナはその人物に電話をかけた。それはレイカの兄、雅也だった。雅也は今、京都の新聞社で働いているときいていたため、そこに電話をかけた。そうすると、雅也は快く引き受けてくれた。それをきいたユウナは、安心してその日を待った。

 

 

 当日、京都駅で四人は待ち合わせをした。三人が待っていると雅也が現れ、こう言った。

 

「やあ、お待たせしてしまって申し訳ない。昨日、夜遅くまで仕事入っちゃっててさ」

 

 するとユウナは、

 

「すみません。お忙しいのに、わがまま言ってしまって」

 

 と言って頭を下げると、二人もそれにつられて頭を下げていた。それを見て雅也は、

 

「いいって。俺でよかったら、いつでも頼ってくれよ」

 

 そう言ってくれた。ユウナは、

 

「ありがとうございます」

 

 と言い、もう一度会釈をした。雅也は、

 

「ところで、観光地といってもいろいろあるから、どういうとこに行きたいのかな」

 

 そう尋ねると、リンが待ってましたと言わんばかりに進み出てきて、持ってきたガイドブックを雅也に見せていた。

 

 そして一通り予定が決まると、三人は雅也にそこへ連れていってもらった。京都を観光する上で、最も外せないものといえば「金閣寺」だろう。正式には鹿苑寺といい、十三世紀に藤原公経によって建立された西園寺を、十四世紀末に放置されて手つかずであったため、室町幕府三代将軍義満が譲り受けたのが始まりだとされる。そのことをバスの中で雅也が説明すると、

 

「どうして、西園寺は放置されてたんですか?」

 

 と、リカが尋ねた。

 

「あぁ。西園寺の当主が、その当時天皇だった、後醍醐天皇を寺に招いて暗殺しようという計画を立てたんだ。でもそれは失敗に終わり、捕らえられた挙句、所領や資産を取り上げられてしまったんだ。西園寺も、鎌倉時代が終わるとともに衰退し、荒れ果てていたのを義満が改築したことが、鹿苑寺の始まりだと言われてる。因みに、鹿苑寺という名前は譲り主である義満の法号からきているそうだ」

 

 雅也がそう言って説明をすると、それをユウナたちは真剣にきいていた。

 

「詳しいんですね」

 

 リンが言うと、雅也が言った。

 

「僕も、高校の修学旅行で来るまではあまり知らなかったんだけどなぁ。でも、ここにはたくさんの歴史があって、いつかここで働きたいと思っていたんだ。そしてようやく、その夢が叶った感じかな」

 

 雅也は、そう言いながら窓の外を見つめていた。ユウナはそれを見て、雅也もきっと諦めずに努力したのだろうと思った。やはり自分の好きな場所で好きな仕事ができるのは、これ以上ない幸せなのだろう、そう改めて感じたのだ。

 

 そして三人と雅也は、金閣寺(鹿苑寺)に行った。

 

「すごい! ほんとに金ピカだ〜!」

 

 リンは、興奮気味にそう言った。ユウナも実際に見るのは初めてであり、水面に佇む金閣と水面に映る金閣が何よりも美しく見えた。ユウナは隣にいるリカを見て、

 

「リカは、来たことあるの?」

 

 ときくと、リカが言った。

 

「うん、来てばっかりの時。でも、あの時に見たのとはちょっと違う気がする。ひょっとしたら、それってユウナちゃんたちがいるからかな」

「えっ?」

 

 ユウナはその時、リカの言ったことがよく理解できなかった。すると雅也が隣に来て、

 

「金閣は冬になれば、雪化粧をするんだ。いつか見に来てみるといい。今の季節とは比べ物にならないくらい美しいから。まあ、その時期は外国人観光客で混むと思うけどね」

 

 と、言うのだった。

 

「ほんとに、何でも知ってらっしゃるんですね」

 

 ユウナは感心していると、雅也も言った。

 

「何でもってほどじゃないよ。まあ、新聞記者なら多少の知識は必要だからね」

「雅也さんは、なんで記者になろうと思われたんですか?」

「そうだなぁ。自分でもよくわからないけど、あまり知られていないことをもっと世の中に広めていけたらなあって思ったんだよね」

「あまり知られていないこと……」

「そうさ。初めのうちは、誰にも注目されないと思われていたものが、少数の人の目に留まって、いつかは世界中に広まっていく、そんな気がしてさ。最初はバカにされていても、自分の好きなことを続けていけるからこそ、頑張れると思うんだ」

「そうですね……」

 

 ユウナは、雅也が言ったことを正彦の研究と重ね合わせていた。正彦もまた、日の当たらない場所で自分の好きな研究を続け、そして努力している。

 

「どうしたの?」

 

 ユウナが黙っているのを見て、雅也が声をかけた。するとユウナは気がつき、

 

「あ、す、素敵なお話だなあって」

 

 と言って誤魔化すと、雅也も笑った。

 

「それならよかった。君のおかげで、また明日から頑張れるよ」

「そんな……」

 

 すると、リカが二人に言った。

 

「ねぇ、そろそろ行こうよ」

 

 それをきき、ユウナも次の場所へ行くことにした。

 

「次どこ行こっか」

 

 リカが言うと、リンがこう言った。

 

「ねえ、どうしても行きたいところがあるんだ」

 

 リンの行きたい場所は、金閣寺からそう遠くないところにあった。

序盤のキャラで、最も印象深い登場人物は?

  • 中谷優奈
  • 鶴ケ崎麗菓
  • 月見里美香
  • 夢野あかり
  • 池谷大輝
  • 相場善秀
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