パズル&ドラゴンズ~もうひとつの旅~   作:葉之和 駆刃

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第16話 虚像の楽園~バーチャル・パラダイス~(その参)

 下宿に帰ってくると、また真宏の部屋を見上げた。自分にできること、それを探し出すことさえできれば、真宏を救うことにもつながる。そう信じ、ユウナはその晩、自分の部屋で横になり、頭の中で模索していた。しかし、とうとうよい案は浮かんでこなかった。

 次の日も、ユウナは再び真宏の部屋を訪ねた。その日もまた、鍵が開いていた。ユウナは中に入り、部屋の扉を開けた。

 

「失礼します」

「何の用だよ」

 

 真宏はいつものように、後ろをふり向かずに言った。ユウナは真宏の後ろに座り、

 

「少し、お話があります」

 

 と言うと、真宏はふり向いた。それを見たユウナは少し安心し、話し始めた。

 

「先輩が大学に来なくなった理由、どうしても知りたいなと思いまして。しつこいのはわかってますけど、もしかするとそれで、先輩を助けられるかもしれませんから」

「なんでお前が……」

 

 真宏は、そう言ってそっぽを向いた。ユウナが、

 

「もしかして、横大路先生との間に何かあったんですか?」

 

 そう言った途端、真宏は目の色を変えた。充血した目でユウナを睨みつけ、

 

「そいつの話はするな」

 

 と言った。そして、

 

「お前、まさかあの変人教授のいる学科なのか……?」

 

 そう尋ねてくるのでユウナは、

 

「はい。パラダイス開発研究という学科で、二年前に設立されたばかりのところです。私も最初はわからなかったんですけど、でも、ちょっとずつ楽しくなって……」

 

 と言いかけると、真宏は両耳を塞いでこう言った。

 

「やめろよ……、ききたくねぇ……、思い出したくないんだ!」

 

 その言葉をきいてユウナは心配になり、

 

「先輩、大丈夫ですか」

 

 と、真宏に手を伸ばそうとした。すると、真宏はその手を振り払った。

 

「早く帰ってくれ、てかもう来んな!」

 

 そう言われ、ユウナは帰るしか道がなくなった。

 

 階段を降りると、ユウナはまたその部屋を見上げた。なぜ、正彦の名前にあれだけの過剰な反応を示したのだろう。それは、思い出したくない正彦との過去があるからだろうか。そうだとすると、それが引きこもりの原因であることに疑いはなかった。

 

 その晩、夕食時に初子がこう言ってきた。

 

「あんた、まだあの部屋行ってるのか」

「はい。どうしても、放っておけなくて」

 

 ユウナは初子を見つめ、

 

「あの。本当に、彼に何があったのか知りたいだけなんです。でも関わりのある人にきいても、なかなか教えてもらえなくて」

 

 と言うと、初子からこんな言葉が返ってきた。

 

「それが、あの子の望みだからね」

「どういうことですか?」

「ある出来事をきっかけに、彼は部屋に閉じこもってしまった。些細なことだけど、あの子にとってはひどく傷ついてしまってねぇ。そして、もう誰にも構ってほしくないという気持ちから、その理由を知っている全員に口止めしたのさ」

「そうだったんですか……」

「だからあんたも、あまり気にしない方がいいよ。何言っても、喋りそうもないからね」

 

 初子はそう言うと、立ち上がって台所の方へ行ってしまった。それを見てユウナは食べるのをやめ、しばらくそこで考えていた。

 

 

 さらに翌日、ユウナはまた正彦の手伝いをした。しかし、真宏のことが気になって身が入らない。前には、ユウナの所持モンスター、レッドがいた。レッドは、幼い子供のような目でユウナを見つめている。それがユウナにとって、プログラムでできているとは未だに信じられなかった。ユウナは機械をモンスターの体に当てて、正常に動いているかどうかを測った。すると正彦が後ろに来て、

 

「そろそろ上がったらどうだ」

 

 と言うのでユウナは、

 

「はい」

 

 と答え、立ち上がると扉をくぐった。

 

「君が来てから毎日、本当に助かってるよ。ありがとう」

 

 正彦は、笑顔でそう言った。

 

「私も、好きでやってますから」

 

 ユウナも、そう答えた。そうすると、正彦が尋ねてきた。

 

「本当に、そう思っているのか? 私の研究は、世の中の役に立たないと散々言われてきた。今もそうだ。それなのに君は、唯一私についてきてくれた。今のが本当に君の気持ちなら、これからも手伝ってくれるか」

「はい」

 

 ユウナは、迷わず答えた。正彦もそれをきき、嬉しそうに見つめていた。その時、ノックがされてドアが開いた。中に入ってきたのは正彦の妻、美千子だった。書類を渡すため、正彦の研究室を訪ねてきたのだ。美千子は、部屋にいるユウナを見て固まった。

 

「あ、お邪魔してます」

 

 ユウナがそう言って挨拶すると、美千子が正彦にこう言うのだった。

 

「どういうこと?」

 

 ユウナはそれをきいて、不思議に思った。すると美千子が正彦に、

 

「説明してくれるかしら、あなたまさか、ユウナちゃんに研究の手伝いを依頼したの?」

 

 と言った。正彦はそれをきいて、黙っていた。

 

「ねぇ、答えて!」

 

 美千子が書類を机に叩きつけ、正彦に近づいて言った。すると、ようやく正彦は答えた。

 

「あぁ。でも彼女は、前向きに承諾してくれたんだ」

 

 しかし美千子は、こう言うのだ。

 

「なんでよ、約束したじゃない! これ以上、関係のない学生を巻きこまないでって。あなたっていっつもそう! 自分の都合のいい方にしか考えが回らないの。そんな研究やって、何の役に立つっていうの!? それは、自分ではやってて楽しいかもしれないわよ。でも、それに他人を巻きこむなんて……」

 

 正彦が美千子に責められているのを見てユウナが、

 

「あの、違うんです。私は……」

 

 と言って二人の中に入ろうとすると、正彦は立ち上がって美千子に対し反論をした。

 

「巻きこんでいるんじゃない! 私だって、学生たちの安全を保証してやっているんだ! その上で、了承してもらって……」

 

 正彦が言い終わらないうちに美千子が、

 

「だからって、あんまりよ! 何がしたいの? こんな研究のどこがいいの!?」

 

 と言うので、反論する気力も失せたのか、正彦はまた椅子に座りこんでしまった。

 

「もう、放っておいてくれ。君たちには、決して迷惑はかけない」

「そう……、わかったわ」

 

 ユウナが見ると、美千子の目には涙が滲んでいた。美千子はそう言い残すと、部屋を出ていった。ユウナも、迷わずにそれを追いかけた。正彦は、依然として椅子に腰を下ろしたままだった。

 

 ユウナは美千子を追いかけ、外で話した。美千子が、

 

「恥ずかしいところを見せてしまったわね」

 

 と言うのでユウナは、

 

「いえ。美千子さんのお気持ちも、よくわかります」

 

 そう言った。すると、美千子は続けた。

 

「私、心配なの。あの人の身体のことが。授業以外では、ほとんどキャンパス内に姿を見せないの。ずっとあの部屋に閉じこもりきり。私、それを見ていると心配で……」

 

 そして美千子はユウナの方をふり向いて、

 

「あの人のことが、すごく心配なの」

 

 と言い、両目に涙を浮かべた。ユウナにも、その感情は痛いほど伝わった。きっと、本人もそれに気がついているのだろう。それでも尚、研究をやめようとはしない。それは、本当に夢を実現したいからなのだと思った。

 

「あの、美千子さん。教授には、夢があるんです」

「夢?」

「傍から見たら、たしかに誰のためにもならない研究だと思われるかもしれません。でも教授は、それを世の中の人に役立てようとしているんです。教授は、その技術を生かし、争いがなく、人と自然がうまく共存していける世界を創りたいと、そう仰っていました。それは今は、とてつもなく遥か遠い夢かもしれません。でも私は、信じてるんです。いつの日かきっと、その世界が本物となって実現すると。だから、教授の手伝いをすることに悔いはありません」

「ユウナちゃん……」

 

 美千子はそう呟き、ユウナを見つめていた。そしてユウナのところへ歩いてくると、ユウナの手を握った。

 

「あなたがそうしたいなら、そうすればいいと思うわ。ただ、私はあなたに好きな道を選んでほしかったの。それが、あなたの望む道なら、私に反対する資格はないわ」

 

 それをきいて、ユウナも美千子の手を握り返した。

 

「ご心配をおかけしてすみません。でも、私は今日、改めて心が決まりました。これからも教授を支え、美千子さんにも力になりたいと思います」

 

 すると美千子は、

 

「ありがとう」

 

 と、笑顔で言った。ユウナも笑顔で美千子を見つめ返し、心の中でたしかな誓いを立てたのだった。

 

 

 そしてその夜、ユウナは自分の部屋に帰っていた。どっと疲れたまま、今日一日の出来事を思い返していた。時間を見ると、すでに十二時を回っていた。ユウナは灯かりを消し、布団に入った。そして目を閉じ、意識が遠のくのを待った。

 

 しばらく時間が経過したころ、物音がきこえ、ユウナはふと目を開けた。そして起き上がると、その方へ耳を傾けた。すると、足音のようなものがきこえてくる。しかもその足音は、まっすぐユウナの部屋に向かってくる。初子だろうかと思ったが、こんな時間に訪ねてくるはずもない。ユウナは少し怖くなった。すると足音が止み、ゆっくりと襖が開かれた。ユウナは布団に身を潜めながら、ただそれを見つめた。そして、襖が完全に開かれた。その時、ユウナの目の前に現れたのは……。

 

「先、輩……?」

 

 目の前に立っていたのは、なんと真宏だった。

 

「話があんだよ」

 

 真宏もまた、ユウナを見て言った。こんな時間に話とは何だろうかと焦り、ユウナはしばらく口が開けなかった。

 

 

第十六回「虚像の楽園(バーチャル・パラダイス)」終

 

 

 

次回予告

ユウナ「私は、どうしてもあの人を救いたいんです。彼を助けたいんです」

アカネ「絶対言ったらあかんで」

ユウナ「謝ってください」

星見「いずれは話さんなあかんと思ってた」

ミカ「みんな心配してるんだよ、ユウナのこと」

真宏「今更、何を話せっていうんだよ」

ユウナ「皆さんが先輩を心配しているように、先輩も、あの人たちのことが大切なんじゃないですか?」

真宏「あぁー!!」

ユウナ「一緒に来てください」

真宏「俺は……、全部あんたのせいだと決めつけてた」

正彦「本当に、すまない」

ユウナ「もっと誰かを信じてみることから始めれば、きっとうまくいくと、私は思います!」

 

 

 

次回(第十七回)

 

追憶の天使(レミニセント・エンジェル)

序盤のキャラで、最も印象深い登場人物は?

  • 中谷優奈
  • 鶴ケ崎麗菓
  • 月見里美香
  • 夢野あかり
  • 池谷大輝
  • 相場善秀
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