パズル&ドラゴンズ~もうひとつの旅~   作:葉之和 駆刃

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第17話 追憶の天使~レミニセント・エンジェル~(その壱)

 バーチャル世界は、子供や多くの人々に夢を与える。が、それは夢でしかない。その分、壊れやすくもある。多くの夢が詰まった世界には、必ずといっていいほど悪が潜んでいる。あらゆるコンピュータに潜りこみ、そして夢を壊していく。それはまるで、楽しんでいるかのように……。

 

 ここはゲーム世界。いわば、プログラムだけで構築された仮想の世界だ。しかしそこには、現実世界と同じように花が咲き、木が生え、そして生き物が暮らしている。ここは、モンスターたちの楽園。花畑や、大空にまで様々なモンスターが生息している。しかしそこから遠く離れると、まだ何もない、未開拓な空間があった。そこには城があり、中からは不気味な音がきこえてくる。空は暗い。まるで日の光を拒んでいるかのように、その城は孤独に聳え立っている。その中から、荒れ果てた土地を眺める者がいた。

 

 その男は、それを見て楽しんでいるかのような表情をしている。すると空から、あるモンスターが降りてきた。それに乗っていたのは、つばの広い帽子を被り、肩からマントを下げた青年だった。その青年は男の後ろに立つと、

 

「言われたもん、置いてきたぜ」

 

 そう言った。すると、下を眺めていた男が口を開く。

 

「ご苦労だった。それでは、もう少しあちらの動きを窺ってみるとするか」

「本当にやんのか?」

「あぁ。私は、いつかこの世界を手に入れ、そして、この世界を支配するのだ!」

 

 男は両手を広げた。それを見計らったかのように、雷鳴が轟いた。その瞬間、その男の高笑った顔が光に照らされた。

 

 

 現実世界、ユウナの部屋には、「オーディン」という人間のようなモンスターが描かれたポスターが貼ってある。その部屋に、引きこもっていたはずの真宏が来ていた。

 

「話があるんだ」

 

 真宏はユウナを見つめ、そう話した。ユウナは、部屋の前に立っている真宏を見て、ただ驚いていた。

 

 

 

第十七回 追憶の天使(レミニセント・エンジェル)

 

 

 ユウナは今年、大学一回生。東京から地方の大学に合格し、民宿の世話になっていた。その民宿には、外に顔を出さないいわゆる「引きこもり」が住んでいた。ユウナは毎日のようにその男の部屋に行っていたが、ある日突然、その男が自らユウナの部屋に現れたのだ。

 

「何……、ですか?」

「昨日は、ごめん。ちょっと俺、自分のことしか考えてなかった。俺、ずっと一人だったから。執拗に訪ねてくるアンタを見て、誤解してた。でも、嬉しかったんだ。だから、これだけは信じてくれ。俺は人を信じられないわけじゃない。ただ、もうあそこには行けない。会いたくねえんだ」

 

 それをきいたユウナは、

 

「信じます。あなたがそう言うのなら、私は信じます」

 

 と、答えた。

 

「じゃあ、俺はもう帰るから」

「待ってください!」

 

 ユウナは、反射的に真宏を呼び止めた。

 

「ほんとに、もう行かないつもりですか? 単位取れないと卒業できないし、就職とかも」

 

 すると、真宏はユウナに背を向けたまま答えた。

 

「どうだっていいよ」

「え……」

「俺はもう、どうやっても世間から陽の目を見ることはできない。それだけはわかってんだよ……」

「そんな、でも……」

 

 ユウナが何か言おうと立ち上がろうとした時、真宏はその場から立ち去った。ユウナは、真宏が放った言葉の意味をしばらく考えていた。

 

 

 翌日、リンと一緒に授業を受けていると、横からリンが話しかけた。

 

「ねぇねぇ、もうすぐあれじゃん。ゴルウィー」

「ゴルウィー?」

「ゴールデンウィーク」

「あ、あぁ……」

「実家帰ったりするの?」

 

 リンがそうきいてくるので、

 

「あ、うん。まだ何も決めてない……」

 

 と、ユウナは答えた。毎日が忙しく、すっかり忘れていたが、もうすぐ四月が終わり、ゴールデンウィークに入ろうとしていた。でもユウナは、まったく予定を立てていなかった。百合子の希望通り、帰りたいとは思っているが、今からだと新幹線のチケットがとりにくくなっているだろう。電車だと、乗り継ぎが多くなるため、いつ着くのかもわからない。ユウナは、

 

「リンは、実家帰るの?」

 

 ときくと、リンは少し焦ったような表情を見せた。

 

「え、私? 私は、ちょっとバイトとか入ってて、帰れないかなぁ」

 

 リンの反応を見て不思議に思いつつも、深くは追及しなかった。

 

「私も、いろいろあって帰れないかも」

「いろいろって、アニ研?」

「まぁ、そんなところ」

 

 ユウナは、正彦の研究を手伝っていることについて、まだ誰にも話していなかった。しかし、ふと疑問に思った。リンやリカには、話してもよいのではないのだろうか。ユウナは、その日の授業が終わると正彦の研究室へ向かった。

 

 そして、そのことを助手のアカネに相談した。すると正彦の助手で、ユウナの学科の先輩にあたる別役(わかえ)茜音(あかね)は、

 

「はぁ? 教えたいって?」

 

 と、話をきくなり難色を示した。

 

「はい。せめて友達には、私が毎日、どこで何をしているのか、どんなことを学んでいるのか、それを教えたいんです。いつも授業が終わると、どこに消えるんだろうって心配しているみたいなので。どうか、お願いします」

 

 ユウナが言うのをきき、アカネはこう言った。

 

「まぁ、わからんでもないけど、こっちは絶対秘密でやってんねん。この棟に出入りしてる人間以外には教えたらあかんことになってる」

「でも……」

「いい? 教授も言ってたやろ? まだ、この研究を世間に知らせるわけにはいかへん。もし部外者にここでの研究のこと話したら、あんたもここにはおれんようになる。これだけはわかって。絶対言ったらあかんで」

 

 アカネは、釘を刺すようにユウナを強く見つめた。それを見たユウナは、

 

「……わかりました。私も、ここが好きなので」

 

 と言い、諦めることにした。

 

「わかればよろしい」

 

 アカネも、機嫌よさそうに言った。ユウナは少し残念に思いつつも、今は従うしかないと思った。正彦の研究に水を差すようなことは、助手として許されない。リンに、毎日どこに行っているのかときかれたら、アニ研に行っていると答えればいい。そう言っておけば、部室にまで探しにきたりはしないだろう。

 

 その日も、ユウナは夕方まで正彦の手伝いをした。そして帰路につくと、ポケットからラインの着信音がきこえた。ユウナはスマホを取り出し、通知をよく見てみると、なんとミカからだった。

 

『もうすぐGWだよね!? ユウナはこっち帰ってくるのかなぁ。私はちょうどそっち行く用事できたから、ユウナのとこ寄ってもいいかな』

 

 それを見たユウナは、またミカに会えるのかと思うと、嬉しくてたまらなかった。早速、返信をしてミカに住所を教えた。ユウナはこの日、まるで足が軽くなったように、足を弾ませて帰った。

 

 

 そして連休に入り、ミカが遊びに来た。

 

「ユウナ、久しぶり~!」

 

 ミカは相変わらずの調子で、ユウナのところに走ってきた。たった一ヶ月半ほどしか会わなかっただけだが、ミカはすっかり大人っぽくなっていた。そして、ミカを部屋に入れた。

 

「結構よさそうなところだよね」

 

 ミカが言うとユウナは、

 

「この辺は森林が多いから、空気がとてもきれいなの」

 

 と説明し、ミカが畳に座った。

 

「みんな元気?」

「うん、それがね……」

 

 ユウナが尋ねると、ミカの顔が曇った。ユウナはそれを見て、違和感を覚えた。すると、ミカがこう言うのだった。

 

「大輝君のお父さんがね、大輝君が入学してすぐ亡くなったんだって」

「えっ……?」

 

 ユウナは、言葉を失いかけた。

 

「今は、お母さんの実家に引き取られて、そっから通ってるんだって」

 

 ユウナは、また大輝のことを思い出した。

 

『今までユウナのこと、妹みたいなやつだと思ってたから、今更そんな風には見れないっつーか……、なんて言ったらいいんだろ』

『ごめんな……』

 

 大輝は今、どのような気持ちで過ごしているのだろう。

 

「私……、何もしてあげられない」

 

 ユウナは、不意に呟いた。ミカも、ユウナを見つめている。

 

「大ちゃんは、昔、私を守るって言ってくれた。でも私、まだ一度も恩返ししてない」

 

 するとミカが、ユウナの背中に手を当ててきた。

 

「何言ってんの。いっぱいしたじゃん」

 

 それをきいて、ユウナもミカを見た。

 

「ユウナの存在が、いつもアイツの支えだったから。それだけは、わかってあげなよ」

「ミカ……」

『とられる前に動いた方がいいかもよ。ユウナの受験がすんだら、告ってみたら?』

『あ?』

 

 思い返せば、どんな時も大輝がユウナのことを見守ってくれていたのは、ミカが一番よく知っていたのかもしれない。友情がいつしか愛情に変わっていたことも、ミカはいち早く気づいていたのかもしれない。

 

「そういえば大輝君、ユウナのこと好きだったんだよ」

「えっ?」

 

 ミカの話をきき、ユウナは驚きの声をあげた。

 

「だって、大ちゃんあの時……」

 

 大輝はたしかに、ユウナが告白した際、首を縦に振らなかったのだ。しかし、ユウナがそう言いかけるとミカは、

 

「言ってたもん」

 

 と言った。

 

『だってあいつは、俺がいなくったって、もうなんでもできる。そう思えたから。できるだけ、あいつの邪魔はしたくないんだ』

 

 大輝はユウナが出発する日、ミカにそう話した。ミカの話をきいて、

 

「大ちゃん……、本当に私のこと気遣ってくれてたんだ……」

 

 と言ったユウナの目には、いつの間にか涙が溜まっていた。すると、ミカは何気に上を見上げてこう言った。

 

「みんな心配してるんだよ、ユウナのこと」

 

 それをきいて、ユウナの目からは一筋の涙がこぼれた。いろんな人に支えられていると実感したのは、これが初めてではない。でもなぜか、今までとは違う喜びがあったのだ。それが何なのか、はっきりとはわからない。友情とは少し違う、甘酸っぱいものがあった。そして、いつの日か恩返しができるように、今まで以上に努力していこうとこの時、固く誓ったのだった。

 

 その後、ユウナはミカを連れてリカの家に遊びに行った。リカが近くに住んでいるという話をユウナがすると、ミカが是非会ってみたいと言いだしたのだ。ユウナがインターホンを押すと、中からリカが顔を出した。するとリカはミカを見て、

 

「ミカちゃん!?」

 

 と、驚きの声を上げた。

 

「久しぶり!」

 

 ミカはそう言って手を上げると、リカは感激したように笑った。

 

「転校する時さ、なんでもっと早く言ってくれなかったの?」

 

 中に入ると、ミカがそうきいた。

 

「ごめん、急に決定したから」

「でもまあ、ユウナと同じ大学だったからよかったじゃん」

「でも、キャンパスは違うんだ」

「え、そうなの?」

 

 ユウナが言うと、それならばなぜここに住んでいるのかと言うような目でミカは見てきた。するとそれに気がついたのか、リカがこう話した。

 

「引っ越してきたころは、まだどこ受験するか迷ってて。たまたま京都の大学がいいって話になって、それにここから割と近いから」

「そうなんだ」

 

 リカとユウナ自身も、まさか高校卒業後すぐに再会できるとは思っていなかった。ユウナは、相場に言われて初めて知ったのだ。その相場も今ごろ、大学で楽しく過ごしているのだろうか。大輝と同じ学科だときいていたユウナは、ふとそのようなことを考えていた。

序盤のキャラで、最も印象深い登場人物は?

  • 中谷優奈
  • 鶴ケ崎麗菓
  • 月見里美香
  • 夢野あかり
  • 池谷大輝
  • 相場善秀
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