パズル&ドラゴンズ~もうひとつの旅~   作:葉之和 駆刃

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第18話 魔王の城〜サタンズ・シタデル〜(その弐)

 家に着き、ユウナが呼鈴を鳴らすと、ドアが開いてリカが顔を出した。

 

「いらっしゃい」

「また、ご両親はいないの?」

 

 ユウナがきくと、

 

「そうなんだ。さ、上がって!」

 

 と、リカは二人を促した。相場は、少し気まずそうに中を見渡した。告白されたにもかかわらず、返事をしなかった相手の家に、自分が来ていいのだろうかという気持ちもあっただろう。相場を見てユウナが、

 

「どうしたの?」

 

 ときくと、

 

「いや、何でも」

 

 そう言い、相場は家に上がった。

 中に入ると、花の匂いがした。玄関には、花が瓶に入れて飾ってある。

 

「相場君」

 

 リカが声をかけた。すると、

 

「いい香りだな」

 

 と、相場は言った。それをきいてリカは、

 

「うん。花って、不思議な力があるよね。辛い時や悲しい時、香りを感じるだけでそれを忘れられる。だから、好きなんだ」

 

 そう言うと、優しく微笑んだ。ユウナはそれを見ながら、初恋の相手を目の前にして動じないリカは強いと思った。リカの言う通り、花からその力をもらっているのかもしれない。相場が、

 

「あの時は、ごめんな。急なことで、何も返事できなくて」

 

 と言うと、リカは首を振った。

 

「私の方こそ、もっと早くに伝えるべきだった。好きだっていう気持ちも、早くに気づくべきだった。でも、相場君のおかげで私は変われた。私に、勇気を与えてくれた。そのことだけは、いつまで経っても変わらないから」

 

 リカが言うのをきいて、相場も笑っていた。ユウナも近くでそれを見ていて、リカを改めて尊敬した。おそらくリカは、ずっとこの日が来るのを待っていたのだろう。高校時代、釈然としない別れとなってしまった。それは、どれほど苦しいものだったか安易に想像できた。その分、こうやって互いの意思を伝え合うということができたのが、二人にとってこれ以上ない喜びだったのかもしれない。ユウナはそんな二人のことを微笑ましく、そして時に羨ましいとも思った。

 

 帰り道、ユウナは相場に礼を言われた。

 

「ありがとう」

「えっ?」

「これで、一つ悔いがなくなった」

「そう。でも、よかったの? リカ、相場君のこと好きだったのに」

「いや、あいつもわかってた。俺のこと理解した上で、打ち明けてくれたらしいんだ」

「リカ、最初からわかってたんだね。何にも知らなかったの、私だけだったみたい」

「そんなことねえよ。お前もあの時、あいつの気持ちわかってたから、その分まで俺に伝えようとしてくれたんじゃないのか?」

「それは……」

「自分に素直でいた方が、あとになって後悔しなくて済む。そう思ってたんだろ?」

 

 ユウナはそれをきいて、立ち止まった。

 

「私は……、気持ちを伝えられないことが後悔につながると思ってた。でも、それは違った。私が相場君に告白したことで、あの子を、リカを傷つけてしまったの。本人はもう気にしてないって言ってるけど、心ではまだ相場君のこと、大切に思ってるんだよ」

 

 ユウナがそう言うので、相場が前に来てこう言った。

 

「傷つけたんじゃない、守ったんだ」

「守った……?」

「あぁ。大切に思っているからこそ、傷つけたとばかり思いこんじゃうんだ。あいつも、お前に感謝してるはずだから。俺の代わりに、側にいてやってほしい」

 

 相場の言葉に、ユウナは黙って頷いた。

 

「じゃ、俺はこれで」

 

 相場はそう言うとその場を離れ、ユウナに手を振った。ユウナも手を振り返し、今の言葉を力一杯受け止めていた。もしかすると再会のあとに、人は強くなっていくのかもしれない。それは、そう思えた瞬間でもあった。

 

 その夜、ユウナは布団の上で今日のことを思い出していた。言葉とは、人に希望を与え、温もりをくれる。そんなものだと、改めて実感するのだった。

 

 

 それから数日が経ち、ユウナはリンとリカとともに京都の観光地を回ることになった。その案内役を、また雅也が引き受けてくれた。待ち合わせ場所に雅也が現れると、

 

「あの。すみません、また急なお願いしてしまって」

 

 と、ユウナは一言詫びた。すると雅也が笑顔で、

 

「いいって。実は僕も、夏期休暇もらったからね。それに、好きでやってるんだよ。観光地巡りも、記者にとっては絶好のネタ探しだからね」

 

 と言うので、ユウナは安心した。

 

「じゃあ、どこ行きたい?」

 

 雅也はまた、三人にきいた。すると、リンが待ってましたと言わんばかりに出てきて、

 

「あの。今日はこことここと……」

 

 と、雅也にガイドブックを見せながら話していた。しばらくして、四人は出発した。前をリンと雅也が歩き、その後ろをユウナとリカも歩いていた。リンは、雅也と楽しそうに話をしている。余程、京都が好きなのだろうとユウナは思った。ユウナも歩きながら街並みを眺めていると、古くからの町家が京都の歴史を語ってくれているかのように並んでいた。すると、リカがユウナに話しかける。

 

「ねぇ、あれから相場君、何か言ってた?」

「え?」

 

 ユウナは少し驚き、リカを見つめた。

 

「なんかね、相場君あの日、すごく気遣ってるみたいだったから」

 

 リカは下を見つめながら、そう言うのだ。それを見て、ユウナはこれを機に話さなければならないと思った。そして、リカにこう言った。

 

「リカ、きいてほしいことがあるの」

「何?」

 

 幸い、リンは雅也の話に夢中できこえていないようだ。

 

「私、三年の時、相場君に告白したの。二回。でも、どっちもだめだった。私、実はずっとリカに謝りたかったの。相場君を想う、リカの気持ちを裏切ったような気がして。ごめんね、友達なのに。友達より先に幸せになろうとするなんて、最低だよね、私」

「そんなことないよ」

 

 リカから出たのは、意外な言葉だった。

 

「私、全部相場君からきいた。でも私、ユウナちゃんに感謝したいくらいだよ」

「えっ……?」

「私、これですっきりした。実は私、転校したころ、しばらく相場君のことが頭から離れなかったんだ。でも、相場君からユウナちゃんのこときいて、自分も頑張らなきゃなって思ったの。ユウナちゃん、どんなことでも全力投球でしょ? だから、きっと相場君に想いを打ち明ける時だって、そうだったんだよね。だから私も、もう弱気じゃいられないって思ったんだ。私もユウナちゃんを見習って、やりたいことをする、言いたいことを言う、そんな生き方をしてみたいって思ったの。だから、気にしないで。私は、大丈夫だから」

「リカ……、ありがとう」

 

 ユウナは、リカの顔を見つめながら言った。リカも、優しくユウナを見つめ返してくる。すると、

 

「何の話?」

 

 と、不意に話しかけられたので、前を見るといつの間にかリンが前から二人を見つめているのだった。

 

「あぁ、うん。何でもないよ」

 

 ユウナは焦りながら言った。

 

「ねぇ、リカ」

 

 そう言うとリカも、

 

「そ、そうそう。あ、午後はどこに行くかって話」

 

 と、適当に答えた。

 

「なんだぁ、じゃ、二人も考えてよ」

 

 それをきいたリンが納得したように言うので、二人は顔を見合わせて微笑んだ。

 

 それから、三人は雅也にガイドをしてもらいながら、様々な観光名所を訪れた。寺院や伏見の寺田屋など、歴史ドラマの舞台となりそうな場所まで日が暮れるまで見物した。帰りは、三人ともクタクタになりながら夜道を歩いていた。

 

「あぁ~、楽しかったぁ~!」

「また行きたいね」

 

 リンとリカはそう言った。ユウナも、

 

「夏休みはまだまだあるから、これからも来れるよ」

 

 と言うと、

 

「まだ一回生だしね~」

 

 そうリンが言った。すると雅也が、

 

「じゃあ、今日はお疲れ様。よかったら、送ってくけど?」

 

 と言うので、ユウナは言った。

 

「いえ、大丈夫です。ありがとうございました」

 

 そして、軽く頭を下げた。雅也はそれを見て、

 

「じゃ、気をつけてね」

 

 と言い、歩いていった。ユウナはそれを見送りながら、これからのことを考えた。やはり実家に帰ろうか、ここに残って正彦の研究を手伝おうか。しかし、もうすぐお盆ということもあり、電車も新幹線もどこも満席で席がとれないだろう。もうしばらくの間は、ここにいるしかない。

 

 そしてその夜、ユウナは部屋で母の百合子に電話をかけた。

 

『そう……、帰ってこれないの』

「うん、もうちょっと早くに予約してればよかったんだけど……」

 

 ユウナが話すのをきいて、電話の向こうの百合子はこう言った。

 

「あまり、無理はしないでね。一回生だけど、授業、大変なんでしょ?」

「大丈夫だよ。それに、新しい友達もできたし」

「わかった。落ち着いたら、一度帰ってきなさいね。年末でも春休みでも、待ってるから」

「うん、ごめんね」

「いいのよ。じゃ、身体には気をつけるのよ」

「わかった。おやすみなさい」

 

 ユウナはそう言い、電話を切った。久しぶりにきいた母の声が、どこか温かった。ユウナは母親の優しさを胸に、布団の中に入った。

 

 

 翌朝、ユウナは目を覚ますと、眩しい光が目に入った。そして、時計を見る。時間はすでに、昼前を示していた。それを見て、ユウナは飛び起きた。昨日の夜、目覚ましをセットし忘れていたのだ。ユウナは急いで階段を駆け降り、初子を探した。怒られるのは目に見えていたが、まずは謝らないと話すらきいてもらえない。しかし、どこにも姿が見当たらなかった。畑仕事でもしているのかと、着替えて外を覗いてみるが、そこにもいない。そうすると、庭で真宏がペロの世話をしているのが見えた。

 

「あのぉ……」

 

 ユウナが、真宏に声をかけた。真宏がふり向くと、

 

「初さんは?」

 

 と、きいた。

 

「あぁ。婆さんなら今、買い物行ってる」

 

 真宏はそう答えるので、ユウナは初子が帰るまで待つことにした。すると、ペロが尻尾を振って真宏に甘えている。真宏も嬉しそうに、ペロを抱いていた。ユウナはそれを見て、

 

「よっぽど、嬉しかったみたいですね」

 

 と話しかけると、

 

「あぁ、こいつには散々寂しい思いさせてきたからな。こうして、毎日遊んでやらないとな」

 

 そう真宏は言うのだった。ペロにとって、真宏が部屋から出てきてくれたことは何よりも嬉しかったはずだ。一緒に戯れている真宏も、先輩でありながらユウナは少し可愛いと思えた。しばらくそれを眺めていると、電話が鳴った。スマホの画面には、「横大路正彦」と表示されている。ユウナはそれを見て不思議に思いながらも、電話に出てみた。すると、

 

「やぁ、ユウナ君」

 

 と、力ない声がきこえてきたのだ。

 

「あの、どうかされたんですか?」

「ちと、問題があってな。今すぐ、来てくれないか」

 

 正彦がそう言うのでユウナは、

 

「わかりました」

 

 そう言い、電話を切った。それを見ていた真宏は、

 

「これから、大学行くのか?」

 

 と、理解したように言った。ユウナは、

 

「はい。初さんが帰ったら、伝えておいてくれませんか?」

 

 と言うと真宏は、

 

「あぁ」

 

 と頷いた。それを見てユウナも安心し、走って出ていった。真宏はそれを何か知っているような眼差しで見ていたが、ユウナはそれを知る由もない。

 

 ユウナが正彦の研究室へ行くと、正彦がこう言った。

 

「よく来てくれたね」

「何かあったんですか? 問題って、何のことですか?」

「あぁ、いや。少し不思議なことがあってね」

「不思議なこと?」

「そうだ、『セインツ・パラダイス』でな」

「『セインツ・パラダイス』って、教授が創ったあの世界のことですよね。それが、どうかしたんですか?」

 

 ユウナがきくと、正彦が言うのだった。

 

「実は、謎のエラーが発生してね」

「エラー?」

「あぁ。『セインツ・パラダイス』はいくつかのエリアに分かれているのは知っているね」

「はい」

「そのいくつかのエリアが、何者かによって破壊されたんだ」

「破壊?」

「あぁ。誰かが、ウイルスを送りこんだようだ」

「誰が、そんなことを……?」

「わからない。だから、君も私と一緒に、原因をつき止めてほしい」

「でも……」

「安心しなさい。君を、危険な目に遭わせるような真似は絶対にしない。何か危険なことがわかった場合、即中止する」

 

 正彦が言うのをきき、ユウナは答えた。

 

「わかりました。でも、今日は考えさせてください」

「あぁ、そのつもりだ」

 

 正彦が言うと、ユウナは頭を下げて部屋を去った。正彦の言っていることがもし本当だとすると、誰が何のために、システムを破壊したのだろうか。それに、あの世界の存在を知っているのは、正彦とユウナを含めた極限られた関係者たちだけだ。しかし、その中に犯人がいるとはとても考えられず、そして考えたくもなかった。

 

 

 正彦が創り出した、「セインツ・パラダイス」。その奥には、高い城が立っていた。しかし、その存在は創造者である正彦すらも知らない。その中には正彦と同じくらいの中年男性、そして青年がいた。男性は黒いマントをまとっていた。まるでその姿は闇の国王で、名はサタールという。すると、後ろからサタールに話しかける者がいた。

 

「ほんとに、あれでよかったのか?」

 

 その青年は、魔法使いのようにつばの広い帽子を被り、西洋の童話に登場しそうな服を身にまとっている。

 

「不満があるのか?」

「いや、そういうわけじゃないですよ」

「だったら何も言うまい、フギンよ」

 

 フギンと呼ばれた青年は、今度はこう言った。

 

「じゃあ言わせてもらうぜ、これがあんたのしたかったことかィ?」

「だとしたら、どうだというのだ」

「ヤツの世界を潰したところで、あんたの気持ちが晴れるのかって話ですよ。恨んでるんでしょ、ヤツのこと」

 

 するとサタールがニヤリとし、

 

「いいや、勿論それだけでは晴れんよ」

 

 と、言った。そしてサタールは続け、

 

「私はこの世界をすべて闇で覆いつくし、そして手に入れる。ここにいるモンスターどもも、すべて私の支配下にする。そして、この世界をすべて私のものにするのだ!!」

 

 そう言うとサタールは両手を掲げ、大笑いした。それを見たフギンも、薄く笑っているのだった。

 

 

 そして、何も知らないユウナはただ道を歩いていた。一体誰が何の目的で……。そんなことを考えていると、思いもよらぬものを目撃した。また、パズドラに出てくるモンスターを現実世界で見かけたのだ。今度は緑のモンスターで、頭の上には葉が生えている。そのモンスターは、ユウナを見ると逃げ出した。ユウナは、またそれを追いかけた。しかし意外にも相手の動きは速く、追いかけているうちにまた見失ってしまった。そこは一本道で、道の両端には草木が生い茂っている。きっと、草の陰に隠れたのだろう。ユウナはそう思い、木が生えているところへ入った。しばらく歩くと、公園のような場所に出た。ユウナの足は、すでに傷だらけだった。夏場だったこともあり、汗によって傷のところが沁みる。ユウナは前を向くと、なんとさっき追いかけたモンスターが、今度はユウナを前から見つめている。ユウナが再び足を踏み出すと、また逃げ始めた。

 

「待って!」

 

 ユウナは思わず声を上げ、それを追いかけた。正彦の研究所から逃げ出したのであれば、他人に見つかっては面倒だ。そう思って、必死に追いかけた。すると、それは誰かの腕の中に飛びこんだ。それを見てユウナは、立ち止まった。目の前には、モンスターを抱いている者がいた。その人は、ゆっくりとユウナの方をふり向いた。それを見ると、ユウナは自分自身の目を疑った。

 

「鶴ケ崎、さん……?」

 

 そこに立っていたのは、なんとレイカだったのだ。

序盤のキャラで、最も印象深い登場人物は?

  • 中谷優奈
  • 鶴ケ崎麗菓
  • 月見里美香
  • 夢野あかり
  • 池谷大輝
  • 相場善秀
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