「何してるの……?」
「あなたこそ、何してるのよ」
ユウナが言うと、すぐにレイカがそう返してきた。
「あの、それ……」
ユウナはモンスターを指さし、そう言った。
「何か?」
「それって、モリりんだよね? どうして……」
「私も最初は信じられなかったわ。でもあんな世界見せられたんじゃ……」
レイカがそう言うので、ユウナはきいた。
「じゃあ、鶴ケ崎さんも横大路先生に?」
「だったら、何だっていうの?」
「いや。鶴ケ崎さんも、先生のお手伝いしてるのかなぁって」
「そんなわけないじゃない、ただ預かってるだけよ」
レイカは、そう言うとモリりんをスマホの中へ戻した。それを見たユウナが、
「実は私今、先生の研究を手伝ってて。すごいんだよ、プログラムだけで現実の世界を再現してるの。私も、最初は半信半疑だったけど、この目で見てからはあの世界に行くのが楽しみになって。もしよかったら、鶴ケ崎さんにも見に来てほしい」
そう話した。するとレイカからは、
「くっだらない。私にはそんな暇はないの。あなたと一緒にしないで」
と、相変わらずきつい言葉が返ってきた。
「そう……。でも見たらきっと虜になると思う。ほんとに、素敵な世界だから」
ユウナがそう言うとレイカが、
「そんなことばっかり言ってると、後悔することになるわよ」
と言うので、
「後悔?」
ユウナがそうきくと、レイカは言った。
「何の役にも立たないことに時間を費やすくらいなら、もっと真面目なこと考えなさい。まぁ、言ってもわからないでしょうね。所詮、元引きこもりの凡才には」
レイカはスマホをポケットに仕舞うと、そのまま歩いていった。ユウナはそれを見ながら、今レイカに言われたことを頭の中でくり返していた。後悔までとは思わないが、実際に正彦の研究は多数の人々から、何の役にも立たないと思われている。それでもユウナは、何かすれば人々の役に立てるはずだと信じていた。その信念は、今になって曲げてはならない。ユウナも再び足を踏み出し、帰っていった。
その夜、夕飯の席で真宏がユウナに尋ねた。
「今日、何があったんだ?」
「いえ、大したことじゃ……」
ユウナは、なるべく他人には余計な心配をかけたくない、そう考えた。しかし真宏は、ユウナが何かを隠していることを見通していた。すると初子が、
「向こうで何があったか知らないけどね、休みの間、こっちの手伝いもやってもらうからね」
そう言い、鍋を置いた。
「はい、わかっています。今日はほんとに、すみませんでした」
ユウナは、申し訳なさそうな顔で言った。そしてユウナは真宏に、
「先輩は休みの間、ほんとにどこにも行かないんですか?」
ときいた。
「あぁ。俺は少しでも、あいつらの面倒見たいっつーか、散々、迷惑かけちまったしな」
「休みの日でも、活動してるんですよね」
「あぁ、参加は自由だけどな。お前も、明日一緒に行かねえか?」
「ごめんなさい、明日はちょっと用事があって」
「そっか。まぁ、無理はすんなよ」
「ありがとうございます」
気を遣ってくれている真宏を見て、ユウナは少し嬉しく思った。
「ほら、さっさと食べないと冷めちまうじゃないか」
初子は相変わらず、不愛想な表情でそう言った。そして二人も苦笑いし、食事を済ませた。
ユウナはその夜、布団の中で考えていた。正彦の言っていた通り、誰かが故意的にウイルスをシステムに送りこんだのだろうか。そうだとしたら、誰が何の目的でそうしたのか、見当もつかない。このことが、のちに巨大な事態を引き起こすことになるなど、この時はまだ予想できていなかった。
翌朝、ユウナは正彦の研究室を訪れた。
「あれから、何かわかりましたか?」
正彦にきくと、正彦は首を横に振るだけだった。すると、部屋に美千子が入ってきた。美千子は、コーヒーをのせた盆を机に置いた。美千子は心配そうに、
「もうやめましょう。本当に必要なの? あの世界」
と言った。美千子はまだ、正彦の研究を完全には受け入れていないようだ。
「せっかく創ったんだ。せめてもうしばらくは、研究を続けたい」
「あなた……」
するとユウナは美千子に、
「安心してください。教授は、あの世界を本当に大切にしてるんです」
と言うのをきくと美千子も頷いて、
「それは知ってるわ。けど、放っておいたらこの世界にも影響が出るなんてことは……」
そう言いかけると、
「それはない」
と、正彦は言いきった。
「どうしてそんなことが言えるの?」
「もしも、ウイルスによってシステム全体が破壊され、中のモンスターたちが現実世界に出てこようとしても、出入り口となる扉、
ユウナも、それをきいて納得した。すると正彦は、ユウナを見上げてこう言った。
「よければ、君にはすぐにでも協力してもらいたい。中に入り、原因を調べてほしいんだ」
ユウナはそれをきいて、
「はい」
と答え、頷いた。すると、
「……そういうことかよ」
という、声がきこえた。ユウナは驚いてふり返ると、ドアのすぐそこには真宏がいた。真宏はきっと、ユウナの後をつけてきたのだろう。
「先輩……!」
ユウナもそう言って真宏を見つめると、
「あんたの研究に、こいつを付き合わせてたってわけか」
と、真宏は言った。
「ち、違うんだ……!」
正彦が言いかけると真宏が、
「じゃあ、何だっていうんだよ。もしもこいつに何かあったら、責任とれんのかよ!」
そう言うのだった。それをきいて、正彦は何も言わなかった。それを見て、真宏は続けた。
「よりによって、こんなことを女子にさせようとするなんてな。最低だよ、お前。俺の時もそうだったけど、自分で原因作っておきながら、責任ひとつとろうとしねえ。一体、何回逃げたら気がすむんだよ」
するとユウナは前に出て、
「すみません。いつか言わなきゃって思ってたんですけど、なかなか言い出せなくて……。でも私は、好きでここにいるんです。だから、教授は何も悪くありません。それだけは、どうかわかってください」
そう言うので真宏が、
「そうなのか?」
と言い、ユウナを見つめた。
「はい」
ユウナも、そう返事をした。
「じゃあ、なんで言ってくれなかったんだよ」
「えっ……」
「そう思ってんなら、なんでもっと早く言わなかったんだよ。後ろめたさがあったから、言えなかったんじゃないのか?」
「違います!」
ユウナは、思わずそう答えた。それを無視するかのように、真宏は正彦に近づいてこう言った。
「こいつ、いや、
そして真宏はユウナの手首をつかみ、
「帰んぞ」
と言い、部屋から連れ出そうとした。
「あ、あの!」
ユウナが呼びかけても、真宏は手を離そうとはしなかった。なぜ真宏は、そこまで正彦の研究を嫌うのか、それが知りたかった。
「あの、何かあったんですか? 教授と」
ユウナがそうきいても、真宏は答えずにただ黙って前を歩いていた。
二人が出ていった部屋では、美千子が正彦にこう言った。
「やっぱり、あの話教えるべきだったんじゃない?」
それをきいた正彦は、
「うむ……」
と言ったきり、黙って考えていた。それを、美千子も仕方なさそうな顔で見つめていたのだった。
一方、セインツ・パラダイスの城ではサタールが椅子に座っていた。
「やつは諦めたか」
「まだわからねえ。それよりさぁ、今のままじゃ俺らの存在もいつバレてもおかしくないですぜ?」
サタールが言うと、フギンもそう答えた。
「それもそうだな……。とにかく、この世界を手にするために、もっと多くのウイルスをばら撒くのだ!」
サタールがそう言うと、
「へいへい」
と言って、フギンはどこかへ飛び去っていってしまった。
「まだまだこれからだ……!」
一人になった城で、サタールはそう呟くと不気味に笑っていたのだった。
ユウナは真宏にキャンパスの中心部に連れてこられると、
「あの、いったい何があったんですか? なんで、教授にあんなことを」
ときいた。すると、真宏は遠くを見つめながらこう言うのだ。
「お前に話しても何にもならねえよ」
そしてユウナの顔を見ると、
「もう、あそこには近づくなよ」
と言い、帰っていった。ユウナは理由をきくために呼び止めたかったが、なぜか声が出なかった。これ以上何か言うと、まずいことになるのではという予感がしたのだ。ユウナは、ふり返って再び正彦の研究所がある方向を見つめた。「近づいてはならない」という真宏の言葉が、頭の中で渦巻いていた。何か、二人との間に秘密があるような気がしたが、今はとてもきけそうにもなかったのだ。
第十八回「
次回予告
ユウナ「私は、教授のことを尊敬してるんです」
星見「ここのサークル、あいつが立ち上げてんで」
美千子「あの人の研究を手伝っていたの」
ユウナ「話さないことには、いつまで経っても解かり合えないと思うんです」
リン「友達なんてもんは、もうすでに出来上がってるんだよ」
雅也「普段通りでいいからね」
正彦「私も、彼と以前のように、もっと親しくなりたいと思ってる」
智美「まっすぐに、あなたの行きたい道を進みなさい」
真宏「俺……、ずっと自分のことを被害者だとばかり思ってた」
「気づかせてくれてありがとうな」
ユウナ「私は、やっぱりここが好きなんです」
次回(第十九回)
「
序盤のキャラで、最も印象深い登場人物は?
-
中谷優奈
-
鶴ケ崎麗菓
-
月見里美香
-
夢野あかり
-
池谷大輝
-
相場善秀