ユウナは、最寄りのバス停から毎朝、学校行きのバスに乗る。ユウナは、
ユウナはバスに乗り込んだ。午前八時過ぎ、この地区の人は朝の早い人が多いため、この時間はあまり乗ってくる人はいない。ユウナは、後ろの方の席に座った。そして、決まってやることがあった。
ユウナは、カバンからiPhoneを取り出した。そして、あるアプリを開く。「パズル&ドラゴンズ」、略して「パズドラ」(以下、略称で統一)。その年の二月にリリースされた、オンラインゲームである。名前だけ聞いてもわかるように、パズルゲームと、RPGをかけあわせたゲームである。縦五マス、横六マスの画面でパズルを動かし、同じ色を揃えることで、敵モンスターを攻撃する。倒したモンスターをゲットできたり、モンスター同士を合成させて強化できたりもする。今では世界的にも有名だが、その当時はまだそうでもなかっただろう。
毎朝、バスの中でそれをやることが日課となっていた。様々なダンジョンが存在し、それをクリアするごとにまた新たなダンジョンが現れる。そして先に進むごとに、クリアが難しくなる。また、ダンジョンには色々と種類があるのだが、今は説明はやめておく。
ユウナは、気分がいい日は自分のiPodで音楽を聴きながらやるのだった。その日も、曲を聴きながらやった。
ちょうど一つのダンジョンをクリアしたところで、学校の最寄りに着いた。ユウナはカバンにそれを入れ、バスから降りた。ちょうど前に、同じ制服の女子が数人、戯れながら歩いていた。今日から新学期ということもあり、いつもより賑やかに感じられた。ユウナはそんなことを思いながら、教室に向かった。
中に入ると、真っ先に声をかけられた。
「おはよー」
それは、大輝だった。そう、大輝も同じ高校に通い、三年間同じクラスだった。
「おはよう」
ユウナも、そう返した。大輝はユウナを見ると、こう言った。
「なんか……、久しぶりだな。休み中、全然連絡くれなかったじゃん」
「ごめん。なんか色々忙しくて」
「そういや、お前、今日誕生日だったよな」
「あ、うん」
「わりぃ、何も持ってきてなくてさ。明日でいいか?」
「うん。でもいいよ、無理しなくて。部活でそんなに暇じゃないんでしょ?」
「まあな」
大輝は、何か言いたそうな表情になった。
「そういや……、もうあれから十年経つよな……」
「えっ?」
席に着こうとしたユウナは、ふり返った。
「だからさ……、その……」
大輝は恥ずかしそうに言った。それをユウナも不思議そうに見ていると、
「おっはよー!」
と言い、スキップしながらユウナに向かってきた女子がいた。ユウナのクラスメイトであり、親友の
「久しぶりー。今二人、何話してたの?」
ときいてくるので、ユウナは大輝の方を見た。大輝は、恥ずかしそうに言った。
「いや、やっぱ何でもない」
「何々? 気になる」
ミカはそう言い、興味津々だ。すると今度は、
「みんなー、何の話しよるん?」
と言って、別の女子がやってきた。ミカと同じく、ユウナの親友、
大輝は、ますます気まずそうになった。
「そうだ!」
ミカは、ポケットに手を入れた。
「こないだ、鹿児島行ってきたんだ。今日、誕生日でしょ?」
ミカは、ユウナに何か渡した。それは、サツマイモで作られた御菓子だった。
「あと、これも」
ミカはそう言って、またポケットから何か出した。それは、パズドラに登場するモンスターのキーホルダーだ。ユウナは受け取ると、
「ありがとう」
と言った。それを見ていたアカリが、
「ごめん。忘れとった」
そう言うのでユウナは、
「いいよ、別に」
と言い、笑った。そんな他愛もない日常が、ユウナは大好きだった。ユウナは、何気に大輝の方を見た。大輝も、ユウナを見て笑いかけた。十年前、自分を闇から救い出してくれた。それは紛れもなく、大輝だったのだ。ユウナにとって大輝の存在はこの十年間で、ますます大きさを増していった。
どんな時でも、何が起こっても、いつも側にいてくれる、それが大輝だった。ユウナにとって、兄妹同然だったのかもしれない。
『何かあったら、絶対俺に言えよ。俺が守ってやるから』
そう言ってくれたことが、何よりの救いだったのかもしれない。そんなことを思い出しながら、ユウナは席に着いた。
しばらくして、担任の先生が教室に入ってきた。
「みんな、おはよう。三年生の二学期、忙しいと思うが、一緒に頑張っていきましょう」
そう言うと、黒板に今日の予定を書き始めた。
「そうそう、予告してなかったが、始業式のあと、学力テストがあるんで、よろしく」
吉崎はそう言った。それをきいた生徒が、少し騒がしくした。
「はぁー? きいてないんだけどー」
「始業式からテスト?」
すると吉崎が、
「そう言って余裕ぶっていると、あとで痛い目にあうぞ。受験生として、残された時間は限られているんだ。有意義に使わないと、困るのは自分たちだからな」
と言うので、生徒たちは静かにした。ユウナは今の言葉をきいて、少し不安に思った。受験生としては当然だろうが、ユウナはまだ自分が大学で何をしたいのか見つけ出せていなかったのだ。夏休みも予備校の講習に通い、形としては勉強してきたが、大切なことがイマイチつかめなかった。
子どもの時は、ゲームを作る仕事に憧れて、自分で色々と調べたりもした。でも今となると、本当にそれが自分のやりたいことなのか、気になるところではあった。そんなことを考えていると、予鈴がなった。そこで、そのホームルームは終わった。ユウナは、ミカとアカリと一緒にホールに移動した。上禅は公立高校だが、去年から全校生徒が入れるホールが作られた。講演や演劇などの行事は、そこで行われることがほとんどである。ミカは歩きながら、
「ハァー、今日は始業式だけだと思ったのに、テストあんのかよー」
と、ため息をつきながら言った。
「でも、ミカ賢いからいいじゃん」
ユウナも、羨ましそうに言った。するとミカが、こう言った。
「別に賢くないもん。ほかの子、もっとすごい子いるし。何組だっけ? 常に学年一位の子、いるよね?」
「あ、いるいる! たしか三組やったよーな……」
アカリが、すぐに食いついた。そして、三人はホールの前に着いた。ホールは、校舎を出てすぐのところにあった。前はすごく混雑していて、なかなか前に進めなかった。ミカが、
「これってチャイムに間に合うの?」
と言い、背伸びをして前の方を見つめていた。
三人は、何とかチャイムまでに中に入り、席に着いた。席は、クラス別に分けられていたが、クラス内では特に制限はなかった。三人は、いつも隣り同士で座った。そして全校生徒が席に着くと、式は始まった。
まずは校長が出てきて、長々と話をするのが決まりだった。
「えー、三年生は今学期に受験が終わる人もいるでしょう。でもそれまでは、自分の道を信じ、努力してください」
ユウナの隣で、ミカはあくびしていた。
式が終わり、三人は教室に戻った。廊下を歩きながらミカが背伸びし、
「あー、校長の話長いんだよねー。てか、どうでもいい話多いし」
と言った。アカリが、
「このあと、すぐテスト?」
そうきくとミカは、
「そうだと思うけど」
と、答えた。ユウナも黙って、それをきいていた。
教室に入り、また予鈴がなった。すると担任の吉崎が、
「じゃあ、問題用紙配るぞ」
と言い、用紙を配り始めた。教科は三教科で、国語、英語、数学の順番だった。そして次のチャイムが鳴ると、皆はページを開いて問題にとりかかった。
ユウナは、朝ごはんを食べてこなかったことを少し後悔した。お腹が減って頭が回らない、途中でお腹がなったらどうしよう、そんなことばかりが頭をよぎった。ユウナは問題に集中するため、必死にそれを忘れようとした。でも、なかなかそれができなかった。ユウナは必死に耐え続け、二教科が終わった。
最後は、数学だった。休憩時間、ミカがユウナのところに来て、
「これって、数三入るの?」
ときいた。ユウナが、
「入らないと思うけど」
そう答えるのをきき、ミカが言った。
「よかったー。入ってたら終わってたわ」
そして、席に戻っていった。ユウナはそれを見ていると、前の席の女子がふり返ってこう言った。
「ねぇ、ユウナちゃん。数学得意だよね? 教えてくれないかな」
そう言ったのは、ユウナのクラスメイト、
「ここのところ……」
と言うと、ユウナは戸惑ってしまった。人に教えられたことはあっても、自分が教えたことは少なかったからだ。
「あ……、ごめん、そうだ。相場君ならわかるんじゃないかな、相場君!」
ユウナは、左隣の席の男子生徒、
「四十住さん、わからないところがあるって。教えてあげて」
「あぁ、べつにいいけど」
相場は、快く引き受けた。するとリカが、それを拒否するかのように、
「あ、やっぱりいい」
と言い、再び前を向いてしまった。それを見て、その周りに少し気まずい空気が流れた。ユウナは相場の方を見て、
「あ、ごめんね」
と謝ると相場も、
「あ……、あぁ」
そう答えた。ユウナはそのあとも、リカの様子を見つめていた。
そして、ユウナは最後のテストに臨んだ。案の定、腹の減りはピークを迎え、ユウナは全くと言っていいほど集中できなかった。答案用紙の回収が済むと、皆は帰る用意や、部活の準備を始めた。高校最後の年ということもあって、運動部は特に気合が入っていた。ユウナは部活には入っていなかった。帰る支度をしていると、カバンを肩にぶら下げ、同じく帰宅部で、帰る気満々のミカが来てこうきいた。
「ねーねー、テストできた?」
「あ、全然……」
「だよねー。あたしもテキトーに答えといたわ。やっぱ、マーク式って便利だよね」
するとアカリが来て、
「じゃ、部活行ってくるけん」
と、愛媛弁で言った。
「がんばれー」
ミカも、手をふりながらそう言った。アカリが出て行くとミカがユウナに、
「どっか食べに行く?」
ときくとユウナは、
「あ、うん……」
そう答え、なんとなくリカの方を見た。リカも帰宅部だった。帰る用意を済ませ、立ち上がるとユウナたちの前を通り過ぎていった。ユウナはそれを心配そうに見ていると、ミカがこう言った。
「あの子、いつも一人じゃない? 一年の時は友達いたらしいけど」
ユウナは、ますます心配になった。ユウナは幼い頃、自分が助けられたせいで、一人でいる人を見ると話しかけたくなるのだ。すると、
「中谷」
と、ユウナを呼ぶ声がした。ユウナはふり向くと、相場が来てこう言った。
「あいつ、ひょっとしたら何か悩みがあるんじゃないかな」
「悩み?」
「よくわからないけど、なんかそんな風に見えた」
相場の話をきいて、ユウナはミカの方を向いてこう言った。
「ごめん、用事思い出したから先帰るね」
そう言うとユウナはカバンを持ち、教室を出て行った。
「あ、ちょっと!」
ミカがそう言っていると、相場を見た。
「ひょっとして……、助けてあげたの?」
相場は、それを無視した。
「教えてよー、そうだ! ねぇ、今から一緒に食べに行かない?」
「わりぃ、部活あるから」
「チッ、つれないのー」
ミカはそう言っていると、大輝が来て言った。
「お前ら、いつまで喋ってんだ? ほら、行くぞ」
大輝が、自分が肩にかけていたナイロンのショルダーバッグを相場に当てた。相場も同じようなカバンを持つと、二人は教室を出て行った。ミカが、
「なによあれ、あーゆー男子がイッチバンもてないんだから」
と、独り言のように呟いていた。
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中谷優奈
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鶴ケ崎麗菓
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月見里美香
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夢野あかり
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池谷大輝
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相場善秀