「
真宏はユウナの手首をつかみ、
「帰んぞ」
と言い、部屋から連れ出そうとした。
「あ、あの!」
ユウナが呼びかけても、真宏は手を離そうとはしなかった。
ユウナは真宏にキャンパスの中心部に連れてこられると、
「あの、いったい何があったんですか? なんで、教授にあんなことを」
ときいた。すると、真宏は遠くを見つめながらこう言うのだ。
「お前に話しても何にもならねえよ」
そしてユウナの顔を見ると、
「もう、あそこには近づくなよ」
と言い、帰っていった。ユウナはただそれを見つめていた。
しかし問題は、それだけではなかった。
サタール「まだまだこれからだ……!」
あらゆる困難が、これから我が身に降りかかろうとしていることを、ユウナはその時、まだ知らなかった。
第十九回
ユウナはその晩、真宏の部屋をノックした。しかし、中からの反応はない。ユウナは気になっていた。なぜ、あんなに正彦のことを嫌うのだろうか。階段を降りると、ペロが庭で穴を掘っている。何かを埋めているようだ。何を埋めているのだろうと、ユウナは近づいて上から覗きこんだ。それは、何かのチップのようだった。ユウナは不思議そうに、それを見つめていた。
翌日、ユウナはアニ研の部室に来たが、そこに真宏の姿はなかった。星見にきくと、まだ来ていないのだという。やはり、昨日のことが何か関係していることは明白だった。ユウナは、気になったことを星見に質問した。
「あの、部長はどうしてアニメ研究会に入ったのですか?」
すると、作業をしていた星見がこう言った。
「あれ? 言ってなかったっけ。ここのサークル、あいつが立ち上げてんで」
「そうなんですか?」
ユウナは少し驚くと、星見は続けた。
「あいつ、一年のころ横大路ゼミやったからさ、先生の研究室にも結構行ってたみたいで。だから最初は、顧問は横大路先生ってことにして、申請してんやんか。そんで、部員も必要やから趣味でアニメ作ってた僕らも参加したってわけやねん」
ユウナはそれをきいていると、横から三宮が話に入ってきた。
「あのころは仲良かったもんなぁ、あの二人」
そして夏姫と侑李も、
「ほんまやなぁ」
「なんであぁなっちゃったんだろ」
と、呟いている。皆がそう言っているので、ユウナはいても立ってもいられなくなった。真宏が話してくれないなら、正彦からちゃんと話をきかなければならない。ユウナはその日もまた、正彦の研究室を訪れた。
部屋をノックすると、誰もいないのか、返事はなかった。そして、
「失礼します」
と言いながら、ゆっくりとドアを開けた。やはり中には誰もいない。奥の方から、怪しげな機械音だけがきこえてくる。正彦が、どこに行っているのかわからなかったが、ユウナはしばらく待つことにした。すると数分後、ドアの向こうから足音がきこえてきた。やっと戻ってきたのかと、ユウナはドアの方を見つめると、やがてドアは開いた。しかし、中に入ってきたのは正彦ではなく、妻の美千子だった。
「あら、来てたの」
美千子はユウナを見ると、そう言った。
「あ、すみません。先生は……」
「今日は会議ですって」
「いつごろ、終わりますか」
「まだもう少しかかると思うわ。よかったら、こっちでゆっくりしていって」
美千子は、部屋の外を指して言った。
ユウナは研究室を出て、美千子に別の部屋へと案内された。その部屋は、ダイニングルームのようになっており、テーブルに台所、そしてテレビもある。美千子はそこで紅茶を入れ、ユウナに差し出した。ユウナはしばらく黙ると、前に座っている美千子に話しだした。
「あの。どうしても、知りたいことがあるんです」
「吉田君のことね?」
美千子は、ユウナがここに来た意味を、初めからわかっていたようだ。ユウナも、
「はい」
と答えると、美千子は話した。
「その前に、私も初めてあの世界を見せられた時は、本当に驚いたわ。草や花、空、すべてが現実世界のものと、まったく区別がつかなかった。人の力だけで、あんな素敵な世界を作れるなんて、想像もしてなかった。それは、あの子も同じ気持ちだったと思うの」
「先輩のことですか?」
ユウナはきいた。
「えぇ。勝手に話すなって言われそうだけど、あなたになら言うわ。二年前、吉田君が一回生だった時のこと。あなたと同じように、あの人の研究を手伝っていたの。まだ完全に完成していなかったらしいんだけど、あの人、実際にあの中に入って不具合がないか、彼に点検させていたのよ。でもある日、ある不具合が起きて、現実の世界に帰ってこれずに、閉じこめられたことがあったの。翌日、直ったんだけど、見つかった時は森でボロボロになって倒れていたんですって。それで、数週間入院することになったの。それ以来、もうこのようなことはやめようって、一人だけで研究室にこもって、開発するようになったわ」
その話をきいてユウナは、
「それであの時、先輩は……。私、何も知らなくて……」
と、呟いた。すると美千子が、
「でも、あの人だってわかってるのよ。口ではうまく言えないけど、もう誰にもあんな思いはさせたくないって。だから、あの人なりに考えてやってるの。それだけは、わかってあげて。私からのお願い」
そう言うので、ユウナは答えた。
「わかっています。私は、教授のことを尊敬してるんです。正直、最初は変な人だなって思ってました。でも、ここに来てみてようやくあの方のすごさがわかった気がしたんです。ちゃんと未来のことを考えて、何かの役に立つことはないかって模索して……。それって、すごいことだと思うんです。だから、私は卒業するまでずっと、あの方の手伝いがしたいんです。これは、私の考えです」
すると美千子は優しい表情になり、
「そう言ってくれるのは、あなただけよ、ユウナちゃん」
と言うので、ユウナもまた嬉しそうに美千子を見つめた。
「やっぱり私、先輩と話してきます。教授の本当のよさを伝えたら、わかってくれるかもしれません」
「そう……、頑張ってね。応援してる」
「ありがとうございます」
ユウナはそう言って立ち上がると、礼をして研究所を去った。心の荷が下りたように、来た時とはまるで違う心持ちになっていた。自分にできることをしよう、そう思えたのかもしれない。
しかし真宏は、ユウナの話をきくなり、こう言った。
「はぁ? 俺はあいつと話すことなんてねぇぞ?」
「でも、教授も話したがってると思いますし……。それに、話さないことには、いつまで経っても解かり合えないと思うんです」
ユウナも、なんとか説得する姿勢を見せた。それでも、真宏は一向に応じようとはしない。
「お前が何て言おうと、俺にあいつと話すつもりはねえし、話をきくつもりもねえ」
真宏は、頑なにそう言うのだった。まるで話が通じ合わない。そう言われると、さっきまでのやる気が萎んでしまうように思えた。そして、ユウナは仕方なく部屋を出ていった。また明日から少しずつ説得していけば、そのうち理解してもらえると信じた。
ユウナは翌日、夏休み期間中に行われる講義に出た。それが終わると、リンがユウナに話しかけてきた。
「ねぇ、ユウナ。もうすぐ誕生日だっけ」
たしかに、翌週の8月31日はユウナの誕生日だ。ユウナはふとリンを見ると、
「そうだけど……」
と、不思議そうに答えた。するとリンが、
「よかったら、一緒に行かない? ペアチケット余っちゃってさぁ。ユウナ、この前好きだって言ってたから」
そう言って、ユウナにチケットを二枚見せた。それは、ユウナの好きな音楽グループ「フレグランス」のライブチケットだった。それを見たユウナは、
「えっ、いいの?」
ときくと、
「一緒に行く予定だった友達が行けなくなっちゃって、どうしようか悩んでたんだ」
そうリンは言うのだ。
「じゃあ……、行こうかな」
「そう来なくっちゃ!」
ユウナが返事をすると、リンも嬉しそうに言った。そして二人は、来週の週末にライブを見に行くことになった。
そして当日、会場に着くと周りは人であふれ返っていた。よく見ていないと、リンとはぐれてしまいそうなほどだ。
「うわ~、結構人いるね」
リンはそう言うと、人混みの中をかき分けるように進んだ。ユウナも、それに続いた。そして無事に中に入り、開演を待った。ユウナにとって初めてのライブだったため、とても楽しみにしていたのだ。やがてブザーが鳴り、ライブが始まった。最初の挨拶のあと、曲が始まる。ユウナの横では、リンがノリノリで手を叩いている。それはユウナにとって、今までにない最高の誕生日プレゼントとなった。そしてライブは終了し、外に出ると日はとっくに暮れていた。
「あ~、はしゃぎすぎた」
リンが歩きながら、すごく疲れた様子で呟いた。それを見てユウナも、
「ありがとう」
と、リンに言った。
「何が?」
「こんな誕生日、初めてだったから。いい思い出ができて、すごく楽しかった」
ユウナがそう言うのでリンは、
「いいって! それに、私も楽しかったし」
と言った。すると、不意にユウナは立ち止まった。それを感じたリンはふり返り、
「ユウナ?」
そう声をかけると、ユウナは気がついた。
「あ、ごめん」
「どうしたの?」
「私、小さいころは、ほんとに隠れながら過ごしてて、友達もあまりいなかったの。でもこうして、話しかけてくれる友達がいる今がすごく嬉しくて、つい昔を思い出してた」
するとリンが近づいてきて、こう言った。
「友達なんてもんは、自分がそう思ったら、もうすでに出来上がってるんだよ」
「えっ?」
「だから、自分が相手のことを友達だって思えば、相手がどう思ってようが友達っていう関係が成り立つわけじゃん。もちろん、私はユウナのこと友達って思ってるけど。要するに、自分の気持ち次第ってとこかな」
それをきいたユウナは、嬉しくなった。そして、不思議な感覚に包まれた。もしあの時、自分がほかの大学を選んでいたり、ほかの学部を選んでいたならば、リンとは出会うことすらなかったのかもしれない。そう思うと、少し胸が痛む気がした。
序盤のキャラで、最も印象深い登場人物は?
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中谷優奈
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鶴ケ崎麗菓
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月見里美香
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夢野あかり
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池谷大輝
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相場善秀