パズル&ドラゴンズ~もうひとつの旅~   作:葉之和 駆刃

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第19話 回想と後悔〜リフレクション・アンド・リグレット〜(その参)

 ある日、ユウナは正彦の研究室に足を運んでいた。正彦がユウナの話をきき、

 

「そうか。取材をなぁ」

 

 と感心すると、

 

「はい。最初に、部長が提案してくれたんです。以前、私の知り合いに記者の方がいるって話したことがあったので」

 

 そう嬉しそうに話した。すると正彦が、

 

「でも、大丈夫なのか。君が内緒でこんなところに来ていると知れたら、あやつから何を言われるかわからないぞ」

 

 と言うのでユウナは、

 

「たしかに、先輩にはもうここには来るなって言われました。ですが私は、やっぱりここが好きなんです。ここにいると、なぜか気分が落ち着くっていうか、その……。楽しいんです、すごく。だから、どうしても教授と先輩の仲を取り持ちたくて」

 

 そう言うと、正彦が言った。

 

「その気持ちだけで、今は充分だよ」

「でも……」

「君の気持ちは、よくわかった。だけど、それは彼自身の気もする」

「彼自身?」

「私も、彼と以前のように、もっと親しくなりたいと思ってる。でも彼が許してくれない以上、その可能性は果てしなくゼロに近いと言える。要は、彼自身の問題だ」

 

 ユウナはそれをきいて少し俯くと、

 

「わかりました。では私、先輩ともう一度きちんと話してみます。それでだめなら、諦めますから」

 

 と言って立ち上がり、帰ろうとすると正彦が呼び止めた。

 

「おぉ、そうだ!」

 

 ユウナはふり返り、正彦を見た。

 

 ユウナは、正彦に連れられて仮想世界、「セインツ・パラダイス」に入った。ユウナが来ると、モンスターたちが周りに寄ってきた。正彦は、

 

「君が来ない間、この子たちはとても寂しがってたんだよ」

 

 そう言うので、ユウナは怪訝そうにきいた。

 

「寂しがってた?」

「あぁ。プログラムだから心はないが、私にはそう見えたんだ」

 

 正彦が答えると、ユウナの足元に来たモンスターがいた。それはパズドラに登場するモンスター、ホノりんだった。ユウナはそれを、「レッド」と呼んでいる。ユウナはレッドを抱きかかえ、

 

「温かい……」

 

 と呟いた。

 

「これ、本当にプログラムですか?」

 

 ユウナが正彦の方を見て尋ねると、正彦も答えた。

 

「あぁ、そうだ。でも、本当に生きてるみたいだろう」

 

 ユウナはレッドを見つめると、レッドも笑いながら見つめ返してくる。それは、正彦の言うように本物の生き物のようだった。

 

「ごめんね」

 

 ユウナはレッドにそう言うと、レッドを下に置いた。そして正彦のところに来ると、

 

「私、これからもここで教授のお手伝いをしたいです。たとえ先輩に見つかって、叱られたとしても、自分の考えを曲げたらいけないような気がして……。だからお願いします。もう少しだけ、この子たちのお世話をさせてください」

 

 と、懇願した。それをきいた正彦は、

 

「そう言うと思ったよ」

 

 そう言い、

 

「よろしく頼むよ」

 

 と、小さく言った。ユウナが、

 

「はい!」

 

 そう元気よく言うのを、正彦も笑いながら見ていた。ユウナはこの時、誰が何を言おうと、自分の考えは変えてはならない、そう決心したのだった。

 

 

 その一方では、アニメ制作は滞りなく進み、最終のチェックが行われた。そこにはすべての部員が集まり、映像を凝視して問題点がないかを入念に確認した。そして確認が終わり、特に問題がないとわかると、皆は一斉にどっと力が抜けたように腰を下ろした。

 

「しゃーっ、終わった~!」

 

 三宮が、一番に声を発した。その後で、

 

「よかった~」

「ほんと疲れたね」

「今日はゆっくり寝よ」

 

 と、皆は口々に話した。ユウナもそれをきいて、ホッとした。今までに感じたことのない、達成感が得られたような気がした。それは、きっとほかの部員たちも同じだと思い、嬉しくなった。この嬉しさをともに感じられることが、何よりこの先のモチベーションへとつながっていくことだろう。そうしていると突然、手を叩く音がした。ふり返ると、雅也が皆に拍手を送っている。

 

「いやぁ、これはいい記事が書けそうだ。みんなありがとう、そしてお疲れ様」

 

 それをきくと、真宏が出てきてこう言った。

 

「こっちこそ、ありがとうございました。おかげで、とてもいい経験ができました。俺たちの作品が、一人でも多くの人に見てもらえるように、これからも努力していきます。また機会があれば、その時はよろしくお願いします」

 

 すると雅也は笑顔で、

 

「はい、その時はまた」

 

 と言い、皆は声を上げて笑っていた。ユウナにとっても、大学生の夏休みの思い出としては、もったいないくらいの貴重な体験ができた。これは将来、企業の面接などでもきっと生きてくるだろう。この経験を未来にも生かしたい、ユウナはそう思うのだった。

 

 その夜、雅也はとあるレストランに立ち寄った。

 

「今日で、やっと取材が終わったよ。いやぁ、若いっていいね。とにかくもう、活き活きしてるんだよ!」

 

 雅也が言っているのを、レイカは無言でジュースを飲みながらきいていた。そして、二人に声がかかった。

 

「レイカ、雅也」

 

 声をかけたのは、二人の母、智美(あけみ)だった。

 

「早かったのね」

 

 智美はそう言いながら、レイカの隣に座った。

 

「最近、どうしてたの?」

「今日まで、龍山大学のアニメ研究会っていうサークルの取材をしてたんだ」

 

 智美がきくと、雅也は目を輝かせながら答えた。

 

「へぇ、そういうところがあるの」

「しかも、その中にいる子がレイカと高校の同級生でさ」

「あら、そうなの?」

 

 智美はそう言いながら、レイカを見た。するとレイカが、

 

「話したことあるでしょ、母さんも」

 

 と言うので智美はしばらく考え、まさかという表情をして雅也にきいた。

 

「もしかして……、その子って中谷さん?」

「そうそう、レイカと母さんを仲直りさせてくれたあの子だよ」

「そうだったの、あの子が……」

 

 智美はそう呟くと、嬉しそうな表情になった。すると、雅也が話題を変えた。

 

「そうだ。母さん、あの話はどうなったの?」

「あぁ。それが、今回は受けないことにしたの。みんなに心配かけたくないから。今日は、その報告に来ただけ」

 

 智美はそう言い、二人を交互に見ると、雅也がこう言った。

 

「気にしなくてもいいのに、レイカは俺が見てるから」

 

 するとレイカはコップをテーブルに置き、

 

「そんなこと言って、兄さんだってしょっちゅう外国行ってるじゃない」

 

 と言った。すると雅也が、

 

「しょっちゅうってことないだろ。第一、もう向こうにはいかないって決めてるんだから」

 

 そう言い返すと、レイカもこう言った。

 

「あら、こないだ行ってたくせに」

「あれは、その……、たまたま用事ができたんだ!」

 

 雅也は、そう言い訳をした。すると、それをきいていた智美が、突然フッと笑い出した。二人がそれを見ると、

 

「相変わらずね、あなたたちも」

 

 と、智美は言った。

 

「でも、少し安心したわ、二人とも元気でやってるみたいで」

 

 智美はレイカの方を向いて、

 

「レイカ」

 

 と呼んだ。

 

「何?」

 

 レイカがきくと、智美がこう言った。

 

「生きてたら、いろいろあるかもしれない。でも、まっすぐに、あなたの行きたい道を進みなさい。私は、あなたに好きな道を選んでほしいの」

 

 レイカは、黙って智美を見つめていた。智美は次に雅也を見て、

 

「レイカのこと、よろしく頼むわね」

 

 と言うと雅也が、

 

「任してください、母さん」

 

 そう答えた。智美が、

 

「辛かったわね、あなたも」

 

 と言うのをきいて、雅也は下を向いた。

 

「もう、終わったことは思い出さないようにしてるから……」

 

 雅也は、そう言って暗い顔をした。

 

「ごめんなさい」

「あぁ、いいよ。じゃ、俺もう帰るから」

 

 そして、雅也は上着を持って立ち上がると、そそくさと店を出ていった。

 

「まだ、気にしてるみたいね」

 

 智美の言葉をききながら、レイカは店の外をじっと見つめていた。それは、まるで雅也を探しているかのようだった。

 

 

 数週間後、ユウナの大学では後期授業が始まっていた。そしてその一方、アニ研の部室では緊張感が漂っていた。そう、この日が審査発表の日なのだ。銅賞は複数、銀賞は二チームが獲得できるが、金賞は一つのチームしかとることができない。部員たちはただ無言で、その時間が来るのを待った。星見が、

 

「もうそろそろか……」

 

 と呟き、パソコンの電源を入れた。皆は、黙ってそこに集まった。ユウナも、朝から緊張していた。落ちてもどうということはないが、できれば最高の思い出として残したい。その思いが強かったのだ。星見は、

 

「いくで?」

 

 と言い、審査発表のページを開いた。しばらくして、

 

「あった!」

 

 と、夏姫は指差した。よく見てみると、銀賞のところに「龍山大学アニメ研究会」とある。それを見て、部員たちは大いに盛り上がった。

 

「おぉ~!」

「頑張った甲斐があったね」

「ほんまやね」

 

 皆はそう言って、喜びを分かち合った。

 

「でも、銀賞か~」

 

 三宮は、少し残念そうに言った。その気持ちが乗り移ったかのように、皆は急にがっくり肩を落とした。すると、真宏が言った。

 

「でも、いい思い出作れたからよかったな」

 

 それをきいて、皆はまた笑顔を取り戻した。

 

「そうだよ!」

 

 侑李もそう言って、皆を鼓舞した。ユウナも、部員一人ひとりをよく見た。笑っている者、涙を流している者、それを支えている者……。その一人ひとりが、今回のアニメ作りに様々な形で携わっていたのだと、改めて思った。

 

 ユウナは帰ると、声をかけられた。

 

「中谷」

 

 ふり返ると、そこには真宏がいた。

 

「ちょっといいか?」

 

 ユウナもそれをきくと頷き、一緒に真宏の部屋へ行った。

 

 中に入ると、

 

「どうしたんですか?」

 

 と、ユウナはきいた。すると、真宏は座ってこのようなことをきいてきたのだ。

 

「お前、最近またあの変人教授の研究室、行ったのか?」

「あ、いえ……。その、すみません!」

 

 ユウナは自白し、頭を下げた。

 

「いいよ。俺も、実は考えてることあってさ」

「えっ……?」

 

 ユウナは呟き、顔を上げた。

 

「お前、言ったじゃん。あの時……」

 

『話さないことには、いつまで経っても解かり合えないと思うんです』

 

 それは、ユウナが真宏を説得しようとした時の言葉だった。

 

「実は、俺なりに考えてた。そういや俺、逃げてばかりだったよなって……」

「先輩……?」

 

 真宏はユウナの方を向き、こう続けた。

 

「俺、今度あの人と話してくるわ。お前の言う通り、話さないことには、ずっとすれ違ったまんまだしな」

 

 それをきいてユウナも座り、こう言った。

 

「教授も、反省していました。先輩とまた、前みたいに親しくなりたいと。それに、先輩をあんな目に遭わせたこと、とても後悔してると思いますから」

 

 すると真宏は、ユウナにこうきいてきた。

 

「おい。ってことは、お前あの話知ってんのか?」

「はい。実は、美千子さんから。私が知りたいって言ったら、話してくれたんです。だから私、もう一度二人を引き合わせたいって、そう思ったんです。勝手な真似をして、本当にごめんなさい」

 

 ユウナがそう言うので、真宏は俯いてしばらく黙っていた。

 

「俺……、ずっと自分のことを被害者だとばかり思ってた。だから俺、お前には同じ道を歩ませたくねえって、そう考えてたんだ。でも、お前は違った。ちゃんと好きなことを見つけて、それを楽しみにして過ごしてる。俺、そんなお前見て、自分でも気づかないうちに嫉妬してたのかもしれない」

 

 真宏は、顔を上げてユウナを見つめた。

 

「気づかせてくれてありがとうな」

 

 その時にユウナの瞳に映った真宏の顔は、笑顔だった。ユウナも真宏を見つめ、同じように笑顔で頷いた。

 

「先輩。私も、すごく感謝しています」

 

 ユウナがそう言うと、真宏は顔を近づけて言った。

 

「お前、よく見ると可愛いな」

「やめてください」

 

 そう言いながら、ユウナは顔を背けた。すると、また互いに顔を見合わせ、可笑しくなって笑った。こんな穏やかな時間がいつまでも続いてほしいと、ユウナは強く望むのだった。

 

 

 そしてさらに数日後、出来上がったアニメを、ユウナはリンやリカにも見せていた。銀賞でも、インターネット上には公開されるのだ。それを見てリカが、

 

「すごい、これほんとにユウナちゃんたちが作ったの?」

 

 と、非常に感心していた。するとリンも、

 

「そうだ。私もこれ読んだの」

 

 そう言い、ある雑誌を見せた。その一部には、ユウナたちのサークルのことが書かれ、写真も添えられている。それは、雅也が担当した記事だった。アニ研の活動風景を、ちゃんと記事にしてくれていた。それが、今回の結果へと結びついたのかもしれない。ユウナもそれを見て、いろいろな人への感謝の気持ちを忘れず、日々の努力の種にしていこうと思うのだった。

 

 

 十月に入ったころ、アニ研の部室に侑李が駆けこんできた。

 

「みんな、きいてきいて!」

「どしたん?」

 

 そう言いながら、部員たちは集まってきた。ユウナも何かあったのかと、不安に思った。しかし、侑李はこう言うのだった。

 

「このサークル、今回の業績が認められて、部活動に昇格できるって!」

 

 それをきいた皆は、驚きのあまりしばらく誰も声を出せなかった。

 

「予算も今より多くもらえて、もっと大きな部屋で活動してもいいって」

 

 侑李がそう言ったあと、ようやく実感が出てきたのか、

 

「しゃぁー!」

 

 と、三宮が両手を握りしめ、声を発した。そのほかの部員たちも、手を叩いたりしている。ユウナは、真宏の席を見た。その日はあいにく、真宏は欠席していた。

 

「部長着たら教えよ」

 

 星見が言うと、

 

「どうせなら、なんかサプライズとか用意しとく?」

 

 と、夏姫が提案した。

 

「ええな~」

「私も賛成!」

 

 皆は、真宏に対するサプライズを考え始めた。ユウナは、先輩たちからきいたことしか知らないが、最初の部員は真宏含めたったの五人だけだったらしい。それが、こんなに部員が増え、そして今までサークル扱いだったのが、部活動として認められる時が来たのだ。それは、並大抵の努力では決して叶わなかっただろう。一人ひとりが力を合わせ、どんな困難があっても挫けずに乗りこえてきたのだ。そんな部活を作り上げた真宏は、やはりすごいとユウナは思った。そしてユウナにも声がかかり、そこに行って一緒に案を考えた。一見、何事もなさそうな日々の中でも、きっと希望はある。それは誰にでも、すぐ近くに存在している、それをユウナ自身も気づき始めていたのかもしれない。

 

 

第十九回「回想と後悔(リフレクション・アンド・リグレット)」終

 

 

 

次回予告

ユウナ「私、初さんに元気になってもらいたいんです」

   「初さん!?」

初子「夫が、近くの病院で死んだのさ」

医者「彼女の心を、受け入れてほしいのです」

ユウナ「初さんの、心……?」

美千子「必死に、初さんに喜んでほしいって思ってるのよ」

正彦「夫に会わせればいいんじゃないだろうか」

ユウナ「炊事に洗濯、畑仕事まで、ずっと続けてこられた初さんを、私は尊敬しています」

初子「偉そうなこと言うんじゃないよ!」

雅也「あの人はあの人なりに、君のことを受け入れてる気がする」

初子「お前さん……」

ユウナ「だから、もっと相談してほしかったんです」

正彦「一人で抱えこむのには、限度がある」

ユウナ「会わせたい人がいるんです」

 

 

 

次回(第二十回)

 

夫の残像(ミスターズ・スペクトラム)

序盤のキャラで、最も印象深い登場人物は?

  • 中谷優奈
  • 鶴ケ崎麗菓
  • 月見里美香
  • 夢野あかり
  • 池谷大輝
  • 相場善秀
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