パズル&ドラゴンズ~もうひとつの旅~   作:葉之和 駆刃

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第20話 夫の残像~ミスターズ・スペクトラム~(その壱)

 ユウナは、夜中にふと目を覚ました。部屋の中が明るい。起き上がってみると、枕もとの充電器につながれているスマホの画面が光っていた。ユウナは気になり、それを手に取って画面を見た。そこには、何かをインストールしているとメッセージが表示されていた。ユウナは寝ぼけたまま画面をオフにし、再び布団に戻った。

 

 

 翌朝、いつものように初子とともに朝食をとった。

 

「先輩は、まだ寝てるんですか?」

「あぁ、何度言っても起きないんだよ」

 

 初子は深く溜息をつき、真宏のいる部屋の窓を見上げた。ユウナは朝食を済ませ、

 

「行ってきます」

 

 と言い、カバンを手に取った。

 

「あいよ」

 

 初子がそう言って立ち上がろうとした時、まるで力が抜けたように、がっくりと膝を落とした。それを見てユウナが、

 

「初さん、大丈夫ですか」

 

 と声をかけた。

 

「大丈夫さ。ちょっとよろけただけだよ。この歳になると仕方ないからねえ。さ、それより、早く行ってきな!」

 

 初子はユウナを追い払うように、そう言った。いつもとは違う言い方に戸惑いつつも、

 

「行ってきます」

 

 と言って、ユウナは民宿を出た。初子はその後、腹の辺りを押さえていた。

 

 

 

第二十回 夫の残像(ミスターズ・スペクトラム)

 

 

 2013年11月下旬。街は冬に向け、静かな賑わいを見せていた。ユウナの大学でも、外は肌寒く、冬着で授業を受ける生徒がほとんどだった。

 ユウナはこの日もまた、正彦の研究室を訪れた。中には、アニ研部員も何人かいた。

 

「あぁ、発表めんどいわ~」

「それよりアンタ、卒論どうなってんの」

「それも、何から調べていいかわからへんくて、全然進んでへんわ」

「だから先生言ってたやん、三回のうちから始めなあかんでって」

 

 三宮と夏姫が、雑談しているのを少し離れたところから真宏も見ていた。正彦の研究は外部の人間には絶対秘密だったが、正彦が顧問をしているアニ研だけは、部員にそのことを伝えていた。それは、ユウナの考案だった。アニ研であれば、口外する人はいないだろうし、正彦もコソコソ隠れてやらなくて済むと思ったのだ。ユウナは、アカネに呼ばれた。ユウナはそこへ行くと、正彦がこう話した。

 

「また、新たな機能を追加したぞ」

「新たな機能ですか?」

 

 ユウナが問うと、

 

「そうだ。こっちに来たまえ」

 

 そう正彦が言うので、ユウナはそれについていった。仮想世界、「セインツ・パラダイス」に入ると、正彦が笛を吹き、モンスターたちを呼んだ。すると、周りにモンスターたちが集まってきた。ユウナは、毎回その姿に感心する。とてもプログラムで動いているとは思えない。魂が入っており、本当に生きているかのような、そんな動きだった。正彦はしゃがみこみ、モンスターの頭を撫でた。それは、ユウナが「レッド」という名で呼んでいる、「ホノりん」であった。正彦はユウナに、

 

「これだ」

 

 と言い、あるものを白衣から取り出して見せた。

 

「それは?」

 

 ユウナは尋ねた。試験管のような容器だ。正彦はその蓋を開けると、中から白色に光る玉を出した。それを掌に乗せ、レッドに近づけた。レッドはその玉をしばらく見つめると、大きく口を開け、それを食べてしまった。そして、とても満足そうな顔をした。ユウナも、それを眺めた。正彦は立ち上がると、ユウナの方をふり返った。

 

「毎日、決められた時間にこうしてほしいんだ」

「今の、食事……、ですか?」

 

 ユウナがきくと正彦が、

 

「まぁ、そんなところだろう」

 

 と、言うのだった。

 

「モンスターたちも、お腹空くんですね」

「私は、リアリティを追求していきたいからな」

 

 正彦は、得意気にそう言った。その後ろでアカネが、

 

「いらん機能やって言ったのに、全然きかんねんもん」

 

 と、呆れながら言う。昨日、スマホが勝手に何かをインストールしていたのは、これのことだったのかと、ユウナは理解した。以前にも、このようなことが何度かあった。今回もきっとそうだろうという予感はあったが、なぜだかユウナはいつも以上に嬉しかった。人間と同じように食べ、同じように笑う。そのようなモンスターたちを見ていて、親近感が湧いたのだ。

 

 ユウナは現実世界に戻り、アカネを呼び止めた。

 

「アカネさん、ちょっといいですか?」

 

 ユウナはその後、アカネにこう言った。

 

「私、あの世界が好きなんです。だから、ほかにできることがないかと思いまして。それが、教授の研究の手助けになるなら尚更……。教授に、頼んでみてもらえませんか?」

 

 アカネがそれをきいてしばらく考えたあと、こう言った。

 

「それなら、ちょうどいい話がある」

「えっ」

「パズドラには、ダンジョンってあるやろ?」

「はい」

「それが、ほんまに作れるかもしれへんって言ってはってな。戦う機能とかは、もうすでに出来上がってるらしい」

「ほんとですか?」

 

 ユウナは、半信半疑でそうきいた。するとアカネはユウナを見つめ、

 

「教授の目的は、何か知ってる?」

 

 と、きき返してきた。それをきいて、ユウナはあること思い出した。

 

『私はそのコンピュータの技術を生かして、現実の自然界を守ることはできないかと考えている』

 

 ユウナが初めてあの世界を目にした時、正彦はそう話していた。

 

「その技術を生かして、自然界を守る、ですよね」

「それもあるけど、実はもうひとつあんねん」

「もうひとつ?」

「そう。アニメでよくあるやん、ほんまにゲームの中に入って冒険するやつ。教授はな、それを目指してんねん」

「ゲーム世界で、冒険?」

 

 ユウナは、ただ驚いていた。

 

「ただプレイするだけじゃなくて、実際に中に入って冒険することができたら、めっちゃ楽しいやろって、それをいつか世の中に広めたいって」

 

 ユウナはそれをきき、しばらく考えた。そして顔を上げ、

 

「それ……、いいです。すごく!」

 

 と、興奮気味に言った。しかし、次にアカネから出た言葉はあまりいいものではなかった。

 

「でも、いいことばかりではない」

「どういう、意味ですか?」

「実際に中に入るってことは、それなりの危険も出てくる。だからこそ、どう対処していくかが、肝心になってくるんよ」

「そうですか……」

 

 言われてみれば、その通りだ。目先のことばかり考え、重要なことを忘れていた自分を、ユウナは恥じた。

 

「でも、もしも教授がそう考えているのだとしたら、私は、全力でサポートしたいです」

 

 ユウナがそう言うと、アカネも笑いながら言った。

 

「ほんま、アンタはええ子やな。教授が認めたんもわかる気がするわ。じゃ、これからもよろしくな」

「はい!」

 

 と、ユウナは嬉しさのあまり、元気よく返した。しかし、これはまだ序章にすぎなかったのである。だが、正彦の愛するあの世界をユウナが必死に守り抜くのは、まだまだ先の話だ。

 

 

 さらに数日が過ぎ、季節は十二月へと変わっていた。休日、リカがユウナのところへ遊びに来た。学部が違うため、最近は少し疎遠になりつつあったが、前日にリカからメールが届いたのだ。

 

「最近、どうしてるのかなぁって思ってね」

 

 リカは縁側に腰かけながら、そう言った。ユウナも、それをきいてこう返した。

 

「そういえば、二人きりで話すのもしばらくなかったね」

「ユウナちゃんはさ、最近どうしてるの?」

「どうって?」

「バイトとか始めないの?」

「あ、うん。リカは、やってるんだよね」

「そう。でも最近、楽しくなくなってきちゃった。ユウナちゃんは何かやらないの?」

「うん……。時間があれば、始めようかなって思うけど」

「そういや、リンちゃんが言ってたけど、ユウナちゃん授業終わったらいつもどこ行ってるの? いつの間にかいなくなるんだって、心配してたよ」

「え? あ、いや、その……」

 

 ユウナは、言うことをためらった。でも話してしまうと、アカネに怒られそうだと思い、言うに言い出せなかった。その時、運よく初子が二人に茶を運んできた。

 

「ありがとうございます」

 

 リカはそう言って軽く頭を下げると、初子がきいた。

 

「友達かい」

「はい、高校の時の……」

「じゃあま、ゆっくりしておいき」

「はい、お気遣いなく」

 

 すると初子は、盆を持って中に入っていった。

 

「なかなかいい人そうだったね」

「あれでも、普段は厳しいの」

 

 リカが言うと、ユウナも答えた。

 

「そうなの?」

 

 リカは、意外そうな顔をしていた。その時、ユウナはようやく話す決心をした。リカなら、きっと約束を守ってくれるだろうと信じ、打ち明けることにしたのだ。

 

「リカ……」

 

 ユウナが言いかけた、その時だった。部屋の中から、人が倒れるような音がした。二人は、その音をはっきりときいた。そして立ち上がると、何事かと見にいった。すると、台所で初子が横になって倒れていた。

 

「初さん!?」

 

 ユウナが、急いで駆けよった。

 

「大丈夫ですか?」

 

 声をかけても、初子からの返事はない。それを見たリカも不安気に、

 

「私、救急車呼んでこようか?」

 

 と言うので、

 

「うん、お願い」

 

 そうユウナが言うと、初子は口を開いた。

 

「いいよ、そんなに大したことじゃないから」

「でも……」

「わからない子だねえ。私は大丈夫だよ。少し横になれば平気さ」

 

 初子がそう言いながら、なんとか立ち上がった。その様子を見ても、ユウナは放っておけず、初子を説得しようと思った。

 

 夕方、ユウナは初子の部屋を覗いた。初子は横になっているが、目は開いているようだ。ユウナは静かに部屋に入ると、初子の隣に座った。

 

「初さん……、お話があります」

「病院なら行かないよ」

 

 初子は、ユウナの言うことを予想していたように、すぐに答えた。

 

「家のことは、任せてください。私、初さんのお身体が、とても心配なんです。だから、どうか行ってください」

 

 それをきいた初子は、寝返りを打ってユウナに背を向けた。

 

「料理も家事も、まだ半人前なのによく言うよ」

 

 初子に言われ、ユウナは返す言葉を見失ってしまった。

 

「でも、それだけの理由で行かないのはちょっと……」

 

 ユウナがまた説得を始めようとすると、初子は言葉を遮った。

 

「私が行きたくない理由なら、ほかにもあるよ」

「何ですか?」

「夫が、近くの病院で死んだのさ」

 

 ユウナは、不意に初子から目をそらした。テレビの前に、夫の写真が飾ってある。ユウナはその前に座り、写真を見つめた。

 

「初めは、行きたくないって言ってたのにねぇ、どうも体の調子が治らないから、首根っこつかんで無理やり連れていったのさ。そしてガンが見つかって、しかもその時には手術はもう手遅れだった」

「それで、行きたくないんですか?」

「私も、もう年だからそのくらいわかってるんだ。でも、今はちと行く気になれないねぇ」

 

 すると、ユウナは再び初子の方へ向き直ると、

 

「ですが、それだとご主人のように、手遅れになるかもしれないんですよ」

 

 と言った。しかし、初子は黙っていた。

 

「お願いします、わかってください」

 

 ユウナは、必死にそう言った。

 

「うるさいねぇ、寝かせておくれ」

 

 初子が迷惑そうに言うので、ユウナは仕方なく立ち上がって部屋を出た。その晩、どうにかできないものかと、自分の部屋で悩んでいた。このまま何もできないのは、やはり悔しかった。だからと言って、頑固な初子をどうやって説得すればよいのかと、悩みは膨らんでいくばかりだ。そして結局、何も思い浮かばないまま朝を迎えることになった。

序盤のキャラで、最も印象深い登場人物は?

  • 中谷優奈
  • 鶴ケ崎麗菓
  • 月見里美香
  • 夢野あかり
  • 池谷大輝
  • 相場善秀
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