パズル&ドラゴンズ~もうひとつの旅~   作:葉之和 駆刃

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第21話 偽りの決断~フォールス・レゾリューション~(その参)

 ユウナは、リンを連れて自分の下宿に戻ってきた。ユウナの下宿も、大学から徒歩十分圏内であったため、そこまで時間はかからなかった。夕陽が、煌々と地面を照らしていた。縁側から、隆吉が庭を眺めながら服を畳んでいる初子に話しかけた。

 

「いやぁ、すっかり世話になっちまって、すみませんなぁ」

「いいんだよ。あんたも、腹減ってたんだろ?」

「はい、でもおかげで腹は膨れましたから」

 

 隆吉はそう言うと、ハハハと笑った。

 

「今晩にでも、お暇するとしますかな~」

 

 隆吉は、夕陽を見ながら呟いた。すると初子が、

 

「あの子のことはもういいのかい?」

 

 ときくと、

 

「あぁ、あいつが自分から戻ってきてくれるまで、話す機会は多分ないからなぁ。悲しいが、これが現実だからなぁ、受け入れなければなんねえ」

 

 隆吉がそう言って、立ち上がろうとした。すると、

 

「お父さん!」

 

 という声に、隆吉が動きを止めた。そして、再び庭の方を向いた。見ると、やはりそこにはリンが立っていた。

 

「リン……」

 

 そして、リンは前に進み出た。

 

「お父さん……、ごめんなさい!」

 

 リンは、そう言って頭を下げた。隆吉は、リンのその行動に驚きを隠せなかった。ただ黙って、それを見つめていた。リンが顔を上げると、こう続けた。

 

「私、誤解してた。お父さんたちのこと。間違ってたのは、私の方だった」

「リン、お前……」

「今までは、ただ過保護なだけの、バカな親だと思ってた」

「バカって、お前親に向か……」

「でもそれだけじゃなかった!」

 

 それをきき、隆吉は言うのをやめた。

 

「私のこと、ほんとに心配してくれてたんだって、離れてから初めて思った。今まで、お父さんたちの存在がどれだけ大切だったか、それを知った。だから、すっごい後悔してんだ。それだけは、どうしても伝えたくて……」

 

 隆吉も、リンがそう話すのを黙ってきいていた。

 

「それから私、大学ではダンス部に入らなかったの」

「えっ?」

「大学ではどこの部活にも入らずに、バイトとかやって過ごしてた」

「どうしてだ、あんなに入りたがってたじゃないか」

 

 隆吉は立ち上がり、靴を履いて下に降りた。

 

「でも、結果的に楽しかった。すぐに友達もできたし」

「じゃあ、黙って家を出た意味がないだろ」

「そうだよ」

「は?」

「私、ここに来て思ったんだ。今まで、お父さんよりバカな人はいないと思ってたけど、もっとバカなやつがいた。ていうか、バカばっかりいるの」

「おい、あまりバカバカ言うな」

 

 隆吉はリンの話をききながら、少し困惑した素振りを見せた。

 

「自分では何の得にもならないのに、人助けしたり、くだらない話でやけに盛り上がったりとかしてさ。あと、尾行してついてきたり」

「誰だ、そいつは!」

「え、男」

「なんでそれをもっと早くに言わないんだ! 私はお前のそういうところが心配で……」

 

 隆吉は呆れたように言うとリンが、

 

「大丈夫だから。あんまり気にならなかったし」

 

 と言うので、隆吉は呆れ返って何も言えなかった。

 

「だからそれを思うと、お父さんのことなんか全然気にならなくなって。少し考えすぎだったみたい。だから、私も少し元気になれた。いつか話そうと思ったけど、何て言われるかだけ気がかりで、連絡できなかっただけ」

 

 すると、隆吉はリンにきいた。

 

「お前は、これからどうしたいんだ」

「せっかく理転までしてきたから、卒業はしようと思う。帰って来いって言うなら帰るけど、でもそれはちょいもったいない気がするから。とりま大学はこのままでいこうと思う」

 

 リンが言うので、隆吉もこう返した。

 

「そうか。じゃあ好きなようにやれ」

「ほんとにいいの?」

「お前がそうしたいって言うなら、俺はもう何も言わない。せっかく、ここまで来たんだからな。母さんにも、そう伝えておく」

「ありがとう」

 

 リンは、隆吉を見て笑った。それはどこか、無邪気な子供のようだった。それを見て、隆吉も安心したのか腰を下ろした。

 

「さあて、じゃあ私は帰るとするか。初さん、電車の時間調べたいんだが」

 

 初子はそれをきくと、

 

「あいよ」

 

 と言い、少し面倒そうに立ち上がった。リンも、それを見て笑っていた。その笑い声が、塀の外までもれている。ユウナは外からそれをきき、ただ安心していた。もしもリンの思いが隆吉に伝わらなかったらと心配もしていたが、そのようなことは一切無用だったのだ。ユウナもこれまで、リンにはいろいろなことをしてもらってきた。背中を押してくれたり、ライブに連れていってくれたりもした。

 

 その後、リンと一緒に隆吉を駅まで見送りに行った。隆吉は、

 

「いやぁ、本当に世話になったね」

 

 と、ユウナに礼を述べた。

 

「いえ。もしよかったら、また来てください」

「あぁ。またお邪魔させてもらうよ」

 

 隆吉はそう言うと、また声に出して笑った。

 

「それより、その荷物どうしたの?」

 

 リンがきくと、隆吉は答えた。

 

「あぁ。迷うと思ったから、テントと寝袋も入れてきたんだ」

「でも、それでお金なくなったら意味ないじゃん」

 

 リンは呆れている。そしてユウナに、

 

「うちの親、本当にバカだから」

 

 と、囁いた。するとそれがきこえていたのか、

 

「なんだって?」

 

 そう隆吉が言うとリンは、

 

「なんでも」

 

 と答えて、誤魔化していた。

 

「じゃあ、身体には気をつけるんだぞ」

「うん、わかってる。じゃあね」

 

 隆吉が言うと、リンもそう答えた。そして隆吉は二人に背を向け、ゆっくり歩き始めた。やがて改札を通り、そして見えなくなってしまった。それを見ながら、リンが呟いた。

 

「親譲りで私もバカだから、もっと後先考えられるようにならないとね」

 

 それをきいたユウナも、

 

「私も」

 

 と言った。

 

「ユウナはバカじゃないよ。ちゃんと周り見て行動してるもん」

「でも、お節介すぎるからバカって思われてたんじゃ……」

「あ、ごめん。きこえてた?」

 

 そしてまた、二人は笑い合った。

 

 その帰り道、ユウナがリンにきいた。

 

「ねぇ、どうしてダンス部に入らなかったの?」

「最初は入ろうと思ってたけど、家飛び出してきちゃったから申し訳ないと思って」

「どういうこと?」

「だって、私だけ好きなことやってたら、結局それかって思われるじゃん。まぁ、私が苦労したって知って、向こうもスッキリしたんだと思う」

「卒業したら、どうするの?」

 

 ユウナはつい、きいてしまった。

 

「う~ん。まだわかんないけど、とりあえず卒業できたらどこかあると思う」

「でも、デザイナーになりたいんだよね」

「え? なんで知ってんの?」

 

 リンは、驚きながらユウナを見た。するとユウナは気がつき、

 

「あ、ごめん。お父さんから、きいちゃって」

 

 と答えると、リンは前を向いてこう言うのだった。

 

「大学は全然関係ないところ来ちゃったから、それならたぶん留学することになるかな」

「そうなんだ。私はまだ夢とかないから、見習わないと」

「ユウナは、どんな仕事がしたいの?」

「高校までは、人の役に立つことなら何でもいいと思ってた。でもみんなを見てて、もうそろそろ決めなきゃなあって感じで」

「ふ~ん、ユウナらしいね」

 

 リンが言うのをきいて、ユウナは微笑した。これまで、何人もの人に同じことを言われただろう。ユウナはそう言われるたび、もっと具体的な夢を探さなければならないと思うのだった。

 

 

 それから数日が経ち、三月に入った。あと一ヶ月で、ユウナは新二回生となる。学科やサークルにおいて、後輩もできるだろう。その分、今よりも大人にならねばいけないと、ユウナは自分に言いきかせるのだった。正彦の研究室でも、来年度に向けての片付けなどが行われていた。ユウナも、それを手伝った。アカネが、

 

「もう何人か人手がほしいなぁ」

 

 と呟くと、ユウナは言った。

 

「アニ研の皆さんも、もう少ししたら来ると思います。先輩に頼んだら、やることもないから引き受けると言ってくれましたから」

「なんやのそれ。やることあったら手伝ってくれへんかったんか」

 

 アカネが言うのをきいてユウナは笑っていると、部屋の戸が開いた。

 

「差し入れ持って来たったで~」

「おぉ、めっちゃ片付いてるやん!」

「ちょっと、何くつろぐ気満々でいるのよ! これから、うちらも手伝うんだからね!」

「は~い」

 

 侑李に注意され、夏姫と三宮は返事をした。ユウナはそれを微笑ましそうに見ていると、真宏と目が合った。すると真宏は、

 

「あれからどうなった」

 

 そうきくと、ユウナも答えた。

 

「はい。おかげ様で」

 

 ユウナは、嬉しそうに笑った。真宏もそれを見て、安堵したような表情になった。部屋では、相変わらず片付けが行われている。掃除道具で遊んでいる二人に、また星見や侑李が注意した。それを無視するかのように、近くでアカネもはき掃除をしていた。正彦も、机の上のファイルなど散らかっていたものを整理していると、次から次へと古い書類が顔を出す。それを捨てるのに、大きなビニール袋を何枚も要した。そこにユウナが来て、

 

「あの、教授。これが終わったら、お話いいですか?」

 

 と言うので正彦は、

 

「あぁ、いいが……」

 

 そう言って、不思議な目でユウナを見ていた。

 

 そしてユウナも掃除を手伝い、部屋はあらかた片付いた。その後、ユウナは正彦にあるお願いをし、リンのいるアパートに向かった。

 

「見てよ、これ」

 

 リンがそう言いながら、押し入れからいくつもの段ボールを出してきた。その中には、Tシャツやジャージなどがぎっしり入っている。

 

「これ、どうしたの?」

「中学や高校の時に着てた、ダンス用の服一式。昨日送ってきたの。部活にも入ってないのにね」

「でも、もしかしたら続けろってことじゃないかな。二回生からでも、遅くないと思うし」

「でも、こんなに要らないでしょ。ユウナ、よかったら何枚かもらって」

「え、いいよ」

「遠慮するなって。ね、ね、いいでしょ」

「うん。それより、リンに見せたいものがあるの」

「え?」

 

 その日の「セインツ・パラダイス」には、霧がかかっていた。ユウナはリンの手を引き、霧の中を歩いた。

 

「待って、何ここ?」

 

 リンは、だいぶ戸惑っているようだ。やがて空は晴れ、ユウナは立ち止まった。目の前には、人の影が見える。そして霧が去ると、正彦が姿を現した。

 

「『セインツ・パラダイス』へ、ようこそ」

 

 正彦は、笑顔でリンを迎えた。ユウナもふり返り、

 

「ここは、教授が創った仮想の世界なの。ここに来れば、どんなことがあっても笑顔に戻れる。私は、そう信じてずっとやってきたんだ」

 

 と言うのをきき、リンは理解したように呟いた。

 

「ユウナが放課後いなくなったのって……、これだったんだ」

 

 リンは、ユウナがなぜここに自分を連れてきたのか、自分でもよくわからなかったが、それはあの出来事があったからなのかもしれない。

 

 

 三月も後半に差しかかると、ついにユウナは帰省する日を迎えた。ユウナが初子に、

 

「迷惑おかけしますが、よろしくお願いします」

 

 と言って、礼をすると初子は言った。

 

「大丈夫さ。最近は調子がいいからね。それと、あのバカもいるしねぇ」

「先輩はちょっと、大丈夫ですかね」

 

 ユウナの方が、少し不安に思った。すると、

 

「ユウナちゃ~ん!」

 

 と呼ぶ声がするので、ユウナが見ると、リカとリンが駆けてきた。

 

「どうしたの?」

「せっかくだから、見送りに来ようと思って」

 

 リカが言うのでユウナが、

 

「よかったのに」

 

 そう言うと、リカは言った。

 

「だって四月まで会えなくなると思うと、やっぱり寂しくて」

 

 するとリンも、

 

「私も頑張るから! 新学期をお楽しみに~」

 

 と言うので、ユウナも笑顔で頷いた。そしてユウナは皆にしばらくの別れを告げ、駅に向かった。そして、ホームで京都行の電車を待っていた。

 

 一方、初子のところには美千子が訪ねてきており、仏壇がある和室で二人話していた。

 

「ほんとにいいのかしら、見送りにいかなくて」

「いいんだよ、あの子ならねぇ」

「まぁ」

 

 美千子はそう言うと、優しい笑顔で窓から空を見つめていた。

 

 そしてユウナは電車に乗ると故郷、東京へと向かうのだった。もしかすると、これが本当の旅の始まりであったのかもしれない。

 

 

第二十一回「偽りの決断(フォールス・レゾリューション)」終

 

 

 

次回予告

百合子「最近、義輝ちょっと様子がおかしいの」

ユウナ「えっ?」

月見里千花「あれは、ヤクザよ!」

義輝「もう、ほっといてくれよ」

千花「一般人を利用してるの」

  「大丈夫。てる君を信じてあげて」

大輝「あいつを救えるのは、お前だけなんだからさ」

平岡美希「ヨシ君からよくきくんです、お姉さんのこと。友達思いで、すっごく優しいんだって」

ユウナ「なに……、これ……」

   「私、どうしたらいいかな」

ミカ「一応警察に言った方がいいよ」

ユウナ「弟に、もう関わらないでいただきたいんです」

美希「待ってよ、お姉さんは関係ないでしょ!」

義輝「もしお前が、俺を利用するためだけだったって言うなら、俺はお前を許さない」

美希「なんで言ってくれなかったのよ~!」

 

 

 

次回(第二十二回)

 

罪深き恋人(ギルティ・マドンナ)

序盤のキャラで、最も印象深い登場人物は?

  • 中谷優奈
  • 鶴ケ崎麗菓
  • 月見里美香
  • 夢野あかり
  • 池谷大輝
  • 相場善秀
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