ユウナは下駄箱で急いで土足に履き替え、校舎を後にした。バス停は、学校を出てすぐのところにあった。ユウナはそこへ向かうと、リカがベンチに座っていた。ユウナが、
「リカちゃん」
と、声をかけた。自分のスマホを見つめていたリカが、ふり向いた。ユウナはリカの隣に座ると、
「どうしたの? 相場君、心配してたよ」
そう言うと、リカが言った。
「あ、ごめん。でも、何でもないから」
するとユウナは、こう話した。
「一緒に、帰ってもいいかな」
それをきき、リカは嬉しそうに頷いた。二人は、すぐに打ち解けたようだ。
しばらく待つと、帰りのバスが見えた。バスが停車すると、二人は乗った。そして、二人掛けの席に座った。バスは、静かに発車した。するとリカは、スマホでパズドラのアプリを開いた。それを偶然見たユウナは、
「リカちゃんもそれやってんだ」
と言うと、リカは言った。
「リカでいいよ。友達に勧められたんだ」
「友達……?」
「一年の時の」
「あぁ、ごめん」
「ううん」
ユウナは、少し後悔した。友達がいないと思い込んでいたことを、直接リカに話したようなものだった。しかし、リカは何の気にもとめずにゲームの中のパズルを動かした。ユウナはそれを見て、不思議に思った。リカは、一ターンごとに、一コマだけしかパズルを動かしていない。このゲームには、コンボと呼ばれるテクニックがある。コンボとは、コンビネーションの略である。一つしか動かせないが、時間内にどこまでもパズルを動かせる。それにより、様々な色を揃えることも可能。そして多く揃えるほど、味方モンスターの攻撃力が上がる。そのドロップと呼ばれるパズルには、それぞれ種類があり、火、水、木、光、そして闇。そのほかとしては、回復のドロップがある。それを揃えると、揃えた分だけ体力が回復する。
ユウナはリカが一つしか動かしていないのを見て、こう言った。
「ねぇ、コンボ使ってる?」
「コンボ?」
案の定、リカは知らないみたいだった。ユウナも自分でスマホを取り出し、パズドラを開いた。そしてユウナは、リカの前でドロップを動かした。すると、いくつもの色のドロップが消え、どんどん攻撃力が上昇していくグラフィックがスマホの画面に映し出された。
「すごい! そんなことできるんだ! てっきり、一個ずつしか動かせないのかと思ってた」
「こうやって、たくさんドロップを消すほど、攻撃力がアップするから。最初のうちは、今のままでクリアできるけど、ダンジョンが新しくなると突破できなくなるから。あと、消す量によって攻撃力が違うみたい」
三つ並べて消すのと、五つ並べて消すのでは、一・五倍も攻撃力が違うのだ。
「詳しいんだー、ユウナちゃんって」
「ユウナでいいよ」
「ねぇ、私の話、聞いてくれる?」
「えっ?」
リカは、下を向いてこう言った。
「私ね、ずっと夢だったの。ユウナちゃんみたいになるのが。私にも、明るい友達が欲しかった。困ってる時、助けてくれる人とか、色んなこと、教えてくれる人が側にいてくれる、そんなユウナちゃんたちが羨ましかったんだ」
ユウナは、それをきいて不意に昔の自分と重なった。ユウナ自身も、完全な引きこもりだった時、そういう友達が欲しいと切に願っていた。もしもあそこで、大輝が手をさし延べてくれなかったら、ユウナは今でも孤独だっただろう。ユウナはリカに同情し、思いきってこう言った。
「私が……、友達になるよ」
リカはそれをきき、ユウナを見た。
「私も、リカちゃんと色んな話したい。それで、一緒に勉強したり、遊んだりしたいな。あ、ごめん。お節介だった?」
ユウナがリカを見ると、リカの目からは少し涙がにじんでいた。リカは、
「ううん、嬉しい。そうやって優しく接してきてくれることが、すごく嬉しい」
と言った。リカの目には、今にも溢れ出しそうなくらい涙が溜まっている。ユウナもそれを見ると、優しく微笑んだ。そしてしばらくして、バスのアナウンスがかかった。
「次は、日の出町、日の出町です」
するとリカは立ち上がって、
「じゃあね」
と言った。するとユウナは、
「ねぇ!」
そう言うと、降りようとしたリカはふり返った。ユウナが、
「また、やろうね」
と言い、自分のスマホを見せた。するとリカも、
「うん」
そう言って笑うと、バスを降りた。バスが発車すると、ユウナは一人、嬉しさをかみしめていた。こんなに嬉しかったのは、久しぶりであった。でも、一番嬉しかったのはリカであろう。勇気をふり絞り、ユウナに話したのだ。それだけで、リカは達成感でいっぱいだっただろう。
八王子に着くと、ユウナはバスを降り、徒歩で自宅に向かった。
ユウナは家に帰ると、百合子が出てきた。
「おかえり、昼ごはん食べた?」
「あ」
ユウナは、すっかり忘れていた。朝食を食べそびれ、昼食もまだだった。ミカに誘われたが、ユウナはリカと一緒に帰ることを選んだ。そのため、空腹が絶頂だったことを思い出した。
そしてその後、ユウナはリビングで食事をとった。百合子が隣に座ると、
「どうだったの? 学校は」
ときいた。ユウナは、
「今日、いきなりテストだった」
そう答えると、百合子がこう言った。
「だから言ったじゃない。お腹空いて、集中できなかったでしょう。で、どうするの? 大学」
ユウナは、今年三年生。しかし二学期が始まっても、まだ決められずにいた。
「そのうち、考えるよ」
「そんな暢気なこと言ってていいの? 推薦受けるんだったら、それも探さないといけないんでしょ? センター受けるんなら、過去の問題集も買わないと」
ユウナは、食べながら考えた。今のままだと、自分の学力で行けそうなところを受けるしかなかった。でもそれが、本当に自分の進みたい道なのだろうか。これ以上、百合子に心配はかけたくなかった。本当は、自分は何をやりたいのだろう。そればかりが、ユウナを苦しめていた。
ユウナは昼食後、黙って二階に上がった。ドアを開け、机の上にカバンを置いた。ユウナはふと前を見ると、福引券が壁にピンでとめられていた。あの時、謎の男からもらった十枚の福引券。ユウナは、自分の手元に一枚残して、一等を当てた。当然ながらユウナはいまだに、あの男の正体がわからずにいた。でも、もう会うことはないだろう。ユウナはそう思っていた。
ユウナは、ベットに横になり、またパズドラを立ち上げた。やはり、リカのことが気にかかっていた。まだ話していなかったが、パズドラには「魔法石」と呼ばれるアイテムがある。どのゲームにもいくつかアイテムは存在するが、この「魔法石」も似たようなものであろう。これを使用することで、一度負けても「コンティニュー」という仕様でやり直すことができたり、ダンジョンに入るためのスタミナを回復できたり、ゲットしたモンスターを入れておくモンスターボックスの容量を拡張できたりする。
そして、何より特徴的なのは、普通は一個しか使用しないが、五個使用することによってガチャを回せる。それにより、レアなモンスターが手に入る。その中でも、ゴッドフェスというイベントで回せるガチャがある。モンスターには属性のほかに、タイプというものがある。それには、神タイプ、バランスタイプなど様々である。ゴッドフェスは、定期的に神タイプのモンスターがゲットできるようになる、イベントのようなものであった。その対象に入るモンスターは、フェス限定モンスターと呼ばれ、超レアなのである。
ユウナはその中で、どうしても手に入れたいモンスターがいた。ユウナは立ち上がり、クローゼットを開けた。目の前には、あるポスターが貼ってある。そこには、あるモンスターが描かれていた。
「オーディン」、フェス限定モンスターの一つである。モンスターのそれぞれの特徴として、スキル、リーダースキルというものがあった。パズドラは、自分のモンスター五体、そしてフレンドからもう一体連れ、合計六体でダンジョンに入り込める。そして、それぞれのグループをパーティーと呼ぶ。その中で、リーダーモンスターを一体選択できる。フレンドのパーティーから連れて行けるモンスターは、ほぼそのリーダーモンスターである。そして、リーダースキルを使えるのは、リーダーモンスターと、フレンドから選んだモンスターだけなのだ。でも、普通のスキルなら、それ以外のモンスターでも使える。
リーダースキルは、モンスターによってそれぞれ違う。例えば、そのタイプのドロップを消すことにより、攻撃力が上昇するというようなスキルが多い気がする。「オーディン」のリーダースキルは、「守りの衣」といい、体力が満タンの時だと、受けるダメージを八割もカットしてくれる。とは言っても、連続ダメージには弱いというのが欠点ではある。でもそれがなければ、かなり使えるモンスターなのだ。それに付け加えて、覚醒スキルのことも説明しておこう。
あるモンスターを合成させることにより、覚醒する
だからユウナは、魔法石を貯めては、ゴッドフェスの時にガチャを引くのだ。魔法石は公式から配信される場合と、ダンジョンを初めてクリアした時にその報酬として手に入る場合がある。それ以外は、自分で購入しなくてはならない。人によっては、「課金」といって、お金を短期間で溜めて大量の魔法石を手に入れている人もいるらしいが……。
それはさておき、「オーディン」のすごさ、わかってもらえただろうか。ユウナはまだ手に入れていない。それはガチャを引いても、確率的にかなり低いからだ。ユウナは配信当初からやっているが、いつも強いモンスターにめぐり会えない。ユウナが見つめていたクローゼットの中には、人型のモンスター、「オーディン」が描かれたポスターがあった。ユウナはため息をつき、クローゼットを閉じた。ユウナはベッドに腰かけ、画面を見つめた。
そしてスマホの電源を切り、机に座ると、問題集を開いた。ユウナは窓の外を見ると、雲が忙しなく流れているだけだった。現実からは逃れられない、そう悟った瞬間だった。
やがて、父が帰ってきた。ユウナの父、
それとほぼ同時に、弟の
四人で食卓を囲うのは、いつぶりだろうか。この日、惟英から様々な話がきけた。今、学生に卒業論文のアドバイスを行っていること、研究室のこと、どれもユウナにとって、興味深い話だった。惟英の話に、ちょくちょく百合子が口を挟んだ。惟英と百合子は、就職後の研究所で出会った。そして結婚後、仕事の都合で大学に移動した。百合子もまた、行動を共にするように秘書になった。そう、ユウナはきかされていた。
ユウナは食事を終え、席を立とうとすると不意に惟英が声をかけた。
「そういえば、ユウナは今日から学校だったな。どうだった?」
「今日、いきなりテストだったんですって」
百合子がそう言った。それをきいた義輝も、
「やばいじゃん、それ」
と言った。ユウナは、
「だって、連絡なかったんだもん」
と、言い訳した。すると惟英は、
「色々と大変だと思うが、頑張れよ」
そう言ってくれた。ユウナは嬉しそうに頷き、食器を片付けると二階に上がった。
ユウナは自分の部屋に入ると、机に向かった。そして、また問題集を開こうとした時、不意にリカの言葉を思い出した。
『困ってる時、助けてくれる人とか、色んなこと、教えてくれる人が側にいてくれる、そんなユウナちゃんたちが羨ましかったんだ』
そう言ったリカが、ずっと頭に焼きついていた。勇気を出して自分に声をかけてくれたリカを、以前の自分に何度も重ねた。ユウナはしばらく、そのことだけを考えていたのであった。
そしてキッチンでは、百合子が皿を洗いながら、
「あの子、進路どうするつもりかしら」
と、心配そうに呟いた。すると隣にいた惟英が、こう言った。
「大丈夫さ、心配いらんだろう」
「とは言っても、もう二学期よ? 心配よ」
「ユウナは、何をやるにもゆっくりだったからなあ。ゆっくり考え、的確に行動を選ぶ。そうやって、生きてきたんだからな」
百合子はそれをきいて、更に心配になった。たしかに、ユウナの性格を考えると、そうかもしれない。だがそうだからといって、無難に選んだ大学が本人が期待していたものとは違って、早くに辞めてしまったとしたら、それからどうするのだろう。百合子の不安は、増すばかりだった。
ユウナは勉強しながら、ふとスマホを見た。
『また、やろうね』
そう言ったユウナに対してリカは、
『うん』
と笑って答えてくれた。それを思い返すだけで、ユウナは嬉しかった。すると、ドアが開く。弟の義輝が入ってきたのだ。
「姉ちゃん、お風呂空いたぞ?」
ユウナは突然声をかけられ、ビクッとなった。ユウナはふり返ると、
「ちょっ……、ノックくらいしなさいよ!」
と言った。
「わあったよ」
義輝はそう言い、ドアを閉じた。
ユウナは風呂から上がると、寝る前にまたパズドラをやった。今度は、みんなでやることができたらいいな、そんな淡い期待をしていた。
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鶴ケ崎麗菓
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月見里美香
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池谷大輝
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相場善秀