ユウナは、急いで民宿まで帰った。あれから雅也と話しこみ、気がついたら夕方の六時になっていた。四月後半ともなればまだ日は沈んでいないが、薄暗かった。そしてユウナは歩きながら、雅也の言葉を思い出していた。
『それをどう乗りきるかが、大切なんだと思う。でも、その術を知らない人間は、一生報われない気がする』
それは考えようによっては、ユウナにも当てはまることだった。ユウナは、今まで数えきれないほどの失敗を繰り返してきた。だがそれを乗り越えることで、次に何をすればよいか自然とわかるようになってきたのだ。
ユウナが帰ると、庭で真宏がペロにエサやりをしている。ユウナが、
「先輩……?」
そう話しかけると真宏も、
「なんだ?」
と、返してきた。
「この間は、本当に、すみませんでした」
ユウナはそう言い、頭を下げた。返事が返ってこないのでユウナがそっと顔を上げると、真宏がペロを抱きかかえていた。そして、こう言った。
「俺も、昨日あれから考えてさ。お前にはあんなこと言ったけど、あれはべつに本気で言ったわけじゃねえんだ」
「どういうことですか?」
「なんか、あれは単に仲間を守りたかったっていうか、つい熱くなっちまって……。あいつらが仲間だっていう前に、お前も俺らの仲間だからな。ごめん」
これはきっと、真宏なりに自力で導きだした答えなのだろうかと、ユウナは思った。
「ありがとうございます。そう言っていただけて、すごく嬉しいです。私も、皆さんがそんなことするはずないと思ってました。それなのに、誤解を招く言い方をしてしまって、ずっと反省してたんです。すみません」
ユウナがそう言うと、真宏が近づいてきた。そして急に、ユウナの頭をなでてきたのだ。
「あ、あの……」
ユウナは、顔の周りが熱くなった。そして恐る恐る顔を上げると、そこには真宏の顔があった。真宏は優しく、
「お前の気持ち何もわかってなかったのは俺だ。お前がそんなこと言う必要はねえ」
と言った。
「え……、でも……」
「だいたい、ちょっと考えすぎなんだよ。でも、そんなお前、嫌いじゃないけどな」
真宏はそう言うと、また背を向けてペロがいる方に歩いていった。
「あの、どういう意味ですか?」
ユウナがきくと、真宏はペロを抱えながらこう言った。
「何でもねえよ。それよりさぁ、今度みんなでどっか行かねえ? もうすぐ連休だろ」
今まで気にしていなかったが、気がつけば四月も終わりに近づき、間もなくゴールデンウィークが始まろうとしていた。
「はい。じゃあ、明日にでも皆さんに提案しましょう。できるだけ、大勢で出かけた方が楽しいですし」
「そうだな。じゃあ、中入るか」
真宏はペロを地面に座らせると、立ち上がってユウナの方を見た。
「はい」
ユウナが答えると、真宏は中に入っていった。しかしユウナは、しばらくその場に立ち止まっていた。先程の真宏の行動が、やはり気になるのだ。
『お前には、ずっと笑顔でいてほしいんだ』
『今だけは、こうさせてくれ。これが終わったら、何してもいい』
ユウナが今までに好きになったのは、相場と大輝だけだった。今になって、二人を裏切ることができようか。ユウナは気のせいだと自分に言いきかせ、中に入っていった。
翌日、ユウナは再び正彦の研究室を訪ねたが、正彦は留守で代わりに美千子が中に入れてくれた。研究室の隣の部屋で、二人は話をした。
「まぁ、やっと仲直りできたの」
ユウナの話をきき、美千子は安心したような柔らかな表情で言った。
「はい。もっと早くに話せばよかったんですが」
「それでも、向こうも反省してたんでしょう? だったら、その人に感謝しないとね。えっと、その……」
「雅也さんです。高校の同級生の、お兄さんで」
「まぁ、そうだったの。でも、その人も何かあったんじゃない?話きいてると、なんだかそんな気がして」
「私もその時、そう思ったんですけど、なんだかきける雰囲気じゃなくて……」
ユウナがそう言っていると、激しい足音がきこえてくるので、二人はドアの方を見つめた。そしてそれは少しずつ近くなり、勢いよくその部屋のドアが開いた。案の定、それは正彦だった。
「あなた、どうしたの。そんなに慌てて」
美千子が尋ねると、正彦は言った。
「あ、すまん。少し、大変なことがあってね」
「何ですか?」
ユウナもきくと、正彦が答えた。
「モンスターが、私の世界から逃げ出してしまった」
「えっ……」
ユウナはそれをきいて、絶句した。
「詳しいことはまだわからないが、この間、セインツ・パラダイスへの扉が破壊されただろう。その時に、モンスターが一体外の世界へ放たれたらしいんだ」
ユウナも、扉が壊されたことは知っていた。それでもまさか、モンスターが逃げ出していたとは考えもしなかった。
「外の世界に出ると、どうなるんですか?」
ユウナは、恐る恐るきいてみた。すると正彦は、こう言うのだった。
「ちょっとついてきてくれ」
ユウナは正彦に連れられ、研究室へ行った。正彦は画面に表示されたマップを指さし、
「ここにある制御装置が、停止されたんだ。これにより、一部のモンスターが外の世界に出てこられるようになっている」
と言った。するとユウナは、
「では、ほかのモンスターたちも?」
そうきくと、正彦がこう言った。
「大丈夫だ。今は、扉の表面にシールドを張ってある」
「シールド?」
すると、アカネが説明した。
「今みたいな事態に備えて、モンスターが外に出てこれんようにしてあるんよ」
「そうですか、でも誰がこんなことを……」
ユウナがそう言っていると、ヒロインがこう言いだした。
「もしかして、誰か教授が創った世界に住み着いてるんじゃないですか?」
三人はそれをきき、ヒロインの方を向いた。
「ウイルスも、中に入って作ったのかもしれませんし」
ヒロインが続けるとアカネが、
「そんなん、あり得へん。第一、人間が中に入ればランプが赤く点滅するようになってる」
と言い、機械の方を向いた。入り口の近くにランプがあり、今は黄緑色になっている。しかし、しばらく黙って考えていた正彦が急に声を上げた。
「まさか……」
「何です?」
ヒロインが不思議そうに尋ねると、正彦は話し始めた。
「もしかすると、この世界には未知の領域があるのかもしれん」
「未知の領域?」
「そうだ。予め、私の書いたセインツ・パラダイスを構築するプログラムを誰かが盗み、それを改変して未知の領域を作ったのかもしれない。その領域は、セインツ・パラダイスとはまったく別の方法で存在しているため、こちらでは管理できない。つまり、誰かがそこでウイルスを生成し、たとえこちらの世界にばら撒いたとしても、私たちではどうすることもできないんだ」
アカネはそれをきいて、
「でもそんなこと、教授に何か強い恨みでも持ってない限りしようと思わへんし……」
と呟いていると、ヒロインが正彦にこうきいた。
「教授は、何か心当たりとかないんですか?」
「心当たり?」
「はい。人に恨まれるようなことをしたとかは……」
「……、いや。今のところは、ない」
正彦は、頭を抱えた。それならば、いったい誰が何の目的でこのようなことをしたというのだろう。正彦は立ち上がり、
「とにかく、現実世界に支障が出る前にモンスターを呼び戻すんだ」
そう言った。
「でも、どうやってですか?」
ユウナが尋ねると、正彦が言った。
「逃げ出したモンスターを戻す場合は、戦闘機能を使って自身のモンスターを呼び出し、戦わせて敵の体力をゼロにする必要がある」
「自分のモンスターを、現実世界に召喚して戦わせる……。それって、すごく大変じゃないですか?」
ヒロインは言った。しかし、早く捕まえないと正彦の創った世界が世界中に知れ渡り、正彦も今までと同じように研究ができなくなってしまう。ユウナは顔を上げ、
「……わかりました」
と言った。その眼は、強気に満ち溢れていた。
「よろしく頼む」
正彦もそう言うと、軽く頭を下げた。ユウナは、自身のスマホを強く握りしめていた。
正彦の言った、『未知の領域』。そこに立っているのが、ダークネス・キャッスルという城であった。中は薄暗く、不気味に彩られた。サタールの後ろにフギンが下りてくると、
「いいのか、オーディン逃がしちゃったぞ?」
と、声をかける。しかし、サタールは何も言わなかった。フギンは溜息をつき、後ろに下がろうと背を向けた。すると、サタールがこう言った。
「フギンよ、お前の目的は何だ」
するとフギンがふり返り、
「それはこっちがききたいね」
と言うと、プテラドスに乗ってまた飛んでいってしまった。サタールはその後も、不気味な笑いを浮かべているのだった。
ゴールデンウィーク初日。ユウナは、アニ研のメンバーと遊園地に行った。行く途中、ユウナは隣を歩いている真宏に言った。
「あの、解散した後、ちょっと話せますか」
「何だよ。今言わねえのか?」
「今はちょっと……、大事な話なので」
真宏は、そう言うユウナを横目で見ていた。その様子を偶然、通りがかった恵に見られていたが、二人は気づかなかった。恵もまた、待ち合わせ場所に向かう途中だったのだ。
そして全員が揃った後、様々な乗り物を回ってその日を楽しく過ごした。夕方になり、遊園地にも飽きてきたころ、三宮がネットカフェに行こうと言いだした。仕方なく、皆はついていくことにした。途中、三宮がおし美にきいた。
「なぁなぁ、タヌキちゃんはネットカフェとか初めて?」
「はい、きいたことはあるんですけど。あ、あと先輩、タヌキはやめてください」
「え~、かわええやん、タヌキちゃん」
夏姫も、嬉しそうに言った。その様子を、後ろからユウナと真宏も見ていた。ふと真宏の方を見ると、目が合い、二人は微笑し合った。その様子を、さらに恵も見ていた。恵は一人だった。信号待ちの際、星見がユウナに言った。
「そういえば、ヒロインちゃんも連れてきたらよかったなぁ」
「はい、でも彼女は演劇部で忙しそうだったので」
「大変なんやろなぁ~」
三宮もわざとらしく言うと、皆は笑っていた。その時、事件は起きた。ユウナが、誰かにつき飛ばされ、横断歩道に倒れこんだ。ユウナが後ろをふり向くと、それは恵だった。その瞬間、クラクションが鳴り響き、トラックが真っ直ぐ突き進んでくる。避けようにも、もう遅かった。ユウナは目を瞑った。その瞬間、緑色の光がユウナを包みこみ、目を開けると、誰かが自分を守ってくれているように錯覚した。そんなはずがないと、ユウナが完全に目を開けた時、トラックを押さえている人物がはっきりと見えた。それはほかでもない、ユウナの憧れるモンスター・オーディンだったのだ。
第二十三回「
次回予告
ユウナ「私が見たものは、オーディンでした」
フギン「ここはアンタが創った世界。向こうからしてみたら、まだ見ぬ未知の領域だ」
ヒロイン「危なくないんですか?」
ユウナ「彼女にも何か
恵「私、怖かったんです」
アカネ「だいぶ前に、ダンジョンのこと話したやろ? 実際に中に入って、モンスター同士を戦わせるっていう」
ユウナ「もしかして……」
正彦「ここからは君一人で行くんだ」
真宏「お前と二人きりで、話がしたいってさ」
恵「私……、部長のことが好きなの」
ユウナ「えっ……?」
恵「二人を見ていて、思ったの。私なんかじゃ、勝てそうにないって。だからその代わり、あなたに夢を叶えてほしい」
ユウナ「先輩……」
真宏「俺と、ずっと一緒にいろ」
次回(第二十四回)
「
序盤のキャラで、最も印象深い登場人物は?
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中谷優奈
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鶴ケ崎麗菓
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月見里美香
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夢野あかり
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池谷大輝
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相場善秀