パズル&ドラゴンズ~もうひとつの旅~   作:葉之和 駆刃

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第23話 困惑の主役~トラブルサム・ヒロイン~(その参)

 ユウナは、急いで民宿まで帰った。あれから雅也と話しこみ、気がついたら夕方の六時になっていた。四月後半ともなればまだ日は沈んでいないが、薄暗かった。そしてユウナは歩きながら、雅也の言葉を思い出していた。

 

『それをどう乗りきるかが、大切なんだと思う。でも、その術を知らない人間は、一生報われない気がする』

 

 それは考えようによっては、ユウナにも当てはまることだった。ユウナは、今まで数えきれないほどの失敗を繰り返してきた。だがそれを乗り越えることで、次に何をすればよいか自然とわかるようになってきたのだ。

 

 ユウナが帰ると、庭で真宏がペロにエサやりをしている。ユウナが、

 

「先輩……?」

 

 そう話しかけると真宏も、

 

「なんだ?」

 

 と、返してきた。

 

「この間は、本当に、すみませんでした」

 

 ユウナはそう言い、頭を下げた。返事が返ってこないのでユウナがそっと顔を上げると、真宏がペロを抱きかかえていた。そして、こう言った。

 

「俺も、昨日あれから考えてさ。お前にはあんなこと言ったけど、あれはべつに本気で言ったわけじゃねえんだ」

「どういうことですか?」

「なんか、あれは単に仲間を守りたかったっていうか、つい熱くなっちまって……。あいつらが仲間だっていう前に、お前も俺らの仲間だからな。ごめん」

 

 これはきっと、真宏なりに自力で導きだした答えなのだろうかと、ユウナは思った。

 

「ありがとうございます。そう言っていただけて、すごく嬉しいです。私も、皆さんがそんなことするはずないと思ってました。それなのに、誤解を招く言い方をしてしまって、ずっと反省してたんです。すみません」

 

 ユウナがそう言うと、真宏が近づいてきた。そして急に、ユウナの頭をなでてきたのだ。

 

「あ、あの……」

 

 ユウナは、顔の周りが熱くなった。そして恐る恐る顔を上げると、そこには真宏の顔があった。真宏は優しく、

 

「お前の気持ち何もわかってなかったのは俺だ。お前がそんなこと言う必要はねえ」

 

 と言った。

 

「え……、でも……」

「だいたい、ちょっと考えすぎなんだよ。でも、そんなお前、嫌いじゃないけどな」

 

 真宏はそう言うと、また背を向けてペロがいる方に歩いていった。

 

「あの、どういう意味ですか?」

 

 ユウナがきくと、真宏はペロを抱えながらこう言った。

 

「何でもねえよ。それよりさぁ、今度みんなでどっか行かねえ? もうすぐ連休だろ」

 

 今まで気にしていなかったが、気がつけば四月も終わりに近づき、間もなくゴールデンウィークが始まろうとしていた。

 

「はい。じゃあ、明日にでも皆さんに提案しましょう。できるだけ、大勢で出かけた方が楽しいですし」

「そうだな。じゃあ、中入るか」

 

 真宏はペロを地面に座らせると、立ち上がってユウナの方を見た。

 

「はい」

 

 ユウナが答えると、真宏は中に入っていった。しかしユウナは、しばらくその場に立ち止まっていた。先程の真宏の行動が、やはり気になるのだ。

 

『お前には、ずっと笑顔でいてほしいんだ』

『今だけは、こうさせてくれ。これが終わったら、何してもいい』

 

 ユウナが今までに好きになったのは、相場と大輝だけだった。今になって、二人を裏切ることができようか。ユウナは気のせいだと自分に言いきかせ、中に入っていった。

 

 

 翌日、ユウナは再び正彦の研究室を訪ねたが、正彦は留守で代わりに美千子が中に入れてくれた。研究室の隣の部屋で、二人は話をした。

 

「まぁ、やっと仲直りできたの」

 

 ユウナの話をきき、美千子は安心したような柔らかな表情で言った。

 

「はい。もっと早くに話せばよかったんですが」

「それでも、向こうも反省してたんでしょう? だったら、その人に感謝しないとね。えっと、その……」

「雅也さんです。高校の同級生の、お兄さんで」

「まぁ、そうだったの。でも、その人も何かあったんじゃない?話きいてると、なんだかそんな気がして」

「私もその時、そう思ったんですけど、なんだかきける雰囲気じゃなくて……」

 

 ユウナがそう言っていると、激しい足音がきこえてくるので、二人はドアの方を見つめた。そしてそれは少しずつ近くなり、勢いよくその部屋のドアが開いた。案の定、それは正彦だった。

 

「あなた、どうしたの。そんなに慌てて」

 

 美千子が尋ねると、正彦は言った。

 

「あ、すまん。少し、大変なことがあってね」

「何ですか?」

 

 ユウナもきくと、正彦が答えた。

 

「モンスターが、私の世界から逃げ出してしまった」

「えっ……」

 

 ユウナはそれをきいて、絶句した。

 

「詳しいことはまだわからないが、この間、セインツ・パラダイスへの扉が破壊されただろう。その時に、モンスターが一体外の世界へ放たれたらしいんだ」

 

 ユウナも、扉が壊されたことは知っていた。それでもまさか、モンスターが逃げ出していたとは考えもしなかった。

 

「外の世界に出ると、どうなるんですか?」

 

 ユウナは、恐る恐るきいてみた。すると正彦は、こう言うのだった。

 

「ちょっとついてきてくれ」

 

 ユウナは正彦に連れられ、研究室へ行った。正彦は画面に表示されたマップを指さし、

 

「ここにある制御装置が、停止されたんだ。これにより、一部のモンスターが外の世界に出てこられるようになっている」

 

 と言った。するとユウナは、

 

「では、ほかのモンスターたちも?」

 

 そうきくと、正彦がこう言った。

 

「大丈夫だ。今は、扉の表面にシールドを張ってある」

「シールド?」

 

 すると、アカネが説明した。

 

「今みたいな事態に備えて、モンスターが外に出てこれんようにしてあるんよ」

「そうですか、でも誰がこんなことを……」

 

 ユウナがそう言っていると、ヒロインがこう言いだした。

 

「もしかして、誰か教授が創った世界に住み着いてるんじゃないですか?」

 

 三人はそれをきき、ヒロインの方を向いた。

 

「ウイルスも、中に入って作ったのかもしれませんし」

 

 ヒロインが続けるとアカネが、

 

「そんなん、あり得へん。第一、人間が中に入ればランプが赤く点滅するようになってる」

 

 と言い、機械の方を向いた。入り口の近くにランプがあり、今は黄緑色になっている。しかし、しばらく黙って考えていた正彦が急に声を上げた。

 

「まさか……」

「何です?」

 

 ヒロインが不思議そうに尋ねると、正彦は話し始めた。

 

「もしかすると、この世界には未知の領域があるのかもしれん」

「未知の領域?」

「そうだ。予め、私の書いたセインツ・パラダイスを構築するプログラムを誰かが盗み、それを改変して未知の領域を作ったのかもしれない。その領域は、セインツ・パラダイスとはまったく別の方法で存在しているため、こちらでは管理できない。つまり、誰かがそこでウイルスを生成し、たとえこちらの世界にばら撒いたとしても、私たちではどうすることもできないんだ」

 

 アカネはそれをきいて、

 

「でもそんなこと、教授に何か強い恨みでも持ってない限りしようと思わへんし……」

 

 と呟いていると、ヒロインが正彦にこうきいた。

 

「教授は、何か心当たりとかないんですか?」

「心当たり?」

「はい。人に恨まれるようなことをしたとかは……」

「……、いや。今のところは、ない」

 

 正彦は、頭を抱えた。それならば、いったい誰が何の目的でこのようなことをしたというのだろう。正彦は立ち上がり、

 

「とにかく、現実世界に支障が出る前にモンスターを呼び戻すんだ」

 

 そう言った。

 

「でも、どうやってですか?」

 

 ユウナが尋ねると、正彦が言った。

 

「逃げ出したモンスターを戻す場合は、戦闘機能を使って自身のモンスターを呼び出し、戦わせて敵の体力をゼロにする必要がある」

「自分のモンスターを、現実世界に召喚して戦わせる……。それって、すごく大変じゃないですか?」

 

 ヒロインは言った。しかし、早く捕まえないと正彦の創った世界が世界中に知れ渡り、正彦も今までと同じように研究ができなくなってしまう。ユウナは顔を上げ、

 

「……わかりました」

 

 と言った。その眼は、強気に満ち溢れていた。

 

「よろしく頼む」

 

 正彦もそう言うと、軽く頭を下げた。ユウナは、自身のスマホを強く握りしめていた。

 

 

 正彦の言った、『未知の領域』。そこに立っているのが、ダークネス・キャッスルという城であった。中は薄暗く、不気味に彩られた。サタールの後ろにフギンが下りてくると、

 

「いいのか、オーディン逃がしちゃったぞ?」

 

 と、声をかける。しかし、サタールは何も言わなかった。フギンは溜息をつき、後ろに下がろうと背を向けた。すると、サタールがこう言った。

 

「フギンよ、お前の目的は何だ」

 

 するとフギンがふり返り、

 

「それはこっちがききたいね」

 

 と言うと、プテラドスに乗ってまた飛んでいってしまった。サタールはその後も、不気味な笑いを浮かべているのだった。

 

 

 ゴールデンウィーク初日。ユウナは、アニ研のメンバーと遊園地に行った。行く途中、ユウナは隣を歩いている真宏に言った。

 

「あの、解散した後、ちょっと話せますか」

「何だよ。今言わねえのか?」

「今はちょっと……、大事な話なので」

 

 真宏は、そう言うユウナを横目で見ていた。その様子を偶然、通りがかった恵に見られていたが、二人は気づかなかった。恵もまた、待ち合わせ場所に向かう途中だったのだ。

 

 そして全員が揃った後、様々な乗り物を回ってその日を楽しく過ごした。夕方になり、遊園地にも飽きてきたころ、三宮がネットカフェに行こうと言いだした。仕方なく、皆はついていくことにした。途中、三宮がおし美にきいた。

 

「なぁなぁ、タヌキちゃんはネットカフェとか初めて?」

「はい、きいたことはあるんですけど。あ、あと先輩、タヌキはやめてください」

「え~、かわええやん、タヌキちゃん」

 

 夏姫も、嬉しそうに言った。その様子を、後ろからユウナと真宏も見ていた。ふと真宏の方を見ると、目が合い、二人は微笑し合った。その様子を、さらに恵も見ていた。恵は一人だった。信号待ちの際、星見がユウナに言った。

 

「そういえば、ヒロインちゃんも連れてきたらよかったなぁ」

「はい、でも彼女は演劇部で忙しそうだったので」

「大変なんやろなぁ~」

 

 三宮もわざとらしく言うと、皆は笑っていた。その時、事件は起きた。ユウナが、誰かにつき飛ばされ、横断歩道に倒れこんだ。ユウナが後ろをふり向くと、それは恵だった。その瞬間、クラクションが鳴り響き、トラックが真っ直ぐ突き進んでくる。避けようにも、もう遅かった。ユウナは目を瞑った。その瞬間、緑色の光がユウナを包みこみ、目を開けると、誰かが自分を守ってくれているように錯覚した。そんなはずがないと、ユウナが完全に目を開けた時、トラックを押さえている人物がはっきりと見えた。それはほかでもない、ユウナの憧れるモンスター・オーディンだったのだ。

 

 

第二十三回「困惑の主役(トラブルサム・ヒロイン)」終

 

 

 

次回予告

ユウナ「私が見たものは、オーディンでした」

フギン「ここはアンタが創った世界。向こうからしてみたら、まだ見ぬ未知の領域だ」

ヒロイン「危なくないんですか?」

ユウナ「彼女にも何か理由(わけ)があると思うんです」

恵「私、怖かったんです」

アカネ「だいぶ前に、ダンジョンのこと話したやろ? 実際に中に入って、モンスター同士を戦わせるっていう」

ユウナ「もしかして……」

正彦「ここからは君一人で行くんだ」

真宏「お前と二人きりで、話がしたいってさ」

恵「私……、部長のことが好きなの」

ユウナ「えっ……?」

恵「二人を見ていて、思ったの。私なんかじゃ、勝てそうにないって。だからその代わり、あなたに夢を叶えてほしい」

ユウナ「先輩……」

真宏「俺と、ずっと一緒にいろ」

 

 

 

次回(第二十四回)

 

神聖なる魔術師(ディヴァイン・オーディン)

序盤のキャラで、最も印象深い登場人物は?

  • 中谷優奈
  • 鶴ケ崎麗菓
  • 月見里美香
  • 夢野あかり
  • 池谷大輝
  • 相場善秀
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