ユウナは、侑李からメモを受け取ると部屋を出た。すると廊下で待っていたリンが、
「で、どうだったの?」
ときくと、ユウナは答えた。
「これから、教室にいないか見にいってみる。ひょっとしたら、大学には来てるかもしれないし」
「でも……」
リカは珍しく、不満げな表情を見せた。それを見てユウナは、
「二人の許せない気持ちはわかるよ。でも、人を恨むだけだと、前に進めない気がする。お互いを受け入れ合う方が、今は大切だと思うの。いろいろと心配してくれたけど、嬉しかったよ。今度また、京都のいろんなとこ見に行けたらいいね」
と言い、歩いていった。二人は、もう呼び止めなかった。ユウナの気持ちを曲げることは、友として許されないと悟ったのだろう。
変わって、「セインツ・パラダイス」の未知の領域に聳え立つダークネス・キャッスルでは、誰かがコンピュータを操作している。それはそこの王、サタールだ。その様子を後ろの方から、息子のフギンも見ていた。
「まさか、オーディンが人間の前に姿を現すとは……」
サタールは呟いた。
「そういうAIだったんじゃねぇ~の?」
フギンが言うと、
「そんなはずはない。奴には、人間の心から人間に対する憎悪を集積し、それをプログラム化させて体内に組みこんだ。いわば、憎しみの塊だ」
と、サタールは言った。
「アンタの作戦も、当てになんね~な。ネット上に散らばる悪口、雑言、そんな書き込みから憎しみの特性だけを持つもんだけ取り出す、いいアイディアだと思ったんだけどな。所詮、人間なんてコロコロと感情が変わる生き物だし、そもそも良心がない人間なんてただの廃人だろ。復讐も一からやり直しだな」
「……黙れ。しかし、今我々の存在を知られるのはまずいな。ここはひとまず、外の世界に出てから考えるか……」
「その心配はいらね~ぜ」
「なんだと?」
フギンの言葉をきいて、サタールはふり返った。
「ここはアンタが創った世界。向こうからしてみたら、まだ見ぬ未知の領域だ。この世界とあっちの世界、一旦切り離してしまえば、向こうからこっちに来ることはできない。そうだろ?」
フギンが言うので、サタールは不気味に笑った。
「たしかに。これでまた、ゆっくりと考えられる」
そう言いながら、サタールは手を動かした。すると突然、城が揺れ始めた。それとほぼ同時に、雷が落ち、突風が吹き荒れた。そして地面が割れ、城のあるエリアとセインツ・パラダイスへと続くエリアが、ふたつに切り離されてしまった。サタールは、その後も城からその様子を眺め、また笑っていたのだった。
そのことを一切知らないユウナは、教室の中を覗き、恵がいないか確認した。すると、視線の先に恵がいた。ユウナは安心して、中に入っていった。恵の近くに来ると、
「あの、長谷川さん?」
と、優しく声をかけた。すると、恵がふり返った。
「ちょっと、話があるんだけど……」
ユウナが言うと恵が急に立ち上がり、何も言わずに走って教室から出ていってしまった。やはりまだ、ユウナのことを警戒しているようだ。ユウナは、なんとか誤解を解く方法を考えた。しかし、恵の気持ちも理解できた。あのことでまた責められるのではないか、そう怯えているのだろう。ユウナは、敢えて恵を追うことはしなかった。
廊下を歩きながら、恵とどうにか話し合える方法はないかと模索していると、近くからこんな声がきこえてきた。
「おい、犯罪者」
ユウナがふり向くと、恵が数人の男子学生に囲まれていた。
「きいたで、同じサークルのやつをつき飛ばして、殺そうとしたらしいやん」
「うわ、鬼やろ」
「よう授業出てこれたな」
そして、一人の男子がさらに続けた。
「俺らは大学の評価下げられたくないねんやんか。お前みたいなクズが一人いるだけで、世間から疎まれるやろ。だから、さっさと辞めてほしいわけ」
恵はしゃがみこんだ。男子三人に見下ろされ、何も反論できない。ユウナも物陰から、その様子をただ見ているしかなかった。すると一人が恵からカバンを取り上げた。ついている兎のキーホルダーを乱暴に外すと、床に落として土足で踏んだ。恵の目からは、もうやめてほしいと言わんばかりの涙があふれた。しかし男子たちは、続いてカバンの中身を放り出した。そして、空になったカバンを恵の方に投げるとこう言った。
「ちゃんと片付けてから帰れよ、罪人」
そして三人は、向こうに立ち去ってしまった。恵は、ゆっくりと立ち上がると、それを拾い始めた。ユウナも走っていき、それを手伝おうとした。それを見た恵は驚いたように、
「中谷さん……?」
と言うと、ユウナは手を止めて言った。
「ごめん……、何もしてあげられなくて……」
すると恵は、
「私の方が、悪いから」
と言って、ユウナが拾った教科書を取り上げるように、自分のカバンに詰めるとそれを持って走っていってしまった。ユウナは立ち上がり、それを見つめた。完全に避けられているのだと認めざるを得なかった。彼女と話すには、まだまだ時間がかかるだろう。遠くで、鳥たちがそう囁いているようだった。
ユウナはその帰り、美千子に相談に行くことにした。美千子に訳を話すと、
「いろいろと大変だったみたいね。その子とは、あれ以来、何も話してないの?」
と、美千子は言った。
「はい。私から話しかけても、避けられてるみたいで……」
「大丈夫よ。そのうちまた、向こうもわかってくれるわ」
美千子がそう言うので、ユウナは少し勇気をもらったような気になった。
「ありがとうございます。やっぱり、美千子さんはすごいですね。どんなに落ちこんでても、美千子さんに励ましてもらうと、なぜかそんな気がしてくるんです」
「まぁ、お役に立てて私も嬉しいわ」
美千子も笑顔で言った。その時、また扉が開いた。部屋に正彦が入ってくるとユウナに、
「ユウナ君、ちょっと来てくれるかい」
と言うのだった。
「はい」
ユウナは答えると、正彦は続けた。
「できたんだ」
何ができたのか、そうユウナは不思議そうに正彦を見た。
研究室に入ると、アカネとヒロインもいた。正彦が椅子に座ると、ユウナはきいた。
「あの、何ができたんですか?」
すると、正彦はこう言った。
「君は以前、私の研究で、何かほかにできることはないかと言ったそうだね」
「はい……」
今度はアカネがユウナのところへ来ると、
「だいぶ前に、ダンジョンのこと話したやろ? 実際に中に入って、モンスター同士を戦わせるっていう」
と言うので、ユウナはまさかと思って正彦を見た。
「もしかして、それが……」
すると、アカネは頷いた。そして、ユウナは顔を輝かせる。
「ほ、本当にできるんですか?」
「あぁ、作るのに苦労したよ」
正彦も答えた。すると助手の
「でも……、危なくないんですか?もしも中で怪我とかしたら……」
と、心配そうに言った。しかし正彦は、こう言うのだ。
「いや、敵のモンスターにはプレイヤーを攻撃しないというAIを組みこんだ。だから、何も心配することはない。外の世界でも戦わせることはできるが、基本は中で楽しむように作ってあるんだ」
正彦は言いながら、書類を片付けているとユウナが言った。
「あの、見せてもらえませんか」
その後、ユウナは正彦から専用のヘルメットを渡された。
「ダンジョンにいる間は、万が一に備えてこれを身につけておいてくれ。これから放射される光線は、ゲーム内のあらゆるものを初期化することができる」
「岩石とかが飛んできても、消去できるからな」
正彦の言葉に、アカネはそう付け加えた。ユウナは、少しワクワクしていた。現実から逃げているのではないかとも思ったが、ゲームから何かヒントを得られるかもしれない。ユウナは、恵と話せるきっかけを少しでも作っておきたかったのだ。
「セインツ・パラダイス」のダンジョンの入り口に行くと、中は洞窟になっていた。
「さぁ、ここからは君一人で行くんだ」
「でも……」
「大丈夫。中は絶対安全だ。私が保証する」
正彦は言った。そしてユウナは、勇気をもって中に踏みこんだ。正確には、これが初めてユウナが見た、ゲーム世界だったのかもしれない。
しばらく歩くと、本当にモンスターが出現した。現れたのは、オーガとブルーゴブリン。ここからは、様々なモンスターが登場することになるが、わからない方は検索を推奨する。このゲームの中でも、操作はスマートフォンでするのだ。ユウナは自分のスマホを操作し、自分のモンスターを呼び出した。ユウナの真上には、パズルとゲージが表示される。ユウナは、画面のパズルを動かし、上にあるパズルもそれに合わせて動く。そして画面から指を離すと、パズルが消え始め、ゲージの上の数字が増えていく。それが限界までいった時、モンスターが敵に攻撃をする。敵モンスターのゲージがゼロになると消え、次の敵が現れる。まるで、あのオンラインゲームをそのまま実物化したものだった。ユウナはそれに対し、感動を覚えた。まさか、自分がパズドラの世界に入れるなど思いもしなかった。
それから同じように敵を倒していき、ユウナはあっさりとそのダンジョンを攻略してしまった。ユウナが出てくると、外では正彦が待っていた。
「どうだったかね」
「素敵な体験になりました。また、遊びたいです」
嬉しそうに言うユウナを見て、正彦も嬉しそうに笑った。
「そうか。ならば、いつでも来てくれ」
その横でアカネも、
「まさか、こんなに喜んでもらえるとはな」
と言っていた。ユウナは、改めて正彦の偉大さを実感するのだった。これほどまでに、尊敬できる人間といまだかつて出会っただろうか。
ユウナは、正彦にまた礼を言うと帰っていった。ゲームは基本、現実逃避のためのものであろう。しかしそれは時に夢を与え、生きる喜びを与えてくれる。ユウナは正彦に出会い、そう信じるようになったのだ。
序盤のキャラで、最も印象深い登場人物は?
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中谷優奈
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鶴ケ崎麗菓
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月見里美香
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夢野あかり
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池谷大輝
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相場善秀