ユウナは目を開けた。夏の陽ざしが、部屋に立ちこめていた。ユウナは布団から出ず、横になったままあの時のことを思い出した。
『俺は好きだぞ、お前のこと』
『はい……、えっ?』
真宏に対する自分の思いは、恵にきかれる前から気づいていた。それは、恵のためでも自分のためでもなく、真宏のためだったのかもしれないと、後から思うようになった。これからは、真宏をただの先輩としてではなく、自分にとって大切な人として見ていかなければならない。その分、今まで話せなかったようなことも、話せるようになろう。ユウナは、そう誓った。
その日も、普段通り授業を受け、それが終わると正彦の研究室へ行った。そこで正彦は、ユウナにあるものを見せてくれた。
「進化……、ですか?」
「あぁ、そうだ。ゲームの中だと、ほかのモンスターを合成しなければならないが、この機械では、ここに置くだけで進化できる。実験として、君の所持しているモンスターを進化させたいんだが。ちょっとここに、置いてみてくれないか」
ユウナは言われるまま、ホノりんをその巨大な機械の上に乗せた。
「これで、いいですか?」
すると、正彦は機械の横についているレバーを押した。そうすると、その機械全体が白い光に包まれた。ユウナはその様子を瞬きも忘れ、じっと見守った。やがて、その光は治まった。見ると、ホノりんがデカホノりんへと本当に進化していたのだ。ユウナはそれを抱き上げると、
「本当に……、進化したんですね」
と、感激しながら呟いた。正彦が、
「進化させたい子がいれば、また言ってくれ」
そう言うのをききながら、ユウナは「レッド」と名付けているそのモンスターを愛おしそうに眺めていた。
第二十五回
2014年も7月に差しかかり、夏が本格的に始まろうとしていた。ユウナは、京都の下町をリカと一緒に歩いていた。
「久しぶりだね、こうして出かけるのって」
リカは、笑いながらユウナに話しかける。
「ごめんね、買い出しにつき合わせちゃって」
「いいよ。それよりユウナちゃん、夏休みどうするの?」
リカが不意にきいてくるので、
「う~ん。今年も、帰らないでおこうかなって思って」
と、ユウナは答えた。
「え? どうして? お金ないなら貸すよ?」
「いいよ。それに、教授の手伝いもあるし」
「真面目なんだね。いいなぁ~、私も何か始めたいのにバイトで精一杯」
リカは、空を見上げながら呟いた。
「リカは、卒業したらやりたいことあるの?」
「う~ん、まだ決めてないなぁ。まだ二回生だし、これからでもいっかとか思ってると、すぐに来ちゃうんだよね……」
「私も、正直全然決まってない……」
「ユウナちゃん、ぶっちゃけるね~」
二人はそんな会話をしていると、ユウナは突然足を止めた。
「どうしたの?」
リカが尋ねると、ユウナは一方向だけを見ている。すると向こうに、背の高い青年の姿があった。よく見ると、雅也だった。歩道の真ん中に立ち、遠くのビルを見つめている。
「あの……」
ユウナが声をかけると、雅也は気づいた。
「あぁ、なんだ君たちか」
「何をされてるんですか?」
「いや、ちょっとぼーっとしちゃってね……」
「でも、ここにいたら通行の人たちが……」
ユウナがそう言うと、雅也も笑いながら言った。
「ハハハ、そうだよね。もしよかったら、一緒に昼食でもどうかな。また俺が奢るよ」
「でも……」
ユウナが悪そうにすると、リカがこう言った。
「いいじゃん、たまにはさ!」
「私、たまじゃないんだけど……」
「でも、せっかく言ってくれてるんだよ? また違うことでお返しすればいいじゃない」
そしてユウナは雅也を見て、
「じゃあ……」
と言うと、雅也も微笑みながら二人を見つめていた。
その後、三人は近くのファミレスに入った。雅也が、
「好きなの頼んでいいよ」
と言うので、二人は好きなものを注文した。そして食後、ユウナは雅也に尋ねた。
「ところで、今日はどうしてあそこに?」
「あぁ、ほんの散歩だよ。俺のマンション、この近くにあるんだ」
「ほんとですか?」
「行ってみたいです!」
リカも、興味津々に言った。
「いつでも来ていいよ。大したところじゃないけど」
その時、ユウナはふと思い出した。以前、雅也と会った時の話だ。
「それより、あの話はどうなったんですか?」
「あの話?」
「はい。外国に取材頼まれたって、以前言ってましたよね?」
「あぁ、あの話ね。結局、断ったんだよ」
「それは、どうしてですか?」
ユウナがなんとなくきくと、雅也から笑みが消えた。
「あ、ごめんなさい。少し、気になったものですから……」
「いいよ。俺には相応しくないと思った、ただそれだけだから」
「相応しくない?」
「あぁ。俺にはもう、できない……」
そして雅也は、悲しそうな表情になった。それを見ていたリカが小声で、
「ねぇ、この人何があったんだろう?」
とユウナにきくと、
「さぁ……」
そうユウナも答えた。
「あのぉ……」
黙っている雅也に、ユウナは恐る恐る声をかける。
「あ、何?」
雅也はそれに気づくと、きき返した。
「あ、あの。前に何か、あったんですか?」
「いや、何でもないよ。ごめんね、ちょっと気を悪くしちゃったかな」
ユウナとリカは、それをきいて顔を見合わせた。雅也の様子から、過去に何かあったのかもしれない、二人はそう考えた。
「あの、烏滸がましいとは思いますが、何かほかに理由があるんですか?」
「あ、いや……。実はね、こっち帰ってくる前、向こうでジャーナリストとして働いてたんだけど、失敗しちゃって。仲間にも、迷惑をかけたんだ。だから、もう向こうには戻れないっていうか……。戻っちゃいけないって思うんだよね」
「それは、どうしてですか?」
ユウナがきくと、雅也が答えた。
「俺が帰ったら、また同じようなことが起こる気がして。そうなったら、今度こそ俺は、居場所を失うと思うから……」
雅也は言い終えると、俯いた。雅也がこのように弱気になるのを、ユウナは初めて見た。詳しいことを知りたかったが、きいてはいけない気がした。ユウナが黙っていると、隣でテーブルを叩く音がきこえた。ユウナは驚いて横を見ると、リカがテーブルに両手をつきながら、半立ちになっている。そして、リカはこう言った。
「なぜ、そう思うんですか?」
「なぜって……」
雅也が言うと、リカはこう続けた。
「さっきからきいてたら、逃げてるだけにしかきこえません。何があったのかまでは知りませんけど、たった一つの失敗で億劫になってるなんて、情けないと思います! 失敗したらその分だけ、同じことを繰り返さないよう、強くなろうとは思わないんですか!? 逃げたら、少しは楽になれるかもしれません。でもずっと逃げ続けてたら、一生を損することになるかもしれませんよ! もっと、自分を見つめ直した方がいいと思います」
リカの演説に、店内からは驚きの目が向けられているが、この時、一番驚いていたのはユウナだった。リカとは高校でも一緒だったが、人前で大声を上げて発言するのは見たことがない。雅也も呆気にとられ、ただリカを見つめていた。ユウナはリカの言葉をきいて、やはり雅也の過去について知りたいという感情が強くなった。
本人の口からきけないのであれば、身内を頼ればいい。ユウナは、京大の前でレイカが出てくるのを待った。雅也からは、よく午後七時ごろまで図書館で勉強しているときいていた。ちょうど七時を回ったころ、レイカが正門から出てくるのが見えた。それを見て、ユウナはレイカの前に姿を見せた。レイカは少し驚いた様子で、
「どうしてここにいるの?」
と、尋ねてきた。
「ちょっと話したいことがあって。時間、空いてるかな」
それをきき、レイカもしばらく頷かずに、ユウナを見つめていた。
そして近くの喫茶店の一角で、二人は向き合った。
「鶴ケ崎さんは、よくこのくらいの時間まで大学にいるの?」
ユウナは自然な形で、話を始めた。しかしレイカは、
「早くしてくれない? 疲れてるんだけど」
と、不機嫌そうに言った。
「あ……、ごめん。あの、お兄さんのことで、知りたいことがあるの」
「兄さんがどうしたのよ」
「今日、ちょっと話す機会があったんだけど、少し気になったことがあって。鶴ケ崎さんのお兄さんって、日本に来る前はどこで仕事してたの?」
それをきいた瞬間、レイカの表情が険しくなった。
「なんであなたにそんなこと話さなきゃならないの?」
「ごめん、ちょっと気になったの。お兄さん、かなり落ちこんでるようだったから。もしかしたら、何かあったのかなって思って」
するとレイカは横を向き、
「私の口からは、とても話せない」
とだけ言った。
「そんなに、辛いことだったの?」
「えぇ、そうよ。私も最近知った」
「えっ……?」
「母さんが、教えてくれた。初めは過去のことでグダグダ言ってるだけだって思ってたけど、それを知ってからは私も、兄さんとまともに話せないの」
「そうなんだ……」
ユウナはそれをきき、心苦しい気持ちになった。するとレイカは立ち上がり、
「もういいでしょ。私から話すことはない、もう忘れて」
そう言うと、店を出ていってしまった。しかしユウナは、ますます気になるのだった。雅也の過去を知ってどうにかなるわけでもないが、できれば、それを知って心の支えになりたかったのだ。
次の日も、ユウナは雅也のことを考えていた。すると隣で授業を受けていたリンが、
「どうしたの?」
と、話しかけてきた。
「あ、ううん。べつに……」
ユウナが答えると、リンは言った。
「あ、そうそう。今日、レポートの資料集めに図書館行きたいんだけどさ、ついてきてくれない? ユウナは用事あるの?」
「あ、またいつも通り教授のとこに行こうかなって」
「え、やめといた方がいいよ?」
「どうして?」
ユウナは不思議に思い、きき返すとリンがこう言うのだ。
「アカネさんによれば、ここ毎日、授業終わりは部屋に閉じこもりきりだってさ。だから、行っても通してもらえない時もあるって言ってた」
リンの話が本当ならば、ユウナは、きっとまた正彦は例の事件について調べているのだと思った。なぜ、あそこにオーディンが出現したのか解明できない限り、正彦は納得がいかないのだろう。ユウナはその日の授業終わり、リンと別れて正彦の研究室に行った。
ユウナが部屋をノックすると、ドアが開いた。顔を出したのは、美千子であった。
「あの、教授は?」
「今は、誰も話しかけないでほしいって」
「そうですか……」
「でも、入っても大丈夫よ」
美千子は小声でそう言うと、ユウナを中に入れてくれた。部屋に入ると、そこにはアカネとヒロインの姿もあった。二人は何も言わず、パソコンの前で作業をしている正彦を、ただ見守っていた。ユウナもまた、それを近くに行って見つめた。数分後、
「できたぞ!」
と言いながら、突然正彦が立ち上がった。
「何ができたんですか?」
ヒロインが、顔を輝かせながら質問した。すると、正彦がユウナの方を向いた。
「ユウナ君。少し、頼まれてくれないか」
「えっ?」
ユウナは急に言われ、驚いていた。
その後、正彦に「セインツ・パラダイス」の中にあるダンジョンの前に連れてこられた。
「あの、どういうことですか」
ユウナは、よくわからなかった。すると、
「これだ」
と正彦は、ユウナにある紙を渡した。それには、モンスターの名前と画像が並んでいた。
「ここに記されているモンスター以外が現れたら、私に知らせてほしいんだ。なに、簡単な調査だ。ダンジョンを攻略しながら、ほかのモンスターが出現しないかを調べるだけだ。君にしか頼めない、頼む」
正彦が言うのでユウナは、
「はい」
と答え、引き受けることにした。やはり、今までの出来事からも、第三者がこの世界を乗っ取ろうとしていることは、ユウナも薄々勘付いていた。もしそうならば、この世界を守りたい、ユウナはそう思うのだった。そして、ユウナはダンジョンの洞窟の中へと入っていった。
序盤のキャラで、最も印象深い登場人物は?
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中谷優奈
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鶴ケ崎麗菓
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月見里美香
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夢野あかり
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池谷大輝
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相場善秀