パズル&ドラゴンズ~もうひとつの旅~   作:葉之和 駆刃

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第25話 選ばれし者~ザ・チョーズン~(その弐)

 中は薄暗い。少し歩くと、壁に小さなくぼみが見える。ユウナはその穴を覗くと、マグマが流れているのが見えた。本当によくできたゲームだ。そう感心していても、今は仕方がない。正彦に言われた通り、モンスターに目を配り、戦わせてその状況を正彦に報告しなければならない。今のところは、特に変わった様子は見られない。しばらく足を進めると、遠くから何かの鳴き声がきこえた。きっと、モンスター同士が戦っているのだろうと推測し、駆け足でそこへ向かう。しばらくすると鳴き声が止み、ユウナは気にせずに歩き続けた。そして曲がり角を曲がろうとした、その時だった。不意に、誰かとぶつかったような感覚になり、ユウナは倒れこんだ。そして目を開けると、前の方からきき覚えのある声がした。

 

「ユウナ……?」

 

 ユウナはそっと顔を上げた。そこに立っていたのはなんと、ユウナの高校時代の同級生・ミカで、「アワりん」を抱きかかえている。ユウナは驚きを隠せず、

 

「ミカ?」

 

 と、声をあげた。

 

 二人はその後、ダンジョン内を歩きながら話した。ミカの話によると、ミカもまた正彦に頼まれてここの調査をしているのだという。

 

「じゃあ、ミカも教授に頼まれて?」

「そうなの。最初はわけがわかんなかったけど、来てみると意外に楽しくてさ。しかも、まさかそこでユウナに会えるなんてね~」

「私も、びっくりだよ」

 

 ユウナ自身も、ここでミカと再会できるなんて思いもしなかった。しかし、なぜ正彦はミカにも調査を依頼したのだろうか。ユウナはともかく、高校時代、正彦とミカは全くと言っていいほど面識がなかったはずだ。それならば、なぜ正彦はミカのことを知っていたのだろう。疑問に思ったユウナは、ミカにきこうとした。

 

「ねぇ、ミカ……」

 

 言いかけるとミカが、

 

「あ~!」

 

 そう言いながら、目の前を指差した。それをきいて前を向くと、眩いばかりの光が差しこんでくる。気づかないうちに、出口まで来ていたようだ。

 外に出ると、ミカは背伸びをしながらこう言った。

 

「やっぱり、外の方が断然気持ちいいよね! ここがゲームの中だなんて、言われなかったら誰も思わないもんね~」

「そうだね……」

 

 ユウナも、ミカの隣に来て言った。ミカはその場に座りこみ、横になった。真上には、現実世界と何の差異もない青空が広がっている。

 

「ここの空も、すごい綺麗だよね。なんであんな澄んだ色してんだろ……」

 

 ミカがそう呟くと、ユウナも空を見上げる。ミカの言う通り、知らなければ現実の空と見紛うばかりの色をしている。するとミカは起き上がって、

 

「私ね、入学したばっかりの時、あの人に声かけられて、この世界に来たの。でね、あの人この世界を私に見せたあと、君たちは選ばれたんだぞって意味不明なこと言ったのね」

 

 と言った。

 

「選ばれた……?」

「そう。で、きいたらユウナが進学した大学の先生だって。それきいて、ちょ~ウケたんだけど」

 

 ミカは笑いながらそう言うと、また立ち上がった。しかしユウナは、「選ばれた」という言葉がどうも気になった。正彦は自分たちに、何か隠しているのではないかという気がし、不安に思った。

 

 そして二人は、スマホの扉を潜って現実の世界に戻った。そこは、街中の交差点だった。ミカがそれを見て、

 

「あ~あ、現実世界はうるさいなぁ」

 

 と呟いた。あの世界では、モンスターしか住んでいない、いわば、モンスターたちの楽園なのだ。現実の世界ではきっと、モンスターたちは生きていけないとユウナは思った。その時だ。突然、後ろから何かが二人の間を去っていった。ユウナは、急いでふり返った。後ろには、二人が潜ってきた扉がある。そこから、モンスターが外に飛び出してきたのだ。ユウナはスマホを拾い上げ、その扉を消した。そしてミカに、

 

「急いで、みんなを避難させて!」

 

 と言うとミカは戸惑いつつも、

 

「わ、わかった!」

 

 そう言い、皆を誘導し始めた。ユウナは辺りを見回すと、ビルの上に大きな影があった。モンスターだ。ユウナは、スマホをそれに向けてかざした。そこには、「プテラドス」と表示されている。モンスターにスマホを向けると、自動的にそのモンスターの名前や情報を取りこんでくれるのだ。すると、プテラドスは宙に飛んだ。ユウナは、

 

「初めてだけど……」

 

 と呟きながら、アプリの中にある、「戦闘」というコマンドをタップした。そうすると、ユウナの前にモンスターが数体現れ、上にゲージとパズルが表示される。

 

『逃げ出したモンスターを戻す場合は、戦闘機能を使って自身のモンスターを呼び出し、戦わせて敵の体力をゼロにする必要がある』

『自分のモンスターを、現実世界に召喚して戦わせる……』

 

 正彦とヒロインの言葉を思い出し、ユウナは必死にパズルを動かし始めた。パズルが消えると同時に、ユウナによって召喚されたモンスターたちが、敵に攻撃を仕掛ける。ミカは、必死に逃げ惑う人たちを安全な場所へと誘導した。攻撃を受けたプテラドスも、反撃して味方のモンスターにダメージを与える。それでも、今はこれしかないとユウナはひたすら指を動かし続けた。味方の攻撃がプテラドスに命中し、プテラドスは悲鳴を上げた。そしてそれは光に包まれ、ユウナのスマホに戻っていった。ユウナのモンスターたちも、役目を終えると同じく、スマホに吸いこまれるように中へ戻っていく。ユウナは安心し、スマホをポケットに仕舞った。そして、ミカを探しにいった。もう辺りに、人はいない。するとミカが走って戻ってきて、

 

「どうだった?」

 

 ときくので、ユウナは答えた。

 

「こっちは大丈夫」

 

 ミカもそれをきいて安心したのか、どっと疲れたような表情になった。

 

「よかった~」

 

 ミカはそう言うとユウナが、

 

「ミカは、これからどうするの?」

 

 ときいた。

 

「どうって?」

「だって、ここ京都だし。よかったら、教授の研究室まで来てみない?」

 

 ユウナは提案するが、ミカは首を横に振った。

 

「ううん、だってこれでいつどこにいても帰れるから」

 

 そう言うとミカは、自分のスマホを見せた。これさえあれば、あの世界が「どこでもドア」のような役割を果たし、どこにいても帰れるのだ。

 

「じゃあね」

 

 ミカは言うと、その場にスマホを置いた。するとまた虹色の扉が現れ、ミカはそれを潜るとやがてスマホも消えた。ユウナも安心し、正彦の研究室に戻ることにした。その時、ハッとして足を止めた。今回の騒ぎで、正彦が創った世界が公に出てしまうのではないか。きっと今夜は、このニュースでどこも持ちきりになるだろう。そうなれば、正彦は自由に研究を続けられなくなってしまう。大変なことになってしまった。そう思ったユウナは、急ぎ足で研究室に戻った。

 

「本当に……、申し訳ありません」

「まだ決まったわけじゃないよ」

 

 正彦は、ユウナを見て言った。

 

「でも、あれで騒ぎにならない方が不自然です」

 

 ユウナが言うのをきき、アカネもこう言うのだった。

 

「せやな。でも制御装置は今のところ無事やし、何かほかにエラーが発生したとしか……」

 

 すると、ユウナはハッと息を呑んだ。

 

「まさか……」

 

 すると、正彦が急に立ち上がって大きなディスプレイの方を向いた。そこには、セインツ・パラダイスの様々な個所が映し出されている。

 

「私以外の誰かが作ったものなら、制御はかからない」

 

 正彦もまた、そう言って呟いた。正彦も、ユウナと同じことを考えていたようだ。それを見ていたヒロインが、

 

「あの、どういうことですか?」

 

 ときくと、正彦はふり返って説明した。

 

「私の世界とは別に、隔離された言わば未知の領域に、誰かが潜んでいるのは間違いない。そこで私のデータをもとに、新たなモンスターを生成しているのだろう。そしてそれが、外に飛び出してきたのも、誰かが故意的にやったことだ」

「でも、いったい誰が……」

「それはわからない」

 

 ユウナはそれをきいて、正彦のことが心配になった。もしも、正彦の身体に何かあればと思うと、居ても立ってもいられなくなる。

 

「あの、教授。私にできることなら、何でもやります。だから、研究は続けてください。教授が創り上げてきた世界は、きっと世の中のためになる日が来ます。私は、ずっとそう信じてきましたから」

 

 ユウナの言葉をきいたアカネも、

 

「うちらも、一応教授の助手やからな」

 

 と言った。するとヒロインも、

 

「私も、教授のためなら何でも頑張ります!」

 

 そう言い、三人は正彦を見つめた。正彦は、

 

「ありがとう。これからも、よろしく頼むよ」

 

 と言って、三人に頭を下げた。ユウナはその日、改めて決心した。このまま終わらせるわけにはいかない。いつか、正彦の夢が叶ってほしい。それはいつしか、ユウナの願いに変わっていたのだった。

 

 ユウナは研究室を後にし、帰路についた。すると、

 

「ユウナちゃん!」

 

 という、男性の声がした。ユウナは前を見ると、そこに雅也が立っていた。

 

「雅也さん……? どうしてここに……」

 

 雅也はユウナのすぐ前に来ると、

 

「レイカからきいたよ。俺のことで、いろいろきいてきたって」

 

 と、言うのだった。

 

「あ、すみません。私、どうしても抑えきれなくてつい……。もう何も言いませんので、安心してください」

 

 ユウナは、雅也を見上げるとそう言った。

 

「いや、そのことなんだけど……、俺も考えてさ。話そうと思うんだ」

「えっ?」

 

 ユウナは思わず声をあげた。

 

「いやさ、君の友達に言われたこと思い出してさ。逃げ続けてたら、一生を損することになるって……。それきいて俺、自分が恥ずかしくなってきちゃったんだよね。だから、君には伝えておきたいんだ。俺がなぜ、日本に帰って来たのか」

 

 雅也が言うので、ユウナも話をきくことにした。

 

 二人はその後、また駅近くのレストランに足を運んだ。雅也は紅茶を注文し、ユウナはカフェオレを頼んだ。雅也はそれをスプーンでかき混ぜながら、

 

「俺の親友さ、紅茶オタクで、イギリスとか行くと必ず紅茶巡りしようって言い出してたんだよね」

 

 と、笑いながら言った。

 

「仲が、よかったんですね」

「あぁ、それはもちろん。大学で知り合って、卒業後、そいつについていってジャーナリストになったんだ。ジャーナリストといっても、小さなチームだったけど。そいつといつも、休みの日とかは紅茶飲んでたなぁ」

 

 雅也が懐かしそうに話すのでユウナも、

 

「その方とは、今でも連絡を取り合ったりされてるんですか?」

 

 と、尋ねた。しかし雅也から出たのは、予想外の言葉だった。

 

「……死んだよ」

「えっ……」

 

 ユウナは一瞬、固まってしまった。そして、雅也は続けた。

 

「俺のせいなんだ」

「どういうことですか?」

「さっき、チームを組んでたって話したよね。俺は親友の推挙で、その指令塔を任されたんだ。俺が指令を出して、それを受けた者が行動する。ちょうど紛争をやってる国だったから、慎重にやらないといけなかったんだ。なのに俺は、間違った指令を送ってしまった。あるところに待機するよう、そいつに言ったんだ。そいつは俺を信頼してたから、そこに行った。でも、そこで銃撃戦が起こったんだ。俺のミスで、あいつに間違った場所を教えてしまった。そいつは銃弾をもろに食らい、即死だった。それ以来、俺はそいつの家族や仲間から、白い目で見られるようになったんだ。そして、自分からチームを抜けた。しばらくは、あちこちを渡り歩いてたけど、日本にいた知り合いに声かけられて、戻ることにしたんだ。でも俺は、今でもあいつのことを忘れたりしない。俺のせいで、あいつは尊い命を落とした。まだ生きられたのに、俺さえいなかったら、あいつはまだ……」

 

 ユウナから見ても、雅也が必死に涙を堪えているのがわかった。

 

「それで、行きたくなかったんですね……」

「あぁ。また誰かを犠牲にしたらって思うと、怖くて行けないんだ」

 

 ユウナは、それをきいて何も言えなくなった。今までの明るい雅也とは裏腹に、そんな辛い過去を背負っていたなんて思いもしなかった。どう返事をすればよいかと迷っていると、雅也はユウナにこう言った。

 

「でも、こっちに戻ってきて、ユウナちゃんたちと出会って、わかった気がするよ」

「わかった……?」

「うん。母や妹からも、よく話はきいた。俺、君の話きいてると少し勇気をもらえるんだ。そんな生き方がこの世にあったなんて、なぜかそう思えたんだよね。俺も、君みたいに強くなりたいって思ったんだ」

 

 それをきいて、ユウナは言った。

 

「でも私、ほんとは勇気なんかないんです。ずっと部屋に引きこもってて、誰にも相手にされなかった時期があったんです。だから、私は強くないです」

「そう思ってるのは、君だけなんじゃないかな」

「私だけ?」

「みんな、君に感謝してるよ。妹だって、あんなんだけど、ほんとは君には数えきれないくらい感謝してるはずだから。だから、君に必要なのは確かな自信だ。それさえあれば、どんな困難だって乗り越えられる。そう思うんだ」

「確かな、自信……」

「そうさ。誰に何を言われようが、自分だけを信じればいい。それ以外の人にどう見られていようが、どう思われていようが、そんなものただの被害妄想だ。もっと、自分自身を信じるんだ。そうすれば、自然と道は拓ける」

 

 ユウナは、それをきいて嬉しくなった。こちらが励まそうと思っていたのに、逆に励まされてしまった。雅也は、ユウナを見て優しく笑いかける。それを見て、ユウナは本当に強いのは自分ではなく雅也なのではないかと思えた。雅也もまた、そうなろうとしているのかもしれない。ユウナは笑顔で、

 

「ありがとうございます。おかげで、元気が出ました」

 

 と、雅也に感謝の言葉を述べた。

 

「感謝すべきなのはこっちだよ」

 

 雅也も、笑顔でそう言った。すると、電話の着信音がきこえた。雅也はポケットからスマホを出すと、電話に出た。

 

「はい、もしもし。あ、母さん?」

 

 電話の相手は智美だった。

 

「うん。あ、うん。わかった」

 

 そして雅也は立ち上がり、ユウナに言った。

 

「ごめんね。ちょっと急用ができたから、先に行くよ。あ、お会計は済ませとくから」

 

 するとユウナも立ち上がり、

 

「あ、今日くらいは……」

 

 と言うと、

 

「いいって、つき合わせたのはこっちだから」

 

 雅也はそう言うと、店を出ていってしまった。ユウナも、それを窓の外から見つめていた。智美と何を話すのだろう、そんな気持ちで見送っていたのだった。

序盤のキャラで、最も印象深い登場人物は?

  • 中谷優奈
  • 鶴ケ崎麗菓
  • 月見里美香
  • 夢野あかり
  • 池谷大輝
  • 相場善秀
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