月曜日、ユウナはドアを開けて家を出た。そしてバスに乗り、学校に着く。下駄箱に行くと、
「ユウナおはよー!」
と言いながら、ミカが走ってきた。その後ろから、アカリもついてきた。
「おはよう」
ユウナもそう言った。ミカがユウナに、
「始業式の日、どったの?」
ときいた。
「ううん、別に」
ユウナはそう答えて、教室に向かった。その途中、アカリがある人物を見つけて言った。
「あ、鶴ケ崎先生!」
アカリが走っていき、
「おはようございます!」
と、頭を下げた。吹奏楽部は、上下関係が激しい部活で有名だった。声をかけられたのは、顧問、
「おはよう」
智美もそう言うと、歩いていった。ミカは、
「今のって、吹部の顧問でしょ?」
と尋ねるとアカリが、
「うん。美人かろ?」
そう言った。アカリにとって、最も尊敬できる人物であった。ユウナも、何気に智美の後ろ姿を見つめていた。
そして教室に入り、席に着いた。するとリカが来て、
「おはよう、ユウナちゃん」
と、声をかけた。それを見て、ユウナも笑顔で答えた。
「おはよう」
それを後ろで、ミカとアカリが感心したように見ていた。
午前の授業が終わり、昼休みに入った。ミカがユウナに、
「弁当持ってきた?」
と尋ねるのでユウナは、
「うん」
そう答えた。ユウナ、ミカ、アカリの三人はほぼ毎日昼食を一緒にとる。教室で机と椅子を並べて、三人でトークをしながら食べるのだ。その日も、一緒に食べることになった。三人は集まっていると、後ろから声がした。
「あの」
ユウナがふり向くと、リカが立っていた。
「あの……、私もいいかな?」
「あ……、うん」
リカが言うので、ユウナもそう答えた。その会話をきいてミカが、突然言いだした。
「あ。やっぱあたしらいいわ。アカリ、食堂行こ」
「えっ? あ、うん」
ミカとアカリは、そのまま教室を出ていった。ユウナからしてみれば、ミカが空気を読んでくれたように思えた。ユウナにはそのような気遣いは一切無用だったが、リカにとっては好都合だった。リカが、ユウナの前に座った。
「金曜日は、ありがとう」
リカが、そう言った。
「いいよ。私も、楽しかったし」
「ユウナちゃんって、パズドラのほかに何かゲームやるの?」
「あ、うん。でも、最近はあまりないかな」
するとリカは思い出したように、
「そうだ! ユウナちゃん、ラインやってる? もしよかったら交換しよ」
と言って、ポケットからスマホを出した。ユウナも、
「いいよ」
そう言ってカバンに手をかけようとした瞬間。
「へぇ、お前ら仲いいんだ」
ユウナは驚いて横を向くと、相場が食堂から帰ってきていた。
「相場君……」
「何の話してたの?」
「べつに、何でも」
「そっか」
相場は、カバンを取りに来たようだった。ユウナが、
「今日も昼練?」
ときくと、相場は言った。
「まあな」
そして、カバンを持つと部屋を出ていった。
「大変だね」
ユウナは、リカの方を向いて話した。でもリカは、相場が出ていった方をずっと向いている。
「リカ?」
不思議に思って、ユウナが声をかけた。するとリカは気がつき、
「えっ? あぁ、何?」
と言った。ユウナは心配そうに、こう言った。
「いや。何か、あるのかなと思って」
「あ、ごめん。何でもないよ」
リカもそう言って、弁当を広げ、食べ始めた。それを、ユウナはしばらく見つめていた。
午後の授業も、リカはまるで魂が抜けたように、集中していなかった。ユウナの一つ前の席であったため、それがよくわかった。
放課後、二人は一緒にバス停まで行った。あれから、リカの態度がガラリと変わった。ユウナは、自分が悪いことでもしたのかと、不安に思った。そして、ユウナは思い切って尋ねてみた。
「ねぇ、リカ」
「何?」
リカも、ふり向いた。
「なんか、お昼あたりから元気ないなーって思って。私、リカに何か悪いことでもしたかな、なんて思ったりもして。もしそうだとしたら、ごめん」
すると、リカは笑って言った。
「違うよ。わたしこそ、ごめんね」
そして、しばらく沈黙が流れた。するとリカは、ユウナに言った。
「ねぇ、一つ、きいてもいい?」
「何?」
「私たち、友達だよね?」
「うん」
「ユウナちゃん……、相場君のこと、どう思ってる?」
「えっ?」
不意をつかれたような質問だった。ユウナは少し混乱し、頭の中を整理しようとした。そして、気づいた。ユウナがリカの前で相場と話をしてから、リカの様子が変わったと。どうやらリカは、ユウナが相場のことを好きだと思ったらしい。ユウナは、焦りを隠せなかった。
「ち、違うの。相場君は、なんか、友達っていうか、二年の時からずっと同じクラスだったから」
「そうだよね……。ごめんね、勘違いだったみたい。でも、ユウナちゃんには伝えておきたい」
リカがそう言い、ユウナを見つめた。ユウナも黙って、リカの顔を見つめていた。そして、リカの口が動く。
「私、私ね……、相場君のことが、好き……。相場君が、好きなの」
ユウナは、きく前からわかっていた。相場は、女子にとっては憧れのような存在でもあった。ユウナも、リカの気持ちは痛いほど痛感した。
「そっか……。じゃあ、私も応援するよ。ちょっとずつ、話しかけていけばいいんじゃないかな」
「それじゃダメなの!」
リカが、急に強い口調で言った。するとリカが後悔したように、
「ごめん……、そうだよね。急には、無理だよね……。わかってたの、全部。ありがとう」
と言い残すと、リカは走っていった。
「リカ!」
ユウナが追いかけようとした時、バスが来た。ユウナは、ためらった。このままバスに乗ろうか、リカを追いかけようか。でも追っていっても、また気まずい雰囲気になるだけではないか。ユウナは仕方なく、バスに乗った。ユウナは、何気にバスの外を見た。その日は、曇り空が広がっていた。リカの気持ちを考えれば考えるほど、自分が情けなくなっていった。
その夜、ユウナは一人、ベッドの上で考えていた。
『相場君のことが、好き……』
そう言ったリカのことが、頭から離れなくなっていった。するとまたドアが開き、
「姉ちゃん」
と言って、義輝が顔を出した。ユウナはまた焦り、
「ちょっと! ノックしなさい!」
そう言うので義輝は少したじろいだように、
「あ……、風呂……」
と言うとユウナは我に返り、
「あ、うん」
そう答えると、義輝はドアを閉めた。でもユウナからは、どうしてもあのことが離れなかった。
『それじゃダメなの!』
なぜリカは、あのようなことを言ったのだろう。もしかしたら、人には言えない事情があったのかもしれない。そればかりが、案じられるのだった。
次の日。ユウナは教室に行くと、リカの席が空いていた。いつもはユウナが来た時には、もうすでに席についていた。今日はまだ来ていないのかと思い、ユウナは席についた。ユウナは横にいた相場に、
「リカ、知らない?」
ときくと相場が、
「あ、いや……」
という、不自然な言動を見せた。すると、ドアが開いて吉崎が入ってきた。それを見て皆が席に着くと、吉崎が言った。
「じゃ、ホームルーム始めるぞ。その前に、今日はみんなに残念なお知らせがある」
それをきき、皆もザワザワし始めた。ユウナは、まさかと思った。根拠はないが、悪い予感がしたのだ。そして、吉崎が言う。
「突然だが、
吉崎は、前の掲示板を差した。皆は、
「え? 今日?」
「急じゃね?」
と、友達などで話し合っている。ユウナはそれをきいて、やはり驚きを隠せなかった。でも、なぜ言ってくれなかったのだろうという気持ちもあった。すると隣にいた相場が、声をかけてきた。
「なぁ、中谷。この後、ちょっといいか?」
ユウナは相場を見ると、頷いた。その様子を、前から大輝も見ていた。
その後、相場から事情を聞いた。
「あいつ、両親の仕事の都合で引っ越すんだと。実は昨日、部活終わりに声かけられて。メアドきかれたんだ。あと、明日引っ越すことも。でもお前には、先生から知らされるまで言うなって言われてて……」
ユウナはそれをきき、驚いた。それだけのことを、好きな人に伝えたのかと。そして、相場は続けた。
「こんなこと、言っても仕方ないと思うけど、昨日、あいつに告白されたんだ」
ユウナはそれをきいて、何も言えなかった。
「なんか、後悔したくないって言ってた。それと、中谷には心配かけたくないから、何も言わないでくれって……。てゆうか、もう全部話しちゃってんな、俺」
「ねぇ……、相場君」
「何だ?」
「リカのメアド、教えてくれる?」
ユウナは、それが自分にできるただ一つのことだと思った。
その後、ユウナは授業が始まる前に急いで打ち込んだ。
『中谷優奈です。何故、言ってくれなかったの? みんな、心配してるよ』
ユウナは、その日は授業どころではなかった。授業中も集中できず、返信が気になって、休み時間にメールフォルダを開いてみても、リカからの返信はなかった。相場も、横でその様子を見ていた。
放課後、ミカが来て言った。
「ユウナどーする? 行くの?」
「うん」
その時、スマホが鳴った。返信が来たのだ。ユウナは、フォルダを開いた。それを見た瞬間、ユウナはカバンを持って教室を飛び出した。それを見て、ミカも笑っていた。
『心配かけてごめんなさい。でも、友達には心配かけられないと思って、話せませんでした。ユウナちゃんが私のことを友達と言ってくれたことが、何より嬉しくて。そして一緒に話したり、パズドラやったり、楽しかったです。またどこかで会えたら、またやりたいです。最後まで心配かけてごめんね、理華より』
ユウナはリカがいつも降りていたバス停でバスを降り、無我夢中で走った。そして、上からホームを見渡せる道に出た。ユウナは息を切らしながら、ホームをよく見た。そこには、リカとその両親の姿があった。そして電車の扉が閉まり、発車した。ユウナは、それを追いかけた。
リカは、電車の席に座り、両親に挟まれていた。リカは、ふとスマホを見た。そして、ユウナにコツを教えてもらったパズドラを開く。そして、微笑んだ。すると、遠くで声がきこえたような気がした。
「リカ、リカー!」
それをきき、まさかと思ったリカはふり向き、窓を開けた。すると、向こうで手をふっているユウナが目に映った。それを見て、リカから涙があふれた。ユウナは、両手で手をふっている。その右手には、スマホが握られていた。
「また、やろうね!」
ユウナが叫ぶと、リカもスマホをかざしてこう答えた。
「うん! また!」
ユウナはただひたすら、手をふり続けた。リカを乗せた電車は、やがてトンネルに近づき、見えなくなった。リカは電車の中で、涙を流しながら、笑顔を保っていた。それを両親も、嬉しそうに見ていた。
ユウナはその場所に立ち、なおかつ後悔はしていなかった。本当の友達を、大切にしたい。ユウナはそれだけを考え、電車が過ぎ去った方角をずっと見つめていた。この少女がこの先、どう変わっていくのか、それをお届けしたいと思う。
第一回「
次回予告
ユウナ「私も尊敬しちゃう」
レイカ「私、下手な人には興味ないから」
ミカ「鶴ケ崎麗菓。成績は学年一位でスポーツ万能。何でもできて、女子の中でさえも憧れの的。まさに、完璧の人って感じよね」
ユウナ「あの、鶴ケ崎先生ですよね?」
アカリ「家庭の問題、結構抱えとるらしいよ」
智美「ずっと孤独だったの、私のせいで……」
レイカ「二度と来ないで!」
相場「これ、リカから」
「お前に言えなかったこと、今も後悔してるんだと思う」
レイカ「私は、自分だけを信じて生きている。あなたたちとは違うのよ」
ユウナ「もっと人を信じてみてもいいんじゃないかな」
次回(第二回)
「
ここまで読んでくださった方、ありがとうございました。
これからも、よろしくお願いします!
序盤のキャラで、最も印象深い登場人物は?
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中谷優奈
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鶴ケ崎麗菓
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月見里美香
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夢野あかり
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池谷大輝
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相場善秀