パズル&ドラゴンズ~もうひとつの旅~   作:葉之和 駆刃

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第25話 選ばれし者~ザ・チョーズン~(その参)

 雅也は、店に入ると智美とレイカがいた。雅也は、

 

「遅くなってごめん!」

 

 と言いながら、レイカの隣に座った。

 

「今日は、どうしたの?」

 

 雅也が尋ねると、智美は言った。

 

「えぇ。二人に、大事な話があるの。この前、イギリスの学校の講師に誘われたって話、したと思うわ」

「えっ、まさか……」

「受けようと思って。べつに私は、仕事を優先させたいわけじゃないわ。でも、せっかくのお話だったから。また、迷惑かけるけど、許してほしい」

 

 雅也はレイカに、

 

「おい、いいのか。また、しばらく会えなくなるんだぞ?」

 

 と言うと、智美がこう言った。

 

「レイカとは、ちゃんと話したわ。この子も、いいって言ってくれた。すぐにじゃないけど、来年の二月くらいには出発しないといけないの」

「そうか……。母さんがそう言うなら、俺はべつに反対しないよ。レイカもいいって言ってくれてるんだし、頑張ってね」

「ありがとう」

 

 智美は、そう言うと微笑した。

 

 その日、レイカと雅也は一緒に帰った。

 

「なぁ、お前も一緒に見送りに行くだろ?」

「私は、行く気はないわ」

「なんでだよ、まだ怒ってるのか?」

「怒ってないわよ。その時期、ちょうど忙しいのよ。そのためにわざわざ東京戻るのも、なんだかバカバカしくて」

「だって、せっかく母さんの門出なんだからさ。お前にも来てほしいって言ってただろ。じゃないと、少なくとも一年は会えないんだからな」

 

 雅也がそう言うので、レイカも歩きながら少し考えているような素振りを見せていた。

 

 

 まるで月日が風のように過ぎ、ついにその日がやってきたのだ。2015年2月28日。レイカは飛行場の階段を駆け上がり、周りをキョロキョロと見渡した。すると向こうに、キャリーバッグを片手に智美の姿があった。レイカはそこへ行き、

 

「母さん!」

 

 そう声をかけた。そして、智美はふり向いた。智美は目を細めて、

 

「来てくれたの……」

 

 と、嬉しそうに言った。

 

「当然でしょ。これで、もうしばらく会えないんだから」

「ありがとう、嬉しいわ」

 

 するとそこに、雅也と父の圭介も来た。雅也は、

 

「だから言ったろ。レイカは必ず来るから、心配いらないって」

 

 と言うと圭介も、

 

「レイカも、もう大人だ。心配せずに、行ってきなさい」

 

 そう、優しく言った。

 

「ありがとう。じゃあ、行ってくるわね」

 

 智美は言うと、カバンを引いて歩いていこうとした。すると、

 

「母さん!」

 

 と、不意にレイカが呼び止めた。それをきいた智美が、ふり向いた。

 

「……いってらっしゃい」

 

 そう言ったレイカは、表情豊かであった。高校までとはまったく違う、穏やかな顔をしている。智美はそれを見て安心し、笑顔を見せた。もしかすると、これでもう何年も会えなくなるかもしれない。そしてレイカ自身も、予感していた。これが本当の別れなのだと、そして新しい人生の始まりなのだということも。

 

 

 一方では、ユウナがまた正彦の研究室に足を運んでいた。そこには、アニ研部員やリンも来ていた。正彦が一同を見渡すと、

 

「これから、特別なことが始まる。みんなには、中のシステムにおかしな点がないか調べてもらいたいんだ。これは、今や現実世界の危機になり得ることだ」

 

 と、言った。ユウナも頷きながら、それをきいていた。そして、正彦はユウナの前に来ると、こう言うのだ。

 

「ユウナ君。君にはまた、ダンジョンを攻略しながら異常がないかを調べてほしい」

「はい」

 

 ユウナは答えた。しかし、それに納得のいっていない者がいた。真宏だ。

 

「ちょっと待てよ。またこいつに危ねえことさせようとしてんじゃねえぞ!」

 

 そう言いながら進み出てくると、真宏は続けた。

 

「俺の彼女にそんなことさせるくらいなら、俺はあんたと縁を切る」

「先輩……」

 

 ユウナは、必死に真宏に弁解しようとした。しかし、真宏の腹の虫は治まらない。

 

「第一、女子にそんなことさせるかよ普通。あんたはいつもいつも、自分のいいようにしか考えてねえんだよ!」

 

 すると、それを見ていたヒロインがこう言った。

 

「じゃあやっぱり、お二人は付き合ってたんですね!」

「は?」

 

 真宏はヒロインを見た。リンも、

 

「なにこのKY」

 

 と、呟いている。すると正彦が、

 

「とりあえず、三回生の授業が始まるまでには考えておいてくれないか」

 

 そうユウナに言うと、部屋を出ていった。

 

「おい!」

 

 真宏は呼び止めようとするが、正彦はふり向かなかった。真宏もユウナに、

 

「あいつの言うことは、きかない方がいい」

 

 とだけ告げ、部屋を出ていくのだった。ユウナは次第に、二人の板挟みとなっていた。そしてそこにいた皆も解散し、研究室の人口が少なくなっていく。ユウナはアカネに、

 

「あ、あの!」

 

 と、声をかけた。アカネがふり向くと、ユウナは俯きながら言った。

 

「私は……、どうすればいいでしょうか」

「あんたは、どうしたい?」

 

 アカネにきき返され、ユウナは顔を上げた。

 

「私は……、できればもっと教授のお役に立ちたいんです」

「じゃあ、このままでいい。あんたには選べる権利がある。教授も、それを望んでるから」

 

 それをきいたユウナは、少し勇気を取り戻した。

 

「はい!」

 

 ユウナは、自信がついたようにそう返事をした。自分に必要なのは、自信だ。誰の言動にも左右されない、そんな心が欲しいと思った。誰かの役に立ちたいと思い始めたのは、いつからだったろう。ユウナは、今までの出来事を思い返してみた。正彦に出会い、人生の別れ道をいくつも経験した。それ故、今度も自分の人生に多大な影響を与えるかもしれない。そして間もなく、ユウナは京都を後にした。

 

 

 ユウナが帰ったあと、部室では最初にサークルを立ち上げた部員たちだけが集まって、宴会を開いた。間もなく夏姫、三宮、侑李が卒業するのだ。

 

「あ~、もう卒業か」

「早かったな」

「ごめん。私、ちょっと泣いていい?」

 

 三人がビールを飲みながら、そう話していると真宏が言った。

 

「お前ら、就職先はもう決まってんのか?」

 

 すると三宮が、

 

「おぉ、こっちにまだ卒業でけへん組が一人おるで~」

 

 とまた、からかうように言った。

 

「うっせーよ」

 

 真宏が言うと、夏姫がこう言った。

 

「うちらは大丈夫やから。それに、みんなで話し合って、卒業後も空いてる時間に時々、様子見に来ようってことになってん」

「まぁ、後輩たちのこともまだ心配だしね~」

 

 侑李も言った。

 

「お前ら……」

「だから、心配せんでええよ」

「なんかあったら、連絡してもらえば相談くらい乗るからさ」

「ほんま、頼りない部長やからなぁ」

 

 三人が言うので、真宏は嬉しさを噛みしめた。

 

「あれれ、もしかして泣いてる?」

「泣いてねーよ!」

 

 その後も、四人は笑いながら飲んで喋っていた。

 

 

 東京に帰ると、ユウナは高校の時の仲間たちとともに喫茶店に集まった。

 

「あ~、一年早かったなー」

 

 ミカが言うと大輝も、

 

「もう大人だもんな」

 

 と言った。するとミカが、

 

「どうしたの? 久しぶりにユウナに会えたんだから、もうちょっと喜びなよ~」

 

 そう囃すので、大輝は赤くなった。

 

「は? なんでだよ」

「本当は嬉しいんでしょ。成人式の時も振り袖姿のユウナ見て、赤くなってたくせに~」

「おい、言うなよ」

 

 二人がそう言うのを見ているユウナに、隣にいた相場も話しかけてきた。

 

「なぁ、俺たちもうすぐ三回生じゃん。卒業した後のこととかは、なんか考えてるのか?」

「え。あ、うん……」

 

 ユウナは、卒業後の進路についてまだ決めていなかった。三回生になると、少しずつ就職活動が現実味を帯びていく。ユウナは、そのことで焦り始めていた。それをきいていたミカが、また例のごとくこう言うのだった。

 

「あ~、なんでそんな話すんのよ。せっかく忘れてたのに!」

「忘れてても、現実からは逃げられねえじゃん」

 

 相場が言うので、ミカはおとなしくなった。すると大輝が、

 

「ユウナは、何かやりたいことあんのか」

 

 と、きいてきた。

 

「私は、まだ決められてなくて。でも、心配いらないから。自分のことは自分で決める。大人になってまで、みんなに迷惑かけられないよ」

 

 ユウナがそう答えるのを、三人も見ていた。これから少しずつ考えていけばいい、まだあと二年もあるのだから、そうユウナは思うことにした。そして、喫茶店の窓から真赤に染まる夕陽を眺めていた。

 

 その夜、惟英が家に帰ってくるとユウナは久しぶりに出迎えた。父と話すのも、成人式の日以来だった。母の百合子も、ユウナからきいたことなどを惟英にも伝えていた。極々普通の家庭だが、ユウナにとっては十分すぎる幸福だったのかもしれない。

 

 そしてユウナは夕食後、部屋で義輝とも話した。

 

「姉ちゃんが下宿してるから、俺は家から通える大学行くことにした」

「ごめんね、気遣わせちゃって」

「いいよ。それより、きいてほしいことがあるんだ」

「何?」

 

 ユウナは、義輝を見た。

 

「俺、大学卒業したらさ、留学することにした。それで、デザイナー目指すんだ。俺って昔から、絵得意だからさ、それをもっと生かそうと思う」

「お父さんとお母さんには?」

「言ったよ。姉ちゃんの時みたいに、好きにすればいいって言ってくれた」

「頑張ってね」

「あぁ、頑張る」

 

 義輝はそう言って、スケッチブックを自分のカバンの中に入れた。それを見てユウナは、皆が頑張っているから自分も、もっと頑張らないといけない、そう改めて思うのだった。そして、自分の部屋に戻ると、荷造りにとりかかった。

 

 

 一方、正彦は夕食をとりながらキーボードを叩いていた。それを見ながら美千子が、

 

「ちょっと、食べる時くらいやめてくださらない?」

 

 と言っても、正彦にはまるできこえていないようだ。美千子はそれを見て呆れていると、ふと思い出したようにこう言った。

 

「そうそう、もうすぐ真司が帰ってくるって言ってたわ。あなたも今のままじゃ、きっと笑われるわね」

 

 それをきいた正彦は手を止めて、

 

「それは本当か?」

 

 と、美千子の方を向いた。

 

「あらやだ、きいてなかったの?」

「いや……」

「今年から、龍山の講師になるんですって。あなたの授業も見てみたいって言ってたわよ。だって、あなたのゼミ生だったものね」

 

 美千子は、そう言うと笑った。正彦は、少し気まずそうに再び両手を動かし始めた。

 

 

 またその一方では、サタールが椅子に座ってフギンにあることを告げていた。

 

「オーディンが選んだ?」

 

 フギンは驚いたように、サタールにきき返した。

 

「そうだ。オーディンは私が作ったが、どうやら失敗だったらしい。まさか、あのような小娘を選ぶとはな……」

 

 サタールは言った。するとフギンが、

 

「ところで、この後どうするんだよ」

 

 ときくと、サタールはまた笑みを浮かべながら、こう言うのだった。

 

「決まっていよう。奴らは、まだ我々の計画を知らない。この世界を改造し、現実世界にモンスターたちを放出する。そして、その世界をも我らのものとするのだ!」

 

 そして、サタールは高笑いをした。それを、フギンも黙って見ていた。

 

 

 東京では、何も知らないユウナが窓から外の景色を眺めていた。街明かりが煌々と灯り、ユウナの瞳に吸いこまれていく。それは、これからのユウナの人生を暗示しているようにも映った。ただ、ユウナはまだこれからのことなど知る由もなかったのである。

 

 

第二十五回「選ばれし者(ザ・チョーズン)」終

 

 

 

次回予告

正彦「それでは、これから作業にとりかかる!」

横大路真司「待ってください」

正彦「日本はもっと進化しなければならない」

サタール「やつらが動いても、我々がここにいることは変わらない」

フギン「お好きなように」

ユウナ「これ……」

ミカ「ユウナは、これからどうするの?」

ユウナ「これから?」

正彦「この先、何が起こるのかわからないからこそ、人生は楽しい」

ユウナ「深く考えちゃいけないって思ってるんですが、どうしても、不安になる時があるんです」

正彦「コンピュータは、常に進化していかないといけない」

真司「この経験を未来に生かし、視野が狭かったあの頃の自分に、蹴りをつけたいのです」

ユウナ「助け合いながら生きていくって、とても素敵なことなんだなあと思ったんです。だから私、先輩に出会えて、本当によかったと思います」

 

 

 

次回(第二十六回)

 

棟梁と論者(ルーラー・アンド・アドヴォケート)

序盤のキャラで、最も印象深い登場人物は?

  • 中谷優奈
  • 鶴ケ崎麗菓
  • 月見里美香
  • 夢野あかり
  • 池谷大輝
  • 相場善秀
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