パズル&ドラゴンズ~もうひとつの旅~   作:葉之和 駆刃

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第26話 棟梁と論者~ルーラー・アンド・アドヴォケート~(その弐)

 数日後、正彦の研究室がある棟の周りに、皆は集まった。また正彦が前に立ち、

 

「これから、中にある機材を運び出す。男子諸君は、それらを運び出すのを手伝ってくれ。女の子たちは、段ボールにファイルを詰めてくれ。それでは、これから作業にとりかかる!」

 

 そう指示すると皆は気合を入れたように、

 

「はい!」

 

 と元気よく返事をし、中に入っていった。部屋の中では、皆が活き活きと働いている。それを見て、ユウナも嬉しくなった。

 

「なぁ、これ何~?」

「あ、それこっち入れて!」

「それより、先に誰かこの機械運んでよ」

 

 アニ研の部員たちは、そう言いながら和気藹々と作業を進めている。ユウナは一年の時、初めてこの部屋に来た時のことを思い出した。

 

『何か用かな?』

『はい。この子が、教授に話があるそうです』

『おぉ、君か』

 

 アカネにいきなり連れて来られ、かなり戸惑ったことが鮮明にユウナの頭の中に残っていた。あれから、ユウナは正彦のところへ行くのが楽しみになった。手伝いをしていると、現実のことをしばらく忘れられるような気がした。それは厳密に言えば、あまりいいことではないのかもしれないが、それでもユウナはここにいる時が楽しくて仕方なかったのだ。それでも、いつまでも思い出の中に浸っている場合ではない。早く引越しを完成させなければ、ほかの教授たちが来てしまう。ユウナも、棚にある資料を急いで段ボールの中に詰めこみ始めた。

 

 

 その様子を、ゲームの中から見ている者がいた。そう、サタールだ。薄暗い城の中で、スクリーンで現実世界の様子を見ていた。

 

「やつらが動いても、我々がここにいることは変わらない」

 

 サタールは、そう言いながら立ち上がった。そうすると後ろからフギンが来て、

 

「現実世界のことは、あんたが一番よく知ってるだろ。これからどうする?」

 

 ときいてくるので、サタールは答えた。

 

「まだ焦って行動することはなかろう。じわじわ相手の心をあぶり出していくのもまた、私のスタンスだ」

 

 サタールはフギンの方をふり向き、そしてまた笑った。

 

「お好きなように。俺はあんたの言うことをきいとけばいいってだけだからさ」

 

 フギンは言うと、プテラドスに乗って城の外に飛び去ってしまった。

 

「さぁて、お次はどんなことをしてあげようか……」

 

 サタールは一人でそう呟くとまた、薄笑いを浮かべていたのだった。

 

 

 夕方になり、粗方の荷物が積み終わった。ユウナは、最後の書類を段ボールに詰めていた。必要な書類は段ボールの中に入れ、不必要な書類はビニール袋の中に入れる。そして、もうほかに入れるものはないか、部屋を一通り見回した。戸棚はほとんどが空になって、残っているのは昔のものばかりである。少しファイルなどを残しておかないと、教授たちが来た時に引越しの件がわかってしまうからだ。ユウナは最後の段ボールを抱え、部屋を出ていこうとした。そうすると、正彦の机の上に紙が置いてあるのが目に入った。ユウナは気になり、それをその場に置くと、そこへ見にいった。紙は裏返しになり、何が書かれているのだろうと、その紙を手に取ってみた。それを見たユウナは、

 

「これ……」

 

 と呟き、愕然とした。そこにはユウナの顔写真、そして今までの経歴が書かれていた。なぜこのようなものがここにあるのか、まったくわからない。すると、

 

「もう準備できたで?」

 

 と言いながら、アカネが入ってきた。

 

「ほかにいれるもんない? あ、これが最後やな。じゃあ持ってくで?」

 

 アカネはそう言い、ドアの前に置いてあった段ボールを抱えた。ユウナは咄嗟に、見ていた紙を隠した。すると、その場で立っているユウナにアカネが、

 

「ん、どしたん?」

 

 と、きいた。ユウナは急いで紙を机に置くと、

 

「あ、何でもないです。今から行きます」

 

 そう答え、動揺を隠しながら出ていった。アカネはユウナが去ると、机の方を向いた。そこには、数枚の紙が伏せて置いてあった。

 

 トラックの前には、数人の部員と真司が待機していた。

 

「もういいかい?」

 

 真司がユウナに尋ねると、

 

「あ、まだあとひと箱あるので、もう少し待ってください」

 

 と、ユウナが答えた。するとすぐに、

 

「お待たせしました!」

 

 と言いながら、アカネが来て真司に箱を渡した。その箱を積み終え、真司はトラックの扉を閉めた。そのトラックは、やがて出発していった。しばらくして、見覚えのある車が目の前に来た。ユウナは驚いていると、窓が開いて雅也が顔を出した。

 

「やぁ、乗せていくよ」

「雅也さん、どうしたんですか?」

 

 ユウナが不思議そうにきくと、建物から美千子が出てきた。

 

「私が呼んだのよ」

「美千子さんが?」

「えぇ。引越しのお話したら、是非手伝わせてくれって」

「そうだったんですか」

「君のためなら何だってするよ。さぁ、乗って」

 

 雅也が言うので、ユウナは乗ることにした。

 

「アカネさんは?」

 

 ユウナがアカネの方を見ると、アカネは遠慮したようにこう言った。

 

「うちは、ええわ」

「でも……」

「いいって。また、今度行くし」

「そうですか……。では、お疲れ様です」

「お疲れ!」

 

 ユウナは、雅也の車に乗った。そして、雅也はアクセルを踏んだ。ユウナは景色を見ながら、さっきのことを思い出した。正彦の部屋にあったのは、ユウナの履歴書だったのだ。なぜ、正彦があのようなものを所持していたのだろうか。ユウナは黙っていると、雅也が話しかけてきた。

 

「そう言えば、俺の母さん、イギリスに行ったよ」

「鶴ケ崎先生が?」

「あぁ。イギリスの学校で、音楽の教師が不足してるんだって。だから、行くことに決めたんだってさ」

「先生は、とても真面目な方ですから」

「そうなんだよなぁ。妹は、そういう意味では母よりなんだよなぁ」

「妹さん、レイカさんとは最近はどうなんですか?」

「あぁ。昨日も晩飯誘ったんだけど、断られちゃって。やっぱり、忙しいみたいでさー」

 

 ユウナが黙ってきいていると、雅也はこう言うのだった。

 

「あと、三十分ほどで着くな……」

 

 すると、ユウナは尋ねた。

 

「あの、さっきから気になってたんですが、美千子さんとは、お知り合いだったんですか? そうだとしたら、どういう経緯で?」

 

 それをきき、雅也は笑って答えた。

 

「あぁ、ごめんごめん。実は、俺と真司は高校が一緒だったんだよ。だから、おばさんとも顔見知りだったんだ。あいつは関東の高校で、卒業後はおばさんと一緒にこっちに移ってきたんだよ。おじさんも、ずっと単身赴任だったから、息子の下宿も兼ねて様子を見に行こうってことでね」

 

 ユウナは黙っていた。それをバックミラーから見ていた雅也が、

 

「どうしたの?」

 

 と声をかけると、ユウナは気づいた。

 

「あ。私、知らなくて……」

「驚くのも無理はないさ。俺も、久々に会ったから。あいつ、アメリカの学校に二年間留学してたんだろ?」

「はい。いろいろと、面白い話もしてくださいました」

「そうか。あいつも苦労したんだろうな……」

 

 そう言っている間にも、雅也はブレーキを踏んだ。ユウナは横を見ると、一戸建ての家が建っていた。形は倉庫のようで、一階建てだった。

 

「ここ……、ですか?」

「そうだよ」

 

 雅也は答えると、車から降りた。すると中から、真司が出てきた。

 

「遅かったなぁ」

「お前がちゃんとした地図くれなかったんだろ!」

 

 二人がそう言い合っているので、ユウナは少し戸惑っていると、それを見た真司は、

 

「いらっしゃい、じゃあ中に入って」

 

 と、優しく言った。ユウナは、

 

「お邪魔します」

 

 そう言い、中に入った。建物自体は古かったが、中は手入れされており、床などはピカピカだった。ユウナは、しばらく入り口で感動していた。すると、隣に真司が来て言った。

 

「いや~、中古で買ったから、最初は酷いもんだったよ。中はクモの巣だらけでさぁ」

「お一人でやられたんですか?」

 

 ユウナがきくと、

 

「俺も手伝ったんだ」

 

 そう後ろにいた雅也が言うので、ユウナはふり返った。

 

「でも八割くらい俺がやったぞ?」

「いやいや、俺の方が働いた気がする。お前、昔っから人使い粗いだろ。電話かけてきた時も、すごく一方的だったし」

「お前しか頼れそうなやつがいなかったから、仕方なく呼んだんだぞ!」

「お前、上からだな~」

 

 すると、真司と雅也の会話をきいていたユウナから、自然と笑みが漏れた。

 

「ユウナちゃん、どうしたの?」

「あ、すみません。お二人って、すごく仲がいいんだなぁって思いまして」

 

 それをきいて、真司は言った。

 

「悪い、実はものすごく仲悪いんだ」

「でも、喧嘩するほど仲がいいって……」

 

 それをきいた雅也が、

 

「じゃあ、こんな言葉知ってるかい。喧嘩しても仲が悪い」

 

 と言うと、それが喧嘩にさらに火をつけたようだ。

 

「お前、昔から喧嘩売るの上手いよな~」

 

 真司が言うので、雅也も言い返した。

 

「お前こそ、一言一句喧嘩腰で言うのはやめろ!」

「なに~」

 

 そろそろまずくなってきたと、ユウナは思った。

 

「あ、あの……」

 

 そこに運よく車が停車し、中から正彦が出てきた。

 

「父さん、遅かったですね」

 

 真司が、急に敬語になった。

 

「いやぁ、コンビニでお気に入りのヨーグルトを買おうと思ったら、なかなかなくてね。五軒目でやっと買えたんだ」

「もう、そんなことは後にしてください。荷物もあと大量に運びこまないといけないんですよ?」

 

 二人はそのような会話をしながら、中に入っていった。ユウナはそれを見ていると、横から雅也が囁いてきた。

 

「実はあいつ、おじさんの前では態度を変えるんだ」

「どうしてですか?」

「怖いんだろ。おじさん、あいつが幼かったころ、ちょっとでも悪さをしたら家に入れなかったらしいからね」

「教授が……?」

 

 ユウナは正彦の意外な面を知り、驚いていた。中では、正彦と真司が雑談をしている。あの正彦がそのような厳しい親だとは、思いもしなかった。

 

 ユウナはその後、正彦の部屋を訪ねた。そしてドアを開けると、新しい研究室が見える。なかなかきれいだった。目の前には、「セインツ・パラダイス」に続く扉があった。床には、旧研究室から持ってきた資料入りの段ボールが山積みで置いてある。それを、正彦は一人で整理している。

 

「手伝いましょうか」

 

 ユウナが言うと、

 

「あぁ、悪いね」

 

 と、正彦は顔を上げた。そして、ユウナも部屋の片付けを手伝うことにした。大半が終わると、正彦はユウナに礼を言った。

 

「今日は悪かったね、いろいろと手伝ってもらって」

「いいんです。楽しかったですから。それに今日、一番働いたのは教授だと思います」

「私が?」

「はい」

 

 ユウナがそう言うので、正彦は笑った。久しぶりに、正彦の笑顔を見たような気がした。ユウナは、そう思うだけで嬉しくなるのだった。するとその時、あのことがユウナの頭の中を過ぎった。

 

「あの……、教授。ひとつ、きいてもいいですか?」

「何だい?」

「私、前の教授の部屋で、妙なものを発見したのですが……」

「妙なもの?」

 

 正彦が、怪訝そうにきいた。

 

「はい。私のことが書かれている紙があったんです。なぜ、あのようなものが教授の部屋にあったのか、どうしても気になって……」

 

 ユウナが言うと、正彦は理解したような表情になった。

 

「そうか、やはり見られてしまったか……」

「では、あれは教授が用意したんですか?」

「あぁ。そうだ」

「それは、何のために……?」

「何のためかと言われると、少し言い辛いな……」

「もしかして……」

「何だ?」

 

 ユウナは呟くと、正彦がきいた。そうするとユウナは、

 

「あ、いえ。何でもありません。深く考えちゃいけないって思ってるんですが、どうしても、不安になる時があるんです。教授が、これから何をしようとしているのかも、わからなくなって……。私、少し考えすぎなんでしょうか」

 

 と言い、正彦を見つめた。すると正彦は視線を逸らし、こう話すのだった。

 

「この世には、必然と偶然が存在する。でも、それがどちらなのか誰にもわからないんだ。今、君がここにいるのは、必然か偶然か、私にもわからない。おそらく、君にもわからないだろう」

「はい……」

「だが、その分、楽しみではある。この先、何が起こるのかわからないからこそ、人生は楽しい。そうは思わないか」

「よく、わかります」

 

 正彦は、再びユウナの方を向くとこう言った。

 

「君に出会えてよかった。今、心からそう思うよ」

 

 それをきき、ユウナも思った。正彦は、突然誰も予想し得ない突拍子もないことを言う。でもそれが、面白くもあった。正彦と出会ったことが、必然であろうと偶然であろうと、関係ない。今が楽しければ、それでいい。

 

 誰もいなくなった旧研究室では、アカネが最後まで残って掃除をしていた。引越しは、大学の許可を得ずに行ったため、継続的に手入れをしなければならないのだ。アカネは、ふと正彦の机の上を見た。そこに置かれていた紙には、五人の履歴書があった。その中には、ユウナやアカネのことも書かれてあったのだ。アカネは手を止め、しばらくそれを眺めていたのだった。

序盤のキャラで、最も印象深い登場人物は?

  • 中谷優奈
  • 鶴ケ崎麗菓
  • 月見里美香
  • 夢野あかり
  • 池谷大輝
  • 相場善秀
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